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サクラコ、ナンパされる

 先日も向かったギルドの建物。この前言ったところの隣の酒場みたいなところに顔をだす。

 そこそこの賑わいはあるけれど、昨日よりも少ない。昨日は夕方ぐらいだったもんね。

 昼間は冒険者さんも働き時に違いない。


 それでもちょうど時間的にもお昼なので、この酒場みたいなところでご飯を食べているひともちらほら。

 中には昼間っからお酒飲んでいる人もいた。

 それにしても、ここで出されてる料理、美味しそう。

 朝ごはんは食べたけれど、お昼はまだ。お腹すいた。


「とりあえずは、お昼食べよう。桜子が我慢できなさそうな顔してる」

「してません!」

 まあ、なんて失礼なことを言ってくる和也なのかしら。

 そんな物欲しそうな顔なんて、してません! 多分。


 でも、お腹がすいていたのは事実。私は和也に従って大人しくテーブルについた。

 そうすると、ウエイトレスのお姉さんがやってきた。

 和也は革袋からコインを一枚取り出してお姉さんに渡した。


「これで、二人分の食事と水をもらえるかな?」

 歯がキラリと光り出しそうな完璧な笑顔で和也がそう言うと、ウエイトレスのお姉さんは大事そうにコインを受け取って顔を赤くして何度も頷いた。

「は、はい!」

 そしてパタパタとなんとも可愛らしくカウンターへと去っていく。

 和也……。どうしていつも、ことあるごとに胡散臭い笑みを浮かべるの?


 私が、生暖かい目で和也を見ていると、和也が気づいて私を見た。


「何、その目?」

「う、ううん、何でもない」

 私は、首を振って、否定してから「それより、ご飯食べたら、クエスト受注窓口ってところにいくの?」と話題をスムーズに変えた。


「まあ、そのつもりだけど、俺たち二人だけでクエストを受けるのは厳しいと思うんだ。俺は商人だし、桜子は料理人、二人共戦闘向きのジョブじゃない。まあ桜子は、そういうの関係ないんだけど……。でもどちらにしろ、まだこの世界のこと、魔物についても知らないことが多いし二人だけでクエストに行くのはやめたほうがいい気がする」

「そうね、和也と、か弱い私だけだときついよね」

「はいはい、そうだな。それに、ジャブリンさんが、大抵はパーティーを組むって言ってた。まだ慣れないうちは、俺たちもどこかのパーティーに入れてもらったほうがいいのかもしれない」

「そう、だね」


 そう言って、パーティーというものについて考えてみた。

 みんなで協力して、何かを成し遂げるってことよね!

 武術は基本個人競技だから、そういうものってじつはすっごく憧れてる。なんだかすごく楽しそう。

 それに、もしかしたらパーティーの中に私の運命の人がいるかも知れないし……。


「お待たせしました! お食事をお持ちしました」

 と言って、かなりの大皿をウエイトレスの女の子がもってきてくれた。

 お肉に、なんかサラダっぽいもの。それと、パン。

 スープもでてきた。


 ふたり分どころか、4人分ぐらいありそうなほどこんもりと盛られている料理。


「こんなにたくさん、あれだけのガウルでいいんですか?」

 和也がまた白い歯を光らせてそういうと、「はい! 私の気持ちです! ふふ」と言ってウエイトレスは赤らめた。

「ありがとう」

「い、いいえっ! また、来てくださいね?」


 と言って女の子は小走りで去っていった。


 和也はしばらく歯を光らせたあと、私の顔をみた。

 いつものやる気のない顔になっていた。


 ねえ、和也、なんだろう、その態度の違いは。

 いや、別にいいんだけどね、いいんだけど、なんかお姉ちゃん腑に落ちないよ。


「やっぱりおかしい。確かに俺は美男子だけど、あれだけのコインでこれだけの食事をサービスしてくれるっていうのは、それにあの反応…・・・」

 と言って和也が難しい顔してるけど、和也ったら、自分で自分のこと美男子って言っちゃうんだね、うん。

 いや確かに、美男子だとは思うよ。ご近所でも評判のイケメンだったよね。でもお姉ちゃん、それを自分で言っちゃうのはどうかなって思うな。


「これももしかしたら、スキルの一種なのかもしれない。あの本に書いてあった。常時スキル。桜子も最初に魔物が出たときかなり大きな魔物の胴体に風穴を開けてただろ? それもスキルなんじゃないかな」

「あー、そういえば、うん、確かに、いつもよりも力が入りやすいんだ。あと、遠いところのものがよく言えるし、疲れないし、足の運びも軽やかな感じがする」

「やっぱり。思ったよりも色々と俺たちはスキルを持っているかもな。神殿にどれくらいのお金を払えば自分の所持スキルを確認できるんだろう……。まあ、今は、とりあえず食べようか」


 和也がそう言ってくれたので、美味しそうなご飯を前にお腹を空かせていた私は思わず口元が緩んだ。

 だって美味しそう! とりわけ用の皿に、大皿の料理を取り分けて私達は食べた。


 あ、これは、チークリ鳥の肉。香草と一緒に焼かれていて香り高い。それに風味付けに、ケセラの油をまんべんなくかけて焼かれていて香ばしい……。


 あ、また知らないはずの知識が、脳裏にポンポン出てくる。スキルって不思議。


 私は、料理を分析しながらも、美味しく食べてると、一人分ぐらいの量を平らげた和也がお腹いっぱいと言って、深く椅子に腰掛けた。

 え、でもまだたくさんのこってるけど、もしかして、あとこれ全部私、食べてもいいの?


「桜子、残り食べれる?」

「うん! 食べれる! 任せて!」

 私はいい返事をして、大皿ごと自分のところに引き寄せた。


 わーい、こんなにたくさん食べれるなんて、幸せ!


 和也って少食だよね。

 そんな和也は、周りを見渡してなんか観察してる風。私は気にせず食事をすすめた。


「桜子、あそこの壁に貼ってる紙って何が書いてるか読めるか?」

 和也が突然そう言って、結構離れたところにある壁を指さした。そこには何やら紙がたくさん貼られていて、人がたくさん集まってる。


「えーっと、依頼内容って書かれてる。あ、でも人だかりで、よく見えない」

 と言って、立ち上がろうとしたけれど、和也が止めた。

「いや、いい。やっぱりあれは求人広告みたいなものか。俺ちょっと見てくるから、桜子はここで大人しく食べててよ」

「え、私もいくよ」

「いいよ、まだ食べてるだろ? ちょっと見てくるだけだから。それより、ちゃんと大人しくしてろよ」

 なんだろうその言い方は、子供じゃないのに。というかむしろ私のほうがお姉ちゃんのはずなんだけど。

 しかし、確かにご飯を残してテーブルからは離れられない。


「わかった。和也も気をつけてね」

「ああ」と軽く返事した和也は酒場の奥へと去っていった。


 さーて、それじゃあ、ご飯たべよ!

 黙々ともぐもぐご飯を食べていると、誰かが近づいて来る気配を感じた。

 振り向くと、ヒゲを生やした中年の男性が二人組でこちらにやってきてる。

 私と目が合うと、ニタニタと笑った。


「よう、嬢ちゃん、ひとりか?」

 今は一人、だけど……和也がいるから、二人って答えたほうがいいかな。


「えっと、私は」

「ここは冒険者のギルドだぜ? こんなところでただの布の服を来たお嬢ちゃんが来る場所じゃないんだ」

「ただの布の服で、来ちゃダメだったんですか?」

 なんと、そのようなしきたりがあったなんて……。


「その反応、なんだか初心な感じで、かわいいじゃねぇか。よかったら、俺たちのパーティーに入れてやろうか? 色々教えてやるよ」

 やだ! この人、今、私のこと可愛いって言った!? いやー! そうかなー!?


 というか、パーティーか、パーティー。そういえば和也がパーティーに入ったほうがいいって言ってたような。

 少し話を聞いてみようかなと思っていたら、なんとこの人、私の肩に手を回してきた。

 ちかい! パーソナルスペース! 守ろうパーソナルスペース! あと、この人お酒臭い。


「ちょ、ちょっと離してください」

 と言って、回された腕をどかそうとしようとしたときに思った。

 もしかして、これってナンパされてるんじゃないだろうか、と。


 え? うそ、ナンパ? えー初めて! どうしよう。異世界に来て、早速の出会い!


 私はナンパしてきたおじさんの顔を見る。

 お酒臭いに歯も黄色いし、年齢も離れてるし、無精ひげすごいし、正直、あんまり、カッコよくない、かな。


 でも、大事なのは中身だよね!

 この人、ただの布の服を着ている人がこのような場所に来るのはふさわしくないと教えてくれたし、きっと面倒見がいい人なんだ。

 色々教えてくれるって言ってくれてるし、私のこと可愛いって言ってくれたし、顔はあれだけど、きっとすごくいい人、なのかも!


 でも話を聞く前に和也に声をかけないと。

 パーティーとかの話だったら相談したほうがいいだろうし。


「あの、実は私、もうひとり連れがいるんです。その人が戻ってからお話を伺っても……あれ?」

 私は呆然とした。私をナンパしてきた人の手が、さりげなく、私の胸にあたって、いる?

 あれ、これって、ナンパじゃなくない? ただのチカンなんじゃない?


 ……こいつ。



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