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まずは、歴史を紐解かせていただきたい。
二一世紀初頭。
紛争地域で頻発していた市街地戦。
それが『人型機動兵器計画』のきっかけとなる。
装甲戦闘機〈AFM〉
戦闘車両の入り込めない所で、陸戦歩兵部隊を支援するために開発された兵器である。人類は遂に、二足歩行する人型兵器を戦場に投入したのだ。汎用性を考え、国際的に規格化されたAFMと機体部品。開発に成功した国々は、平和維持活動の一環として、紛争が発生している国などにAFMを大量に供与する。
しかし、そのすべてが健全な用途で使用されたわけではない。戦地で廃品を回収する闇業者たちの手によって裏で取引され、非公式で機体部品が拡散してしまったのだ。その結果、テログループや犯罪組織などに利用されるケースが世界各地で報告された。
それは、海でも例外ではない。
潜行可能なAFMを駆使した海上強盗団が、各国企業の貿易船を襲撃するという事件が多発。被害を被った側の国々は、事件海域近くの国に対して対策を講じることを呼びかける。これにより、調査や取り締まりは行われたものの、実質的な解決には至らず、略奪行為が減少することはなかった。
各国政府は、自国海軍だけで全世界の海上通商路を航行する自国籍船舶の安全を保障することは難しいとして、海運企業が必要最低限度の「対抗戦力」を用意することを容認する。それは、民間企業が独自に軍事力を保有できるということでもあった。
海賊に対処するため、各国ではAFMの水中戦型〈AFM-D〉が開発される。日本でも同様、国内の軍事企業により共同開発された機体の量産が決定した。
その名は、AFM-D〈伊號〉である。
これに搭乗する者を“ダイバー”と呼んだ。
以上の経緯により、企業が保有する軍隊の「企業軍」が組織されるようになってから久しい。ところが、予期せぬ武力衝突が南の海で起こる。海賊相手ではなく、船舶を護衛する企業軍同士の戦闘。二大新興軍事企業とも呼ばれる「わかば電機」と「カエデ工業」の護衛部隊が、海峡で鉢合わせになったとき、両軍は突然に戦闘状態に陥ったのである。
記録としては、おたがいの勘違いで勃発した不慮の遭遇戦だったとされており、この水中戦で両軍とも多くのダイバーが命を落とした。企業軍と企業軍の共食いとなったこの事故は、後に『ロンボク・サウンドの悲劇』と呼ばれることになる。
この物語はフィクションです。科学的な専門用語などについても、実際のそれと異なる可能性があります。