なぜ俺が嫌いな村上春樹の本をブックオフで買ったか
オレは今興奮している。オレは今、ハルキスト国の上空、高度3000mで木製グライダーに乗って揺られている。手には半自動式小銃を降下猟兵用に切り詰めたカービン銃を持っている。
この戦争の始まった理由は戦争が起こるきっかけとして最悪のもの、イデオロギーだ。オレ達は皆、ハルキスト国の連中が嫌いだった。奴らは気取っている、奴らは多数派のふりをしている。奴らは先進国面をして、まるで自分たちの考え方がインテリジェンス的で、かつメジャーだと思っている。そのくせ繊細なふりをしている。ちょっとした事で腹をたて、それを美化し、自傷行為に走ることもせず、ただわかりあうふりをする。
オレ個人としてもやつらの事は嫌いだ。まだオレ達が関係のない国同士だった頃、下士官として共同演習に参加した事がある。いっぱしの軍人であるなら、奴らの思想だとか戦術は見習うのは当然、という、気取った、スノッブな面。そういう奴を何人も見た。そのくせ、命令系統は酷く煩雑で、こいつらは本当に実戦で戦えるのか? と心の中で笑った。
「現在我々は重要拠点、ノルウェイの森上空高度3000m地点に居る! 訓練のまま、落ち着いてやれ! 」少尉が叫ぶが、その声はゴウゴウという強い風の音にかき消され、わずかにしか聞こえない。
隣の奴の顔を見る。こいつはまったく豚みたいな面をしていて、腋臭が酷い。おい、オレはよ、この降下作戦が成功したらさ、あの気取ったハルキスト娘共を犯しつくして顔射しまくってやる。そう息巻いてオレに話していた。お前みたいな奴のザーメンが顔についたら肌がかぶれるよ、と、誰かにはやされていた。
反対側の奴の顔を見る。こんな状況だというのに前髪を弄っていて、馬鹿かこいつは、とオレは思った。こいつは以前こう言った。オレは世界で一番オレが美しいと思ってるし、そのために一日三時間は鏡の前で自分を見てる。表情筋を鍛えるんだ。ハルキスト国の連中は、そういう事をせず、ただ自分は生まれた時から美しくて、泣いている自分の姿はもっと美しいと思っていて、ハルキスト国国民である自分は、もっともっと特別だと思っていやがる。全員収容所に送ってやりたいよ。
同感だね。「降下地点だ! 全員装備点検! 」ソウビテンケン、という言葉に体が自動的に反応して、自分の前に立っているやつの装備が適切か確認する。最後に自分のパラシュートを確認する。何もかも、万全だ。
「降下開始! 」一人一人、グライダーから飛び降りていく。オレの順番が来て、オレの心は躍っていた。最高だ。ああいう奴らを居なくするためにオレは軍人になったんだ。オレはジェロニモ、と叫び、グライダーから飛び降りた。




