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CU CHULAINN#9

 ラールディカンは薄汚い下衆の犯罪者だが、恐るべき強さでキュー・クレインの師スカサクを打ち倒した。PGGの部隊が彼女を包囲するが…ユニオン高官による今回の首都惑星襲撃は銀河史に残る大事件へのカウントダウンであった。

登場人物

―キュー・クレイン…永遠を生きる騎士。

―スカサク…キュー・クレインに様々な技を教えた女師匠、〈イモータルズ〉の一員。


PGG、不死の議員達

―ステノー…ゴーゴン姉妹の長女、〈イモータルズ〉の一員。

―ユーライアリー…ゴーゴン姉妹の次女、同上。

―フロント=4962…ポリープ状の種族、同上。

―12=シルバー・グローリー=45…ポリープ状の種族、同上。


犯罪者達

―ブレイドマン…ドウタヌキの一振りを所持する機械の肉体を持つ悪しき倒錯魔法使い。

―ラールディカン…巨大犯罪組織ユニオンの〈ファンダメンタルズ〉の一員、弱い相互作用を操るワンダラーズの狂気的な少女。

―レッドナックス・ゼ=オリヒン…同上、強い相互作用を操る千手海鼠じみたセントア風の女。

―マラス・ユニス…同上、電磁気力を操るヤーティドの青年。



コロニー襲撃事件から標準時で1日後:PGG宙域、首都惑星イミュラスト、〈イモータルズ〉議事堂付近


 破壊された壁から重合金製の矢が発射された。鏃には着弾と同時に強烈な衝撃を極めて狭い範囲に発生させる機能があり、矢そのものの運動エネルギーと合わせて凄まじい貫通力を発揮する。戦闘機級から主力艦級までならシールドをダウン前でも問答無用の一撃で貫通でき、戦闘機級なら一撃で撃墜し主力艦級を含む現行巡洋艦までなら着弾箇所にもよるが甚大な被害を発生させられる。とは言え残量がゼロになってダウンする前のシールドを貫通できる数少ない兵器であるから、その使用には制限が掛かっている。ガード・デバイスに搭載された大量破壊兵器と同じく恐らくは複数の承認を得られた上で初めて解放されると思われた。

 迫るそれを視認したラールディカンは抱えている女を盾にしようかと考えた。この女の外套なら防げるかも知れないと思ったが、あるいは無惨に引き裂かれた血肉がそこらに飛び散るかも知れないとも考えた。この女と関係のあるキュー・クレインへの嫌がらせにはなかなかいい手ではないかと思ったが、しかし尊厳を破壊し自分の人形として扱いたい事を思えば勿体無いものであった。しかも〈イモータルズ〉の連中が考えも無しに誤射の危険を冒してまで発射するとも思えなかった。となれば仕方が無い。

 それ故彼女はあえて素手でそれに対抗した。真正面から拳を矢とぶつかり合わせ、それによって矢を破壊した。だが指の甲側から血がだらだらと流れた。シールド残量はまだまだ余裕があるのに貫通されてしまったのだ。今となっては一般的な、シールドによるあらゆるダメージの肩代わり技術を部分的に無視できるらしかった。己の構成原子を組み替えて修復したものの、何らかの付与された力で生命力そのものに打撃を受けたため決して無傷ではなかった。

「きゃっ、怪我しちゃった!/血が、血が! 血はいいなぁ、心躍るよ!/小賢しい連中だ。貴様らには気付いているぞ、姿を見せろ」

 ラールディカンの支離滅裂な声が投げ掛けられ、かなり離れた海上にいた彼女は議事堂から出現した者達をはっきりと目撃した。

「彼女を離しなさい」

 すると有翼の姉妹が現れた。その神々しさには地球で殺された末っ子――だが末っ子のその後の行方までは、悲しみと共に思い出のままにしている彼女達は把握していない――に対する悲痛さが混ざっていたが、激烈なる邪悪への敵意とほとんど悪意じみた苛烈さを湛えて冷ややかな笑みを浮かべていた。目鼻の整ったはっきりとした顔をしており、美しい翼が優雅さと力強さとを演出していた。光沢のある金属と半透明の材質とで作られたオレンジの甲冑に身を包む姉と、同じ意匠の白の甲冑に見を包む妹。矢を放ったのは妹であり、最新の技術と素晴らしい(わざ)により生み出された異星の弓はおよそ常人に扱える豪物ではなかった。姉は肩担ぎ式のレーザー兵器を右手で持ち、左手には片刃の巨大な長柄斧が握られていた。美人の姉妹の背後からぞろぞろと他の〈イモータルズ〉も登場した。

「我々と事を構えに来たか?」

 ほとんど化け物じみた域に至ったミ=ゴの賢者達はいつでもテレパシーを集中できる状態にあった。合一されたテレパシーはラールディカンでも太刀打ちできないと思われたが、ユニオンの高官がまさかその対策も無しに来るとも思えなかったため、彼らは罠を警戒しながら様子を窺った。更には4つの全く異なる会話を平行できる浮遊する異界の種族のメンバー達も現れ、これら不死の偉人達はラールディカンでさえ油断ならぬ相手であった。

「貴様らだけか?/ブレイドマンも役に立たんな」と彼女は言ったが、そう言ってすぐに上空から航空機や多種多様な種族によるギャラクティック・ガードも出現した。

「ふむ/ねぇ、みんなも一緒に何か飲む?」

 口ではそう言いながらもひとまず今抱えているスカサクをどうするか考えた。既に目的は達成しており、これから撤退すればよい。だがこの女をどうするか。このまま連れ去って己の邸宅の一つに監禁しておくか。だがそれも今一つつまらない気がした。そして今になって、深く愛する義姉たるレッドナックスの抱える退屈が理解できた気がした。あの忌々しいキュー・クレインを苦しませるにはもっとじっくりとすべきだと考えた。穏やかな海上に浮かぶこのユニオンの大幹部は、己から1マイル程度離れた議事堂のテラスでぼろぼろになって転がりながら呪詛を吐く機械の魔術師を見て呆れながら、そろそろ時間が来たと悟った。彼女は抱えている〈イモータル〉に顔を近付けて囁きつつ、全く別の話題も進めた。

「ねぇねぇねぇ、可愛い可愛い不死者ちゃん…君の、お肌をつーっと舐めたら、どういう味が、するのかなぁ? 今度は向こうにいるお仲間の前で色々やっちゃおうねぇ/今回はデモンストレーションに過ぎん。さっさと帰るぞ、片手間で習った剣術しか使えぬ役立たずが」

 彼女がそう言い終えた瞬間、倒れていたブレイドマンが返送の魔術を使ったらしく、彼らは姿を消した――ブレイドマンがまだその程度の事は可能な状態だったのか、あるいは予め手を打っていたのか、それともラールディカンがブレイドマンに無理矢理精神干渉する事で『使わせた』のか、それは定かではなかった。

 見れば師は強烈な勢いで投げられて海上を4度跳ねていた――逃げる寸前になってラールディカンが気を引き付けるために投げたらしかった。ステノーとユーライアリーは各々の武器を構えていたが、まずは彼女の救助が優先事項であったためひとまず海上まで飛行し始めた。溺れても窒息する事はないが、それでも負傷した友人を無視はできなかった。



数十分後:コロニー襲撃事件から標準時で1日後:PGG宙域、首都惑星イミュラスト、〈イモータルズ〉議事堂、庭園


「大丈夫ですか?」

 治療を受け終わった師は外套を脱ぐ事を拒否したとかでその点では面倒だったとの旨をキュー・クレインは聞いていた。それを思うとどうにも嫉妬せざるを得なかったが、フードを収納して顔と首を晒している彼女の様子を見るとそのような感情が恥に思えてならなかった。彼女の首にはあのユニオン高官の指と同じ大きさの痕が残っており、その付近は酷い火傷のように変色し、ぐちゃぐちゃに爛れていた。治らないわけではないがかなりの苦痛であった事が見て窺え、ぞくりと背筋が疼いた。

 師はそうした弟子の思惑を知ってか知らずか、ほとんど平時と同じように振る舞っていた――表面上だけは。

「情けないところを見せたな」

 質問には答えず彼女は淡々とそう言った。彼女は見えない煙草を吸っているかのようにハードな印象を与え、強張った髪が風に吹かれて僅かに揺れた。あと数分後には彼らは臨時の会議に出頭せねばならない。彼らは破壊された箇所の片付けや修復作業を見上げて眺めながら議事堂の庭で一休みしていた。

「痛そうですね」

「まあ、見た目程度にはな」

 師はそう言うと騎士の視線にふと気が付き、首元まで外套を伸ばして覆い隠した。有機的な外見の外套は彼女を守る守護騎士のごとく常に彼女と共にある事を改めてアルスターの猟犬に思い知らせた。

 だが騎士は今現在の彼女からどことなく顕れる余所余所しい態度の正体がなんとなくわかった。特に彼女の立場を考えれば余計に。久々に再会した弟子と共闘したまではいいが、その弟子があの機械の魔術師を打ち据えたというのに己は無様にもあの弱い力の使い手に敗北を喫した。弟子の目の前で、そして己の同僚達の前で。彼女は一流であろうが、それ故そのプライドが彼女自身を傷付けた。そしてあるいは彼女の人間としての部分が、あのラールディカンの獰猛極まる性衝動に恐怖を感じた可能性もあった。キュー・クレイン自身もまた、あのラールディカンの悍ましさには恐怖を感じていた。怪物じみた衝動的な笑みを浮かべて舌なめずりするあの女によって己が壊れるまで犯される様を想像し、身が竦んだ。べろりと舐められてぞわぞわと不快感に襲われ、容赦の無い従順のための暴力が振るわれ、こちらの事を微塵も考えない扱われ方を――。

 キュー・クレインは首を横に振るって悍ましい想像を振り払った。

「あの女の事ですが、大丈夫ですか? かなり気持ちの悪い体験だったように見えますが」

「まだ今より未熟だった頃、どこかの惑星でドールの眷属に飲み込まれた時の事を思い出したな。片脚を食い千切られ、顔も消化液で酷い有様だった。狭くて苦しかったが素手でなんとか殺してやったよ」と彼女は冗談めかしてなかなかに壮絶な体験を述べた。しかし先程の体験に関しては明言を避けているようにも思えた。

「どうであれ、あの女の言う通りにならなくてよかった。あの女に攫われたりせずに」

「そうだな」

 スカサクはもうこの話をしたくないように見えた。だがそれでも騎士は彼女が心配であった。

「私は…その、あなたが心配なんです。あのような女に…」

 言いながら騎士は師の肩に手を置いた。鎧を解除して虚空に締まった騎士は素手で彼女の外套越しに手を置き、手には意外と硬めのぐにゃっとした感触が伝わった。師は鼻で笑いながら彼から離れながら背を向けた――ちびの犬よ、その話は控えろ。

「心配するな、次会った時はあの女も私の武勇伝の一部となる」と背を向けたまま彼女は言った。白い石材で作られた庭の上は黄色い日差しを受けて染まっていた。

 彼女は息子の前で暴漢に殴り倒された父親の感じる悔しさに似た感情を噛み締めているらしかった。そして騎士もまた、恐ろしく強い己の師が負けたという事実に失望混じりの複雑な感情を感じている事に気が付いた。



数時間後:コロニー襲撃事件から標準時で1日後:PGG宙域、首都惑星イミュラスト、〈イモータルズ〉議事堂


 会議終了後もゴーゴン姉妹は少数の他の〈イモータルズ〉と共に話し合いを続けていた。ミ=ゴによって作られた伝統的な建築技法の部屋の中で、最新の機器に囲まれながら得られた情報を整理していた。

「あの子はすぐに立ち直るでしょうね、全く引き摺らない事はないとしても。問題はラールディカンの狙いがわからないという事だけど」

 既に楽な服に着替えているユーライアリーは友人であるスカサクの事を心配しながらも、あまりその件には触れないよう努めた。

「問題はまさにそれだ。奴の狙いがわからん/12=シルバー・グローリー=45、前にも言ったが放棄地の再開発は予算の無駄だ/お前も彼女とは親しかったな、心中は察する/奴らの追跡はやはり不可能か?」

 4つの口で別々の会話をする異次元の実体はユーライアリーと1つ、それ程仲のよくない同族の12=シルバー・グローリー=45と2つ、賢者イラ・ノスの先祖達と同じ時代に生まれた不老のミ=ゴと1つの会話をしていた。彼らの種族の思考は奇妙であり、口論中の同族と今度どこへ遊びに行くかという話をするような種族であり、特に新参の種族は彼らの異質な精神性に戸惑うものであった。ミ=ゴと同じく視覚を持たぬ――別にそれ自体は大して珍しくない――彼らは全く別の知覚能力を駆使し、奇妙な力で空を飛び、こちらのものではない奇妙な物質で構成された肉体を備えていた。こちらの科学からすればほとんど物質的な存在ではなく、高い科学力と知性を備えて長年銀河社会を見守ってきた。とは言え三大種族のワンダラーズやミ=ゴと比べて異質過ぎるため、ある種の理解不能な守護者として畏怖される面もあった。

 ユーライアリーは隣に立つ姉へと語り掛けた。

「ここへ来たのはブレイドマンの力かしら?」

 姉のステノーは妹以上にラールディカンを殴り飛ばしてやりたいと強く考えていたが、表面上は冷静に答えた。

「その可能性が高いね。だが奴がの独力でそれができたとは、到底思えんな。この惑星への不法な、または侵略性の侵入は過去一度たりとて無かった。あの程度の実力の輩がどこぞで古代の秘儀を発掘でもしてきた? いや、いや、それはまずない。可能性は極めて低いだろう。この惑星は我々が誇る最高の要塞、難攻不落だ。ブレイドマンに使える程度の術で様々なテレポーテーションや超光速航行を妨害できるこの地に足を踏み入れられるなら、遥か以前にここは薄汚い奴隷商人どものサロンになっているだろうさ、というわけであり得ない。夥しい回数の演習で我々は通行許可の出た船が強奪されてもその侵入を阻止できる事を新技術の登場毎に証明してきた。そして既知の中で最も妨害が困難なものの一つである、眷属ではない本物のドールが本能的に使う異常赤方偏移この惑星は我々が誇る最高の要塞、難攻不落だ。ブレイドマンに使える程度の術で様々なテレポーテーションや超光速航行を妨害できるこの地に足を踏み入れられるなら、遥か以前にここは薄汚い奴隷商人どものサロンになっているだろうさ、というわけであり得ない。夥しい回数の演習で我々は通行許可の出た船が強奪されてもその侵入を阻止できる事を新技術の登場毎に証明してきた。そして既知の中で最も妨害が困難なものの一つである、眷属ではない本物のドールが本能的に使う異常赤方偏移式ジャンプでさえ理論上は阻める。つまり連中には本来どうしようもない」

 平時通りの早口で話すゴーゴンの長姉ではあったが、それでも声の調子や雰囲気などから漂う怒りは表面上の冷静さを踏み越えて滲み出ていた。

「まあ連中がどうやってここに侵入できたかという話はここにいる他の5人に任せましょう。それより話を戻すけど目的が問題だわ」

「目的、目的。思えば奴らはほとんど大したテロ行為もせずに立ち去った。示威行動か? 予想される労力に釣り合わない。何かの研究や実験? ブレイドマンの利益は? ユニオンに脅迫されている? 不明、全くもって不明だ、データが足りない。以前とあるギャラクティック・ガードと抗争になった事件で何かを得たのか? それを使ってここへ侵入? わからない、だがその可能性は高い。つまりブレイドマンに使える形でそれを伝授でもした黒幕がいるのか? データが無い。ところで話が逸れてしまったが、やはり奴らの目的がわからないね」

 彼女は早口ですらすらと言葉を紡ぎながらほとんど自問自答するように、消極的に妹へと答えた。それを聞いていた漆黒のポリープじみたフロント=4962が同族である12=シルバー・グローリー=45との会話と平行したまま「つまり何もわからんな」と一瞬だけ口を挟んだ。ステノーは肩を竦めながら、ブレイドマンに関する記録映像をテーブルで再生させていた。彼らが囲む円形のテーブルはホログラム映像を平行して卓上の好きな箇所に複数表示可能な戦略テーブルであり、その値段は中古のそこそこ性能がよい宇宙船を買うのと同程度には高かった。

 ユーライアリーは長年共に頑張ってきた姉の変人じみた喋り方にもすっかり慣れている様子で先を続けた。

「でもそれはそれとして、ユニオンがイミュラストに自由に出入りできる手段を手に入れたのは問題だと思うわ。あれが唯一の成功例だという都合のいい想定をしないとしたらね。私は防衛戦力を増強すべきだと思うわ」

 テーブルに両手を衝いて前傾姿勢を取っていたステノーは目の冴え渡る美貌を持ちながらもどことなく近寄りがたい変人の雰囲気を纏ったまま顔を隣にいる妹へと向けて答えた。

「戦力は確かに必要になる。ラールディカンは今回大規模な破壊をしなかった。当然だ、ユニオンにはこの価値ある惑星を台無しにするような理由が無い。次回の攻撃ではかつてケイレンがヤーティドに使わせようとしたような生物にのみ影響を及ぼす大量破壊兵器を使う気か? いや、それも可能性としては低い、少なくとも今のオーバーロードは嘘も策も使うが一度交わした条約を勝手に無視して違反する性格じゃない、つまり闇市場へ勝手にあの手の兵器を流すはずもないし、ユニオンも我々があの手の兵器に対する徹底した対策をしている事は承知していないはずがない。だが次の攻撃で首都に艦隊が侵入したら? それは危険だ、ならば防衛システムの見直しや他の艦隊やギャラクティック・ガード、並びに通常の戦力をこちらに幾らか回すべきか」

 彼女がそう言い終わると他のメンバーも首都の防備を固める事に同意した。敵がどの程度自由にテレポートできるのかわからないため完全に手探りだが、首都惑星イミュラストの陥落はPGGの歴史に暗い影を落とすと思われた。明日以降の〈イモータルズ〉以外も混じえたPGG全体の会議などでそれらを話し合わねばならない。



同時期:ユニオン銀河、不明星系、首都惑星スローン・ワールド


「任務成功だと聞きましたよ。忙しいのによくぞ行ってくれましたね」

 どことなく和風の着物のような服で全身を覆っている千手海鼠じみたレッドナックス・ゼ=オリヒンは、己と同格の地位にあるラールディカンが任務から戻ったためそれを出迎えていた。ユニオンの様式で豪奢に作られたオートセニアの邸宅は、多忙なユニオンの上層部が集える数少ない場所であったが、4人の〈ファンダメンタルズ〉の中に割って入れる幹部はいなかった。

「うん、お姉ちゃんに褒めて欲しくって頑張っちゃった!/不愉快でどうしようもない惑星であったな。姉上もあそこへ行かねばならないと思うと憂鬱よ」

 無造作に伸びた金髪とぼろのような外見の非常に高度な戦闘服が目を引く〈ファンダメンタルズ〉のラールディカンは、支離滅裂な言葉を吐き散らしながら己が姉と慕うレッドナックスに抱きついた。レッドナックスは彼女を服に覆われた手で撫でながら、箱河豚のように角張った雨虎(あめふらし)状の顔に暗い情熱の表情を浮かべた――この匂い、宿敵たるキュー・クレインと交戦したか。

 彼女達が女同士で暫く寄り添っていると、背後でドアが開いて緑色のアーマーを着込む男が現れた。猿人種族ヤーティドでありながら、イサカではなくユニオンを率いる不滅のオートセニアを主君として仰ぐこの男は永遠に変わらぬ青年の声で殴るように言葉を投げ掛けた。

「ラールディカンよ、ミストレスがお呼びだぞ」と腕を組みながら猿人マラス・ユニスはふてぶてしく、かつ威圧的に言った。彼の周囲を外套のように囲むガード・デバイス群が薄暗い部屋の中で不気味に輝いていた。電磁力を支配するこの青年はラールディカンはともかく、レッドナックスがいるせいで露骨に嫌そうな態度を示した。

「了解した、愛しき兄上よ/お姉ちゃんとお兄ちゃんの匂いが混じって…/それでね、私が頑張ったご褒美に…もっと2人に仲良くして欲しいなって/好き好き好き好き好き好き好き好き…」

「だそうですが?」とレッドナックスは茶化してマラスに話を振った。

「黙れ、さっさとラールディカンと来い。次はPGGが罠に嵌まるのを待つのみだからな、これから忙しくなるぞ」

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