08 【群青色の侵入者】
08 【群青色の侵入者】
「侵入者の竜だ。」
全員が一斉に立ち上がり、フレイに付いていくように外に出た。
赤やピンクなどと色とりどりの花でガーデニングされたアイラの家の外に出ると、青々と広がる大自然が目に映った。
昼過ぎになり、快晴だった空は急変して雲が重々しく浮かんでいた。
微小に感じる風が辺り一面を覆い尽くす雑草を揺らしている。
歩くこと数分であった。
そこにはぐったりと倒れた竜がいて、その周りにある草木は潰され、地面には亀裂が走っていた。
その竜は“群青色に輝く光沢の皮膚を持った竜”であり、コイツは紛れもなくアイラを襲っていた竜である。
「さっきアイラを襲ったやつだ・・・」
アルの顔は一気に青ざめた。
「あれ?もしかして・・・この竜がそれなの・・・?」
「うん・・・そうだよ」
アイラの目は冷たさを帯びていた。
ほんの何時間前には大きな翼を羽ばたかせてアイラを襲っていたような竜が、今はぐったりと地面にうつ伏せている。
群青色の竜の首元には宝石が見当たらなかった。
そう、彼は侵入者。
そして警察の笛の音を聞き、気絶し・・・倒れてしまったのだ。
ただの笛の音だけで、ただ宝石を付けていないというだけで。
もしもアイラに会う前に笛の音が鳴ってしまっていたらと思うと、アルは背筋が凍る思いであった。
しかしこの竜がアイラを襲った事には変わりなく、それは恨むべき犯行である。
だが、アルはほんの一欠けら程度の大きさの同情を抱いてしまった。
「おーい、君たちー!」
遠くの方で男の声が聞こえた。
「“ビッフィーさん”、久しぶりです・・・」
「あぁ、悪い。記憶力がなくてね、君たちが誰なのか分からないよ、悪いね」
「いえ・・・」
ビッフィーという人も当然人竜なのであろう。
首元に宝石がついてある。
格好はどっからどうみても警察官。
帽子もかぶっていてそれらしい。
「もしかして、君たちの誰かがこの竜について知っているのかい?」
「えぇ。私が知っているよ」
アイラは堂々と威厳を見せつけているような目でビッフィーを見て自ら挙手した。
「じゃぁ私は署にコイツを持っていくから。後で署まで聴取させてくれ」
「いいわよ」
「では」
そういうとビッフィーはその竜の首元を掴んだ。
そして何やらポケットから出した“数珠のようなもの”を取り出し、その竜の胸に押し当てた。
数珠のようなものは突如光り出し、全員目を瞑ってしまった。
光が消えて目を空けた瞬間、その竜は人に戻っていた。
その人竜は至って普通の人であるのが印象であり、年は25歳ほどの青年に見えた。
依然、その侵入者は生きているのを疑ってしまうように気絶したままである。
首元を掴んだまま、ビッフィーは己の姿を竜へと変化していた。
アルにはまだこの変化の様子が見慣れない。
関節が変わり、骨が突き出て、肌色も変わり、鱗ができ、しっぽが生え・・・。
みるみるうちにビッフィーは緑色の竜になっていた。
大きさは群青色の竜より一回りも二回りも大きい。
アイラは竜になっても元々小さいので比べていいのか分からないが、あえて比べるならば3、4倍ほどであろうか。
とにかく今まで見た中で一番大きい。
そしてビッフィーは「グルゥ・・・」と発すると、侵入者の首元を掴んだまま、大空へと飛び立った。
「アイラぁ・・・。別に警察署に行かなくてもいいんじゃないのかなぁ・・・」
「ダメよ。こういうことは、こういうことなの。適当は許されないから。」
「う・・・うん・・・。」
二人が話している間にフレイがレイラに問い掛けた。
「さっきのはどうだったんだい?」
「フレイ、なんかさっきのは誤解だったみたい。アールくんは正式に宝石を手に入れた子だよ。」
「そうか。ならよかった。」
その様子を横で聞いていたアルはとりあえずはほっとした。
それにしても、どうやらレイラはフレイの二人称を変えないようだ。
二人が話している間にアルはアイラの肩をポンと叩き、小さな声で話しかけた。
「アイラ・・・後で・・・ちょっと話があるんだぁ・・・。これからのことで・・・さぁ・・・」
「そうね。やっぱりある程度話さないとまずそうね・・・。あの二人が帰ってから話しましょ・・・!」
「うん・・・!」
・・・その後の四人はさっきのことがなかったかのようにアイラの部屋で雑談をしたりお茶を飲んだりでまったりと時を過した。
アルの侵入者説も誤魔化すことができたらしく、レイラもフレイも疑うことが無かった。
雑談は盛り上がり、楽しい時間はすぐに去っていく。
そろそろ空が暗くなってきたところで、レイラが切り出した。
「んじゃ、そろそろあたしは帰るとするかねぇ!」
「じゃぁ俺も帰るとしよう。今日はごちそうさまでした。」
机の上にはお菓子の袋などが散らばっている。
それらのゴミをゴミ箱に捨てながらアイラは手を振った。
「いーえー!また来てね!」
「おじゃましましたぁー!」
「ばいばい、アルくん。アイラをよろしくね。おじゃましました。」
パタン、と扉が閉まり、二人は帰っていった。
・・・
家は途端に静まり返った。
数分まで賑わっていた家の人口密度は減り、どこか家が広く見えてしまう。
家に残った二人はこの時を待っていたかのように互いを向き合い、口を開こうとした。
「じゃぁアイラぁ・・・」
「うん。話すね。この村で昔何があったかを・・・!」