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07 【警察の笛の音】

07 【警察の笛の音】



突如鳴った甲高い音にアルは耳を塞ぐ反応を見せたが、他の三人は何の反応も見せなかった。

さらには外でとてつもなく大きなものが天空から落っこちてきたような音が響き、一帯が揺れた。

これには他の三人は気づいたが、アルには甲高い音のおかげで聞こえなかった。


・・・やっと甲高い音が鳴り終わった。

ここでアイラがまた言う。

「これは“警察の笛の音”だって・・・!ね!」

アイラはアルの方を向いて話しかけたが、その後喋ったのはアルではなくレイラであった。

しかもレイラの表情はいつも見せる明るい顔ではなく真剣そのものであった。

「フレイ。“家の前にいる”のを見てきて。少し私はここで話すとするから」

「あぁ」

フレイも同じ表情をしている。


この局面にてアイラはやっと気づいた。

アルはこの村にもともと住んでいた、という設定だったのだ。

この笛の音を知らぬはずがない。

だがアルは初めて聞いたような反応を見せてしまった。

―――侵入者説…きっとそれであろう。

ゴクリと唾を飲み込んだアルもそのことに気付いたようだった。

ほんの一瞬にしてアイラの家は緊張の空気が流れ、息をする音のみ耳に聞こえた。

アルの額から一筋の汗が流れ頬を通過したときにレイラの口は動き出した。



「アルくん?君は何でこの音を知らないんだね?はは・・・あははっ・・・」



そのセリフには微塵も今までのレイラを感じさせてくれない。

二人称が普通だ…とかではなく、語尾に入った不自然な笑いがさらに恐怖を醸し出している。

セリフだけでない。大きく見開いた眼もおかしく、アルはその身を縮めた。

首が若干曲がっていて“異常者”の三文字がアルの脳裏を過ぎった。

フレイがいたときに見せた真剣な表情がどれだけ緩やかだったのだろうかと振り返る。


「・・・べっ・・・別に・・・別に知らないわけじゃなくて・・・!ただ音が怖くて・・・!」

アルには上手い言い訳が思いつかなかった。

普段なら言い訳くらいなら口から発せられるだろうが、この場合は恐怖で何も喋ることができないどころか考えることさえもできない。

「ははっ・・・じゃぁさっきのアイラの“これは笛の音だってー”という説明は何を意味するの?ねぇ・・・答えてよ・・・!」

もうダメだと悟ったアルは下を向くしかなかった。

下を向いたアルは、視界からレイラが消えたことにホっとしていた。

しかし、体の震えは止まらない。


「レイラ!待って!違うの!」

「・・・何?」

アイラが必死にレイラを止めた。


「違うの・・・。以前アルはね、大きな音で辛い思いをしたことがあったんだって・・・・。だから“警察の笛の音”でも何でも、ついその昔に聞いた音だと勘違いしちゃうんだって・・・。そういう意味で“これは警察の笛だよ”って確認させたの・・・!」

もちろんこれはデタラメである。

アルとアイラが同時に喋ると矛盾が生じそうだったので全てアイラに任せることにした。

「でも普通ならばいい加減に慣れるんじゃないの?それに疑問に思ってたんだよね、アルくんは未成年者なのに何で私たちが最初からアルくんの存在を知らなかったのかなって。 おかしいよね?おかしいよね?何でなの?教えてよ」


アイラはその言葉に反応し真剣に何かを考えているような様子であったが、アルはレイラの疑問の意が分からなかった。

何故未成年の人をレイラたちは全員知っていけなければおかしいのだろう?

そういえばアイラがこの村にはほんの50人程しかいないと言っていた。

だが、少なくともアイラはこの村の広さ故に住民を熟知していないと言っていたはずだった。

その極わずかな50人程度の住民の中に未成年は一体何人いるのであろうか?

何故数えられるくらいの人数しか住んではならないのだろう?

アルの思考回路は詰まりを見せた。

この村にある根本的謎が思考を止めているのだ。


「アル?少しアルの過去をレイラに言ってもいい?」

アイラの演技に合わせることにしたアルはコクンと頷いた。

「アルはね、“あの事件”以来、少しだけ外に出たのよ。親と一緒にね」

この瞬間、レイラの顔の表情が元通りになった気がした。

少なくとも恐怖は感じられないまでにはなったようだ。

「・・・まさか・・・・・・・。危険じゃない・・・!絶対宝石を狙われるじゃい・・・!」

「えぇ。でも苦肉の策で外に出たのよ。 両親は宝石を持っていなかったしね。・・・数年間生き残り続けたわ。 でもね、大きな音が鳴って・・・。 その音の正体は隕石の落下。目の前にいるアルのお母さんを直撃したの。 さらに数日後、それはアルのお父さんをも直撃した。・・・不運よね。そうしてアルはすぐさま“警察の笛の音”で守られるこの村に戻ってきたのよ。 でもその笛の音の大きさはその隕石を連想させるものであった・・・。 あまりにも衝撃的な過去だったから身体が拒否反応を見せてしまうのよ。 そして村に戻ってきた頃にはアルは自立できる年だったから“カマトルさん”の下で過ごすことなく生きてきたの」


当然アルには“カマトルさん”が誰なのか知るはずもない。

アイラが話している間、アルは身体を縮めて小刻みに震わした。

演技の甲斐あってか、どうやら話しは二人の間で丸く収まったみたいだ。

レイラの表情から恐怖は消えたものの元通りにはならずに、逆に落ち込みを見せるようになってしまった。

「・・・そうだったの・・・・・。アルんるん・・・ごめんね・・・」

「いや・・・最初アイラにも同じ感じで質問されたから・・・!ごめんねっ・・・」

「いえ・・・あたしこそ・・・。“この話”に敏感で・・・ごめんなさい」


よほど緊張したのか、アルは脱力感に襲われた。

“この話”に敏感なのはレイラもアイラも一緒である。

アイラもアルが宝石を付いていなかった時に見せた反応は、レイラほどではなかったが間違いなく同じものであった。

それから一切の会話がなされない部屋は静まり返っていた。

その時、扉を開くフレイが均衡を破った。


「やはり・・・侵入者の竜だ」


フレイが三人を手で呼び、言われるままについていくとそこには“群青色に輝く光沢の皮膚を持った竜”が倒れていた。






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