06 【増えていく仲間】
06 【増えていく仲間】
アイラがお茶のおかわりをお盆に乗せてテーブルの前にやってきた。
そのお盆の上には海苔がついたお煎餅が四枚ある。
きっとレイラが二枚食べるのだろう。
「で、レイラぁ!本当にフレイが来るの?」
「来るって言ってたよ。子供は遊ぶことが仕事なのさ!」
レイラも十分に子供であるから堂々胸張って言う言葉ではない。
「あ・・・アイラぁ・・・ふれいさんってのはどんな感じの人なのかなぁ・・・?」
「フレイは男!力強くて頼もしい。ちょっぴりクールなところもあるんだよ。」
アイラの一言でアルは安心したようで、真っすぐ伸びていた背筋を曲げ安堵のため息をつき、すぐに目の前に出されたお茶に手を伸ばした。
「そのため息は何なのよ」
「・・・・・・ずずず・・・・」
お茶を飲んでいるアルは当然しゃべることはできない。
レイラは口を渋々止めた。
「アイラぁ、ちなみにどれくらい竜が襲ってくるのぉ?」
「えぇと・・・。やっぱし、竜にも人間にも限りはあるからさっ、そんな多くないよ?ほら、警察の笛って毎日とか鳴らすわけじゃないけど、一か月に三、四回程度は鳴らすからさ・・・!竜とかも割りと計画的に狙ってくるのよね、侵入のタイミングを見計らって。だから襲われるってのは一か月に一回あるか無いかって程度だよ。でもそのつど危ない思いしてるからね・・・。いつもみんなが助けてくれるんだ。フレイが一番頼りになるんだよ!まぁこれからはアルが助けてくれるみたいだから安心かなぁー?どうかなぁー?」
アイラが少し挑発気味に言ったが、その口調はどこか可愛らしくて、ついでに言えばどこか甘えているような感じであった。
そう言われたアルの顔には笑みがこぼれ、「頑張るよ」と言った。
否、正しく言えば“頑張るよ、と言っておいた”の方が正しいだろう。
アルには毎回竜から逃げることができる自信はない。
最初に出会ったときに運良く、被害なしに逃げることができただけだ。
もしも次も綺麗に竜を欺くことができたら、それはアルの自信へと繋がるのだろうけど。
ここでアルはお茶を飲みながら、旅の根幹を思い出していた。
果たしてこの山にアルの兄はいるのだろうか?
しかし、たとえ兄がいようがいなかろうがこの村に少しだけ長居させてもらおうとアルは考えていた。
―――アルはもともと友人の少ない方であった。
というかむしろ、いなかった、とも言える。
故に、地元が滅んだ…とはいえ元々アルの世代の人は少なかったため、滅びた瞬間は絶望したものの結局時間が経った今では精神的ダメージは無いといえる。
さらに同世代の彼らは皆戦争主義で、毎日鍛練に勤しみ交友をしようとしていなかった。
(アルは戦争主義ではなかったがある程度の筋トレは積み重ねていたが)
同様に兄も鍛錬を積み重ねていたため、アルは人との交流が盛んではなかったのだ。
この村にいれば友人ができるとアルは感じていた。
レイラのように元気すぎる人もいるが、拒否をしようとはしていない。
先程の“お茶作戦”では、レイラの反応が見たい…というのがアルの考えであった。
レイラは口を閉じたためアルは内心で「勝った」と喜んでいたのである。
さらにアルはアイラの家にくるフレイという人とも仲良くなりたいな、とも思ってもいる。
アルの兄は今生きているのならば今を急ごうが急がなかろうが兄は生きていることに変わりはない。
戦争の相手村に拉致されていないことも確認済みである。
もちろん戦争の相手村に殺されるはずもないし。
兄を高く見すぎであろうか?とアルはたまに自問するが、やっぱりあの兄が易々殺されるはずはない…と自答していた。
あれだけ毎日の鍛練をしてきた兄のことだから、ふいに他人から殺されたり病に倒れることはないと信じていた。
―――戦争中に消えたことには必ず理由がある。
そしてそれは兄の自発的な行動ともアルは推測していた。
今、この村に来たアルはアイラを助けるという義務みたいのを背負ったようだった。
自ら言い出したことではないが、不本意ではなかった。
この村は自然が心地よいし、アルはしばらくこの位置を楽しもうと踏んだのだ。
コンコンッ
ドアをノックする音が聞こえた。
「今行きまーす!」
アイラは飛んでいった。
どうやらフレイのようである。
「どうぞ、座って座って!」
フレイと呼ばれる男がアイラの部屋に入って来て、お茶が置いてあるテーブルは賑やかになってきた。
既にお茶は四つ置いてあり、アイラもみんなに混じって座った。
「フレイ!彼はアルっていうの。今日、竜から救ってくれた命の恩人なんだよぉー」
アイラは隣りにいるアルの腕を肘で突いてアルに振った。
「ぁ…あっ…はぁっ、初めまして…アルって言いますぅっ…よろしくです!」
アルが声を震わした理由は目の前にいるフレイの整った顔にあった。
男が見てもうっとりしてしまいそうな顔は「美しい」の一言に尽きる。
服装は薄水色チャイナ服である。
服に覆われているが、体格がしっかりとしていることがはっきりと分かる。
身長は高めであり、ストレートの髪は少し上に立っているがアルほどではない。
そして彼は何もかも見透かしているようだけど、温かさを持った目でアルの方を向いた。
「アル君って言うんだね。初めまして。俺はフレイというんだ。…アイラを助けてくれたみたいだね。ありがとう」
その声は透き通った綺麗な声だった。
そういうとフレイは優雅な笑みを見せた。
どうたら無愛想ではなさそうだ。
「あのぉ…宝石はどこにつけているんですかぁ…?」
ふとフレイを見ると首元に警察の笛から守り、住民の証である宝石が見当たらない。
まさかとは思うが彼は侵入者なのであろうか?とアルは首を軽くひねった。
「あぁ・・・ここについてるんだ」
そう言いながらフレイは横向きになって自分の耳を指差した。イヤリングである。
「首元につけるって約束だけど、少し邪魔でね。耳につけたんだ」
アイラはアルの横で
「フレイって有名でみんな顔を知っているから、住民である目印を見えやすいトコにつけていなくても大丈夫ってなわけ。くれぐれもこの二人にも正体ばらしちゃいけないからね!」
と耳元で囁いた。
アルがこの村に初めて来た…というのはアイラとの秘密だということを思い出し少し焦った。
何故この二人にもバレちゃいけないのだろうと疑問に感じたが、この村はそういうことに関して厳密なんだな、と思って質問するのをやめた。
「でもまさかフレイを知らない人がまだこの村にいたとはねぇ〜。ちょっとビックリだよ。“アイ〜ラ1世”に会う前どうしてたんだぃ?」
当然こんな質問が来ることを想像していないアルは戸惑いを見せた。
アイラもあたふたと慌て始めたが「そっか。アルぅ君はNEETだったわけか」とレイラが言ったので、ここは軽く笑って受け流すことにした。
話題を早く変えようとアルはフレイに質問をしてみることにした。
「でもなんでそんなに有名なんですかぁ」
あまり話題展開できてないな、とアルは気づいたが質問をした後だったので遅かった。
「フレイレイはね、本当に強いんだよ。年齢は私達よりも上だけど未成年者に変わりないから、やっぱり侵入者ってあたしたち未成年者を狙うわけ。でもフレイの強さは折り紙付だから、全ての侵入者を無傷で倒してるって記録を保持してんからね」
フレイに話しかけたつもりが、レイラが答えてくれた。
しかし、そんなフレイの表情は至って普通でもある。
さらにはアイラも付け足すように話出す。
「今では外部の竜の一部で噂になってくれるくらいだからね。今では襲われることは無いって断言してもいいくらいだよ」
彼女ら二人は満面の笑みでそう話す。
内容は他者自慢。二人ともフレイを心底親しみ、尊敬しているかのように。
アルは嫉妬をしていないようだったが、普通の男なら少し嫉妬しそうなシチュエーションであった。
ここでフレイが落ち着いた口調で話しだした。
「アイラとレイラは少し大袈裟だったけど、まぁそんな感じなのかな。アルくん、これからもアイラを助けてやってね」
やはりフレイは暖かな笑顔を会話に添えていた。
それにつられたのか、アルも自然と笑顔になった。
アルが返事をしようと口を開いたその時であった。
ピィ―――――!!!!
アルの言葉をもみ消すように、甲高く大きな音が鳴り響いた。
その音に大きな反応を見せたのはアルだけであった。
アルは耳を両手で塞いで若干蹲っているのに対し、他の三人は至って平然とした顔をしている。
「アル!?大丈夫?これはさっき言ったように“警察の笛の音”だよー!」
まだ音が絶えない。
当然アルにはアイラの声は届かなかった。
その音のせいか、アルには扉の向こうで隕石が落ちるような大きな音が鳴った事にも気付かなかった。
不思議と他の三人はその音には反応を見せた。