05 【アイラのお友達】
05 【アイラのお友達】
「花に水やりって飽きないんだよね。私、これが日課だもの」
「アイラはえらいなぁ・・・ホント。お母さんもゆっくりできるでしょ?」
「・・・・・・」
どうやら地雷を踏んでしまったようで、アルは戸惑いを隠せない様子をもろに顔に出した。
そんな様子もアイラは下を向いているので目に映っていないだろう。
しかし、最初に言葉を発したのはアイラだった。
「・・・なぁーんて、もうお母さんのことは気にしてませんよ!私が小さい頃に亡くなっちゃったんだよね。まぁ、だいぶ昔の話だからねぇー。ごめんね、重くしちゃって!あ、そうそう!今から“首元に付ける目印”を渡すねっ!ちょっと待っててね!」
アイラは「ふふふ」と笑って見せた。
あまりにも嬉しそうに笑うアイラの顔はどこか寂しそうに見えた。
―――まぁ、当然だろう。
「はい、これ!この三角形の宝石。他の宝石じゃだめなんだよ。この“特別な宝石”じゃないとだめなんだよ。この宝石、見た目も他に類を見ない上に中には“特殊チップ”が内蔵されてるんだよ。“警察の笛の音”を吸収するはたらききがあるの。この音は通常の人が聴いたら一瞬にして気絶してしまう恐ろしい力を持っているの・・・。それを吸収するのがこの宝石に入ってる特殊チップなの。付け忘れたりするとたちまち犯罪者、侵入者扱い。でもこれでこの地域に住む人の安全が約束されてるの。以上!これは私からあなたにプレゼントよ!」
「ありがとう・・・!こんな大切なものを・・・・・・嬉しいな・・・!」
ふとアルの脳裏には1つの疑問がよぎった。
何故そこまでして村の安全を守らなければならないのであろうか?
ヒトなんて毎日のように風呂に入り、毎日のように服を着替える動物である。
当然、それを付け忘れる・・・なんてことなど日常茶飯事にあるだろう。
(少なくともアルの場合は間違いなく1週間に1度は起こり得る話だ)
もしも付け忘れ―――笛が鳴ったのならば・・・
その人はその場で気絶し、目覚めた頃には犯罪者、侵入者扱いされているという事だ。
この村の習慣になれていないアルにとってそれは恐ろしく感じた。
でも聞く必要のないことだなと判断したアル手元にある宝石を慎重に首元に付けた。
「あ、この村にもともと住んでいる人が犯罪するってことはあり得ないのかなぁ?」
「・・・有り得るけど、私が生まれてからそんな犯罪は起こらないんだよね。この村には足りないものがないから。犯罪する必要もないの。あと、この村って人が極端に少ないのよ。50人くらいしかいないし。まぁ、村は広いから全員の顔なんて把握してないけどさ」
「少ないんだね。なんでもっとたくさんの人とこの村を共有しないのかなぁ・・・?」
「あ、もうそろそろ私のお友達が来るよっ!」
「・・・・・・・・・・え・・・!?」
「聞こえなかったの?今から私の友達が来るって言うのよ。まさか私に友だちの一人もいないとでも思って・・・?」
「・・・違うよぉっ・・・!別にそんなんじゃないからぁっ!でも僕なんかがいて大丈夫なのかな・・・!ってさぁ・・・!ほらぁ・・・!」
「大丈夫に決まってるじゃない。まさか・・・アルには疾しいことがあったりするのかな?」
「ないよぉっ!」
「冗談だよ、ははっ!」
アルは質問をはぐらかされたことに少しの不満を覚えたが、大した話じゃないことに気付いて割りきることにした。
ふと思えば、この村に足を踏み入れてすぐにアイラのような知り合いができ、認められ、さらには友達を紹介してくれるという事実にアルはちょっと良すぎた展開だとは思ったが、まんざらでもないので受け入れることにした。
そんなときに早くも友人が到着したらしく、ドアの向こうで「あぁーいらぁー」と呼ぶ声が聞こえる。
呼び鈴がないらしく、大きな声でその友達は叫んでいる。
声からして想像するに女の子である。
―――女子の友達なのだから女子なのは当り前だろう。
「レイラが来たみたい!アル!私のお友達っ!」
そういうとドアの方に振り向いて「今行くー」と大きく返事をした。
アルは慌ただしく隠れようとしたが、アイラが「やっぱり疾しいことでもあるのぉ〜?」と細い眼を送ってきたので、アルはその場で正座することを決めた。
その様子を見たアイラは笑ったんだか苦笑だったのか分からない顔を見せた。
「どうぞ。今日は新たなお友達が来てるんだよぉ〜」
「え?楽しみ!・・・おじゃましまーす。えっ・・ははっ・・・・・そこのきみぃ・・・!一体そこで何をしてるんだい〜!?ははっ!」
どうやらレイラと呼ばれるその女の目には、部屋の真ん中にある机の端でちょこんと正座しているアルの姿が映ったらしい。
その様子はいかにも間抜けで、レイラは初見の人にも関わらず突如笑いを見せた。
「何故正座しているんだろう・・・」と今頃気付いたらし、アルはあぐらをかく姿勢をとった。
「こんにちわ、アイラの友人のアルですぅ・・・。よろしくお願いします・・・!」
「へぇ、やっぱし君のこと初めて見たよ。あたしはレイラ。よろしくね」
赤が軽く混じった薄茶色の髪は下の方で透明な玉がついているゴムで一つに束ねられている。
顔は生き生きとしていて明るい笑顔が絶えない。
女性の年は聞いてはいけない上に分かりづらいものがあるが、アルと同じくらいの年齢なのだろうか?
見た感じからして活発そうに見えるレイラは動きづらそうな白のワンピースを着用していてた。
中には黒のTシャツを着ているようで、胸元には赤いリボンを身に付けている。
当然、その上の方には“金色に輝く宝石”のネックレスが掛けられていた。
そして腰に赤色でエナメル性のベルトが締まっている。
ワンピースが太ももの中間あたりで真っ二つに分かれている。
これはきっとレイラが運動の邪魔になるから切ったのだろうな、と安易に想像できてしまったので、アルは勝手ながらそう確信した。
くるぶしの高さの短い靴下は上だけが赤、靴は白のスニーカーである。
「れいらぁ〜。座って座って。お茶入れるから」
「いつも悪いね〜!今度はあたしが入れてあげるよ!私の方がお茶入れんの上手だけどねー」
「もぅっ。ほら、お茶だよ」
「どうも、どうも、あざぁーすなのだよアイラくん」
そういうとレイラは一気にお茶を飲み干した。
豪快な人である。
お茶のおかわりをアイラに頼んだが「ちょっと待ってて」と跳ね返されてしまったレイラはアルの方を向いた。
「んで、アルツハイマー君とアイラさんはどういう関係なんだい?」
「“ツハイマー”は余計ですよぉ」
「ちょっとしたボケさ。んでんで、どうなんだい?アイラくん」
アイラは片手にじょうろを持ち、花に水を上げながら顔を背けるようにして答えた。
「はうっ・・・んまぁ・・・ちょっとした命の恩人みたいななんだよねっ・・・!」
「アイラっちは弱いもんなぁ。一人になっちゃダメっていつも言っているのに。命は大切だよ、ホント。」
「・・・これからはアルが一緒に・・・・いてくれるんだから・・・・」
・・・と小声でアイラは言った。
その表情は花に向けられていてレイラの目には映らなかったが大体想像がついたらしく、
「へぇ〜。」
とにんまり笑って、顔をアルの方へ再び移した。
「こりゃまた重大任務を引き受けちゃったねぇ、少年よ」
「あぁ・・・うん。まぁ、大丈夫でしょぉ・・・」
「頼りないねぇ。ははっ」
「・・・失礼な・・・・・・」
というかいつからアルはアイラのボディーガードになったのだろうか?
・・・アルは竜ではない。
足が速いため、前回は竜から身を暗ますことに成功したが、長距離戦になったら間違いなく翼を持った竜には敵わないだろう。
それに竜になったアイラの姿を見る限り弱々しくはなく、逆に強そうにも見える。
そんなアイラはいつも竜から狙われ、弱いのであろうか?
アルは頭を抱えた。
「レイラさん・・・」
「レイラでいいよ。見た感じ同い年だし、タメでいいよ」
アルが話しだそうとしたがレイラが口を挟んだ。
「れっ・・・れぃらぁ・・・!」
「あたふたねぇ」
間髪容れずにレイラが突っ込みを入れた。
「レイラぁー・・・。アイラってそんなに弱いのぉ?」
「アイラん はね、たぶんこの村で最年少だからね。さらに竜になっても上手くコントロールできない。そういうことかな」
「そうなんだ・・・・。じゃぁ僕は割りと責任重大だねぇ」
「割りとが余計だよ、アルアル」
ここでアルとレイラの会話は終わったらしく、アルは胸をなでおろした。
レイラはお茶を飲もうとしたが先ほど飲み干したのでお茶が入ってないことに気付くと、コップの底をじぃーと見つめてコップをテーブルに置き、指で軽くはじいた。
そしてアイラの方を向いた。
「あ、そうそう。フレイも来るからね。もうすぐ。あとさ、お茶おかわり」
「あ・・・僕もおかわりぃ・・・・」
「便乗するわね」
「・・・っ」
アイラの友達“フレイ”とは一体どのような人なのであろうか?