04 【ほのぼのなとき】
04 【ほのぼのなトキ】
こうしてアイラとアルは出会った。
アルはこの冒険がさらに楽しめるな、と意気揚揚であった。
「この村のことを少し話すね!」
さっきまでは冷静な表情をしていたが、突然アイラはにっこりと顔を緩ませた。
「この村はね、この通りすっごく居心地がいいからみんな住みたがるんだ。」
大したことを話すわけではないのだなと思い、あぁ、そうだね。とアルは答えた。
「だから―――この村に住もうとする人や竜がたくさんいるわけ。でもこの村には約束事があるんだよ。“この村には許された者しか住んではいけない”ってね。許された者以外は不法侵入者として、厳罰が与えられてしまうのよ。住居を奪おうとしている、と見なされてね」
「そうだったのかぁ・・・。僕は別にそういう意味はなかったんだけれどもなぁ・・・」
「私、びっくりしちゃったよ。この村、山の奥の奥にあるからほとんどの人が入って来れないのよ。空を飛んでいけるような竜でないとね。ここに来るまで、とても長かったでしょ?」
「すごく長かったよぉ。見えてたんだけどねぇ」
この言葉にアイラは眼を見開き、ちょっとばかり後退して驚きを見せた。
「え!?見えてたの・・・!?アルって視力・・・いくつ?」
「4.0かなぁ。僕の地元では悪い方かなぁ・・・」
「嘘・・・!信じられない!その頭にかけている眼鏡は一体何なの?」
アルの地元ではどうやら6.0の視力が普通らしくアルの眼鏡は6.0であるが、真実を言うと何だかアイラに引かれそうな気がしたアルは5.0と偽ったが、結果は同じだった。
「・・・私なんて0.5だよ・・・。ここではいい方なんだけどな・・・」
竜なのだから人よりも視力いいと思っていたアルはほんの少し興醒めする要素となってしまったが「竜になったら2.0はあるよ」の一言で頭の中の前言を撤回できた。
「まぁ、そういうわけでこの村は厳戒態勢なのよ。それでね、この村に住むことを許された者には“ある目印”が与えられるわけ。それでみんな判断してるのよ。・・・さっきの竜にはそれが見られなかった。きっと私の“目印”を狙って襲って来たのよ」
そういうとアイラはビシッと人差し指でアルのスカーフを指した。
まさに効果音は「じゃーん」といった感じであろう。
このポーズをとりたかったのかどうなのか分からないが、アイラは自己満足したみたく、満面の笑みが零れた。
「え?スカーフがどうしたん?」
「首元にね、“この地に住む者のマーク”をつけなくてはいけないんだよねっ」
「じゃぁアイラには・・・」
「私はこの水晶玉のネックレスの部分にマークがあるんだよ。ふふふ!この金色に光る三角の宝石みたいなのだよ!」
アイラの首元をよくよく見ると水晶玉の両端にその宝石が埋めてあった。
とても子どもが身につけるようなネックレスではないと思ったが似合っているので気にしなかった。
視力0.5で見れる大きさなのか、これ。と突っ込みたい気分であったがアルは無駄なことは言わないで置いた。
「これかぁ・・・綺麗・・・!でも僕は当然持ってないよぉ・・・」
「それがね、私は実は一つ持っているのよ。安心して。持ってればいいの。でも自分が竜じゃないとバレると侵入者から狙われやすくなるから、アルが普通の人間だってのは私とアルの秘密だよ」
「うん、分かったぁ。よくそんなすごぃ宝石を二つも持ってるね」
「まっ、そんな小さいことは気にしないでっ!ウチに行くよ!」
「うっ、うん・・・!」
アイラがアルの手を掴んで前に進んだ。
2人の口は閉じることなく自然豊かなこの地を進んでいった。
アイラが得意気に村を紹介し、アルはその一つ一つに感動している。
「この花、綺麗だね〜!僕のいた世界ではこんなの見れなかったんだよぉ」
「この花は“美愛花”(びあいばな)っていうのよっ!もう名前の通り花言葉は『美しい愛』なんだよっ!私も・・・この花を運命のヒトに渡したいなぁ・・・・」
・・・
しばらくしてアイラはこの“間”に気付いた。
「こんなこと言わなきゃ良かった」と言わんばかりに、アイラはまた顔を真っ赤にして俯いた。
そんなアイラにアルは微笑んだ。
「っ!でもやっぱしこの花はすごい綺麗だね。アイラの気持ちもよく分かるよぉ!」
「・・・・って・・・・!何よその顔はっっっ!まぁっ??この山を離れるとこんな綺麗な花はないんだからねっ!この村一帯がすごいのよっ!ふんっ」
顔を赤く染め、誇らしげにアイラは語っていた。
大分恥ずかしかったためか会話が繋がっていない。
そんなアイラに対し、やはりアルは微笑んでいた。
その後もこの村の説明は続いた。
1つ1つの説明に自信を持って話すアイラは心からこの地を愛しているように見えた。
―――歩くほど10分。
そこには最初に見たような弥生時代を感じさせる家があった。
だがその家の大きさは他のものよりは若干小さい。
「ここがウチよ」
家の中は木のぬくもりを感じさせていた。
食卓に使うであろう机が真ん中にあり、奥には木製の台所がある。
流しだけはステンレスのような金属で被われている。
隅には木でつくられた風呂場があり、温泉のようである。
あとは鏡台とタンスがあって女の子の家らしさをかもしだしている。
その横にあるのがベッドで、ふわふわとした薄ピンク色の掛け布団がある。
それよりも女の子らしいのが、家の中がガーデニングで花や草でいっぱいなのだ。
もちろんその花々はアルにとって目新しいものである。
お花畑のような家にアルは圧巻されていた。
「すごい・・・!この家!僕の地元にはこんなんなかったよ・・・!」
「ありがと。でも割りと他の家もこんなもんよ。まぁ、机で少し腰を掛けててね。お茶いれるから」
せかせかとアイラが台所に向かっていった。
アルはやはり家のガーデニングから目を離すことができなかった。
その景色は色とりどりで、少し視点を変えれば新しい発見がいくつもでてくる。
ずっとこの村にいてもよい。
そうアルは思えてきた。
「あ、そうそう。アルはなんでこの村にやってきたの?」
台所の方からアイラの声がした。
お茶をついでいる音も聞こえる。
「あぁ―――それは・・・・・・とりあえず冒険したかったから・・・かなぁ・・・」
「じゃぁ、この村もいつかは出るってわけか・・・」
「まぁいつかは出るだろうけど、だいぶ長居させてもらう形かな」
「ありがとっ」
アイラに話しかけられるまでアルは冒険をする理由をも忘れるほどアイラの家に感心していた。
が、会話が終わり、部屋が静かになるとアルの頭の中は別のことで埋め尽くされた。
アルが冒険をする理由―――それは兄を探すこと。
アルの口からたびたび“地元”という言葉が出るが、アルの地元は滅びた。
戦争が1つの小さな村を全壊させたのだ。
その敗北の原因の一つが、兄の失踪。
兄が戦争の真っただ中でいなくなりさえしなければ、被害を減らすことができていただろう。
戦争を放り投げてアルは兄の姿を探しに村を出た。
村の周辺に兄は見つからず、もう一度村に戻ると全焼した酷い村が広がっていた。
絶望し、生きる気力もすぐには湧かなかったが、兄はこの戦争では死んでいないということだけは知っていた。
きっと兄はどこかで生きている―――そうしてアルは旅を決意したのである。
この村で長居する理由はこれといって大きなものはないが、アルの地元から一番近い―――さらには居心地の良い村なので兄がいる可能性は高いとも思えたからだ。
欲を言えば、アルにはここで友人を作りたいという願いもあった。
「お茶、どうぞ。あ、もうそろそろ私のお友達がウチにくるからっ!楽しみにしててね」
「・・・あろがとう。このお茶美味しいなぁ・・・!え?友達くるの?大丈夫ぅ?」
「大丈夫だよっ!それまで花に水をやって待ってましょっ!」
「あぁ・・・うん!」
アルは花に水をやるというコトに飽きることがなかった。
水をやると花が応えてくるかのように見えるのだ。
当然、水が花に当たって花が揺れるだけなのだが。
「花に水やりって飽きないんだよね。私、これが日課だもの」
「アイラはえらいなぁ・・・ホント。お母さんもゆっくりできるでしょぉ?」
「・・・・・・・・・・」