14 【ADVENTURE!! 〜旅の前に〜】
14【ADVENTURE!! 〜旅の前に〜】
「アイラぁ・・・“火山玉”ってなんなのぉ・・・?」
足を遅めてアルが背中にぴっちりとくっついているアイラに動揺することなく問い掛けた。
なかなか返事がないので後ろを振り向くとアイラは目に涙を溜めていた。
「速い・・・速いよ・・・」
アルが走ったスピードはアイラの体に負担がかかったのだろう。
アルは、アイラが竜を上手くコントロールできない理由がなんとなく分かった。
「早く聞かないと矛盾が出たりして、またレイラたちに疑われちゃうよぉ・・・」
「速い・・・」
「アイラぁ・・・」
「わっ・・あゎゎゎゎ!・・・今!・・・今我に返ったからっ!」
そんな常用語がどこにあるか、と口から出そうになったが、ここにあるので突っ込まないで正解だと思った。
流石に足の速さを遅める。
「・・・“火山玉”っていうのはね」
そう言ってアイラは、この村無くてはならないと断言してもよいだろう山を指差した。
「うぅん―・・・、なんてのかな。この山って普段は噴火していないでしょ?」
「普段とは?え、噴火すんのッ?」
「うん、それでね、実はこの火山は噴火する活火山なのよ。しかも、本来なら常に噴火して村に大被害を与えるの」
「常に?今は大人しいじゃん」
「そう。その噴火を止めているのが“二つの火山玉”」
アイラはアルの顔の前で空気に二つの丸形を描いて説明した。
その丸はちょっぴり歪んでいたが。
「この二つの玉が近付いてさえいれば、火山の噴火は抑えられるのよ」
「不思議なんだねぇ・・・それ・・・」
「原理は私にも分からないかなっ。でも今盗まれちゃったでしょぅ・・・一つだけだけど・・・」
「ってことはもうじきこの山が噴火しちゃうのぉっ!?」
「えぇ・・・。この世の終わりよ。16年前の紛争が意味を成さなくなる」
アルは広漠とした村を360度見てみたが、見渡す先には必ず険しい山があった。
もしも山が噴火したらどうなるだろうか。しかしアルは何の動揺もしなかった。
こんなことを考えるのは不謹慎かもしれない。
だが“冒険”が近づいていることに好奇心が湧いていた。
それは玉を取り戻せることを前提として。
山を出たことのない子供が(自分と年齢はほとんど同じだが)一国の平和のために故郷を離れ、侵入者に奪われた“平和”を奪い返す、というシチュエーションに満足しているのだ。
"奪い返しに行く"、ではなく。
「あ、そうそう。なんで相手は二つとも盗まなかったんだろう?」
単純な疑念がアルの頭に突如現れた。
しかしその疑いはアイラと共に謎のままとなってしまった。
「・・・そうそう、玉を盗んだということは侵入者が私たち“勝ち組の人竜”を滅ぼすつもりかもしれないのよね」
アルは適当な相槌を打つ。
「噴火を起こして、きっと私たちに復讐するのよ。私のような子供は、あの紛争には関係がないっていうのにね・・・」
「確かに噴火したら大変だなぁ・・・即刻奪い返さなくちゃねぇ・・・」
「恐らくその犯人は私たちと会った瞬間、すぐさま逃げるでしょうね。竜の姿になって。でもそういう時こそ、アルの速さが必要なのよ」
「・・・僕のぉ・・・・・・?」
「えぇ。人竜が竜になる時って時間がかかるじゃない?それに、竜になった後すぐに高速で飛べるわけじゃない。だから俊敏性のある、アルの足が必要なのよ!頑張って、あなたしかできないんだから!」
夏場一つ顔を飛び出しているひまわりのような明るい表情でアイラは微笑んだ。
アルはコクンと頷いて、速度が遅い事に気付きその足を早めた。
アイラの視界にレイラの家が映った。
ぴっちりと背中にくっついているアイラはアルの肩を叩くと、そっちの方を指さした。
アルはアイラを下ろすと、アイラの手を握って走りはじめた。
すぐにアイラはレイラの家の戸をノックして大声でその名前を呼んだ。
返事も無くドアはすぐに開いた。
「おぉー!“アルっち”と“ライア”ではないかっ」
「そろそろそれやめようよ、レイラちゃん。もうネタが無いでしょっ」
「いいのいいの。んで、二人してどうしたんだい。その繋がれた手は何を意味しているのかなぁ?ひっひっひっ!」
わざと間を空けた。しばらくして、
「大変なんだぁ・・・!よっ!?ふゎ・・・!カマトルさんのところに行ったらさ、玉がないというか火山がどっかぁーんって!」
「私が説明するわ」
アイラの説明はおおよそ15秒程で終止符を打った。
その間アルは説明したかったのか、どこかの保育園で扱われているダンスのように手やら足やらじたばたと動かしていた。
気付けばアル以外の二人の方が真剣な目つきになっている。
自嘲した表情を浮かべた後、真剣な目つきにしたアルは切り出した。
「よし、山を出よう」