13 【ADVENTURE!! 〜始まり〜】
13 【ADVENTURE!! 〜始まり〜】
最初は山の案内と仲間紹介をするだけだった。
アルにとって最後に出会う、未成年者の“マルシア”、幼い彼らをたった一人で養ってきた恩師“カマトルさん”この二人と顔を合わせるために、二人がいるという巨大な湖の中心にポツンと立っている建設物にまでやってきたアルとアイラとリオン。
呼鈴を鳴らしてドアをノックしてみた・・・が、応答はなかった。
軽い気持ちでリオンとアイラは家に入ろうとし、何故かアルが先頭立ってドアノブを持ち、家の中に入ることを決めた。
キィ・・・・
ドアが開き、狭い隙間には3人の顔が縦に並んだ。
恐る恐る開けた家の中の照明は全て落ちていて、アルの恐怖心をあおりたてた。
つい十秒前までは余裕こいていた二人もどうやら固唾を呑んだようだった。
しかし、どうも様子がおかしい。アルよりも恐怖心を露にしている。
「私の記憶によると、いつも電気が付いていてね。玄関先のドアの向こう側にあるリビングにいつもカマトルさんはいるはず。最初からうすうす変だと思ってたんだけどね・・・。呼び鈴で出なかったのは初めてだったから。冗談だろうかとは思ってたけど、電気がついていないのは不安かな・・・」
最初からアルもそんなこと考えてた。
だが、敢えてそこは突っ込まずにアルはリオンらに問いかけた。
「じゃぁ、早く行こうよぉ・・・。カマトルさんって人が危ないかもしれないしぃ・・・。うん・・・」
「そうだよね・・・行った方がいいんじゃないのかな・・・リオンちゃん・・・!」
「行くしかないなっ!・・・まずはアル君から行って・・・」
そういってリオンはアルの腕にしがみついた。
アルは細めた眼でリオンを見てやったが、リオンはニヤりと笑い、指で前を指してアルを急かした。
目線を前に向け、何も言うことなくアルはドアを完全に開き、一歩一歩リビングに近づいていく。
アルのそれほど小さくもない手がリビングのドアノブの上に乗っかった。
ドアは木でできていて、ガラス張りの部分もあり、そこはモザイクのように曇っている。そういう構造なのだろう。その構造から、部屋に光があるかないかが伺える。
そういった部屋に入るのは何とも無気味であったが、アルはそのドアノブを回して引いた。
再び、キィ・・・という高い音が鳴った。
「カマトルさんッ!マルシアッ!」
全員が驚愕の表情を浮かべ、リオンがそこにいる彼ら二人の名前を叫んだ。
暗くてよく見えないが、床にはゴロッと二人の人が倒れ込んでいる。
アイラは灯りをつけようと部屋の壁を手探りで探し、リオンは下でまんまるとうずくまる二人に寄り添って肩を揺らした。
「アイラちゃんっ!何してるのっ?電気はカレンダーの下にあるんだよっ!」
「え・・・うん・・・」
パッ・・・
電気が付き、視界は開けた。
同時にアルはその場で立ちすくんでしまった。
床に転がっている二人の口にはガムテープが付けられ、体中ロープで縛られている。
そしてアルは自分が履いている靴の下には絨毯が敷かれていたが、それは黒みがかった赤でどろどろしていた。
彼ら二人は重傷であった。
体から外されて床に落ちているロープも、リオンによって破られた衣服も赤で染まっている。
「アイラちゃん?そのテレビの横にある棚の二段目に救急箱があるから早くっ!」
そう強く言ってみたくせに、リオンは応急処置をアイラとアルに頼んだ。どうやら不器用らしい。
アルは応急処置をしながらも、カッターナイフで強引に切られたロープの跡が目に映ってしまい、なんとなく気になった。
しかし処置を優先しなくては、と自分の無駄な思考回路にムチを打って、カマトルさんだかマルシアか分からないまま手当てに専念した。
「心臓はちゃんと動いてるみたいだよぉ・・・!」
アルが安心した声で二人に伝えた。
しかしアイラはまだ慌ただしい。
「マルシア君の方は・・・心臓の音がなんだかおかしい・・・。生気を感じられない・・・」
「アイラちゃん・・・お願いっ!」
「頑張るけど・・・マルシア!マルシア!」
アイラの目は次第に湿っていった。
声も掠れてきた。
そんな時、アルが治療していたカマトルの意識が戻った。
「君は・・・くっ・・・だ・・・誰なんだ・・・?」
カマトルは口を開いた途端苦しみ出した。そして第一声が「誰だ」だった。
アルはこの時、確信聞けないまま息絶えてしまうのではないかと不安になった。
そしてそんな自分を悔やんだ。
「今消毒しますね!僕はアイラの友達のアルです。この宝石が証拠です」
「そうか・・・ありがとう・・・。それより大変だっ・・・!“火山玉”が侵入者と思われる人竜に盗まれた・・・」
「えっ!?」
大声あげて驚いたのはアイラとリオンだった。
「・・・“二つとも”ですか!?」
アイラはマルシアの手当てを止めてまでカマトルの話を聞こうとしていた。
当然、アイラは一瞬間を空けたものの、すぐさまマルシアの処置を再開させた。
「・・・一つはここにある。いつもの場所だ・・・」
カマトルはそう言うと指で部屋の隅の方を指した。
腕を上げたのが痛んだのか、喘ぎ声を漏らした。
リオンは立ち上がってすぐに隅にある金庫へと向かった。
「番号が書いている場所は・・・」
「大丈夫です、覚えていますから」
リオンは不器用ながらも確実に暗証番号を打った。
打ち始めてから30秒ほどで金庫が開いた。
「“玉”が一つしかない・・・。やばい・・・」
リオンの顔は青ざめた。アイラの顔も青ざめているのもアルには分かった。
そんなアルは首を傾げないようにと必至に専念した。
「リオン・・・その“火山玉”を持て。今お前らが来てくれて助かった。そしてまず村を出て、“火山玉”を取返してくれ・・・」
「・・・はい・・・・・・」
どこか不本意そうであったが、リオンとアイラたちに他の返答は許されなかった。
「フレイとレイラも連れて行け・・・僕はもう動ける・・・マルシアは任せなさい・・・」
よたよたと立ち上がったカマトルは、今にでも倒れそうだった。
アルたちは心配の目を向けたが、カマトルに急かされて家を出ることにした。
リオンはしばらくカマトルから、“火山玉”を盗んだ犯人の特徴を詳しく聴かされた。
そして、リオンの手に“火山玉”が抱えられた。
「私は首元に“玉”を付けてるね。今からフレイを呼んでくるから。あなたたちはレイラを呼んでっ」
「うん…!」
リオンは竜の格好になった。
人竜が竜になる時は多少の時間がかかるみたいで、あたかも「はい、今、カッコいい竜になりましたよ」と主張しているようにも見えるが、アルはそうは思わなかった。
むしろ、もう何度も竜を見ているはずなのに、まだ竜そのものに感動している。
リオンは大きく羽ばたいて見えなくなっていった。
「背中乗って!レイラの家を教えて!」
アルはアイラを背負うと、一気に湖の中心を通る道を走り抜けた。
「ねぇアイラ?“火山玉”ってなんのことだろう?」
「・・・ふぅっ・・・・・・」
向い風がアイラの口を開かせなかったようで、アイラは思わず目も閉じた。
そしてアルのジャケットを強く握り締めた。
「ふぁふぉふぇ・・・」
「《あとで》ね。分かったぁ・・・!」
今から山を出る。
アルのワクワクは止まらないようだ。
・・・そして惨劇が近付き始めている。