11 【十六年前の紛争】
投稿が遅れてすみませんでした。執筆開始です。
11 【十六年前の紛争】
――――
・・・〜十六年前〜・・・
自然に恵まれた村では紛争が勃発していた。
住民は緑を大切にしているらしく、決して戦いの手段に火を使おうとはしていない。
炎の赤色の代わりに、血の赤色が緑色を覆い尽くした。
「シュアァァッ!グルルルルッ・・・!」
広大なこの土地で暴れるのは竜である。
巨大な竜たちが自慢の爪や尻尾を振りかざし、激しい乱闘を繰り返している。
竜たちにとって生か死のこの戦いは寝る事さえも惜しまれ、毎日の戦いで身を滅ぼしながら精一杯生きている様子であった。
既に緑あふれる地面の上に倒れている竜も何匹か見え、その光景はまさにこの紛争の過酷さを如実に表していた。
・・・・・・村のはずれに、一際大きな木が一本立っている。
その木はこの村の火山のように象徴的存在ではないものの、高く広く伸びる葉や枝はなんとも雄大で存在感は確かにあった。
その木を守っているかのように動こうとしない巨大な竜が一匹いた。
「ウォォォー!」
突如十数匹にもなる竜が群れをなして木にいる竜の前まで来ようと、羽を羽ばたかせている姿が見えた。
だが木の前にいるその竜は動揺の素振りを見せず、竜たちに向かって羽を扇いでみせた。
すると風が凶器へと変わり、竜たちの翼に傷をつけ、一瞬にして十数匹の竜たちが一斉に地面へと落ちていった。
倒れた場所は五十メートルほど先。十数匹の竜たちは木の近くに寄る事さえできなかったのだ。
圧倒的強さを見せつけたその竜は一本の木の枝の中を覗いた。
――その木の枝の奥には、一人の赤ん坊が眠っていた。人竜の姿なので体は小さ
く、見た目からして柔らかそうな肌は潤っていた。
このような赤ん坊が将来、轟々とした竜になることは到底考え付かない。
「ガルゥ・・・シュルゥルル・・・」
竜は暖かさを帯びた目で赤ん坊を見つめ、その大きな手で頭をなでた。
ふと、その竜の背後から葉が不自然に動く音が聞こえてきた。
その竜が即座に後ろを振り返り、人影を探したほんの小さな瞬間だった。
「シャシャシャッ!ガウッ!」
小型の一匹の竜が赤ん坊を抱えた。
息を潜めタイミングを見計らっていたらしい。
一瞬にしてその竜の顔は青ざめた。
「・・・ふっ、取引だ。お前はこれからこの紛争が終わるまで俺を助けろ。さもないと、この赤ん坊の命はない」
互いに体を竜から人間の姿に戻した。
どうやら竜の間では、話す時は人型になるのが通常らしい。
赤ん坊の親らしき人竜は、間髪入れずに答えた。
「"えぇ、分かったわ"」
――――
「…ほわぁ…ぉ…おはよぉ〜…」
「おはよう!アル!体休められたかな?」
天気は快晴。空は雲が若干残っているものの、どんよりした雲はなく、日差しは元気よく村に降り注いだ。
一夜明けると昨日起きた恐ろしい出来事も次第に記憶が薄れていき、アルは元気を取り戻していた。
警察署に行った後、二人はアイラの家に戻って眠りについたのである。
アイラはアルにベッドを譲ろうとしたが、アルは床で寝ることを選択した。
二人とも寝相が良いらしく、寝た場所と同じ位置で朝を迎えていた。
「あ、そうそう、アルぅ〜?」
「ふにゃ…?」
寝ぼけて言葉もままならないアルとは対象的にアイラはエプロンをつけて朝食の支度を順調に進めていた。
まな板と包丁の音がなんとも朝らしい。
「今日もお客さんを呼んでるから」
「え?お、おぉっ!?」
「リオンちゃんって言うの。 もしかしたらアルの苦手なタイプかもね、ふふふっ」
アイラは背中越しに笑ってみせた。
流石にアルも目覚めたらしく、"リオン"という人のことを気になり始めていた。
でもやはり楽しみなことに変わりはない。
この村でたくさんの仲間ができそうなのだ。
それも、ほのぼのとした仲間。
アルの村では、戦と死を共有する者、が仲間だと呼ばれていた。
生まれた時からそう学ばされ続けていたが、アルは本能なのかなんなのか分からないが性格的に"平穏"を無意識に求めていたらしい。
「リオンって子、一体どんな子なのぉ?」
「会ったらすぐ分かる…って感じかな。以上!」
「以上って…」
「はい、召し上がれ」
アイラは新鮮そうな野菜サラダとベーコンを挟んだ目玉焼きを皿に乗せてアルの前に置いた。
あと大盛りによそられたご飯もだ。
「おぉ美味しそうだぞぉっ!」
「美味しいんだぞっ!」
アイラは自分の分の朝食を持ってきて、アルの前に座った。
「いただきますぅっ!」
…朝食を食べ終わった二人は食器を洗っていた。
アルの顔が満面の笑みだったので、ご飯はよほど美味しかったのだろう。
二人で洗いものをしたためすぐに終わったらしく、すでに花の水やりをしていた。
「こんちわー!はやくっ―!はやくきて―」
ドアの向こうで女性と思われる声が聞こえてきた。
アイラは返事をすると、持っていたジョウロをアルに渡してドアの方へ走っていった。
ドアを開けると一人の女が立っていた。年齢はアイラより少し年上くらいである。
そう、彼女もまた―――子どもなのだ。
ドアが開くとすぐさま彼女はアイラの方に走り、そして抱き付いた。
「アァイラちゃん久しぶりー! あ、お茶頂戴、いつもので。熱すぎるのダメなのは分かってるよね…!」
それはどこか媚びているようで甘えているようでもあった。
声は甘い声、という表現以外に見当たらない。
男を口説く玉の輿狙いの悪女のようにアイラに体をくっつかせていた。
厚い抱擁が何十秒たっても終わらないのでアルの目は次第に点になってしまった。
「もぉっ・・・いつになっても“抱きつき癖”は治んないのねっ。今日は新しい人が見えてるんだから。奥にいるのはアルっていってね、私を助けてくれた恩人なのですよっ」
アルは深くお辞儀をしておいた。
さっきの抱きつきが本当に“癖”なのか、"愛"なのかは分からなかったが、こういう人もいるんだなと割り切ったアルはお辞儀した後アルは花の水やりを再開させた。
「アイラちゃんてばいつも助けてもらってばかりじゃん。アルくん? ま、よろしく」
リオンは抱き付いていない時は透き通ったような声をしている。
アルは一瞬でリオンのことがなんとなく分かってきたようだった。
切りが悪いらしく、アルは背を向けたまま再度会釈した。
「リオンちゃんのばかっ。私だっていつか強くなるんだから」
アイラは反抗してみたがリオンに軽く無視をされてしまい、話は途切れた。
彼女の名前はリオン。
服装は派手の一言に尽きる。
男を挑発しているような服の上半身は露出度が高く、身軽な感じで薄い生地のノースリーブだ。
ジーンズの短パンのすぐ下の長さまである黒い靴下に、茶色のブーツを履いている。
そして最も印象的なのが純白のカチューシャだった。
それは彼女のショートヘアーに良く似合っていた。
「アイラちゃんも竜になった時に意識はっきりさせなくちゃならないからね。人に頼ってばっかはダメみたいなじゃね?」
「だから―」
アルは少しだけ首を横にかしげたあと思い切って質問することにした。
「アイラぁ…? この前竜になってくれた時は意識ちゃんとあったよねぇ…」
「えぇ、でもみんなのように優雅に飛ぶことができないのよね、飛んだ瞬間疲れて意識がなくなっちゃうんだ…」
アイラは言い辛そうに下を向いて喋った。
「竜になると便利だよね。早いし、力もつくし。な、アル君!」
「お、おぉ!…え!?」
リオンはアルにも抱き付いた。やはり癖なのだろう。
アルはこのような体験が過去に一度もなかったのでおどおどした。
「そうだ…み…見せてよ…アル君の竜をさ…」
「……」