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プロローグ

『みゃーお』

狭い路地裏、横切り走る猫に鳴かれながらも彼は歩みを止めず先へと向かう。

何かに呼ばれる様に、目的もわからず只歩みを進めて行く。

不思議と疑問は沸かない、何故この様な所を進むのか、何故路地裏を抜けようとひたむきに進むのか。

理由はわからない。

だが、何かが起きている気がする何かが呼んでいる気がする何かを見なければ行けないような気がする・・・

そんな予感に駆られ歩みを進めて行くだけだった。

そんな中視界の先に出口が見え、不意に開けた景色が眼前に拡がった。


立ち止まり辺りを見渡す、何も無い只の工事現場らしき場所。

だが、何かがおかしい・・・感じる空気の変化に違和感を持ち更に辺りを見渡す。

そして異変に気づいた。

月明り照らす満月の夜・・・見上げた空で交わる影。

何かが戦っている・・・

時折響く甲高い金属音を聴きながらギリギリ視認できる速度で動く『其れ等』

突然の光景から目が離せなかった・・・


────頭は理解出来ていない

────言葉も漏れない

────何が起きているかも分からない


急に視界に入った光景に目が奪われ離せなくなった。

眼前の光景に心臓が軋む程高鳴り鼓動を繰り返し現状を煽る。

だが、本能ともいえるべき『何か』が見逃すなと告げていた。

そんな無駄とも言える頭の整理を行っている最中変化は起きた。

影が左右に別れ、互いに近場の建物の上に降り立てば月明りに照らされ其の姿が遠目ながら認識出来たのだ。


其れは両極端ながらも一目見ただけで視界に焼け付く姿。

一つの影の姿、其れを一言で表すなら『鬼』

遠目ながら闇夜の暗さの中にハッキリと浮かぶ黒

巨躯なる身体に異様なまでに輝く真っ赤な瞳、そして其の近く天突くよう生える角、一目に分かる異形な其れが佇んでいた。

それに対し距離を開き相対するもう一つの影、先程の影とは対象的とも言える美しき姿が佇んでいた。

月光受け輝く銀髪を風に靡びかせ凛とした立ち姿に蒼い衣纏い遠目にも光る彼女とは不釣り合いな刀を構えた少女がそこにいた・・・


────是は幻か

────是は現か


眼前の解答を求める問い掛けが頭の中に次々浮かぶも答えな等分かる筈もない

ただ・・・瞳に映るこの光景から目が離せなかった。

其れがいかに危険で愚かな行為か今この時露知らず・・・

その時が来る迄彼は只々見つめ眺めていることしか出来なかった。


「ガァァァァッッッ!!」

突如夜の空に『鬼』が吠えた、苛立ちからの怒号か再度戦うための気合いの雄叫びだったのか、より瞳を輝かせ纏う殺意を膨らませ今にも飛びかからんと構えている。

「・・・ッ」

余りの膨れた威圧感に思わず声が漏れる。

この時初めて認識した、自分がどれだけ危険で愚かに戦いを傍観し続けて居るのかを。

しかし、その遅過ぎた再認識こそ一番の過ちだった。

威圧感に気圧され僅かに漏れた声にもならぬ声音、その些細な声音が今迄『鬼』の認識から逸れていた彼が見つかるキッカケとしては充分だった。

今にも襲いかからんと少女と向き合い構えていた最中、僅かな音に反応し突如此方に振り向く姿。

不意に遠目に映る新たな獲物に『鬼』が興味を持つのは直ぐであった。

身体事振り向き跳んだかと思えば地面に降り立ち改めて見据え薄ら笑み浮かべ睨みつける。


「なにを・・・なっ!?」

対峙していた少女が突如起きた相手の行動に不審抱きながら視線を追い原因気づけば思わず声を上げた。

「逃げ・・・・ッ」

咄嗟に視界に入る傍観者の存在と相手の行動に即座最悪の状況変化を把握し『鬼』の後を遅れながらも懸命に追う少女が叫ぶ。

迫る威圧と恐怖、殺気とも感じられる気配に後半の声はかき消され耳には届かなかったが、少女が何を伝えようとしているかは自ずと理解出来た。


────逃げろ


其を本能的に察し身体が懸命に反応示しめそうとするも一足遅かった。

少女が気づくと同時コチラに向かい迫る影。

新たな獲物を狩らんと詰め寄る姿。

距離をモノともせず、あっさり迫る姿。

そして、突如眼前の景色に腕を振りかぶる異形な姿が写った。


────一閃


不意に胸元を切り裂く衝撃・・・呆気なく後方へと鮮血纏いながら吹き飛ぶ身体。

投げ飛ばされた身体が地面に打ち付けられ力無く崩れ落ちる。

一瞬の出来事に辛うじて意識を繋ぎながら、自身に起きたことを懸命に確認するも思考も纏まらない。

だが、其を理解したとて既に遅かったのだ・・・

無残に横たわる身体からは徐々に力と熱が抜けていく・・・

微塵も動かぬ身体に鞭打ち意識を保とうとするも、ゆっくり暗闇に沈む感覚に抗えない

霞ゆく意識の中、どこからか遠く声が聞こえた

何を言っているかは聞こえない・・・いや、今の現状では理解できないだけかも知れない。

視界が黒く染まり何も出来なかった自分を悔い思う・・・しかしそれを最後に思考は停止した。


彼は、この日を境に新たな歩みを始める・・・

この日以上に波乱に満ちた道程を・・・

自らの力の無力差を噛み締め悔いる日を・・・

そして、かけがえない出会いを・・・


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