ドラゴンと魔法使い
文芸部で去年の冬コミに出した小説です!!
Pixivとエブリスタにも掲載しています!!
昔々、或る処に凄まじい強さを持つ極悪非道の紅蓮の龍がおりました。この龍は《人の仔》や妖精、動物など、この世界の命の源である巨大な樹木『アンブロシア』を独占しようとしました。
天を震わせる咆哮、大地を揺るがす足音、海が荒れ狂い逃げ惑う威圧を放ち、あらゆる生き物たちを八つ裂きにし、業火で焼き払い、臓物を抉り、踏み潰すなど虐殺していきました。
ひとしきり暴れた龍は、僅かに生き残った《人の仔》に【この先、汝ら人の仔は同族で殺し合い、飢饉に見舞われるだろう。五百年後、我は再びこの地に降り立ち、汝らを焼き尽くし滅ぼしてやろう】と呪いの言葉を吐き捨て、何処かへ飛び去って行きました。不吉な予言を残し去って行った龍に恐れ戦きながらも《人の仔》は紅蓮の龍を倒すべく、力を身に着け立ち向かおうと心に誓いました。
そして、この地を〝ドラゴンを滅ぼす〟という意味を込め『ドラプトス』という名の国家が築かれたのです。
~~原罪の悪魔伝説~~ 抜粋
――五百年後――
太陽が燦々と降り注ぐなか、広場にガヤガヤと人々が集っており、そこにはロープで身体を縛られている赤メノウのような髪の子供が今まさに処刑されようとしていた。
その子供は小柄な少年のようでよくよく見ると、ボサボサ頭の三つ編みに隠れていて分からなかったが二、三年したら美人に成るであろう顔立ちの少女であった。
「可哀想に、まだ子供じゃないか」
「いや、よく見ろよ。あの血のような赤髪と気味の悪い紫の瞳をよぉ。ありゃあ、《魔女》だぜ」
「嫌だわ、あんな可愛らしい子が恐ろしい《魔女》だなんて……。早く処刑してくれないかしら」
「まったくだねぇ。あの悪魔の娘なんて不吉なもん、とっとと殺しちまいな。うちの子が安心できないだろ」
ロープで縛られている少女に対して好き勝手に話す野次馬に少女は睨む。すると、カンカンカンと野次馬たちを黙らせるかの如く鐘が鳴り響く。
「静粛に! 広場にお集まりのみなさん。これから、この《魔女》の処刑を始める。だが、どのような処刑にしたいか、みなさんに決めて貰いたい」
白い髭を生やしたふくよかな老人が裁判もせず、いきなりの処刑宣言を高慢さが隠し切れない声で民衆に言い放つ。
赤髪の少女は老人に噛み付く勢いで怒鳴った。
「オイ、クソジジィ。いきなりオレを縛り上げたと思ったら、処刑するってなんだ!! 裁判しろよ! それでも裁判官かよ!!」
少女とは思えない口の悪さに老人は嘲笑して言う。
「裁判するまでもない。その血のような赤い髪と気味の悪い紫の瞳を持つ化け物は処刑するべきだからな」
「はあ!! 人とは違う髪と瞳だからって化け物って決めつけてんじゃねぇよ! 何処からどう見ても人間だろうが!! ボケてんのかジジィ」
啖呵する少女に老人は忌々しげに言い放つ。
「黙れ! そんなありえぬ髪と瞳を持つ者に化け物としか言えぬわ。そもそも貴様が人間だとしても処刑にするわい。屋台の食料を盗んだだけでなく、ワシの大事な商品を逃した罪は重いからのう」
「あぁ、何が大事な商品だぁ。裁判官とは思えない悪趣味な人身売買じゃねぇか、逃して何が悪い。それに、食いもん盗むのは生きるために決まってんだろ。窃盗や強盗が多いのはテメェら貴族共がしっかり政治をしてねぇからだろうが!! 責任押し付けてんじゃねぇぞ、変態クソジジィ」
少女は低く唸るような声で老人を罵ると、老人は顔を真っ赤にして怒鳴り散らした。
「小娘がワシを侮辱するか、化け物の分際で人間に楯突くな!! 皆の衆、この小娘を串刺しにする様を良く見ておれ。処刑人早う、串刺しにせい!!」
老人の隣にいた処刑人は少女を串刺しにしようとするが、少なからず少女に同意している部分があり、ためらっていた。
否、心の奥では幾ら《魔女》といえども、子供を殺すのは忍びないと思っている部分があるからだろう。
そんな処刑人に痺れを切らした老人は言い放つ。
「ええい、貴様。悪魔の娘に加担すると云うなら貴様の一族まとめて処刑するぞ! それが嫌ならさっさと小娘を串刺しにして国中引きずり回せ!!」
老人が少女を小娘ではなく、悪魔の娘と強調して有無を言わせない声で言う。 その声は処刑人のみならず、民衆も萎縮させる程であった。
すると、少女が老人に向かって挑発して嘲笑った。
「はっ、こんな小娘を見た目が違うってだけで《魔女》だの悪魔の娘だの、化け物だのくだらない迷信に仕立てあげなきゃオレを殺せないのか? それも権力を振りかざすほどオレが怖いのかよ。腰抜けジジィ、悔しかったら俺を切り殺してみろ」
「お、おのれ、言わせておけば。武器を寄越せ! 小娘、貴様の望み通り切り刻んでくれるわぁ」
少女の挑発にまんまと乗る老人は処刑人の剣を無理やり奪い、怒りの形相で斬りつけようとした。
突然――。
「その処刑、ちょっと待ったぁぁぁ!!」
十七、八歳ぐらいの薄い金色の長髪の少年が駆け寄り、手から炎を出して剣の刃を溶かした。その信じられない光景に誰もが驚く。
もっとも一番驚いているのが助けられた少女である。何故なら、知り合いでもない、まったくの赤の他人だからだ。
唖然とした顔で少年を見ていた、視線に気付いた少年が少女を見て驚愕する。
「あれ、フレイアじゃない。キミ誰?」
「いや、あれ? じゃねぇよ! それ、こっちのセリフだし」
どうやら人違いで少女を助けたらしい。少年の間抜けな言動に少女はつい突っ込んでしまった。
「貴様ぁ、魔法使いか。一体、何の用でこの《魔女》を助ける? 知り合いでは無さそうだが」
呆然としていた老人がハッと我に返って少年に尋ねた。
人違いをした恥ずかしさで苦笑しながら老人に答える。
「あはは、すみません。赤髪の女の子が処刑されると聞いて逸れた知り合いかと思ったんで」
「ならば、もう用は無いだろう。とっとと去れ、この《魔女》を始末しなければならいのでなぁ」
老人がまだ赤く熱を帯びている剣を再び、少女に振り上げようとする。しかし、またしても少年に邪魔をされた。今度は炎ではなく、風で剣を弾いたのだ。
「確かに人違いだったけど、目の前で殺されそうになっている女の子を見殺しには出来ないんでね。この子を連れて行くよ」
まだ唖然としている少女を少年はいきなり小脇に抱えた。突然のことに少女は奇声を発する。
「うひゃ!」
「スィエラ(嵐)」
少年は目を丸くしている少女に構わず手をかざしながら呪文を唱えた。
すると、風が少年達の周りを囲み、目も開けられぬような風が老人や民衆に襲い掛かる。思わず民衆達は目を瞑った。しばらくして凄まじい風がやみ、恐る恐る目を開けた民衆達は愕然とした。
少年と少女がこの場所から消えていたからだ。老人は憎々しげに言い放つ。
「ただちに魔法使いと《魔女》を指名手配しろ!! ワシを虚仮にしたことを後悔させてやるわぃ」
処刑場から逃れた二人は人気のない小屋に降り立った。小脇に抱えられている少女は不機嫌さを隠さず、見知らぬ少年に言う。
「おい、いつまで小脇に抱えているつもりだ? とっとと、オレを降ろせ。ロリコン野郎」
その言葉に少年はやんわりと言う。
「ああ、ごめんよ。今降ろすと言いたいところだけど、キミ口が悪いね。あと、俺はロリコンじゃない。ロリコンって言葉を取り消してくれたら降ろしてあげるよ」
にこにこと笑う少年に、得体の知れない恐怖を感じた少女は若干びびる。
「ろ、ロリコンと言って申し訳ありませんでした! 私を今すぐ降ろして下さい。お願いします!!」
「うん、よろしい。降ろしてあげよう」
思わず、一人称が私になってしまうほどの謝罪をすると、少年から感じていた恐怖が嘘のように消え失せる。そして、約束どおり少女を降ろす。降ろされて安心したのか、少女の腹の虫が盛大に鳴り響く。
「あら、お腹が空いているの? だったらこの赤い林檎はいかが、林檎と同じ髪のお嬢ちゃん」
いきなり少女の目の前に林檎を持った手が現れた。反射的に受け取った少女は驚いて自分の左横を見た。
そこには、大きな薄桃色のリボンをした赤茶髪の七歳ぐらいの幼い子供が大量の果物を持ってにこにこと笑顔で赤髪の少女を見ていた。
「あっ、母さん。何処に行ってたんだよ。街中探したし、お陰で人違いっていう恥ずかしい思いをしたよ」
「バカね、いちいち街中を探したの? 魔力で探知すれば一発じゃない。慌て者の息子ね」
二人の会話から耳を疑う単語が聞こえたのは気のせいだろうか。何より、幼い子供が可愛らしい声でどう見ても年上の少年を息子と呼んでいるのが違和感を否めない。
少女は困惑しながらも素直に林檎を食べていると、不意に赤茶髪の子供が少年に突拍子もないことを言った。
「ところで、このお嬢ちゃんの名前は? お嫁さんとして連れて来たんならちゃんと私に紹介しなさいな。腕によりをかけて美味しいものを作らなくちゃ。沢山食べて私に孫を見せなさい」
その突拍子もない言葉に赤髪の少女は林檎を喉に詰まらせてむせる。向かいにいる少年は呆れながら少女の隣にいる母親に答えた。
「母さん……。出会ったばかりの子をいきなり嫁として紹介するわけがないでしょ。気が早すぎる、俺はまだこの子に名乗ってないし、この子の名前も知らないんですから。それに十歳ぐらいの小さな子を嫁にするのはちょっと……」
「誰が十歳つったよ、オレは十四だ。で、アンタらなにもんだよ」
少年に幼く思われていたことが気に食わない少女は奇妙な親子に警戒して尋ねた。
「えっ、キミ十四歳!? 俺と三つしか違わないのか。ごめん、睨まないで、ちゃんと名乗るから。俺はギル、流れ者の魔法使いだよ。でキミに林檎を上げたのが〝ドラゴン″のフレイア、俺の母さんだ」
「ちょっとギル、ドラゴンなんて総称で呼ばないでよ。いつから母さんを悪魔呼ばわりするようになったの? 母さんは悲しいわ。ドラゴンじゃなくて龍だと訂正しなさい!」
「別に、龍よりもドラゴンって紹介した方が分かりやすいし、呼び名なんてどっちでもいいじゃ……。ごめんなさい、炎を出さないでくれませんか。俺が悪かったです」
「うむ、よろしい。私達が名乗ったんだから、今度はお嬢ちゃんの番よ」
少年――ギルが、幼い子供――フレイアがドラゴンだと云う紹介に何の冗談だと思う間に、親子漫才をし始める始末。その隙に逃げようとしたが、急に名を尋ねられて逃れるタイミングを失った為か少女は挙動不審気味に名乗った。
「コ、コーネリアだ。つうか、ドラゴンって本気で言ってんのかよ。あんなもん、ただの伝説、迷信だろ」
少女――コーネリアの疑いの眼差しにフレイアは答える。
「ドラゴンじゃないわ、龍よ、コーネリアちゃん。迷信か、事実かと言ったら事実よ。え~と、確か原罪の悪魔伝説だっけ? 事実がかなりへし曲げられて、いつの間にか私が悪魔扱いされているやつでしょう。まったく、なんで私が悪魔なのよ。腑に落ちないわ! 〝龍″である神の私がお母様を独占するわけないし、ましてや可愛い兄姉弟妹とも子供とも云える子達を虐殺なんて真似しないわよ!」
「母さん、母さん。話しが脱線して愚痴になってるよ」
「あら、やだわ。私ったらつい、ごめんね。えっと、何の話しだっけ? そうそう、龍は実在するわ、なにせ私がその龍なのだから!」
フレイアが自信満々に言ってのけるが、コーネリアは益々不審な目で親子を見る。その様子にギルが頭を抱えながら、母に声を掛ける。
「母さん、ドラ……龍だという証拠を見せなきゃ、意味がないよ。そもそも、幼い少女の姿だと説得力がないし、俺が人違いをする羽目になったんで、成人女性になってくれませんか」
「え~、成人バージョンって結構疲れるのよね。まあいいわ、コーネリアちゃんに信じて貰う為に頑張りますか」
フレイアは渋々ながら頭上に手をかざして目を瞑ると同時に突風が吹き荒れた。コーネリアが瞬きをした瞬間には、幼い子供の姿はなく、代わりに二十代ぐらいの髪を首の下辺りにまとめた美人が立っていた。この女性が先程の子供と同一人物だと分かる部分が顔立ちと髪の色の他に、薄桃色のリボンが髪に結ばれてあることだ。
コーネリアは信じられない光景に信じざる得なかったが、フレイアに疑問を投げ掛ける。
「確かに人じゃないことは分かった。けどな、何で本来の姿に成らなかったんだ? その方が早いんじゃねぇの?」
その指摘に親子は衝撃を受ける。二人して誤魔化し笑いをする。
「「はっ! その手があったか!!」」
「あはははは……。そうだよ、なんで思いつかなかったんだ? 母さん、本来の姿になって見せますか?」
「成れるけど、さっきので魔力消耗したから維持することが出来ないわ。もうすぐで日が暮れるし、夕飯を作らないといけないわよ。コーネリアちゃんも一緒に食べましょう! 暗くなっちゃうし、もうここに泊っちゃいなさい」
もうとっとと帰って二度とこの親子に関わりたくないと思っていた矢先に、フレイアの有無も言わせない迫力に折れて泊る羽目になってしまったコーネリアであった。
ドラゴンの親子と共に夕食を終えたコーネリアは本物のドラゴンもとい、龍であるフレイアに原罪の悪魔伝説の本来の事実について尋ねた。
「そういや、アンタがあの伝説の悪魔なんだよな? あの伝説が捻じ曲げられたもんなら、実際は何があったんだ?」
「悪魔って言われるのが不本意だけど、そうよ。簡単に言えば世界が崩壊しそうになったのよ」
サラッと、とんでもない内容が出てきたことにより、思わず聞き返す。
「はあぁ!? 世界が崩壊しかけた!?」
「そうよ。伝説に出てるけど、『アンブロシア』と云う巨大な樹木がこの世界の命の源なのは知っているでしょう。実はね、この世界の生き物である私達の命でもあるのよ。どういうことかって、いわゆる《魔力》のことで……ああ、人間も《魔力》があるわよ。自己治癒や火事場の馬鹿力とかよ。話しを戻すわ。『アンブロシア』にある《魔力》が無くなったら、私達は生きていけないの。その大事な母たる『アンブロシア』の《魔力》を独り占めにしようとしたのが〝蛇〟よ。世界を支配する力を手にしたいって云う思いでこの世界で一番弱い《人の仔》を唆して世界が危うく崩壊しかけたわ。『アンブロシア』の守護神の私達〝龍″が全力で《魔力》を与えたお蔭でなんとか防いだの。で、五百年か千年ぐらいで眠りについて力が回復するのを待つだけだったんだけど、私だけたった百年で目が覚めちゃったのよね~。二度寝しようと思ったら、なんか異変が起こっていたのよ。これは、一大事だと思ってね。この世界に降りたんだけど、まだ本調子じゃないからいろんな生き物に変態してね。言っとくけど、変質者の意味じゃないからね。芋虫が蛹になって蝶に変化する過程で云う変態だから。つまり、身体を作り変えながら《魔力》が高い地を転々としたわけ。いわゆる療養旅行よ。転々としている内に判ったことは、あの蛇がまだ諦めていなかったこと。それが判ったのは、十七年前のとある国での戦で人間に取り憑き、影に潜んでいたアイツを見つけたのよ。まあ、撃退してやったわ。ギルの父親と共にね。そう、あの時のことが無かったらこの子は生まれてなかったわね。ギルのお父さんと出会ったのは……」
「その辺にしておこうか、母さん。もう夜遅いよ」
「まあ、もうそんな時間? ごめんなさい、もう寝ないといけないわね」
危うく、壮大な惚気を永遠と語る前に止めさせることが出来たギルはホッと胸を撫で下ろした。
「このまま、朝まで話されるかと思った……。ありがとう、おばさんの話しを止めてくれて」
ギルと同じく、ホッとしながらもコーネリアは彼に礼を述べる。
「どういたしまして、キミが素直に礼を言うなんて驚きだよ。」
「オレだって素直に礼を言うさ。恩義を感じたら礼を言うのは当たり前だろ」
コーネリアがムッとしながら言う。すると、フレイアが鋭い声で叫ぶ。
「二人とも、伏せなさい!」
条件反射で伏せると、窓を突き破る音が響き渡った。
顔を上げると微かに火薬の匂いが漂っていた。どうやら弾丸が撃ち込まれたようだ。
「小娘に、小僧!! この小屋にいるのは分かっている。ささっと出てこい! 早う、出てきてワシが直々に処刑してやる!! 出なければ小屋を燃やすか、ハチの巣にさせてやるぞ!」
聞き覚えのある声が何とも無茶苦茶なことを喚き散らしていた。あの老人である。
「何、あの無茶苦茶な要求は? ぎゃあぎゃあ五月蠅いし、癪だけど外に出るわよ。念のため、貴方達に結界を張るわ。いきなり攻撃されたら溜まったもんじゃないしね」
フレイアは二人に結界魔法を掛ける。
「アスピダ(盾)」
三人は五月蠅く叫ぶ老人の元に姿を見せた。案の定、姿を見せた瞬間に弾丸を撃ち込んできた。フレイアの結界(と云っても風をかなり圧縮したものである。つまり、風圧)によって跳ね返されると、老人は目を血走らせてブツブツと呟く。
「おのれ、悪魔の力を使う異端者共め。いつまでもワシをコケにしよって、一人残らず始末してやるわい。ワシはもっともっと、力を得るんじゃ。邪魔はさせぬ。今度こそ、《魔力》を我が手に! 者ども、奴らを血祭りにあげよ!!」
老人が叫ぶと、何百人の村人や兵士が三人を取り囲む。自分達を捕えるだけでこの人数を呼び寄せた老人に半ば呆れるが、村人や兵士の様子が何処か可笑しいことに気付く。
目が据わっていてまるで人形のように生気がない。喚いている老人も所々支離滅裂なことを言い、此方が判らないようである。
よく見ると、老人の背後に黒い靄のようなものがでていた。
「あのおじいさん、〝蛇〟に取り憑かれているわね。しかも、村人達を操るなんて厄介なことを……。これじゃあ、焼き払えないじゃない」
「いや、焼き払っちゃダメだろ!? アンタ、それで悪魔扱いされたんじゃねぇの!」
「大丈夫よ。焼き払うなんて言ったけど、実際は空気中の元素から化学変化を起こして燃焼を起こさせるだけだから」
「はあ!? ゲンソとか、カガクヘンカとか、ネンショウって云うもんが何なのか分からねぇけど、つまりどういうことだ!?」
「つまり、火傷させるってことだよ。ていうか、母さん、それ焼き払うのと変わらないし、悪魔呼ばわりされるのは自業自得だと思うんだけど。ああ、俺らが言い合っている暇はもう無いみたいだね」
三人が言い合いをしている内に、いつの間にか村人達が近づいて襲い掛かる。だが彼らは村人達から避けて応戦しだす。
ギルは風の魔法で空へと打ち上げ、フレイアは幾分休んだからか、龍の姿で威圧して気絶させ、コーネリアは盗人生活で身に着けた体術で打ちのめした。
そして、最後に残った老人をコーネリアが私怨で叩きのめして気絶させ、取り憑いている蛇をフレイアが燃やした。
こうして慌ただしい戦いが終わったのである。しかし、幸か不幸か、指名手配書がこの国から飛び出て、世界中に手配されていた。
世界中から追われる身となったと知ったコーネリアは愕然とする中、ドラゴンの親子は事も無げに言う。
「あらら、災難ね。でも大丈夫よ、コーネリアちゃん。私達と一緒にいれば怖いもの無しよ。新しい家族が増えて母さん、嬉しいわ」
「そうだね、俺らと一緒に旅をしよう。キミがいたら、旅が一層楽しくなるよ」
「いや、何、勝手に決めてんだよ!? オレは一緒に行くとも言ってないし、家族になった覚えもないんだけど!?」
コーネリアの言葉をスルーして親子は勝手に話しを進め始める。
「次の行き先は温泉のある国がいいかな? 俺、ゆっくり使ってみたいんだよね」
「温泉!? それ良いわね。ようし、そうと決まれば早速出発するわよ」
「おい!? 人の話しを聞かねぇ親子だな!」
この親子にペースを崩されたコーネリアは結局、この親子と共に旅をする羽目になるのであった。
そして、コーネリアがこの親子と出会ったことで《偉大な魔法使い》として名を馳せるのはまだ先の未来である。
完
あとがき
このファンタジー作品を読んで下さった読者様ありがとうございます。
ここに本編で書くことが出来なかった設定を記します。
この世界の魔法は高度な科学技術である。
魔女やドラゴンは悪魔の総称又は悪魔崇拝者のこと。
龍は神様という位置づけで、魔法使いは行く当てのない旅をする学者ということ。
蛇が世界を支配したいと思っているラスボスっていうのを入れたかったんですけど、書き切れませんでした。
あと、コーネリアの髪と瞳の色は魔力がギルよりも高いという設定や異民族の姫設定があったりもします。
上手く、設定を盛り込むのが難しいなと思いました。
この物語を書くのが楽しかったので、また機会があったらやってみたいです。
ここまで読んで下さりありがとうございました!