壱話 少年
「うわ!霊夢チョイ待ち!タンマ!!!」
自慢の箒で友人の放つ弾幕を颯爽と避けて行く。
「あんたね!また人の物盗んだのね!」
「霊夢だって食べたから同罪だよな?な?」
「うるさい!」
常人とは何倍もスケールの違う喧嘩をする彼女達は
今でこそこんなんだが、今まで数々の異変を解決してきた英雄である。
そんな英雄達を遠目で見つめる1つの影があった。
(な、なんなんだこれは・・・)
少年は目の前の出来事に圧倒されて声もでない状態だった。
一人は大声を上げながら空を優々と飛び回る巫女姿の少女と、
もう一人は箒にまたがり、夏の空を駆け抜ける魔女姿の少女。
常人ではパニックを起こすかもしれない位の修羅場だ。
だが、その中でも少年が比較的平常心を保っていられたのは、
記憶がなかったからかもしれない。
それゆえに、この風景を普通ととってしまう事で
ある程度の余裕が生まれたとも考えられる。
「・・・?」
自慢の弾幕攻撃で友人をコテンパンにまで叩きのめした楽園の巫女は
ふと自分に向けられた視線に気づく。
その視線は神社の石段付近から怯えるように
此方の様子をうかがっている少年から向けられていた。
「えっと・・・」
霊夢はとりあえず隣で倒れてる魔理沙を起こし、再び石段に視線を向けた。
すると恐る恐る少年が近づいてきた。
ボロボロの浴衣を纏っており、髪もボサボサだが、
顔立ちはとても綺麗だった。
「あ、えっと・・・私は博麗霊夢。ここの神社の巫女です。」
少なくとも敵意はないのに安心したのか、
少年の顔にも安堵の表情が浮かぶ。
「あ、こっちは霧雨魔理沙。えっと・・・」
霊夢が隣に突っ立っている友人の紹介をする。
が、当の魔理沙はボサボサの黄色い髪を整えるのに一生懸命になっている。
見るに見かねた霊夢は魔理沙の肩を掴み姿勢を整える。
それにより、魔理沙も少年の存在を確認できたようだ。
「あ、あの。すいません。ここって・・・?」
少年が怯えた声で言うと魔理沙が言う。
「ここは幻想郷の博麗神社。えっと、多分別のとこから来たんだろ?あんた。」
「幻想郷・・・。」
少年は眉間にしわを寄せ、腕を組む。
どうやら考え事をしているようだが、あどけない顔をしている為、
あまり真剣には見えない。
「ま、とりあえず中で話そうか。」
霊夢が言うと、少年は小さく頷いた。




