64・騒動明けて
アマランサスとコウモリ君のゾンビ事件の、七日後。
案の定、あたしは翌日筋肉痛でろくすっぽ動けなくなったし、それが明けてからの事情聴取やら大量の反省文作成やらもあり、ざわついた周囲が落ち着くのを待って居たら、あっという間にこれほど経ってしまった。
少し遅れてしまったけれど、アルメリアへの対価と感謝の品を作るべく、小麦粉を練っている。
本日は学院の授業もお休みであるので、少しゆっくりとお茶とお話が出来るだろう。
小さめのタルトの型に練り上げた生地を伸ばして重しを乗せてオーブンへ。
その間にカスタードクリームを作り、良いとろみがついてきたなら保冷箱の中へそのまま突っ込む。
粗熱を取る、という工程を経なくても冷やしにかかれるのはいい。庫内の温度が上がって余計な電力がかかるとか、そういうの考えなくてもいいからね。
勿論、一緒に冷やすものが温まって痛んでしまう可能性はある為、保管してある他の食材とは別にお菓子作りに使う用の小さな保冷箱なので問題はない。
タルト台が焼きあがれば、これも冷やした方がいい。
流石に焼き立てあつあつを急に冷やしたら割れてしまいそうなので、結局粗熱が取れるまでは待つ。
その間に、アルメリア用とは別にメルルのおやつ用のクッキーも成型し、焼きに入る。
今日は約束のケラス……さくらんぼのタルトを作るので、それをいくらかジャムにしたのをあしらった、ジャムクッキーだ。
美味しいよねジャムクッキー。ちょっと歯にくっつくのがたまにキズ。
「わあ、やっぱり果物のお菓子って綺麗ねえ」
ちょこちょこと寄ってきたメルルが、冷えたタルト台にカスタードを盛り、更にケラスを飾っていく様をきらきらした目で眺めていた。
美味しそう、と言葉にしなくても思っているのが解って、とても嬉しい。
残念ながら、これはメルルの口には入らないけれど。
「そうねえ、ケーキは大抵どれも綺麗だけど、フルーツタルトはやっぱり綺麗よねえ」
「ええ、宝石みたい! ねえマリヤ、今度でいいからわたしにも作ってね?」
「解ったわ。次のお誕生日に、沢山ベリーを乗せたタルトを作るわね」
「やった!」
次のお誕生日には、領地に戻ってるだろう。
本来春にはあまりタルト向けのフルーツはないのだけど、どうも最初にあたしが作った温室イチゴ、あれを参考にイチゴ栽培をしているようなので、イチゴタルトは可能である。
温室栽培も、成功が見えて来たそうだ。お父さんからの手紙には、現在実験段階の温室の管理のノウハウがだいぶ見えて来た旨が書いてあった。
サッチャは甜菜に似た植物で、でもあれとは違って温暖な場所で採れるもの。
大根のような根菜で、だいたい種から1年で収穫できる。
上手く生育できるようなら、……まあまずは種を増やすところからか。実際に砂糖が安定生産され始めるのは、まだまだ先だろうね。
「よし、こっちは完成。あと、こっちはメルルの今日のおやつね。サンセさんやポーラ様と食べて」
「ありがとう! こっちも美味しそう」
「紅茶の用意、していく?」
「今日はわたしがおもてなしに淹れるから大丈夫。アルメリア様に早く持って行って差し上げて、わたしからもありがとうございますって伝えておいてね」
「解ったわ」
貴族のお嬢様だけど、メルルは自分で紅茶淹れられるもんね。
割と、色んなことをやってみたいと好奇心を旺盛にし、きちんと学ぶ性質なのである。あたしが淹れた方が美味しくて好き、とは言うけどね。
と言う訳で、お茶菓子の支度と、ティーセットやテーブルの準備だけを済ませて、タルトを入れた箱と諸々のアイテムをバッグに入れて、自室を出る。
それから寮の管理人さんに、前日に申請を出しておいた個室使用の許可を確認し、そこへ向かった。
アルメリアと面会をするにあたって、その辺で話すのは論外だし、かと言って今日も自室でお茶をするお嬢様方を放り出せないので、あたしがちょっと席を外す事にしたのである。
それこそ寝室で話せばとも思うが、あまり寝る場所でお菓子を食べるのはね。
……というのは、言い訳で。
実際のところ、これから話す事をメルル達にうっかり漏れ聞こえたら、困るような気がしたから、というのが大きかったりする。
「アルメリア、来て」
テーブルの上に持参した白いクロスを引き、その上に本来お人形さん用のソファーチェアやテーブル、カップにタルトと準備を整えてから彼女を呼ぶ。
すると、いつものように目の前に光が生まれ、ぱしゅっとそれが弾けて小さな妖精の少女が現れた。
「マリヤ、もう落ち着いたのかえ」
「ええ。お待たせしてごめんなさい、協力の対価と感謝に約束していたタルトをご用意したわ」
「おお! 待ちかねておったぞ、これじゃこれじゃ!」
途端にご機嫌、満面の笑みでテーブルへ舞い降り、ぽすんと椅子に腰かける。
アルメリアサイズにぴったりの家具やティーセットを用意するのはちょっと大変だったけれど、そこは流石の国の中心部、王都グレンツェント。
ドールショップなんかも多彩にあり、探せばきちんと存在している。
まあ、ちょっとお値段は張りましたけども。そこは、我らが妖精様のおもてなし用品。
金に糸目は……とは流石に行きませんが、出来る限りで可愛くて座り心地も良さそうなものを吟味させて頂きましたとも。
あたしのポケットマネーで許す範囲で。
「うむ、うむ。芳醇な香り、溢れる甘い果汁、さくさくとした台にとろけるクリーム……良い」
小さめに作ったとはいえ、アルメリアに対してタルトは大きい。
結局、ナイフやフォークと言わず、ミニテーブルの上のタルトを両手で抱えるように持ち上げてもふもふ食べるという、ちょっと見た目お行儀の悪い事になってるけど、これは仕方ない。
妖精にテーブルマナーを説いても、特に得る物はないし、美味しく食べて貰えるならそれがいい。
勿論、手拭きも用意しておりますし。
「本当に三つ食べるの? 持って帰って後で食べるのもありだと思うんだけど」
「いかん。それはいかんのじゃ」
「何か問題があるの?」
「他の妖精に見つかっては、ねだられてしまうかもしれん。それで不満を表明されるのも面倒じゃ」
普段アルメリアが何処に居るのかとか知らないけど、それなりに他の妖精達と交流して過ごしているみたいだった。
前にも他の妖精を呼んだみたいな発言をしていたし、上位の妖精だけあって、もしかしたら立場とかそういうのも上の方なのかしら?
上の者として、配下に心の狭い所を見せられないとかあるのかな。
妖精社会については解らない事だらけで、聞いていい事なのかもよく解らない。
小さなカップに、冷茶を注いでタルトの横に置く。
彼女はあんまり熱いものを好まない。お菓子もお茶も、冷えているくらいが好ましいそうだ。
「この甘い味を爽やかに洗い流す茶が、また良い……。ほんにヒトの世の技術の進歩とは、目まぐるしいものよ」
紅茶はともかく、お菓子はこの世界の技術の進歩の結果ではないのが、ちょっとアレだけど……
長く存在してるからこそ、定命の者達の進歩に驚くっていうのは、あるあるなんだろうな。
なんだかんだ、あっという間に一つ目のタルトを食べきって、紅茶で口の中をリセットするアルメリアはなんとも満たされた穏やかな笑顔を浮かべている。
既にこの時点で胃の容量なんてあっさり突破してると思うんだけど、つくずくどこに入っているのやら……
「ねえ、アルメリア。いくつか聞いても良い?」
「……そうさな。お主には聞く権利があろう」
「何から、どこまで聞いていいのか少し迷うけれど。やっぱり、人間っていくらか生き残ってるの?」
流石に絶滅は難しいとは思ってたけど。
しぶとくどこかで生き延びているというには、あたし以外の人間はあまりにも見ない。噂も影もない。
もしや転生的なやつで不自然に発生したのかと思った日もあったけど、それはいくらなんでもねえ。
あの神様から聞いた感じ、別段あたしは特別選ばれて転生させられたわけでもない。誰にでもある、当然の権利としてこうなったように思う。
ならば当然、あたしには同じ人間の親がいるはずなのだ。
「生きておるとも。何処にどれだけかは、わらわにも解らぬが……。間違いなく、お主以外にもそれなりの数が、何処かに居る」
「アルメリアみたいな、妖精に守られて?」
「そうなる」
アマランサス曰く、生き延びた人間達は妖精に庇護され、どこかに隠れ住んでいる。
恐らくあの日、あたしとクルウが見たような村に。妖精の導きがなければ、早々たどり着けないような場所に隠されて。
「しかし、わらわ達にも制約がある故な。常に張り付き守る訳にも行かぬ」
「いくら好きでも、肩入れしすぎは出来ないのよね」
「いかにも。一所に留まれば、水も風も淀み腐る。大地とて静かに変わり行く。自然とは流転するものであり、わらわ達もそうでなくば妖精足り得ぬ」
「だから、アマランサスの村みたいなことも起こったわけよね」
「そうなるな……」
風が多く吹き込む場所も、清い水が溜まる湖もあるだろう。けれどそこに留まり続ければ清浄さは失われる、その理屈は理解できた。
だから、いくら人間達と仲が良くても、常に目を光らせ守護してあげることは出来ない。今だって、アルメリアはあたしの動向を常に見守っているわけではない。
結果として、先日彼が語ったような悲劇も、守護の穴を突かれて起こり得る、のだろう。
「あれは、特に人間になついておった。なんとかあの国や皆を守ろうと躍起になっての。わらわよりも穏やかな気質であったが……全く、いざとなると手段を選ばん所は変わらんかったな」
「そう……」
「そんな顔をするでない。妖精の死はそなたら生物とは異なる。この身と心を形成する要素がほどけ、精霊に戻っただけじゃ。運が良ければいずれまた妖精に変転するじゃろう」
うーん、生身の肉体がなくて、体も魂で出来てるから死んでもそれがばらばらになって素材としての魂に戻る感じ……?
あまり、双子の弟を手にかけたことを悔やみ、心痛めている感じはない。少ししんみりはしてるけど。
「あのさ」
「うむ」
「……アルメリアの村の事は、聞いてもいい?」
尋ねると、彼女は一度瞳を閉じ、空になったティーカップを両手で包むようにして膝の上に下ろした。
その顔に、怒りは感じない。むしろ、聞かれるだろうと想定していたように思う。
心構えをしていたからこその、静かさだ。
「察しておろうが、わらわの守護していた村もまた、既に滅びてしもうた。もしもその形がアマランサスと同じものであったなら、わらわとて妖魔に堕ちておったじゃろう。あれの事を、偉そうに糾弾出来ぬ」
「それは、あの時に出会った、あの村?」
「うむ」
たぶんそうだろうとは思ってたけど、やっぱりそうか。
あの時、もう既にあの村は滅びていたんだろう。人の気配も灯りもない、静まり返った様子から、生きている村ではない気はしていた。
ただ、アマランサスの村のように、不幸にも焼き討ちにあった訳ではない。死んだ村ではあったけれど、建物自体は無事だったし、血の匂いのようなものもしなかった……と思う。
「詳しい話を、聞きたいかえ?」
瞳を開き、顔を上げて。あたしを見上げるアルメリアの表情からは、何も読み取れない。
真っ直ぐにこちらに向けられる赤い瞳を見返しながら、少し考える。
……それから、あたしはふるりと頭を振った。
「いいえ。やっぱり、また今度にしておく」
「そうか」
「うん。今聞いたら、暫く落ち着かなくなりそうだし。カルネイロ領に戻ってから、改めて聞かせて貰ってもいいかしら」
「いいとも。何事も、そうあるべき機というものがある」
正直、なんとなくは察してるのだ。
妖精は世界そのものではあれど、その世界にある全てを把握している訳では無い。ああして守護していた村以外の人間の動向を、双子の弟であるアマランサスの村がどうなったかも、アルメリアは知らなかった。
しかし、アルメリアはあたしを知っていた。
となると、恐らくは……アマランサスの言った通り、あたしはあの滅んだ村の生き残り。アルメリアにとっては、守護していた人々の最後の一人。だから彼女は、あたしに拘り護ろうとする。
あの村の事は、あたしは知らない。覚えていない。
……ただ、思い出そうとすると、ひどく気分が悪くなる。背筋に悪寒が走り、思い返そうとすることを、頭ではなく体が拒否する。
であれば、たぶん今それを知るべきではないと思う。
こちとら、学院卒業の為に全力を出さなきゃならない学生なのだ。……っていうと、天秤にかける事なのかと怒られそうだが。
そもそも、その辺知った所で何かが変わる訳ではない。ずっと解らなかった謎が一つ解るだけだ。
特に今すぐ知らなければ不味い事態が起こる訳でもない。
なら……立場的にも精神的にも、安定している時に受け止めた方がいいに決まってる。
「そうだ、もう一つ聞きたかったのだけれど」
「なんじゃ?」
「アルメリア、本当に例の傀儡の魔法、大本の止め方を知らないの?」
妖精は嘘をつかない。だから、知らないと言った事は知らないのは本当の筈。
でも、なんか違和感がある。
あの魔法の創生に携わっていない。それは本当なのだと思う。
しかし、ある意味魔法そのものと言っていい妖精が、そこに存在している魔法の在り方を、解らないなんて言うんだろうか?
少なくとも、その時の人間の国を守るための機構。その重要部を、一切知らないって言うのはどうなんだろうか。
末端の人間とかならともかく、アルメリアは上位の妖精だ。止めようとしていたようだから隠したのかもしれないけど、その辺にその傀儡が闊歩してるんだから、この間のように発信地を割り出す事なんて出来た筈だ。
あたしの問いに、彼女は珍しく、ちょっと視線をそらした。
「……お主は、ほんに聡明な子じゃの」
「何か、言ってない事あるわね?」
「わらわは、アンスロスの傀儡の創生に携わってはおらぬ。どのような術式を編み上げたのかも知らぬ。それは本当じゃ」
「魔法を保持して、命令を下している何かに関しては?」
「……この国で発生したそれの魔法所有者など、わらわは知らぬ」
やっぱり。
あの時のアルメリアの話は、『アンスロスに今も居る傀儡』と、『今回この国で発生した傀儡』の話が混ざっていた訳ね。
追及されては困る部分。恐らく、現在アンスロス国内に闊歩する傀儡の魔法の解除法。それを隠す為に、そこだけ同じ傀儡の話ではあれど原因が違う、それをすり替えて話したんだろう。
嘘をつかないってだけで、話が望む真実だけではないって事よね。
「実際、アンスロス国内のあの魔法は、どうして今も続いてるの?」
「なんじゃ、あれの解除をしたいのかえ」
「……したいかしたくないかって聞かれると困るわね。ただ、あんまり昔の人の死体を、いつまでも意味もなく彷徨わせてるのは、どうかなと思う」
そのお陰で、今もあの国の土地が無事なのは、もしかしたら逃げ延びているアンスロスの人達の希望なのかもしれないけど。
それにしたって、四六時中ゾンビと遭遇しかねない土地って、如何なものか。
今回見たいかにもゾンビ、じゃないのかもしれないけど。最初からそのつもりで加工したのなら綺麗なんだろうし……
……いや、それでももう死んだ人が歩いてるって、それだけで気分良くないわ。ホラーだ。
「確かに、わらわとて本来土に還るべきものを、いつまでも傀儡として彷徨わせるは不憫に思うのじゃが。知った所で、解除出来ぬよ、あれは」
「どういうこと?」
「……マリヤ、この事は他者に漏らさぬと誓えるか? 主人であろうと友であろうと、命が終わり土へと還るまで誰にも話さぬと、誓えるか? でなくば、教えられぬ」
「……。解ったわ」
どうやら、思った以上に大事であるらしい。
メルルにもレオンにも、どんなに信頼している相手にも漏らすなと迫られ、少し考えたがあたしはそれに頷いた。
アルメリアにも解除できないものなのかもしれない。とすれば、あたしにも出来ないだろう。
しかし、いつまでもなんでどうしてと気にするのも、気持ちが悪い。
知る事で、納得し飲み込む事もあるだろう、と思ってだ。
あたしの承諾に、アルメリアは重々しくうなずくと、口を開いてくれた。
「あの魔法じゃが。今も継続している以上、当然現在も魔法の発動者が居り、発動させている妖精が居る。アマランサスもその一つであったが……他にも、いくつもな。それを探し出すのも、やめさせるのも困難と解るか」
「ええ。妖精は気まぐれで何処にいるかも一定しないし……止めようとしていたアルメリアが呼んでも応えない、って感じね?」
「その通り。そして、契約発動者の方じゃが。これはな、アンスロス人全員じゃ」
「……は?」
全員。
魔法とは、個人が妖精と契約し、発現するものだと思ってたけど。
もしかして、儀式のように複数人で協力して発動するものも、あるんだろうか。
いやそれにしたって全員。全員とは。
「あの魔法が大規模な物であり、国を……民を守る強い意志を持つものじゃった。当時の王は、自らの民を全て守りたいと願った。しかし国中を守るほどの傀儡を生み出し持続させるのは、一人一人では不可能じゃった」
「まあ……そうでしょうね」
「故に、魔法の創生をした妖精と、国民全てを結び付け、皆で少しずつ負担を分け合った。魔法の民と言われる程に、アンスロスの人間達は魔法適正が高い故な。結果、問題なく想定通りにあの魔法は発動し、今も続いておる」
「それって、何十年も前の話よね?」
「うむ。しかし、戦争が何十年、何百年で終わる保証はなかった。故に契約は個人ではなく、その血脈に刻まれた」
……本来、妖精や精霊との魔法契約は、その人に限ったものだ。
魔法の契約を持って居る魔法使いが子供を作ったとしても、その子には引き継がれない。また新しく契約しなければ、その子は魔法が使えない。
だから、成長につれて少しずつ、親や大人から精霊のつながりを分けて貰って、新しく契約をしていくものなのだけれど……
血脈に刻む契約というのは初めて聞いた。
その言葉から察するに、それは個人契約ではなく、それこそ引き継がれる継承型の契約。
となれば。
「解るな? 今現在、魔法を発動しているのはアンスロスの血を引く人間達の生き残り全て。無論、お主もその一人に含まれる」
「つまり、あの傀儡を全て排除するには、創生した妖精を全て探してやめさせるか。傀儡自体を壊し尽くすか。……人間を、殺し尽くすか」
「そうなる」
ああ、なるほど。だからアルメリアはそれを隠したのか。
妖精を全て探し出すなんて不可能だ。何処に居るかも解らないし、当人達は自覚があるだろうから、特にアニマリア人はもちろん、人間以外の全てのヒトに近寄りもしないだろう。
傀儡を壊し尽くすのは、どうだろうか。総数を知らないから解らないが、国中に居るというのなら、それは間違いなく大変だろうな。そもそも、一つ壊すのも一苦労だろう。
それくらいなら、少しずつでも隠れ住んでいる、傀儡よりは弱い人間を探し出して、地道に駆除した方が楽だろう。たぶんだが、数が減れば減るほど魔法の負担が大きくなって、一定数を切ったら背負いきれずに勝手に自滅するかもしれないし。
……いや、なかなかに。今もなお、追われて殺される理由はあるんだな。
以前聞いた、発見された人間が全力で逃げて掴まったなら自殺したのは、その辺を知ってたんだろうね。拷問され真実を知られれば山狩りが行われ、仲間が虐殺されるかもしれないから、自ら口封じしたのかも。
「もう一つ、あの傀儡はその魔法発動と契約の縁を敵味方の区別に使っておる。つまりお主があの国の地を踏んだところで襲われはせぬ。……これも知られれば危険故、隠せよ」
「ああ、うん……そうね」
それは想像して然るべきだったけど、やっぱりそうなんだ……
ただ、流石にそれはさせられないだろう。打診されても断る。見たくないわ、ゾンビの群れ。
っていうだけでなく、安全に国内の様子を偵察出来る訳だから、もしも軍関係に一歩でも踏み入れていたら危険だったかもしれない。
騎士学校に入らなくて良かった、そんな選択肢最初から無かったけど。
……ウルガさんがその辺やめとけと言ったのも、それがあるからかなあ……
「結局、どうしようも出来ないし、しない方が良い訳ね」
「そうなる」
解決策を口に出すのはあまりにも危険だ。これは本当に墓の下まで持っていこう。漏らしたら、あたしだけではなく、どこかでひっそり暮らしている人間達まで危機に陥る。
一応、今こうしてアニマリアとの友好的なつながりのあるあたしが音頭を取って、アルメリアの力を借りて人間達に呼びかけ、国を作り直すという道もなくはないんだが……
申し訳ない事に、それをやる気がない。
自分なら出来ると使命感を持って、先頭に立って何かをするって気概はないんだよね……
勿論、もしも人間達の村が見つかって友好を求めている、とかならその橋渡しとか、そういう関わり方ならいいかなーって思わないでもないんだけど。
あくまでも、やっぱりあたしの目標はメルルの執事になる事なのだ。
その傍ら、出来る事があるのなら、手は惜しまないんだけどね。
とりあえず、変わらず目下の目標は無事に学院卒業です。




