62・黒との遭遇
どうにも、アニマリアの獣人さん達の個体識別は、あたしには難しい。
レオンくらいアニマリアでも珍しい種類と毛色の組み合わせなら自信持って判別できるが……、あと、メルルほど見慣れれば。
だから、今こうして首を鷲掴みして引き倒した相手を、確実に知った相手だと断定するのは難しい。
ただ、あたしの記憶の中の比較的新しい場所に、あまり宜しくない理由で記憶されているそのヒトに、合致してしまったため、先の呟きになった訳なんだが……
「お、お前は! ニンゲンの子、何故、ここに?!」
あ、ヒト違いじゃ無かったや。
何故ここに、はあたしが聞きたい。
誰かと思えば……、文化祭の時にやらかした、いややらかそうとした挙げ句、グイノス先輩の邪気のない一言に心をぶち折られた、コウモリ先輩だった。
あのあと、退学になった筈だが……
「あーーーっ! ほんとだ、ほんとに人間の子だあ!」
そして、すっとんきょうな声が上がった。
これは全く知らない相手の声で、反射的に顔をあげる。
あげた視線のほんのすぐそこ。目の前に、何かが居た。
視界いっぱいの輝く笑顔。
白銀の髪と、切れ長の赤い瞳。小さな人間の姿は、アルメリアによく似ていた。
違うのは、髪が彼女より短く、その造形が少女ではなく少年を思わせるものであること。
それから、背中に鉱石の羽根はなく、手首から肘、足首から膝にかけて、結晶体で覆われていること。
そしてその石が、無色透明なアルメリアのものと違って、どす黒く艶がないこと。
「おい、助けろ……!!」
「おっとそうだった! ごめんねご主人サマ♪」
「っ!!」
コウモリ先輩……、もう先輩じゃないから敬称つけなくていいか。彼が叫ぶと、アルメリアに似た妖精がてへぺろ☆ とばかりの緊張感が無い様子で笑い、ひょいと右手を翻す。
すると、小さなその手からは不釣り合いに巨大な手の形の黒い結晶が飛び出てあたしに掴みかかってきて、咄嗟にコウモリ君の上から飛び退く。
追撃の意思は無いようで、あたしが退くと黒い手はすぐにぱりんと割れて消え失せた。
「ありゃ、逃げられちゃった。フツー君くらいの子なら、動けなくなるか逃げ切れないかだと思うのになー。もしかして、結構百戦錬磨ってやつ?」
「アマランサス……」
「あっれえ、リアじゃない! 久しぶりー!」
厳しい声色のアルメリアに対して、アマランサス、と呼ばれた妖精……、妖魔は、へらへらとした態度を崩さない。
リア、というのは彼女の愛称か。
愛称で呼ぶほど、親しい仲だったのか。うん、アルメリアなら身内の愚行に激昂するのは、なんとなくわかる。
「そっかそっかぁ、リアのトコの子なのかなー? ちぇー、せっかくこの街に人間の子が居るっていうから、保護しようと思ったのに、もうリアがついてたのかー。ほっとしたけど、ちょっとざんねんっ」
「……保護?」
「そうだよ! こんな国に居たって、人間の君はひどい目に合うじゃないか! どうしようって困っていたらね、なんとこの! 最高に優秀で頭もキレキレでイケメンなご主人様がさ! 手伝ってくれるっていうじゃない?」
にこにこ笑いながら、アマランサスがコウモリ君の頭上にひらりと移動し、小さな手でなでなでする。
あたしの拘束から離れ、ふらつきながら立ち上がっていた彼は、過剰なまでの誉め言葉に気分がよさそうに笑った。
「すっごいんだぜー! 俺が教えた傀儡魔法、あっという間にマスターしてさ! しかも弱点の洗い出し、改善もすぐに! 天才って、こういうヒトの事を言うんだよねー!」
「当たり前だ、僕を誰だと思っている! 本来ならば学園一、いや、この国一の天才と謳われるべき男だぞ!」
「ひゅーひゅー! ご主人様さいこー!! ほんと、君の価値がわからないなんて、この国のバカ達はどうかしてるぜー!」
……彼は、元々とてつもなく自己顕示欲と承認欲求が多い子だった。
優秀であることは確かにそうだ。彼にとっては運悪く、本当は天才なくせに尖りすぎてて落第しちゃったグイノス先輩なんて人が上から落ちてこなければ、間違いなく学年トップの成績で学院を卒業したろう。
あんな事件を起こさなければ、無事にこの国を盛り立てる学者の一人になっただろう。
そう考えると、彼が輝かしい人生から足を踏み外したのって、ほぼあたしのせいな気がするが、残念ながらそこで彼の人生に責任を感じるほどお人よしでもない。
あの子は、考え直す機会を自ら放り投げたのだから。
ただ、それにしたって。
そうして彼の心の飢えにつけこみ、とんでもない事に加担させているあの妖魔に対しては、素直に嫌悪を感じた。
実際、頭の上のその小さな妖精の顔をコウモリ君は見ていないわけだが。
明るい声色で、やんやと褒め称える彼は。
……欠片も笑っていない瞳で、そこにいるのだから。
「なるほど、お二人は手を組んだと」
「いえーーっす!」
「おそらくは、この国で誰も持ちえない魔法を会得し、周囲に自分を認めさせるために」
「その通り!」
「人間の私がこの国に居るから、保護を名目に連れ出す為に」
「そうそう! 利害関係の一致ってやつー?」
胸を張るコウモリ君。笑顔を崩さないアマランサス。
片や持ち上げられて気分良さそうに、片や信じられないほどべらべらと事情を話す有様。
尚、この間リシッツァ先生がどうしているのかというと、あえて静かに行動し、縄で縛られているリンク君達を救助している。
二人の視界外でのことで、コウモリ君は気づいてないだろうが……アマランサスの方は、どうかな。
わからないが、気にした様子はないので気を引くことを続けている。
妖魔落ちしているとは言え、彼もアルメリアと同等の妖精だったというし、それの注意を引くのはアルメリアと一緒にいるあたしの方がいい。
ただでさえ、あたしに気を引かれてるみたいだし。
「結果、最低でも一人、貴方はヒトを殺めたと」
コウモリ君をじろりと睨みつけて問えば、彼は一瞬身体をびくりと震わせ、口元をひきつらせた。
……本心から嬉々としてやった訳ではなさそうだ。
自分の優秀さを認めてもらいたいっていう気持ちはわかる。承認欲求は、誰にだってある。
認めてもらえるかもしれないきっかけを与えてくれた相手への感謝というか、恩義でその目的に手を貸すことも、ありうるだろう。それ自体は別に罪ではないし、むしろ義理と人情を思えば普通の事だ。
ただ、その為に誰かの命を奪うと言う事は、当然ながらあってはならない。
死体を冒涜した事もあたしの感覚で大分アウトだが、直接殺しを行ったというのはもう、そそのかされたのだとしても言い逃れが出来ないレベルのアウトだ。
もちろん、この国の道徳的にもアウトである。
「やっだなー、それは誤解ー! だって、あのヒト殺したのは俺だもん!」
「……へえ?」
「すっごいんだぜ、聞いてよ聞いてよ! どうやって君を迎えに行くかに当たってさ、すっごい悩んでたの俺! 俺ほどじゃなくても、国の真ん中あたりって妖精と契約してるのが結構うろうろしてるし、あいつら俺みたいなの嫌いだし。ひどいよなー」
「はあ……」
「別にまとめて瓦礫にしてもいいけど、そしたらどこにいるかわかんない君まで潰しちゃうからさー。それはよくない、うんよくない!」
本当に、聞いてもいない事までべらべらとよく喋る。
ちらっと肩に乗ったアルメリアを見たら、大変不快そう、っていうかもう額に血管浮き出るくらい怒髪天である。
って、妖精に血管はあるのか。血圧の上昇が存在するのか。……それはどうでもいいか。話があたしにとっても不快で、うっかり思考が寄り道をしてしまった。
「そしたら、せっかく意図的にヒトを操れる魔法があるんだから、学院に潜入できる傀儡を用意して連れてくればいいってさ! いやほんと、目からウロコってこういうのを言うんだね!! しかも、こんな凄い秘密基地まで作ってさ!!」
「当然だ、僕の専攻は三国戦役時代の文明についてだからな!!」
「最高だよね、ここなら素材は集め放題、実験し放題! 正直、生きてた頃の行動を繰り返させて目眩ましにするなんて、考えたこともなかったよ!!」
アマランサスはにこにこ顔を崩さないが、コウモリ君の方は時折口元を引きつらす。……少なくとも、ヒトを殺すことに関して吹っ切れたわけではなさそうだ。
幸いと言えなくもないが……、『そんな提案をしただけ』『本当に殺すとは思ってなかった』とか、無責任なことを言いそうではある。当たり前だが、犯罪幇助も立派な犯罪だ。
それがなくても、誘拐も殺人未遂も起こし、死体損壊……は、この国では罪になる定義がないけど、決して良いことではないし、遺族感情を考えたら裁判で不利になるのは間違いない。
そもそも、因縁のある怪物を王の居る都で発生させるとか、それだけで裁判どころか斬首刑まっしぐらなのでは? 国家転覆を謀ったと言われても仕方ない。
「まあ、こうして直接君がここに来るって言うのは想定外だったけど、結果としてむしろ手間が省けたよね!」
「……ん? 待て、そうなると俺との契約は……?」
「やだな、心配しないでご主人様! 俺は契約は守るよー、君に授けた知識は君のもの! この魔法の解明をすれば、君は英雄だよ! なんたって、危なくて手を出せなかった隣国の土地を手に出来るようになるんだから!」
「そうか……そうだな! 誰も紐解けなかった魔法を、手にしているのだからな!!」
要するに、承認欲求に飢えたコウモリ君がアマランサスと出会い、力を借りる代わりにあたしの保護……というか拉致、を計画。
ここに溢れてるゾンビ達や、墓守りのおじさんは、その準備段階での実験や、隠れ家の隠蔽に使われていた。
そして、リンク君たちが拐われた理由もわかった。
生きている人と遜色ないほどの立ち振舞いをさせられるなら、警備の硬い王都の中、学院内にも潜入できるかもしれない。
全ては、あたしを拉致する計画だったと。
聞き出す努力も必要なく真相がわかったのはいいんだが……
聞いてるこっちが心配になるのは、アマランサスは妖精でなく妖魔である、ということ。
そして、アルメリアと同じく人間の姿を模す程の人間好き。
ましてや、人間の国を守るための傀儡魔法を作り出した主要な妖精であるのなら……、契約だからと言って、元人間の国のあった場所を、土地を、因縁ある国に売り渡すだろうか。
……妖魔となった彼には、もう人間のいない土地に興味はないのかもしれないし、あたしの杞憂なのかもしれないが……、なんか彼、用済みだって始末されるフラグしか感じないんだけど。
「解った、もう良いこの大馬鹿者」
「ふえ?」
「あっ……」
話を遮ったのは、底冷えするような声色のアルメリアの言葉だった。
ちらりと横目で見ると、もうその顔には憤怒しかない。
堪忍袋の緒が切れたとか、怒髪天を突くとか、そんな慣用句が優しく感じるほどの実際の冷気を放ち、ふわりと小さな妖精があたしの肩から舞い上がる。
「ええー、何が解ったのさ、リア」
「貴様が、救い様も無い程の、愚か者という事がじゃ!!」
アマランサスは決してへらへらとした態度を変えない。それを味方と信じ、加護があると信じて頭に乗せているコウモリ君も、妖精を敵に回している事に引きつりつつも引こうとしない。
しかし、アルメリアの怒声と共に、ズンと辺り一帯を揺るがしたであろう地響きが始まれば、コウモリ君もあたしも恐らくリシッツァ先生達も、一様に口元を引き攣らせた。
「ちょ、アルメリア! ここ地下……!」
「せめて、一欠けらも残さずに滅してくれる、有難く思うが良い!!」
だめだ、あたしが静止の声を上げても、耳に入っている様子がない。
そもそも、あたしは別にアルメリアの友人というだけで、主人でもなんでもない。頼みを聞いてくれたり、都合を考慮してくれはしても、行動を制御する力なんて最初から無いんだ。
つまりは、彼女がぶっち切れてしまえば、当人が落ち着くまで誰にもどうにも出来ないのである。
「あははー、やだやだこわーい! リアってば、会わないうちにキレやすくなったんじゃない?」
「ぎゃああああ!! お、おい! 笑ってないでどうにかしろ?!」
足元が覚束なくなる程の揺れは続き、あたしや先生は立っていられても、コウモリ君はあっちこっちへふらついて、その行く先に巨大な鋭くとがった岩が出たり、天井から潰す勢いで平たい岩が降ってきたりと一歩間違えばすぐさま命が終わる状況。
その度に寸前で岩が砕けたり、軌道を逸らす形で別の岩がぶつかったりして九死に一生を得続けているので、アマランサスも何もしていない訳ではないだろうけど、渦中の当人はまさに生きた心地がしないだろう。
というか、腰を抜かして座り込まないだけ肝が据わって、……違うか。
明らかに動きがおかしい。たぶん、局所的に強風でも吹かせて、転ばせないようにコントロールしてる。
「先生、先に脱出して下さい!!」
「……ッチ! 悪いがそうさせて貰う、お前ら走れ!!」
「マリヤ君……!」
転びそうなほどの地震に、アルメリアが無理に岩を生成するものだから古い床も天井も今にも崩れそうで、このままここに居れば全員まとめて生き埋めになりかねない。
なので、リンク君達の拘束を解き、そろりとあたし達が入ってきた裏口から脱出しようとしていた先生達に、一刻も早い行動をと促した。
あたしも逃げたい所だけど、それでもやっぱりアルメリアを置いていけないし、アマランサスの狙いがあたしであるなら、彼をどうにかするか諦めさせるまで危険は続くのだから、ここで逃げても仕方ない。
激昂しながらも、あたしの所には落ちてこない瓦礫を思うに、アルメリアはそれでもあたしを守っているようだし。
その辺りは先生も察しているようで、より危険かつ数の多い生徒の方を取ってくれた。
心配そうにあたしを呼ぶクラスメートの声も聞こえたが、4人の気配は迅速にこの場を離れていった。
「ひぎゃああああ?!」
「っと、ごめーんご主人様、間に合わなかったかー」
と、意識が向こうに行っていた隙に悲鳴が上がり、見れば上下からサンドするように迫ってきた大岩を回避しきれず、右足を挟まれたコウモリ君の姿があった。
当然痛みに悲鳴が上がり、事態にそぐわないあっけらかんとした謝罪を口にするアマランサス。
そして妖魔は、んーっと考え込んだように口元に手を当てた。
「うーん、どうしよっか。ねえご主人様、血を止める為に足を焼いちゃうのと、いっそ俺が運びやすいように残った手足全部ちょんぎっちゃうの、どっちがいい?」
「は?! ふ、ふざ、ふざけるな?! そんなの選択肢でもなんでもない、お前の頭はどうかしてるのか?!」
「えー、ちゃんと君の命も助けようと頑張ってるのになー。認めてくれないのかー。否定するんだー」
明るく提案するには、あんまりな内容に当たり前だけどコウモリ君は青筋立てて……例によって顔色は分からないけど、殆どパニックになりながらがなりたてる。
妖精というのは、自然現象そのもの。それが不必要な部分を切り捨てる選択をしても、ヒト並みの慈悲がなくても不思議ではない。
ましてや妖魔にそんな機微を求めるだけ、たぶん無駄。
右足を潰され、這いつくばるコウモリ君に、その頭からふわりと浮かび上がったアマランサスは、口元に笑みを浮かべながらもすうっと目を細める。
「俺を認めないやつは、俺を否定する愚かなやつらは、全て報いを受ければいい。……そう言ったの、キミだよねえ?」
「は……?」
「俺、その考え方だーいすき! 俺もおんなじ! だから、キミの事ほんのちょっとだけだけど、ホントに気に入ってたんだよ! ……だから、俺も認めないなら、キミも報いを受ければいいよね」
二人の間に、どんなやり取りがあって、どんな信頼関係……? を築いたのか、あたしに知る由はない。
しかし、それはとても歪で脆いものだった、それだけは間違いないだろう。
にこっと目の笑っていない笑顔を浮かべると、アマランサスは更に奥へとコウモリ君を置いて飛んで行ってしまう。
「お、おい待て! 俺を見捨てるのか?!」
「うん!! 短い間だったけど、楽しかったよご主人様! 元気でねー!」
妖精にとっても妖魔にとっても、ヒトとの契約なんて娯楽に過ぎず、気まぐれや興味で力を貸しているだけ。向こうからもういいやとホイっと切られるような、そんな儚いものなのだ。
それでも、嘘をつかない妖精との契約ならばよほど怒らせたのでなければ大丈夫でも、妖魔との契約なんて、機嫌を損ねた時点でポイ捨てされて当たり前。彼らは、そもそもヒトを好いていない、堕ちた存在なのだから。
それはコウモリ君だって知っていたハズなんだけど、……まあ、あんな命に危機に瀕して冷静に場を切り抜けるなんて、この年頃の子供には酷が過ぎる。
「待たぬか! わらわの瞳に収まった以上、逃れる事など叶わぬと知れ!!」
「ひゃっほー! おにごっこなんていつぶりだろうね、楽しいねリア!!」
「ちょ、待っ……あああああぁぁぁ!!!」
「ああもう!!」
激昂して追うアルメリア。それをまるで子供の遊びのように笑うアマランサス。残されたコウモリ君の周囲は岩の魔法を駆使されすぎたせいで天井が崩れ落ち、瓦礫が降り注ぐ。
それを放っておく事も出来ず、彼の足をつぶしている岩を蹴り飛ばして退かし、瓦礫にうずまりきる前に肩に担いでアルメリア達が飛んで行った通路へ急いで飛び込んだ。
今はまだ天井の石材が崩れるくらいで済んでいるが、じきにこの部屋そのものが崩れて埋まるだろう。真上は墓場なので、生きているヒトに被害は出な、……いとも限らないか。
哨戒している筈の騎士さん達や、あたし達を追って来てくれている筈の皆さんが崩落に巻き込まれないかは、祈るしかない。
アルメリアの暴走の結果となれば、扱いは自然災害、天災以外のなんでもないんだけど、なんだか責任を感じてしまう。
複雑な胸中になりつつ、コウモリ君を見ると……痛みのせいか自分に襲った瓦礫の雨に許容量がオーバーしたのか、意識を失ってしまっていた。
……ま、その方がいいや。わめかれてもうるさいだけだし。
岩に潰された右足の膝から先は、素人目で見てももう使い物にならないだろうと思う。
ただあたしは医者じゃないし、適切な処置が出来る道具もない。少し悩んで、ボロボロになった彼のズボンの膝から下をナイフで切り、太ももをきつく縛って止血する。
血止めの軟膏もあるっちゃあるが、この規模だと量が足りないので仕方ない。リシッツァ先生がいてくれればなんとかできたかもだけど、向こうは向こうで無事を祈るしかないし。
「さて、もうホント、どうしようかしらね……」
通路の向こうで、またドンパチやっているらしい派手な音を聞きつつ、あたしはコウモリ君を肩に担いで慎重にそちらへ駆け出した。




