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ヒツジさんの執事さん  作者: 美琴
第二章
61/67

59・墓地にて

※今回のお話には、多少グロテスクな、残酷な、表現を含んでおります。

 その手のものが苦手な方は、無理せずブラウザバックをおすすめ致します。




 右肩にアルメリアを乗せ、左腕でオルミガさんを抱えて、あたしはとん、とんっと小さく足音を立てて石造りの屋根から屋根へと飛び移っていく。

 家が基本、石で出来てて良かった。もし木造とかだと、アルメリアに重さは無いに等しいが、あたしとオルミガさんの二人分の体重を乗せて着地したら、騒音になりかねなかったし。

 街中に恐ろしい、かもしれない、怪物が出たと人々が怯えてる中、屋根から聞こえる足音なんてホラーでしかない。

 半分くらいのお月様の光に照らされた屋根の上を、警戒に跳ねていく。


「居ないね、レオン達」

「この距離で見えますか?」

「姿が見えるというか、レオンの魔法で姿を消してると、そこが陽炎みたいにぐねぐねするから、解りやすいよ」


 ……そうか。たぶん、光が反射して目に入って物が見える、その構造があたし達とオルミガさんでは違うから、レオンの感覚で姿を隠すと違和感になってしまうんだろう。

 レオンの隠密行動の天敵は、オルミガさんを始めとしたアルフォーダの虫人ってことか。

 基本外に出てこないヒト達で、助かった。

 さておき、あたしにぶら下げられて移動に意識を向けない分、オルミガさんは下の道を確認してくれているようだ。

 どの程度の視力があるのか解らないけど、先ほどオルミガさんがレオンやメルル達と別れた道へ到着し、そこから想定し得る墓地への道をたどっても、その姿が確認できないらしい。

 ちょいちょい、ランタンを持った騎士さん達が哨戒しているのを見るけど、王子様を発見して慌ただしくなってるって感はないな。

 そもそも、レオン達がこっそり墓地へ向かってるなんて、まだ見回りの騎士さん達まで情報が伝わっていないだろう。


「っ、マリヤ。急いだほうが良さそうじゃぞ」

「あ、そうかアルメリアなら居場所が分かりますか?」

「わらわとて、距離があれば呼び出されその場に出るまでは正確な位置は解らぬ。……しかし今、娘の方が強めに魔法を使用したぞ」

「! 急ぎます!」


 ある程度近くの情報は取得できるっぽいけど、距離があると曖昧な方向くらいしか、アルメリアにだって解らないんだろう。

 ただ、契約者が魔法を使ったか否か。それは、魔法の発生源である彼女には解る。

 今までも、メルルが試しに音の操作をした時、あたしが崖から突き落とされてやむなく強化魔法を全開でかけた時など、気になったのか様子を見に来たもんね。

 そして、メルルが音の操作にとどめず、強めに魔法を使った。単なる精霊魔法ではなく、妖精魔法として。

 それは、結構な緊急事態であると理解する。

 一応ここまでは抱えてるオルミガさんに気を遣って移動していたのだが、彼女達の危険を警告されて、即座にスピードを上げる。

 下の家に足音聞こえてたらごめんよ!!


「わー」


 すごく平坦なオルミガさんの悲鳴、……歓声? がしたが、気にしないでおく。

 たぶん飛んだり跳ねたりのジェットコースター状態だろうが、彼がその程度で本気で怯えるとも思えないし、今の声にも少なくとも怯えや恐怖は感じられない。

 いっそ、もしや楽しんでるかもしれない。


「マリヤ、ここから墓地……あ、あれかな」


 その後の発言にもよどみがない。ほんとこのヒト色んな意味でつっよいな!!

 ここから墓地、と言われた区域には塀代わりの背の高い生け垣で囲われており、正面には大きな石の門。

 生け垣に立つことは難しいので、その門の上にジャンプして着地したんだけど、墓地の内部はとても暗い。

 夜に来るとこじゃないからな……。申し訳程度に灯りは点在しているけれど、全体を照らせるほどじゃない。そもそも街も暗いんだし。それに輪をかけて暗い。

 門も上部な鉄の柵で出来てて閉まっているし、生け垣はトゲトゲした植物だ。入るのは難しいだろう。…どうやって入ったんだあの子達は。裏口とかあるのかな。

 そして、そんな暗い墓地の中。ゆらゆらと動いている灯りがある。

 単に歩いている、って感じじゃない。歩いているよりもスピードは遅い。

 まるで、ゆっくりと後退しているような。

 それを確認して、立っていた門を強く踏み切った。

 ある程度距離があったけど、現在最大出力で強化しているあたしなら、2・3回の跳躍で辿り着ける程度でしかない。

 距離が近づくと、揺れている灯りの方から声がするのが聞こえた。


「きゃーー! きゃーー!! 気持ち悪い!! もうやだー! ばかーーー!!」

「うるっせーよ、耳が痛くなるからちょっと黙ってろよメルル!!」

「メルル殿落ち着いてくれ! クルウ、ランタンを落とさないようにだけ、絶対に気を付けてくれよ!!」

「殿下、あまりご無理をなさらないで下さい!! もう少し後退すれば、墓守さんの家です!!」


 聞き覚えのある声が4つ。

 間違いなく、本日やらかしてくれてる子供達だった。


「オルミガさん、着地に自信は?!」

「任せて。適当に投げてくれていいよ」

「では遠慮なく!」


 まあ、服の下にまだ手足あるんだろうから、そりゃあ前面からなら着地くらい平気でするでしょうけどね!!

 勿論、今の状態のあたしが本気で投げたらオルミガさんが着地どころじゃなくなってしまうので、適度に加減をして灯りのある方へと投げる。

 あたしはそこから数メートルほど離れた場所に一旦着地してから、レオンに襲い掛かろうとしていた黒い人影に向かって横合いから飛び蹴りをいれる。


「!! ……マリヤ、と、オルミガ殿…?!」

「えっ、なになに?! ……マリヤ、なんでここにいるのーーー?!」

「それは私の台詞ですがね?! 何してんですか貴方達は、っと!」


 相対していた相手が吹っ飛び、代わりにあたしとオルミガさんがが現れた事にレオンは驚き、メルルは泣きそうな声を上げるが、問い正したいのはこっちである。

 と言っても、そんな場合でもなさそうだ。

 一直線に灯り目掛けて飛び込んだからよく解らなかったが、レオン達は完全に囲まれていた。

 蹴り飛ばした何かの後ろに居たものが、勢いよく腕を振り下ろしたのを察知し、数歩ステップを踏み後退、レオンの隣に移動する。

 明かりはクルウとメルルが一つずつ持って居るようで、それに照らされて囲んでいるのが何なのかやっと見る事が出来た。

 ……、……うん、話に聞いた通りだな。

 ゾンビ。完全にゾンビである。

 アニマリアの人の死体を素材にしているから、その姿は様々。ウサギにネコ、熊に犬。ネズミにチーター、その他諸々。

 完全にそのままの姿をとどめているものもあれば、腐敗が進んでいたり、蝋化していたり、正直気分の良いものじゃない。メルルが半泣きになるのも解る。

 強いて言うならば、完全に白骨化しているものはいない。…まあ成り立ちから考えれば、そうだろうな。

 あと、当然のように臭い。

 これ以上ない程、パニック系ホラー映画の1シーンだ。生物災害かな?!


「?! あ、あの時のようせっ」


 あたしの肩に座っているアルメリアに、クルウも気付いた。

 当然、以前あたしが彼女と再会した時のように声を上げかけたが、その途端に表情を歪ませ、手で口を押さえる。

 咄嗟の事だったのだろう。がしゃん、とクルウが持っていたランタンが地面に落下し、その火が消えた。


「ど、どうしたのよクルウ?!」

「……あっ!! アルメリア、まさかクルウには本当に呪いがかかってます?!」

「うむ? 当然じゃろう。そのように警告したつもりであったが」

「解除して、今すぐ!! こうして姿見せてるんだから、もういいでしょう?!」

「……。…まあ、そうさな。わらわの事に関しては、許してやろう」


 以前、一番最初にアルメリアに会った時、彼女やあの村の事を他言すれば、舌を焼き落とすなんて言われていたのだった。

 何故かあたしに対するものではなかったらしいのだけど、であればあれはクルウに対する警告だったという事だ。

 本当に、他言すれば口の中が焼ける魔法がかかっていたみたい。恐ろしい。

 慌ててあたしが解除を願えば、あまり気乗りしなさそうだったが、アルメリアがぱちんと指を鳴らす。

 その場でうずくまり悶絶していたクルウが、ほっとしたように力を抜いたが……まだ口を押さえている。たぶん、火傷くらいはしたんだろう。痛そうだ。


「レオン、私が抑えますから後ろに下がってください! 明かりが消えたら大惨事です!」

「分かった!」


 しかし、この暗い中、メルルとクルウが持っていた灯りのうち、一つが消えてしまった。

 視界が確保できないというのはこの状況じゃあ下手すりゃ死に直結するかもしれない。

 ゾンビさん達が暗いの困るとは思えないしね……

 というわけで、レオンを下がらせてあたしが囲んでくるゾンビを迎撃する役を代わる。たぶん今まで、戦闘していたから、彼は灯りを作れなかったんだろう。

 何回か呼吸をし、気を落ち着かせてから、レオンはふわふわと浮かぶ光の玉をあたし達の周囲にいくつか生み出してくれた。これで、とりあえず視界は大丈夫だ。

 ……ゾンビがよりはっきりくっきり浮かび上がったが故に、更に気分が悪くなるという弊害以外は。


「ユトゥス、墓守さんのおうちに避難するの?」

「え、ええ、ひと先ずは……」

「じゃあ、そうしよう。あそこ頑丈だし。父さん達に話はしといたから、そのうち助けに来てくれるよ、籠城だね」


 腰の剣を抜き放ち、襲い掛かってきたゾンビの腕を斬り飛ばして、けろっとした声色のオルミガさん。彼はこんな時でもブレない。

 あたし達ではない助けも直に来てくれる、という情報はパニックになりかけていたメルル達を落ち着かせるのにも良いだろう。

 何はともあれ、安全な場所を見つけない事には話も出来ない。

 先ほどあたしに襲いかかり、そのまま追ってきたセイウチのゾンビの腹を蹴りつけ、吹っ飛ばして距離を取らせる。

 ……のはいいけど、ぐにょってした!! 普通ありうる人体の蹴り心地じゃなかった!! 気持ち悪い!! あとセイウチってアニマリアに居たの?! てっきり海獣はお魚の国の方かなと思ってた!!


「ち、ちょっと、直接触りたくないなあ……!」


 蹴りくらいならいいけど、手は出したくない。

 襲われている以上、死体損壊は正当防衛だろうけど、腐った死体に素手で触りたくない。腐ってないならともかく!!

 というわけで、渋々ながら制服の下に持っていた、ウルガさんに餞別として貰った短刀をあたしも抜く。

 首を切り落とすなんてのは、ちょっとリーチ的に難しいが。近付きたくない。

 掴みかかろうとしているのか、伸ばされる腕をかわし、二の腕の辺りに一閃。

 骨ごと、7割ほど切られた腕はだらんと下がり、残った肉と皮でぶら下がる。当たり前だが心臓は動いていないのだろう、返り血を浴びる事はなかった。

 腐りかけの筋肉と皮膚では腕一本は支えられなかったようで、肩辺りまで肉を巻き込みどさりと地に落ちる。


「…………」


 反射的にえづきそうになって、死ぬ気で飲み込んだ。

 オルミガさんやユトゥスさんは平然とゾンビ達に切りかかっているけど。

 でも、だめだ。動く死体という存在への生理的嫌悪感以上に、人型の物に対して刃を向ける、という事への慣れも覚悟もあたしに足りていない。

 勿論そんな事言ってられないし、黙ってゾンビにもみくちゃにされるつもりもないから、吐き気を可能な限り無視するけれど。

 それにしても、いったい何体居るのか。20体ほど居たゾンビは、じりじりと後退していくあたし達に足を斬られたりで動きを阻害された物も居るはずなのに、数が減ったように思えない。

 っていうか、足が動かない程度でも、腕さえあればずるずる這ってきている。

 ……夢に見そうだ。


「み、見えて来た! ユトゥスさん、あれ?!」

「そうです! もう少し、気を抜かないで!!」


 うっすら、レオンが生み出した灯りに照らされ、墓地の只中に立っている家の姿が見えて来た。

 口の中を火傷し、ふらふらになっているクルウにレオンが支えている。メルルはまだランタンを大事に持ったまま、唯一きょろきょろと周囲を見渡せたから気付けたようだった。

 ゆっくりと移動していくあたし達に、ゾンビ達はゆっくりとついてくる。

 速度が遅いから、腕で這っているものも結局、追いついてきてるみたいだ。

 ……首を落とせば無力化できるんだろうけど、ちょっと、ちょっとな。

 リーチの長い長剣を持って居るオルミガさんやユトゥスさんなら出来るのかもしれないが、どうやらゾンビ達も自分の最大の弱点は知っているのか、それとも命令側がそうしているのか、首に対する攻撃に対しては防御も回避もしてくる。

 あまり激しい攻撃はしてこないが、動きが緩慢な訳でもない。あたし達よりも、少しだけゆったりとしているくらいだ。

 まあ、家を飛び越えて逃走出来るようなのも居るんだもんな。

 そういう意味では、このゾンビ達はあたし達を殺そうとしている感じじゃない。伸ばされる腕も握られていない、たぶん掴もうとしている?

 捕まえようとしている、のだろう。……材料集めかな?

 ゆっくり、ゆっくりと移動し、やっと墓守さんのおうちに到達、そのノブにメルルが手をかけた。


「あ、開いてないよね、そうよね、……すいません、どなたか! いらっしゃいませんかーー!!」

「居る訳ないです、落ち着いて! ここ現在封鎖区域なんですよ?!」

「あっ、そうだよね、ごめん! えっと、どう開けたらいい?!」


 当然だが、施錠されていた。家の中にも灯りは無い。

 まあ、当たり前というか、こんなゾンビパニックが起こるような場所で平然と在宅されていたら、ちょっと怖い。それ以前に既に昨晩の誘拐事件後、この周辺は封鎖されているのだから、住んでいたとしても別の場所に避難しているだろう。

 メルルのパニックからくるボケは、まあ解らないでもないんだけど。


「入口の右側にある、真ん中の鉢の下に鍵がある筈です!!」


 どうやら、ここの墓守さんとユトゥスさんはかなり親しいお知り合いみたいだ。まさか留守中の鍵のありかを知っているとは。

 だからこそ、ここに避難しようと思ったんだろうけれど。

 メルルはまだランタンを持って居るから手が使えない。レオンはクルウを建物入り口前に座らせて、ユトゥスさんが指示した鉢を手にして持ち上げた。


「……。…無いが」

「ふえ?!」


 果たして、入り口の鍵は存在していなかった。

 驚いたユトゥスさんによる、可愛い吃驚声が上がったが、それを愛でる余裕は全くない。

 場所を間違えたのかと他の鉢も持ち上げてみるが、それらしいものは見当たらない。


「隠し場所、変えられた?」

「いえ、そんな、墓守さんは大分ご年配ですし、上に置くよりは下の方が楽だし、変えるとすぐ忘れてしまうからともうずっとそこに……」


 完全に困惑してしまっている。しかし、あまり迷っている時間はない。

 ゾンビ達はあまり猛烈に襲ってきている訳ではないが、あたし達を囲い込もうとする動きを止める様子もない。

 無理やり開けるか? 今のあたしなら、扉を壊すくらいは。

 ……いや、扉を壊すのは不味い、入り口をフリーにしてしまえば、籠城の意味がない。

 そもそも、壁こそ石だけれど、木で出来たその扉、ガラス製の窓を、ゾンビさん達が破壊して入ってこない保証など全くないのだが……


「ユトゥスさん、ここ以外に安全そうな場所あります?!」

「い、いえ、ここ以外となると、もう墓地から出るしか……」


 まじか。

 ここまでも時間がかかったのに、更に出るとなるとどれだけかかるか。

 ここが墓地区域のどこら辺になのか解らないが、それを決断しかねる所から察するに、かなり遠いのだろう。

 そうだよね、こんなに広い王都の墓地だもんね。相応の広さあるよね。

 この国、なんかもう逐一スケールが大きいんだよね!

 さて参った、進退が極まってる。騎士さん達が来てくれるまで、外でうろつきながら待っているか、いっそここで踏みとどまるか……

 対ゾンビだと、向こうに体力の限界ってものがないから、本当に始末が悪い。


「―――ようし、お前ら、よく頑張った」

「えっ……」

「全員、ちと伏せな。危ねェぞ」


 突如、落ち着いた男性の声が降ってきた。

 その声の言った通りに、反射的に全員がその場で態勢を下げる。

 ひゅ、と何かが空気を斬る音がした。視線だけ上げると、頭上にレオンが作った光を僅かにだけ反射する、何かがあったような気がする。

 誰かが足音もなくそこに降り立つのと。

 ゾンビ達の首から上がずるりとずれて、地面に音を立てて転がっていくのは、ほぼ同時だった。


「ったく。アンスロス国境かっつーの。王都でこんな地獄絵図なんざ、とんだ大事件だな」

「リシッツァ先生……」

「おう。ホントに置いてくなよ、老体に鞭打ってここまで走んの大変なんだぞ?」


 すっかり忘れてた。

 黄色い毛並みのリシッツァ先生は、ご機嫌斜めの様子。まあそりゃそうか。

 着いてくる気があるならこの人なら着いてくると思ってたけど、老体とか言いながら息も切らしてないんだもんな……

 というか、今、どうやってゾンビ達を一気に首狩りしたのか。

 ……気分が悪くなりそうだから、まじまじ見ないけど。


「受信機が頭にあるなら、首を落としゃあ解決だよな、妖精サマ?」

「うむ。そうじゃの」

「対処法を教えて貰えただけでもありがてェこった。さて、騎士達が来るまで…」

「……わらわが知る限りでは、そうであったな」

「あ?」


 過去形……?

 ちらりと見ると、アルメリアの表情が険しい。

 その視線は、首なしになったゾンビ達。

 受信装置が無くなったにも関わらず、まだその場に立ち尽くしている、彼ら。

 それが、突如ぐわっと両腕を上げた。


「うおっと!!」

「え、なに……?!」


 咄嗟にリシッツァ先生はその手から逃れ、メルルも、皆も目を丸くしている。

 ゾンビ達の動きが止まらない。

 だが、今までこちらを補足していたが、それがなくなったようだ。どう見ても適当に腕を振り回し、手あたり次第掴みかかって引き倒しているように見える。

 距離を取ったあたし達ではなく、仲間同士で。…仲間って言うのかなあれ?


「……退避した方が良さそうだな、メルメルちょっと退け」

「は、はいっ」


 まだ終わらなさそうだ、とリシッツァ先生は厳しい顔になると、墓守さん宅の扉の前からメルルを退かせる。

 施錠を確認し、懐から細長い針金状の物を取り出すと鍵穴に刺し込み、あっという間に扉を開けてしまった。

 ……その技術は、何故お持ちでいらっしゃるのか……


「ほれ、入れ」


 当然のようにあたし達を先に室内に入れて、バタンと扉を閉める。

 窓から外を確認するが……頭の無くなったゾンビ達は、相変わらず誰彼構わず腕を振り回して襲い掛かっているように見えた。

 幸い、こちらへ近寄ってくる個体は居ない。

 油断は出来ないが、ひとまず安心、と言っていいかな?


「先生! クルウが口の中を怪我したみたいなんです、診て頂けますか?」

「は? なんでこの状況でそんなとこ怪我してんだ」

「その……ちょっと、アルメリア様のご不興を買ったようで……」

「ほお。命知らずだな、嫌いじゃないが。ほれ、口開けてみろ」


 まだ口を押さえて痛そうなクルウに、メルルが先生へ助けを求めてくれた。

 口の中が見えやすいように、レオンも浮かべていた光の一つで照らしてくれる。

 この間、オルミガさんやユトゥスさんが外を見張ってくれていた。


「こんなもんか。今晩はあんまり喋るんじゃねーぞ、明日になっても痛いようなら医者に行け」

「……」


 またも懐から取り出した薬をクルウの口の中に塗ってくれた。

 痛みが引いたのか、クルウは頷いたあと、深々とお辞儀をする。

 伝説の薬師さん手ずから治療して貰うとか、なかなかない経験をしたね。


「さてとりあえず。メルル、レオン、クルウ」

「な、なあにマリヤ」

「な、なんだ?」

「そこに正座しようか」


 にっこり。

 そこ、とあたしが指さしたのは絨毯の上。

 クルウはともかく、お嬢様にしてご主人様であるメルルや、王太子殿下であるレオンに対して地べたに座れというのは相当な事だが、しかし3人は引き攣った表情で従った。

 ところで、正座で通じるんだね。


「私、言いましたよね? すぐに戻るから、心配しないで下さいって」

「は、はい……」

「リシッツァ先生も確認してくださいましたよね? 私が犯人だという嫌疑をかけられている訳ではない、って」

「そ、そうだな……」

「なのに、なーーんーーでーーーー、君達はこんな危ない事してるかな?!」


 両腕を組み、三人の前に仁王立ちの姿勢。

 あたしの言葉に、三人揃って体を縮こませた。


「メルル!! あたしを心配してくれたのは嬉しいけど!! 妖精魔法を持ってるからっつっても、貴女は戦ったり出来るような子じゃないでしょ!! 二次被害が一番怖い、下手な行動起こさないってほんの数時間前に言ったわよね?!」

「ごめんなさい……」

「レオン!! 友人思いなのは大変良い事だし嬉しいけど、貴方はメルルを止める方に理性を発揮するべきでしょう!! 万一貴方達まで誘拐なんてされたらどうするの!! 下手すりゃ国を揺るがす大惨事でしょうが!!」

「すまん……」

「クルウ!! …いやそもそもなんで君ここに居るのか、どうやって合流したの」

「あ、えーと、外に出た後、わたしと殿下じゃ墓地が解らないなーって気が付いたんだけどね、そこに丁度通りがかったから引っ張り込んで……」

「何度か王都を出入りしたようだし、この間は会った時の話では、この件の噂話に詳しかったからな……」

「つまり一般市民を危険行為に巻き込んだのかあんたらはーーーー!!! 貴族として王族として、如何な物かという理性を少しは働かさんかーーーーー!!!」

「…………」

「そのリアクションから察するに、クルウ自分で首突っ込んだわね?! ほんと君も学習しなさい!! ちっちゃい頃のあれやそれやでいい加減叱られたのを、身に染みてないのか!!」


 昔の誘拐事件の時とは違うんだよ!!

 あたしが心配で行動を起こしてくれたのは大変嬉しいし有難いけど、今回別にあたしには危険が及んでいなかったし!!

 いやまあリンク君達がだいぶ心配だが、おかげさまで騎士さん達との連携がぐっだぐだになってんじゃないか!! どうすんだこれ!!

 ところでヒートアップしたあたしが完全に素で説教してる事に、視界の隅でユトゥスさんがぎょっとしていらっしゃるけど、オルミガさん共々今口を突っ込むべきじゃないな、と空気を読んでくれたようです。


「まあ、ホントその三人は怒られるのは当然だな。メルメルも王子も、山のような反省文で……済めばいいな?」

「あう」

「うむ…」

「あと、自覚してないようだがマリヤ。お前も怒られて然るべきだからな?」


 えっ。

 ぽん、と隣に居たリシッツァ先生が、あたしの肩に手を置いた。

 思わず、そちらに視線を向けると、とても良い笑顔でいらっしゃった。


「グアルダ達と協力して、妖精サマの手を借りて、安全を確保した上で捜索協力をする、って話をしていたよな?」

「は、はい……」

「独断専行、飛び出してったのはお前も同じだ。まあ、お陰でこの通り猪突猛進の子供達が……まあ一部怪我もなく安全な場所まで来れたのは良い事かもしれん。だがそれは、結果論だな?」

「そう、ですね……」

「大人ってのはなあ、結果論ってのが嫌いなんだ。ましてや、子供が自ら危険に身を晒すなんざ、耐えらんねえんだよ。まして将来有望なのが3人も」


 にこにこ笑うリシッツァ先生。

 その目は、吃驚する程笑って居ない。

 ……そうですね。あぶないだろう場所に、後先考えず勝手に飛び出したのはあたしも同じなわけで。

 ついつい、自分が子供である感覚が無いせいか、あまり問題に思っていなかったんだけど。あとアルメリアも居たし……

 本当に今更ながら、自分も決して人の事をとやかく言えない、と自覚し。

 リシッツァ先生は、笑顔でメルルの横を指さす。

 結局、あたしも正座した。







 子供じゃなくても問題行動ですよ。


 ちなみに、リシッツァ先生の武器は糸です。




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