53・和菓子
すっかり冬の気候になり、雪も降り始めた。
こうなると、例によって来年の春までお外でのお弁当タイムは中止だ。
……実は、食堂はある程度なら持ち込みOKなのだが、あたしが作るお弁当が周囲の目に触れて質問攻めだの私にも作ってだの言われるのが、ちょっと厄介なので中止ったら中止。
ペイシェの調味料を多用していたり、この国ではあまりやらない調理法も普通に使っていたりするからなあ…。褒められるのは嬉しいのだが、根掘り葉掘りの質問タイムはもう、いい加減お腹いっぱいである。
ただ、デザートだけは作って持ち込んでいる。
なるべく、あんまり目立たない風体の焼き菓子オンリーだが。
「本当に……、何度食べても、飽きの来ない逸品ですわね」
食後の紅茶と一緒に、クッキーに舌鼓を打つポーラ様が、ほうと息を吐く。
どうも、あれからというもの、例のだだ甘砂糖菓子からは足を洗ったらしく、ただそうなると毎日は食べられなくなった甘い物に、更なる魅了をされている気がする。
……いや、前のアレだって、毎日は食べてなかった、よね。たぶん。きっと。
「特に、果物の砂糖煮を乗せた物が美味しいと思いますの」
「で、ですよ、ね。これが、一番、私も…好き、です」
「わたしはナッツを砕いたのと入れた物も捨てがたいと思います。ねぇ、レオン殿下」
「そうだな。俺もそちらが好きだ」
「あえて何も加えていない物も良いですよね」
もぐもぐしながら焼き菓子談義するこの子らの可愛さったらよ。
お茶請けの筈が、完全に紅茶そっちのけで主役になってらっしゃるが。
「美味しさもですけれど、ケーキ類の飾り付けが美しいお菓子も素敵ですわよね」
「それだな。料理を芸術作品のように仕立てるという発想は、今まで無かったものだ」
「そうですね、勿論美味しそうに盛り付けるという概念はありますけど。リボンのように飾り付ける、というものとはまた違いますし」
…言われてみれば、それって違うものだな。
多分、お菓子自体が嗜好品だからなんだろうね、その辺は。生きるのに必要な、食事ではない。
だから、見た目も可愛らしく愛らしく。彩りや形にも拘って行ったわけだ。
素朴な見た目のお菓子もいいけど、やっぱり飾りに飾られたお菓子って素敵だし。
「あれだけ綺麗なお菓子を、信じられないくらい沢山作り出すのよね。ニンゲンってとっても頭が良くて、オシャレなのね?」
「……そう、ですかね」
あくまでも、それを拘ってきたパティシエの皆様が居るからで、全員がそういうセンスを持っている訳ではないが…
あたしだって、前の世界でいろいろ見てきたり、食べたり、作ったものを基にして、再現したりしているのだから、その辺りはあたしの功績ではない。
フランスとか、ヨーロッパ諸国ってホント、オシャレだよね……
「まあ、謙遜なさらなくても。そんなに素敵なセンスをお持ちの場所からいらしたのですもの、マリヤさんの感覚も磨かれていて不思議ではありませんわ?」
「……」
ポーラ様の言葉に、一瞬激しい違和感を覚え、考え込んだ。
…いや、洋菓子が普通に存在する世界に居はしたが、あれはそれこそ洋菓子、洋風の菓子であって、元日本人であるあたしの地元の品という訳では……
「? どうしたの?」
「あ、いえ。…考えてみれば、本当の意味で出身地のお菓子を作った事は無かったな、と」
「え? どういうこと?」
「…なんと、言いますか。アニマリア国内でも、食文化に地方の独自性があるように、元居た場所にも、それぞれの違いがあったと言うか……」
「ああ、まあ、そうだな。同じ国内でも、採れる食材も風土も違う。それに合った異なる食文化があっても、不思議ではないな」
違う国だったがな!!
…という辺りの話は、説明するにはあまりにも難解なので、濁しておく。
「…という事は、今まで頂いていたお菓子は、マリヤ君の故郷の物ではないのですか?」
「いえ、まあ普通に故郷でも売ってましたけど、そこ発祥のお菓子、ではないですね」
「まあ。…では、マリヤさんの本来の故郷のお菓子はどのようなものですの?」
「とりあえず……見た目があまり、華やかでは、ありませんでした」
いや、勿論華やかで美しい生菓子もあったけども!
あれは特殊な技術が必要過ぎて、あたしには作れないと思う。そもそも手段を知らない。
…基本、白餡に色を付けて形作っていたのだろうけれども。
それを抜かすと、御煎餅とか、御団子とか、饅頭とかおはぎとか、和菓子って基本、見た目が地味である。いや、綺麗なのもあるけど。あるけど!
……まあ、元々が侘び寂びを尊ぶお国柄だしね。当然と言えば当然だ。
が、こういうファンタジーな、要するに洋風な、世界のお嬢様にお出しする物であるのかと言われると、ちょっと躊躇う。
手に入る材料と、見た目への拘りという点から、今まで洋菓子を選んでいたのだ。
「でも美味しいのよね?」
「私は好きでしたよ」
「だったら、食べてみたいわ?」
可愛いあたしのお嬢様からのおねだり。
あたしの故郷のものに興味を抱き、知りたいと願ってくれる事は嬉しい事だ。
大抵のお願いならば、彼女の弟にして親友にして執事として、叶える努力はするが。
「……少々、…この国の食材では、再現が難しいかもしれません」
和菓子と言えば、お餅や餡子からの派生が多い。
が、お米でなく小麦文化だし、餡子は……小豆がない。大豆に近い物があるが、小豆がないのでは、オーソドックスな餡子は作れない。他のならいけるかもしれないが。
アリクイ行商さん、お米も仕入れてきてくれないかなー。あ、でも今回お味噌持ってきてくれたけど、見た感じ米麹で作ってなかったんだよな。多分、豆麹だ。
醤油味噌があるなら、米もあると思ったあたしが浅はかだったか。
どっちにしろ、次回アリクイさんに会えるのは、春になってからだ。また大量に仕入れてきたお醤油の半分ほどを学園祭の時にあたし達が買い上げて使ってしまい、残りもあの味を気に入った人々が買って行ったそうで、早々に再び旅立って行った。
「そんなに、この国と食文化が違うのか?」
「近い物もありますが、違う部分の方が多いですね。こちらが独特過ぎたのでしょうが」
日本は島国だからね、そういう場所はどうしても独自文化を築きやすい。
似た調味料を使う国はあっても、その使い方が違ったりなんてザラだ。
ホント世界的に見ても、和食は独創性あふるる文化だったような気がする……。なんて、何処の国だってそこにあった進化を遂げるのだから、独創性はどこもありありか。
「近い物があるなら、それっぽいものを作る、くらいなら出来る?」
メルルが諦めずに訪ねてくる。
小首をかしげるお嬢様は大変可愛らしいのだが、うーん……
米が無いと、おもち……おはぎとか御団子とか御煎餅とか、その辺りがまるっと全滅だ。
餡子は、まあ似たようなものは作れるだろう。大豆があるのだから、若い豆を使えばずんだ餡もどきは作れる。他にも、豆類を色々試せば餡子に適した豆が新しく見つかるかも。
……ただ、餡子だけあってもな……
加工するとしたら、あんパン…とか……? 激しい和洋折衷だが。
んー、……お饅頭、くらいなら頑張れるか。小麦と、山芋的なものがあれば。ふくらし粉があれば楽なのだがないし、酵母を使うとあんパンだ。
上生菓子とか無理だし。…あれも、餡子だけで出来てる訳ではない筈だ。
こうやって考えてみると、むしろ和菓子の方が知識とレシピ保有数が少ない。今どきの日本人って。…いやもう、過去の話であって、今は日本人ですらないのだけど。
「完全に同じもの、は難しいと思いますが、近い食材でそれらしいもの……でしたら」
「だったら、お願い! マリヤの故郷のお菓子、食べたいわ!」
「畏まりました」
仕方ないね、お嬢様のお願いだからね。
決して不可能ではないし、かなり制限が多いだけで……
メルル以外の皆も期待の目を向けてくるので、ちょっと頑張ろう。
たまには、故郷の味を回顧するのもいいものだ。
最近は味噌汁とかで普通に故郷の味食べてますけど。贅沢言うなら豆腐が欲しい。
――――――
そんな訳で、次のお休みの日に街に出かける。
今回は、エルミン君と一緒だ。……いや、頻度で言えばエルミン君と一緒である事が圧倒的に多いのだが。
レオンには、前の件の後、光と色の関係性をみっちり教えておいたので、今は魔法で毛並みの色を変える練習と、その持続時間の上昇を頑張っている。
流石に、本来ありえない現象を起こそうとすると、かなり疲れるようだ。
……多分だけど、精霊魔法で起こせるのは『その場で実現可能な現象』。妖精魔法ならば、その枠を乗り越え『通常ありえない現象』も起こせるのだろうなあ、と最近思う。
例えば夏でも冷蔵庫状態の箱を造り出せるのは、冬であれば寒いという空間がある、その事実があるからなのだろう。
さておいて、最初にエルミン君に教わって以来、何度もお世話になっている恰幅の良いうさぎのおばちゃんが営む八百屋に来ている。
「…まあ、季節が季節ですから、豆類は保存用の物しかないですよね」
ずんだ餡がどうのなんて思ったが、若い豆がこの季節にある筈がなかった。
冬でもスープに入れたりするので、乾燥させた豆ならあるけども。
……頑張れば餡子に出来なくもないか。めっちゃふやかして、よく煮れば。
きな粉作る方が楽な気もするが、お饅頭にしようとしている時点できな粉じゃあかん。
いっそ揚げパンにきな粉かけて食べた方が美味しい気もする。和菓子じゃないけど。
「豆からお菓子が作れるんですか?」
「そうですね、基本は米と豆と、…あとは芋類ですかね」
「コメ、…は、知りませんけど。芋類でしたら、バタタはどうですか?」
……今気づいたけど、総称は豆とか芋でオッケーなんだ……
個体名は違うのに。いったいなんなんだ。久々に疑問を抱いたぞ。
どうですか、と示したそれは、サツマイモによく似たお芋さん。
あたしの知っているそれよりも、少々小ぶりで色がかなり赤みがかっているが。
これは、カルネイロ領で作られてないタイプのお芋さんだな。
「南の方でよく作られていて、焼いて食べるだけでほんのり甘くておいしいんですよ。小さい頃は、よく食べてました」
「成程。良さそうですね」
値段もお安いし、幼き日のエルミン君のおやつにはうってつけだったろう。
焼き芋にして美味しいなら、あたしが知るサツマイモとほぼ同じだと思う。
あれだ。もう、スイートポテト作……和菓子じゃなかった。そう、餡子と芋があるなら、茶巾絞りを作ろう。
……いっそふくらまそうとしないで、月餅みたいなの作……和菓子じゃない。あれ中華。
一番近いのはきんつばだけど、あれの皮って小麦じゃないよね、あの食感はきっと米粉。
そもそも、饅頭だって皮は大抵米粉である。
……あっ、いっそサツマイモ潰さずに切って、鬼まんじゅうにしてしまおうか
小麦で作ると、どんなに頑張っても蒸しパンに餡子はいったものになる。…おまんじゅう感はあるが。
おのれ、米文化。なんでもかんでもお米使いやがって。食べたい。
「? あ、あの……」
籠に積まれたお芋の吟味をしながら、鬼まんじゅうと茶巾絞りに決定かなと考えていたら、なんだか戸惑ったようなエルミン君の声がして、近づいてきたと思ったら、ちょいちょいと肩を突かれた。
「どうしました、エルミ……」
久々に面倒ないぢめっこにでも絡まれかけたのかと思って、振り返る。
振り返った視界は、6割程度が黒かった。
平面に真っ黒に塗り潰されている訳ではなく、少し歪な円のような形。
つやつやの質感と、どうやって構成されてるのか想像もつかない複眼と、視界上部で揺らめく二本の触覚。
……全く心構えをしていなかった光景に、ふっと意識が遠のいた。
「マリヤ君?!」
「っ!!」
驚いたエルミン君の声で意識を繋ぎ留め、ふらついた足をしっかり踏みしめて、手からすべりおちそうになった乾燥大豆入りの瓶をキャッチする。
ついでに、視線を明々後日の方へ飛ばし、一時的であろう動悸息切れを落ち着かせる為に、呼吸を繰り返した。
「……い、嫌がらせですか、オルミガさん……」
何かと思った。本気で吃驚した。
親しげな足取りで近づいてきて、とんとん肩たたいたから、てっきりエルミン君なのかと思ったが、接近してきていたのはオルミガさんだった。
至近距離でまた蟻さん顔を見せられて、色々死ぬかと思った。
「ううん、違う」
「では、何のつもりで……」
「嫌がらせじゃなくて、悪戯」
淡々としながらも楽しそうな声色で、そんな事を言う。
こっ……このヒトは、ほんっとに心底マイペースだな、ちっくしょう!!
あたしがオルミガさんの顔が苦手な事を知ってて、それに傷つくとかそういうんじゃなくて、それを利用して遊びよる!!
……いや、本当に申し訳ない程の生理的な拒否反応なので、それでしょんぼりされるよりはいくらか良いのだが。
「えと、あの……お知り合い、ですか?」
「うん。マリヤの友達」
「そ、そうでしたか。…あの、エルミンと申します。初めまして…」
「こんにちは。オルミガ、だよ」
ぺこりと頭を下げるエルミン君。
とりあえず、特に二人は知り合いではないようだ。いぢめっこだったら、エルミン君は即座に反応するだろうし。…まあ、オルミガさんが誰かをいぢめるような事はなさそうだが。
そして、やっぱり特にエルミン君にもオルミガさんへの容姿の違和感、ないんだな……
「…今日は、ユトゥスさんは一緒ではないのですか?」
「ユトゥスは、今日は女子会。見回りは僕だけ」
「騎士学校は、お休みの日も見回り当番があるんですか」
「ううん。勝手にやってるだけ」
……そうか。私服だもんね。授業の一環なら、制服着てるか。
何らかの当番は、あるようだったけど。
自主的に街の見回りをしてるのか……。将来有望な二人だなあ、ユトゥスさんは騎士になるのが目標のようだけど、なんだかんだそれに付き合ってるオルミガさんも偉いな。
ユトゥスさんが居なくてもしてるのだから、そこに彼の意志もあるのだろう。…たぶん。
地方の護任兵志望だそうだけど、きっと彼が務めるなら信頼しておける。
……あ、しまったうちに来るの志望なんだっけ。…本気なのだろうか。
「騎士学校の方なのですか。…凄いなあ」
「向いてただけ。君は騎士学校に来なかったんだ」
「え? …ええ、それこそ向いてませんでしたから」
「そっか、残念」
ん?
なんか、唐突に不思議な事を言うから、あたしとエルミン君で首を傾げてしまった。
ただ、オルミガさんの台詞はそこで終わってしまったようで、彼も首を傾げる。
……うん、距離を置いてれば、一瞬ちらっと見るだけなら、なんとか……
「ええと…、…あの?」
「? なに?」
「どうして、僕が騎士学校に行かなかったのが、残念だなんて……」
「来るかなって、思ってたから」
「は、い?」
「すっごく聖騎士様にあこがれてたし」
「はい?!」
あれ??
いや、エルミン君が聖騎士様、……ウルガさんに憧れていた事はあたしも知っているのだが、なんでそれを当然のようにオルミガさんが知っているのか。
吃驚したエルミン君が一歩引く。
吃驚されたオルミガさんは、きょとんとした様子で首を傾げたままだ。
「ど、どうしてご存知なんですか?!」
「君から聞いたから」
「?! …あ、あの、失礼ですが、どこかでお会いしたことが……」
よくこのビジュアルの相手を忘れられるなエルミン君、と言いたいところだが、そこは常識と感覚の相違だから突っ込まないでおこう。
しらない筈の相手に、知られていればそれは驚きと、時には恐怖を抱く。
恐る恐ると言った風に尋ねるエルミン君に、オルミガさんはかくんと傾げていた首の位置を正した。
「8年前の春、騎士団の本部に、『たのもー、ぼくをきしにしてください!』って乗り込んできたの、君だよ?」
「……。…………あああああああ!!」
8年前だと、6歳くらいの頃…?
さらりと告げられた言葉に、エルミン君が突如両手で顔を抑えて蹲った。
…オルミガさんと思い出したというよりは、恥ずかしい子供の頃の思い出に恥じ入っている様子だ。
「『せーきしさまのでしになるんです、あわせてください!』って、もう居ないんだよって皆で言っても聞いてくれなくて」
「ちょ、やめ、やめてくださ」
「どこかで拾った棒切れを、腰にさして『ぼくのけんです!』ってドヤ顔してて」
「ほんとやめてーーーー?!!」
あ、敬語外れた。
いや、その年頃なら、決して恥ずかしい事では……うん。
聞いてる分には微笑ましいお話なのだが、それを知らない筈の第三者に、屋外で言われたらそりゃあ泣きたくもなるわ。
「な、なんで知ってるんですか?!」
「会ったでしょ?」
「どうして貴方が騎士団の本部にいらっしゃったんです?!」
「兄さんに、差し入れ届けに来てた」
あ、お兄さんが居るんだ。そして、その頃もう騎士になってるということは、結構年が離れてるんだなあ。
「その後、兄さんと一緒に、家まで送ったよ」
「そ、そんな事、ありました、っけ……」
「最初ぶすくれてたんだけど、聖騎士様好きなの、って聞いたらその後は嬉しそうにいっぱい語ってくれた」
「うああああああああああああああ」
ど、どんまいエルミン君!! 子供のする事だ!!
たぶん、忘れようとして忘れてたな、その記憶は。
成長するにつれ、恥に気付いてしまって、記憶の隅っこに追いやってしまったのだろう。
「……だから、騎士学校入ると思ってた。居なくて吃驚した」
「そ、そそ、そうでした、か……」
「友達になれると思ってたから、ちょっと残念」
ああ、さっきの残念って言うのは、そういう事か。
確かに、エルミン君も基本真っ直ぐないい子なので、オルミガさん好みだろう。彼の事情を知っても、遠巻きにしたりあらぬ邪推を、…一瞬はしても、友達の言い分を信じるだろうな。
「それはその、…すみません。先程も申し上げた通りに、やっぱり僕には、武器を扱う才能があまりにも無くて……」
「そう」
なんとなく申し訳なくなったのか、謝るエルミン君に、返す言葉は割と無味乾燥。
…まあ、そういうヒトなんだけどな。良くも悪くも、言葉にあまり装飾しない。
ついでに空気を読んでるんだか読めてないんだか、本当によく解らないが…
「…別に、友達になら、今からでもなれば良いのではないですか?」
オルミガさんのマイペースに、エルミン君が振り回される未来しか見えないが、ただ気が合わない訳ではないだろう。
基本、オルミガさんは良いヒトだ。とても、良いヒトだ。
エルミン君も、そこは同じ。
ただでさえ、エルミン君は友達難民だし、……いや最近は普通に学校に仲良いヒト居るけども、友達が増える分には良い事だろう。
「え、でもその、僕と友達になっても……」
「いや?」
「いえ、僕がいやというか、その、特にオルミガさんに出来る事が……」
「友達って、得があってなるもの?」
かくん、とまた首を傾げるオルミガさん。
本当、彼の言葉は直球だ。たまに直球で端的過ぎて解りづらい事もあるが、こういう時には大変解りやすい。
引っ込み思案というか、少々他人への遠慮が強いというか。その辺でもじもじしてしまうエルミン君に、オルミガさんはズバズバと正論を返す。
問われた言葉に、あー、とエルミン君は考えて。
「……そう、ですね。友達って、そうじゃないですよね」
「うん。とりあえず、会ったら挨拶して、お話して、気が向いたら一緒に遊ぶとこからね」
「は、はい。宜しくお願いします、オルミガさん」
なんとなく、成立したらしい。
お互いに右手で握手する2人に、なんとなく和む。
和むよ、…オルミガさんの顔さえ見なきゃな!!
「それにしても、本当に、よくそんな小さい頃の事、正確に覚えてますね……」
「覚える事は得意だから」
「…勉強より、喧嘩が得意って言ってませんでしたっけ」
「うん。死角から殴ると、だいたいのヒトは驚いてひっくり返る」
「死角……」
「脇腹とか、組み合った時に」
組み合った状態で、脇腹を殴る……?
矛盾する言葉に、一瞬考えたけれど、数秒後に察した。
そうだよね。中身はアニマリア人だけど、外見はアルフォーダ人。
即ち、服に隠れて見えないが……オルミガさんには、腹部に他にも腕があるのだ。
なるほど、そんなところに隠し腕が。そりゃあ、組み合った時、滅茶苦茶有利である。喧嘩が強いって言うのは、そういう所に理由があったのか……
武器を使った戦闘でも、接近してしまえば鍔迫り合いしてても思わぬところから攻撃が来るって訳だ。
……それは、ある意味闇討ちではないだろうか…
「でも、勉強が嫌いな訳じゃない。こう見えて、結構物知り」
「そうなんですか? あ、じゃあマリヤ君が探しているコメ、っていうのも知ってます?」
「? どういうもの?」
「ええと、元の状態は小麦に似ているのですが、中が透明がかった白で硬くて、これくらいの小粒で、炊く……いえ、煮たり炒めたりして食べる、穀物類なのですが」
言葉での説明って難しいな。
ただ、とりあえず炊くという調理技術はこの国には無いし、お米のある国だって無い時がある。
ざっくり説明すると、オルミガさんは一度両手を組んで考え込んで。
それから、顔を上げてあたしを見た。
申し訳ないが、視線を合わせられてはいないけど、気にした様子はない。
「食べた事はないけど、知ってる」
「本当ですか?!」
「うん。確か、アルフォーダの主食」
ぶは。
オルミガさんの言葉に、思わず両手で顔を覆った。
そっちか。そっちだったか!!
ペイシェがなんとなく日本食気味の文化っぽかったからあっちかと思ってたら、そっちでしたか、考えた事もなかったわ!!
「え、アルフォーダは小麦やパンを食べないんですか?」
「うん、あまり育たないんだって。代わりに、山間に段になるように畑を作って、水を流して育ててる。煮て食べるらしいよ」
……そうか、棚田があるんですか……
そして、見た目がアルフォーダ人であるオルミガさんが、その辺を気にして、…気にするかちょっと怪しいが、その辺の流れで向こうの文化を調べても不思議じゃない。
ただでさえあの国、およそと交流を殆ど持たないらしいし……
「でも、殆ど外と貿易しない国だから。輸出も、されてないんじゃないかな」
「そう…でしょうね……」
お米さんはハードルが高かった。
いや、物凄く頑張れば手に入るチャンスはあるのかもしれないが。
その為に、アルフォーダの国のヒトと交渉しろなんて言われたら、あたしは全力で拒否するだろう。
オルミガさんでさえ、目を合わせられないんだ。
そんな交渉を、相手の顔を見ずに平和的に行うなんて、不可能である。
どうすんだよ!! そんな席にクモとかムカデとかダンゴムシとか、あのあれとか出てきたら!! 逃げ出すわ!!
「……その件については、忘れます…」
「残念だったね」
おおよそ想像はついているのだろう。オルミガさんは理由を聞かずに納得する。
大丈夫、大丈夫ですよ。
お米なくても、生きていけるもん……
和菓子もどきは、米ないと難しいから、今回だけにさせて貰おう……
尚、何度か試作してからお出しした、鬼まんじゅうとお芋の茶巾絞りだけども。
「確かに、今までのお菓子とは違った風味ね! このお芋も初めて食べたわ!」
「カルネイロ領には無かったものね」
「なんというか、これまでの物よりも、素材を大事に生かしているな。これも良い」
「ええ、本当に。見た目は確かに、地味と言いますか……荒削りですけれど」
「はい、でも、…この方が、食べやすいかも、です」
「あんまり綺麗だと、崩すのが勿体ないですからね」
そこそこのご好評は頂けた。
お菓子類は草食系のメルルはやっぱり好きみたいだね。
綺麗に綺麗に飾った洋菓子はおもてなし向けだけど、あたしが作れる程度の和菓子は、普通に食べる向けというか、それこそのんびり時のお茶請けにいいのかもしれない。
…ただ勿論、使ってる砂糖の量は洋菓子も和菓子も大差ないから、どっちにしても食べ過ぎ厳禁な事に変わりは無いけど。
和菓子のハードルの高さよ!!!
ちなみに、ペイシェにもお米はあるのです…
ありますが、いわゆるインディカ米であり、マリヤさんが求めるジャポニカ米はアルフォーダの主食なのでありました。
マリヤさんが大変な事になるので、行かない。




