52・新しい友達
「マリヤ?!」
「っは、……どわ?!」
一瞬、本気で意識が飛んでいた。
レオンの声に気を取り直したが、サイのひったくりを拘束していた力も緩んでしまったのだろう。その隙を突いて、オッサンは力ずくで上に乗っていたあたしを振りほどく。
幸い、レオンが咄嗟に背中を支えてくれたので、後方に転がって頭を打つ事は無かった。
サイは再び立ち上がり、走り出そうとする。……が。
「オルミガ!」
「ん」
今しがた声をかけてきたと思しき2人。チーターさんは鋭い声を、虫……多分蟻さん、は簡潔かつ冷静な声を上げた。
パっと素早くサイ男の両脇に回り、2人でそれぞれ両腕を捕えて、ひったくりは地面にキスするハメになった。
そしてぎゃーぎゃー喚くオッサンを無視して、ポシェットから取り出したロープでさくさくと拘束してしまう。
その手馴れた様子と、先ほどの見事な連携に感心する。
あたし達の動きを素人じゃないなんて言ったが、彼らはそれどころか、殆どプロの動きだ。拘束用具まで持っているし。
年の頃は、声から察するにそう変わらない、成人前の子供だと思うのだが。
「っあ」
「? どうしました、レオン」
あたしの後ろに居たレオンが、急に小さく声を上げた。
振り返ると、とても……まずい、というか。ばつの悪そうなというか。そんな様子。
「…すまん、多分、女性の方は知り合いだ…」
「……え、そうなの?」
「ハッキリとは覚えていないが、確か……前騎士団長の、孫だった筈…」
ぼそぼそ、と小声でやり取りし、視線を前方に戻す。
てことは、少なくとも女性の方、……どっち。…いや、先程の声から察するに、虫じゃない方……ゴホン、チーターさんの方がそうなのか。
一国の王子たるもの、臣下であるヒト達の顔はある程度覚えているだろう。
果たして、バレたら親に張り倒されるような変装をしているレオンを、彼女は見破ってしまうだろうか。その辺りが心配になったようだ。
……あれ、前騎士団長って確か、ウルガさんの才能見出して後見人になってくれたって、そんな話を前に聞いたような。…いや、今はいいや。
「こんなものですね。すみませんがそちらの女性……と、君達も。少々ご同行願えますか。騎士団の詰所に行って、事情を聞かねばなりません」
「はい…解りました」
ひったくられたトナカイさんは、素直に応じて頷く。
あたしとレオンは、一端顔を見合わせた。
騎士団。
要するに警察みたいなもんなのだが、騎士団にまで行ってしまうと、色替えしていても、レオンの事を見破るヒトが出てくるのではないだろうか。
少なくとも、今ここに居る彼女は、パっと見でレオンが王子様だと気付いてないようだが……
「大丈夫。君達は悪い事をした訳じゃないから。こういう事がありましたって言って、そっか有難うね、って。言われるだけで終わるよ」
即答しないあたし達に、オルミガ…と呼ばれた蟻さんがこちらを見て、涼やかな声でそんな事を言う。
……唐突なのだが、皆様。普段はまじまじと観察する事はないだろう昆虫というものを、虫眼鏡とかで拡大し、じっくり眺めた事はあるだろうか。
どうにも虫というものは、動物とは全く違う進化を遂げた生き物である。
つややかな外骨格とか。小さな目がいくつも集まった独特な複眼だとか。こちらを伺っているのだろうゆらゆらする触覚とか。繊毛の生えた手とか、しかもそれが複数あるとか。ぎちぎちという擬音が出そうな、顎とか……っ!!
無論、昆虫好きな人が見れば、可愛い要素なのかもしれない。
ただ、少なくない人間が、それをじっくり見てうわあって思った経験があると思う。図鑑とかで。
残念ながら、あたしは後者の人間だ。
そして、そんなあたしの前に、等身大の虫がいる。
ちょっと想像してみて欲しい。昆虫が人間大なんですよ? ちょっとしたパニック映画に出てきそうな巨大な昆虫が、歩いて喋ってこっちを認識して、見てるんですよ?
思わず意識も遠のくってものですよ。
「?! マリヤ、どうした!」
「は!! …す、すみません、ちょっと眩暈が」
すぐ後ろに居たレオンに肩を叩かれなければ、今度こそ倒れてた。
微妙~~~に蟻さんから視線を外し、呼吸を整える。
……誤解しないで欲しいが、虫が居るからと言って、ぎゃあぎゃあ騒いで逃げ惑うタイプの人間という訳では無い。
ただ、人間大にまで拡大されて、それを真正面から見たら、大抵のヒトは動悸息切れくらい起こすと思うのだ。たぶん。
いや、冷静になれ。相手は、ヒトだ。多分、アルフォーダ出身のヒトだ。虫じゃないんだ。虫であったとしても、蟻ならまだマシだ。そうクモやムカデや、ましてや名前を出すのもおぞましい、あのあれじゃないだけ、相当マシだ。
レオンよりもよほど挙動不審になったあたしに、蟻さんは首を傾げ……視界の隅で薄ぼんやりと確認、…それから、サイを立たせたチーターさんの方を見た。
「ユトゥス。そのヒト、僕が連行するから。あっちのヒト達、付き添ってあげて」
「え? 構いませんが…」
「たぶん、そっちの方がいいと思う」
蟻さんは、とてもゆったりと喋る、涼しげな声の少年であった。
恐らく、あたしの挙動がおかしい理由が自分なのだと、理解したのであろう。ユトゥスと呼ばれた少女からサイを拘束している紐を受け取って、あたし達の方を宜しくと頼む。
……あああああ、良いヒトだ。空気が読める上に配慮も出来る、物凄く良いヒトだ!
本当にすいません! 心からすいません!!
でも、かつてウルガさんの牙に腰を抜かした以上の衝撃が、どうしても!!
「大丈夫ですか? もしかして、体調が悪いのでしょうか」
「い、いえ。…すみません、大丈夫です……」
「本当か? お前がそんな風になる所など、初めて見たぞ?」
「あの、もしやあの男性に、怪我でも…」
「なんでもっありませんのでっ。ホントにっ」
ユトゥスさんとレオン、そしてトナカイさんにまで心配されてしまった。
が、流石にあの蟻さんに生理的嫌悪感で背筋がぞわぞわしてるなどとは、間違っても言えない。失礼に過ぎる。ただでさえ、ユトゥスさんは彼と親しいのだろうから、愉快な気分にはならないだろう。
ホント油断した…。アルフォーダのヒトは、そうそう滅多に国から出てこないって言うから、心構えも何もしてなかった。なんでここに居るのさ!
…って、待て。そうだ。グイノス先輩の例がある。別の国のヒトの姿をしていても、普通にアニマリア人という可能性があるのだ。
滅多に国から出なくても、変わり者の一人や二人、居ないという保証などない。
かつてそういうヒトがこちらに移住した可能性は、充分にある。
「お疲れ様でした。…それにしても、お手柄ではありますが、やはり子供があのような無茶をするものではありませんよ。怪我をしたらどうするのです」
騎士団詰所にひったくりを引き渡し、確かに蟻さんの言う通り事情を説明して、お手柄だったねーと微笑まれただけで、あたし達は帰って良いとの事だった。
尚、対応してくれた、やっぱりわんこ系の騎士さんも、レオンの事には気付かなかった。
結構レベル高い変装なんだなあ、これ。
で、4人揃って詰所から出た時に、改めてチーターのユトゥスさんに、めっとばかりに言われてしまった。
「一応、怪我をしない確信があったからやったのだがな…。俺達だって、普段学院できっちり武術を教わっている」
「あら…王立学院の生徒さんでしたか」
「貴方達こそ、私達と同じくらいの年ごろにお見受けしますが?」
「僕らは、騎士学校の生徒だから。ああいう対応、慣れてる」
へえ。そうか、この二人は騎士学校の子供か。そうだよね、前騎士団長の孫、つまり貴族は貴族でも軍人貴族の子な訳だ。道理で、レオンと知り合いなレベルの子だというのに、学院に居ないわけだね。
…いや、ユトゥスさんの方ね。蟻さん……オルミガさんの方は、一度でも見かけて居たら、嫌でも覚えてる。
詰所から元の通りに戻る大きな道を、なんとはなしに4人で歩く。
出来れば早く別れたい。って、言うのも失礼だから言わないが。
「とはいえ、本当にマリヤ、あの時どうしたんだ? お前があのタイミングで拘束を緩めるなんて、らしくない」
「あ、……いえ、その、…そちらの方の」
「オルミガ」
「え」
「オルミガ、だよ」
「……はい。オルミガさんが、初めて見るお顔で、ちょっと吃驚してしまって」
「ああ。彼はちょっとこの国では珍しいですから。初めて見た方は、驚かれる事もあるかもしれませんね」
「そうか? 確かに変わっているが、何処に驚けと…?」
この世界のヒトの、驚きのハードルが解らない!!
いやまあ、多種多様すぎる姿の中に生きてるから、毛が無くても外骨格でも複眼でも、『ちょっと変わったヒト』で許されてしまうのか。
それにしたってレオンの懐の広さはあたしには異次元だよ! 流石だな王子様!!
「心配しないで下さい、ちょっと見た目は珍しいですが、……ああいや、ペースも独特ですが、決して悪い男ではありません。それに、珍しいなら貴方だって……」
ひょい、とユトゥスさんがあたしの顔を覗き込む。
…ああ、まあ、そりゃそうか。変わってるという意味なら、あたしなんか世界規模での珍獣だ。アルフォーダには虫さんいっぱいいるんだろうしな……辛い。
そんな事を思っていたら、ユトゥスさんが怪訝そうな顔であたしをまじまじと見てきた。
ん? と思っている間に横から覗きこんでいたのが、真正面に回り。じぃぃぃぃ、っとあたしを凝視する。
「…あの、何か?」
「……頭部のみの金の毛並み、他は毛のないすべらかな肌、…角も牙も爪も無い身体…」
ぶつぶつと、何か言っている。
やがて、彼女はがしっとあたしの両肩を掴んだ。なんだ、どうした。
「貴方! もしや、ニンゲンなのでは?!」
「は? …はあ、そうですけど……」
「なんてこと……! まだ生き残りの、しかも子供がいただなんて!! 早く騎士団に戻りましょう、一刻も早く報告して、国王陛下にお伝えしなければ!!」
「え、ちょ、…はい?」
「ちょっと待てどうした、突然」
「何が突然ですか! 既に滅びた筈のニンゲンが生き延びて、それは僥倖ですがこんな所をふらふら出歩いているなんて、いつ善からぬ事を考えた者にさらわれるか!」
「ユトゥス」
「すぐにしかるべき保護を受けるべきです! ああすみません安心して下さい、決してそのような愚か者ばかりの国ではありませんからね! 国王陛下は慈悲深く寛大な方です、きっと貴方を護って下さいま」
「ユトゥス、落ち着いて」
べしっ!
今にもずるずる引きずって行きかねない勢いのユトゥスさんの脳天に、オルミガさんのチョップ、…多分チョップ、が入った。
一気にヒートアップしたユトゥスさんに比べ、彼はとても冷静だ。
……アニマリアの人達に輪をかけて、まっっっっったく表情が解らんがな! いや、そもそも直視が出来ないがな!!
「なんですか、オルミガ」
「今更、保護する意味がない」
「何を言ってるんです?! 彼は……!」
「金の毛並み、青い瞳の、王立学院の生徒で、マリヤって呼ばれてた。……たぶん、カルネイロ領に住んでるって、噂の子。ユトゥスが教えてくれたんでしょ」
「え? ……あっ」
全く動揺を感じさせない、淡々とした説明に、ヒートアップしていたユトゥスさんはやっと思い当った、とばかりに声を上げて、あたしの腕を離してくれた。
なんというか、物凄く手馴れた感のあるやりとりだ。…きっと、真面目かつ親切心の強いユトゥスさんの善意の暴走を止める事は、いつもの事なのだろう。
…ところでそれ、噂になってるのか。
「し、失礼しました! 新年祭で陛下とお話なさっていた、あの時の方だったのですね……」
「え? …お会いしたことが、ありましたか?」
「いえ、私は遠目で見ただけです。去年の王都の新年祭に出席していましたから」
ああ、そうか。貴族というか騎士の家の子で、あの時居たのなら、あたしを知っていて当然か。
例えお嬢様でも、そういう血筋だと騎士を目指すもんなんだなあ……。いや、別に女性騎士が居る事も知ってたけども。決して、少なすぎはしないんだけども。やっぱ男のが多いが。
「貴方はもう、陛下がこの国の民だと認めていらっしゃいますし、寄るべき所も存在するのですよね。…とはいえ、やはり用心して頂きたく思います! ご友人もその辺り、少し気にして進言して差し上げて下さい!」
「えっ、…あ、ああ。すまない」
お姉さん、その人あたしよりも守護優先順位高いであろう王子様!!
…とは、間違っても言わないし、この口ぶりから言って彼女はレオンを見知った王子だと気付いてないと確信が持てたので、良しとしておこう。
「ユトゥス」
「なんです?」
「お昼」
「は、……ああ、そうですね。そういえば、昼食にしようと言っていましたね」
「ああ、俺達もそうだったな。とんだ邪魔が入ったものだ」
そういえばそうだ。小腹がすいた、程度だったお腹は、もう完全に空腹を訴えている。
4人ともに育ちざかりの食べ盛りだろうから、オルミガさんも単刀直入に言ってくるのも解る。
「ならば、俺達はこれで……」
「あ、待って下さい! …宜しければ、ご一緒しませんか?」
え……
という、明らかに戸惑った声を上げかけて、必死で抑えた。
別に嫌じゃないんだ。ただ、一緒をする理由がないし、何よりも、なるべく視界に入れないように努力はしているが、どう足掻いてもちらりと入ってくる黒い蟻さんが…
か、顔を見なければ、人となりは決して嫌なヒトではないのだが。
「先ほど、彼……マリヤさんの、腕を掴むなどと失礼をしてしまいましたし、お詫びにランチをご馳走させて下さい。…それに、少々王立学院の生徒さんのお話を、聞きたいと思っていて……」
「…ふむ?」
「あ、勿論ご迷惑でしたら、無理にとは言いませんが!」
別に迷惑でもないし、無理でもないのだが。
旅は道連れ、いや旅ではないか。同年代の子供と気安く接することが出来る時間は、レオンは喜んで歓迎するだろう。
……問題があるとすれば、ちょっとあたしの精神が摩耗する事だけだ。
「俺も騎士学校については聞いてみたいな。構わんぞ、マリヤはどうだ?」
「……貴方が良いのでしたら、私も構いませんよ」
と、言うしかない。素直にきっついと感じている理由を言う訳にもいかない。
あと、騎士学校がどんな感じなのかは、ちょっと興味がある。
存在は知っているが、学院と交流があんまり無いから、ある事しか知らない。同じ年頃の子が通う、同じ王都の中にある学校なんだから、交流くらいあってもいいのにね?
…あっちも完全寮制なのかなあ。
「では、行きましょう! 最近出来た店がここの近くにあります、美味しいんですよ。うちの学校で評判なんです」
「ああ……、いや待て。そちらのオルミガ殿の是非は問わなくても良いのか?」
「彼は大丈夫です。こういう時の返答は、決まってますから。ねえ?」
「うん。どっちでもいい」
「…イエスとは言っていない気がするが」
「ノーとも言いません。基本、『やるべき事』はきちんとやりますが、それ以外の趣味嗜好を殆ど出さないヒトですから、気にしないで下さい。本当に嫌がっては居ませんので」
ユトゥスさんの言葉に、オルミガさんはうん、と頷く。
…もういっそ、あたしがドン引きしてる事には気付いてるだろうし、それにマイナス感情を抱かない筈がないだろうから、ノーと言って頂けた方が助かるんだけどな…
顔がしっかり見れないので、本当に気分を害してる訳じゃないのか解らん。
……見た所で、解らないかもしれないが。
だって虫さんの表情とか、どう判別すればいいのさ! メルル達動物系の表情読み取れるようになるのだって大変だったのに!!
――――――
ユトゥスさんに案内されてやって来たのは、王都でも珍しいビュッフェスタイルのお店だった。いわゆる食べ放題?
なるほど、騎士学校とか確実に体育会系だろうし、たっぷり食べてたっぷり動くヒトが多いだろう。こういう店が人気があるのも、なんとなくわかる。
学院と同じく、騎士学校も今日がお休みのようだ。店は若者がとても多い。それでも、見覚えのある顔は殆ど見ない。
……いや、そもそも今でもクラスメートくらいならまだしも、ただの同学年とかレベルだと、あたしにはそもそもアニマリアのヒトの個体識別も怪しいんだけどもね……
「改めまして、騎士学校2年のユトゥスと申します」
「……同じく、オルミガ。…です」
思えば、きちんと自己紹介すらしあっていない。
席に案内され、持ってきた料理に手を付ける前に。ユトゥスさんが先に名乗りを上げ、それにオルミガさんも続く。
ただし、オルミガさんは既に食事を始めてしまっているが。無論、食前のお祈りはしていた……かなり短かったが。
「王立学院、貴族科2年のレオンだ」
「私は使用人科の2年で、マリヤです」
ユトゥスさん達が家名まで名乗らなかったことを、確実にレオンは安堵しているだろう。
そのままの名前でも大丈夫なのかもしれないが、家名まで偽る事は難しい。ましてや、国を守る前騎士団長の孫娘だ。英才教育として、主要な貴族の名くらいは覚えているかもしれないのだから。
あたしの名前は流れで知っていただろうが、レオンは今初めて名乗った。
その事に、きょとんとユトゥスさんは目を丸くして……すぐに、表情を戻す。
「先程は、本当にお二人に失礼を申し上げました。あまつさえ無理にお誘いをしたのに応じて頂いて、大変恐縮です」
「いいや、これも一つの縁だろう。おかげで、俺達の知らなかった美味い店も紹介して貰えたしな」
「有難うございます。流石はレオン殿下と同じ名前を持つ方。とてもお優しいのですね」
……バレないんだなあ……
これはもう大丈夫だと、レオンも確信したのだろう。名前を名乗っても、ユトゥスさんが斜向かいに座る相手が、本当に王太子殿下だとは気付いていないようだ。
とても真面目かつ思い込んだら一直線のヒトなようなので、もしも気付いていて気を遣って居るのだとしたら、もうちょっと硬くなるだろう。
「はは……、…いや、まあ。同じなのは名だけで、殿下の人となりが俺に加護を齎す訳でもないのだが…」
「いいえっ、私の知る限りではその名を持つ貴族で性質の悪い男は居ません! それもこれも、殿下のご立派なお姿を目にし、その名を穢すまいと皆努力するからです! 即ち、殿下が素晴らしい人徳をお持ちという証拠!」
「……あ、ああ、そうかな」
大変、このお姉さん、もしかしなくてもレオン信者ですね?
目をキラキラ輝かせて語るチーターさんに、当の本人は軽く引いていらっしゃる。
そして、隣でキラキラしているご友人に、一切目もくれずもくもく食事をするオルミガさんは、おかわりをすべく席を立った。……マイペースだなあ。
「マリヤさんは、レオン殿下のご友人と聞いておりますが、本当なのですか?」
「ええ。恐れ多くも、親しくさせて頂いております」
「あの、宜しければ……少し、学院での殿下のご様子を、お聞かせ願えませんでしょうか」
そして、こちらはお食事そっちのけでレオンの事を聞きたがるお姉さん。
……あっ、学院生徒で話が聞きたいって、そういう。
「……申し訳ありませんが、あまりプライベートなお話を彼が居ない所でするのは、少々品が無いかと思いますので」
いるけどさ。そこに。いるけども。
ここで、当人の目の前で、知らないからと恋話に花を咲かせたら、流石にちょっとレオンのメンタルに気の毒である。公開処刑にも程があるよ。
あたしが大したことがないと思っても、どこにどう食いついて空想に浸ってしまうか解らないし。
ので。
「日常のささやかなお話でしたら、こちらのレオンにお聞きした方が宜しいかと」
「は?!」
「クラスメートでしょう?」
現在、貴族科2年は1クラスしかない。
となれば、そう名乗ったここに居るレオンさんは、王太子殿下のレオンと必然的に同じ教室で学ぶ1人という事になる。
あたしは使用人科だし。お友達だし。
「いや、それはそうだが、……俺は、あの方、と同じ友人を持つというだけで、…別に、その、交流があるという訳でもなく……」
しどろもどろのレオン君である。
ていうか、同じ人間の友人持ってるレオンという名のヒトが二人存在してる、という事実に何か思わないのだろうか。
「そうですね、同じ教室に同じ名の方がいらっしゃるというのは、不便な事もおありでしょうね…。しかも、お相手があのレオン殿下ともなれば…」
思わないようです。
よっぽど、よっぽど毛染めって有り得ない事なんだねえ!!
「ホント。そんなに殿下が好きなら、学院に入れば良かったのに」
ふらり、とおかわりから帰ってきたオルミガさんが言いながら着席した。手には一回目の倍の量盛られた皿が二つ。
よう食べるな、お兄さん……
「そういえば、レオンに恋焦がれて学院に押し寄せたお嬢様も多いですよね」
「いっ、いえその、恋焦がれてるだなんて、恐れ多い……」
「充分そうだと思う。ちっちゃい頃から、ずっと好きだって言ってたじゃない」
「オルミガ!」
ん? それは、小さい頃の話を聞いた事があるのか、それともお二人が小さい頃からの幼馴染という事なのか?
毛並みで解らないが、恐らく赤面しているユトゥスさんと、けろりとさらりと言い放ち、全く動揺を見せないオルミガさん。
まあ、相当気心がしれた友人なのは間違いない。
「5歳くらいの頃、殿下のお嫁さんになるんだー、って。それでお兄さんにからかわれて、泣いて怒って」
「こんな場所で言う事じゃありません!!」
ばしっ!!
とうとう、淡々と語られる幼少時の話は、ユトゥスさんの後頭部殴打によって止められた。
勢い余ってオルミガさん、パスタの中に顔突っ込んでるけど……、大丈夫だろうか。
と思ったら、無言で起き上がり、ナプキンで顔を拭いて、今しがた顔を突っ込んだパスタを食べ始めた。…強い。
やっぱり幼馴染同士のようだ。もう本当に、息が合ってるというか、遠慮がない。
「ですが、本当にそれならば、学院に何故入らなかったのですか?」
騎士の家の子、軍人貴族とは言え、決して不可能ではないだろう。
他に後継ぎがいないのなら別だが、オルミガさんの口ぶりから察するに、ユトゥスさんにはお兄さんがいる。
ならば、他の子達のように貴族科や、少し遠くても役人科などでも、レオンに近づくチャンスを作る事は出来ただろうに。…近づけるかどうかは別として。
決して幼い頃だけの話ではなく、彼女は今でもレオンが好きなのだろう。恋愛感情なのか、信者的な何かなのかはおいといて。
重ねて尋ねれば、彼女はちょっともじもじして。
「……少し、考えなかった訳ではないのですが。ただ、私はレオン殿下が好きですが、きっと殿下は私を認識していらっしゃいませんし……。決して騎士の子という身分で王族と恋におちて良い訳ではありませんし、ポーラ様を始めとする皆様を押しのけて……なんていう自分が、全く想像できませんでしたし」
恋愛関係では、ぐいぐいいけないタイプのようだ。これも、真面目故か。
もじもじと両手指を動かす姿は、大変可愛らしいのだがな。
「色々考えて。私は私の一番得意な分野を高めて、騎士として修業を積んで、王家にお仕えして。国と民を護る事こそ、私が殿下に出来る唯一なのかな……と、思いましたので」
えへへ、と照れくさそうに彼女は笑う。
恋が敵わぬからと、後ろ向きになって騎士を選んだ訳ではない。
それが、自分が恋しい人に出来る最高の事だと信じて、今の道を選んだ。
そうそう出来る事じゃない。若いうちの恋ってのは、大抵自分の居場所や周囲を忘れて暴走しがちだ。
真面目で理性的な彼女らしく、…そして、素敵なヒトだなあと思った。
「ちょ、ちょっと私もおかわり頂いてきます」
照れ照れしたまま、まだ少々残っているお皿を手に、ユトゥスさんも立ち上がる。流石に照れ臭すぎたのだろう。
そして。
「……ちょっと外す」
「お手洗いですか」
「そんなところだ」
ユトゥスさんが席を立って、すぐにレオンも立ち上がった。手に皿は持っていない。
どうやら、こっちも死ぬほど恥ずかしい様である。そらな。
だいたい、レオンにフラグバリ3で立てているご令嬢達は、猛烈な自己アピール、熱烈な愛情表現。ダンスのお相手を、プレゼントを、恋文を、とそういう方向が多い。
だからこそ、そういう物に見慣れてしまい、若干辟易していたレオンはそれらが無いメルルに惹かれている。
……そこへ、自らに好意を持ちつつも、最も役に立つ事を選び影から支えたいという奥ゆかしい恋心に初めて直面したのだ。なかなかの横合いからの全力殴打。
うん、レオン。彼女、いい子だと思う。
まだメルルと付き合ってる訳じゃないし、ユトゥスさんと付き合っていいんじゃないかな。
さっきのを恋する殿下御本人の目の前で言ったなんて知ったら、彼女大暴走してしまいそうな気がしないでもないが。
「…………」
「…………」
ユトゥスさんとレオンがいなくなってからしばし、はたと気づく。
……やっべ、今あたしとオルミガさんの二人しかいないじゃないか、このテーブル。
相変わらず彼は黙々と食べている。こちらを見ては、…いるのかいないのか、そっちに視線をあまり向けられないのでよく解らない。
ただ、死ぬほど気まずい。…と思ってるのはあたしだけか。
どうしよう。そっとあたしもおかわりに席を立とうかしら。
「怖い?」
「えっ、はい?」
「僕の事」
突如、何の前置きも無く切り出されて、完全に虚を突かれた声が出た。
思わずそちらに視線を向けそうになったが、すんでで胸の辺りまでで止める。
……嗚呼、服を着ていてくれてよかった。昆虫特有のあの、解る人には解って頂けると思うのだが、あの腹部! 腹部が見えなくて良かった!!
じゃなくて、なんだ。
何故突然そこを突っ込んでいらっしゃるのか……
「怖いという程ではありませんが」
「じゃあ、苦手」
「……申し訳ありません」
オルミガさん相手に挙動不審になりまくってるのは、今更取り繕いようがない。
失礼を承知で、肩身の狭い思いで頷いた。
悪いヒトじゃない、むしろすっごいマイペースであるが他人を気遣わない訳ではない、大変良いヒトだと思う。
が! どうしても! ビジュアルがな!!
「そう」
自分から切り出しておいて、あたしが肯定すると、物凄く無味乾燥な相槌を打って、そのまま会話は終了した。
え。ちょっと。あの。
交流を持とうとしているの? そうじゃないの? どっちなの?
いや、苦手だって思ってるっていう話を広げられても困るんだが!
激しい気まずさである。お願い、ユトゥスさんとレオン、早く帰ってきて。
というか、こんなに話題に困って居心地が悪いのは、前世からの経験合わせてもトップに入るレベルである。
「え、と。珍しいお姿です、よね。…ご家族に、アルフォーダの方がいらっしゃるのですか?」
ユトゥスさんと幼馴染という事は、彼自身はこの国で生まれ育っているのだろう。
てことは、グイノス先輩と同じで、両親のどちらかが異国のヒト、というパターンか。
沈黙に耐え切れず、視線を手元の残り少ない料理が乗ったお皿に落としつつ、なんとか話題を切り出してみた。
「ううん」
「……え?」
再びの、物凄くさらっとした返答。ただし、今回は否定の声。
逆にそれが違和感があって、思わず聞き返す。
「両親も、そのまた両親も、親戚にも、僕みたいなのは居ない」
「……そう、なのですか?」
「うん。こうなのは僕だけ。お蔭さまで、親戚中から母さんは不貞を疑われるわ、周囲から遠巻きにされるわで、結構散々」
物凄く淡々と、激しく重苦しい生い立ちを語られた。
彼がユトゥスさんと同じく騎士の家の子なのか、それとも貴族の子か、一般人の子か。解らないけれど、どれにしてもその状況ならば親戚中から母親は総スカンを喰らうだろう。
場合によっては、離縁を言い渡されても仕方ないかもしれない。
「ただ、父さんと母さんは子供から見てもうんざりするくらい仲が良いし。僕も可愛がって貰ってるけど。僕が家に居ると、親戚がいちいちうるさいんだ」
「…それで、騎士学校に入られたんですか」
「うん、全寮制だし。学院でも良かったけど、子供のころから喧嘩の方が得意だったから」
……なんとなーく。ちょっとだけ。
国の中で突然ポンと一人だけ、違う容姿で、珍しい姿で。放り込まれた疎外感というか、微妙な孤独感というか。
そういう辺りにおいて、なんとなく親近感がある。
あたしはまだ拾われっこの養子だからともかく、実子で……多分、遠い昔に混血したんだろうな。それが隔世遺伝で突然出てきたら、大騒ぎだろう。
幸い、両親が愛し合ってるおかげで、子供に謂れのない虐待をするような事はなかったようだが。自分の存在のせいで親戚や周囲から白い目で見られていたら、子供としては居た堪れない。
「あの……、…すみません。無神経な質問をしてしまって」
「信じた?」
「は?」
グイノス先輩の時もそうだったが、ついつい話題にしてしまい、結局のところ当人に対して失礼で不躾であったと反省するのは二度目だ。
申し訳なくて謝罪したら、物凄く軽い口調でそんな事言ってきた。
そちらを生理的な問題で向けないので、表情は解らないが、…いや見ても多分解らないが。
「ちょっ……」
「あ、ううん。話は本当」
クールというか淡々としていて感情の起伏に乏しいヒトのようだから、重い話も言えてしまうだけだと思ったが、からかわれたのか。
ちょっと流石に怒りそうになったが、別に嘘ではないと補足された。
「この国のヒトは、良いヒトが多いけど。それでもやっぱり、この話すると、信じてくれて同情するヒトも居る反面、やっぱり母さんに対して疑うヒトが多いんだ」
「……。…そう、ですか?」
「うん。だから、向けられるのはそういう同情」
血筋の中で、1人だけ異なる外見で生まれてくるのは異様だ。
多種多様な姿が居る国だから、あたしやオルミガさんのような異国のヒトに奇異の目を向けられる事は少ない。でも、実子で突然別の国の姿で生まれたら、そりゃあ不貞を疑われる。
だから、その話を聞いたら、やっぱりそうなんじゃないか……と思ってしまう。それでも、両親を実のそれだと信じて生きてるオルミガさんに、『そういう』同情の目を向ける。
それが、彼にとっては不本意な事のようだ。
……いやー、でもそれ言っちゃったら、レオンだって立場ないじゃないか。長い間生まれてなかった白の毛並みで生まれてきたのだって、突然変異に違いは無い。
遺伝子ってのは不思議だ。それにこのご時世、一般人だったら何百年もご先祖様を遡れる訳でもないんだし、かつてそういう事があって今出てきたなんて可能性、無いとは言えない。
「キミは、いいヒト」
あたしが普通に、なんの邪推もせずに話を信じた事を、彼は好意的に受け止めたようだ。
簡潔に、淡々と言う言葉には、微かに笑みが含まれていた。
……例によって表情は見えませんが。
「大丈夫。そんなには、人生悲観してない」
「そう、ですか?」
「ユトゥスみたいに、立派な騎士になって、とか言う夢は無いけど。とりあえず適当に、両親から心配されないくらいに自立して、王都からとにかく遠い地方の駐屯兵にでもなって、のんびり農作業でも手伝いながら生きたいなあ」
ずず、とお茶を啜るオルミガさん。
なんというか、若者らしい輝かしい夢はお持ちでは無いが、そこにあるのは苦労をかけてきた両親への思いやりだ。
言ってる事が、枯れているというか、悟っているというか、アレだが。
……発言と思考が枯れてて、悟ってるのはあたしも同じか。
「カルネイロ領、募集無いかな」
「えっ」
「……楽しみ」
えっ。ちょっ。
確かに田舎だけど! 王都から遠いけど! 農作業の手伝い歓迎だけど!
嬉しそうに声色を和らげるオルミガさんに、ひっそり戦慄した。
いや、嫌いじゃないけど! むしろなんていうか、ちょっと共感もてて、人柄としては決して嫌いじゃないし、友達になっていいくらいだけど!!
ビジュアルが! いや、それを否定するのは失礼なんだけど、蟻さん…!!
――――――
その後、夕方近くまでなんだかんだと一緒に街を歩き回る事になった。
すっかり日が傾いた頃、騎士見習いの二人はあたしとレオンを学院の寮の近くまで送ってくれた。
「本日は、お付き合い有難うございました」
「こちらこそ。お蔭で、知らなかった面白い店も見れた」
レオンは知らない店が9割を占めていると思うけどね。
なんだかんだと、王子様はご満悦の様子だ。そりゃあよござんした。
ま、こういう出会いも良いものです。レオンの見聞広めるのに役に立つ。
レオンの嫁候補も増えたしね。笑。
「ユトゥス」
「なんです?」
「当番」
「え、……ああ、そうでしたね」
オルミガさんの指摘は、だいたい物凄く簡潔だ。
ユトゥスさんはそれに慣れきっているようだし、聡明で理知的なヒトだ。それだけで、何を言わんとするかを認識してしまう。
「すみません、それではお先に失礼します」
「ああ。また、機会があったら」
「お気をつけて」
先んじて、深々とお辞儀をした後、ユトゥスさんは駆けていく。
……うーん、最後までレオンの事、気付かなかったなあ彼女。
これなら、毛並み色変えで気軽に街に出られそうだ。良かったね、…そういえばその件もちゃんと教えなきゃな……
「じゃあ、僕も。帰り道、気を付けてね」
「もうすぐそこだ、問題ない」
「そう。……じゃあ、気を付けついでに、もう一つ良い?」
「うん? 何だ?」
「変装するなら、名前もちゃんと変えた方がいいと思う」
さらりと、淡々と。オルミガさんの口から出た言葉に、レオンが面白いくらい硬直した。
おや? …そのセリフは。
「な、なんの、ことだ?」
「……王子様でしょ?」
「なっ、ななな、なんのことやら……」
「僕らの年ごろで、レオンって名前は多いけど。その王様顔で、黒い毛並みの子、いないはずなんだけど」
「なんだその王様顔というのは?!」
「だいたい、王族の方とか、王家と血が繋がってるヒトって、その顔してるよ?」
かくり、とオルミガさんは首を傾げる。
……あ、ああ、そうか。
つまり、アニマリア国内の人々から見れば、あまり『ライオンぽい』とか『ヒツジっぽい』でお互いを見ていない。
だが、あたしから見て王家の皆様がライオンであるように。サンセさんがパンダで、メルルが羊で、ポーラ様がシロクマであるように。
アルフォーダの姿をしている彼は、そちらの感性を持っていて。あたしと同じように、動物の種類…としては見ていないかもしれないが、そういう括りで判別出来てしまうのだ。
「それに、王子様とニンゲンの子が、友人だって聞いてたし」
「ああ、まあ……普通考えれば、そうですよね……」
そんな偶然が、あってたまるかって話だよね。普通考えれば。
もんのすごい口元引きつらせてるレオンを見て、大丈夫なのかなーなんて思ってたあたしも甘かったと反省する。
たぶん、グイノス先輩から見ても、同じように見えるのだろう、……彼の場合は、そもそも個体識別が甘いので関係ないだろうが。
てことは、学校のレプティリア・バーダムの国の先生辺りから見ても、これってバレバレなんだろうか。…オルミガさんくらい、同年代の貴族たちの事を知っていればだが。
「あの、ユトゥスさんは……」
「ユトゥスは素直だから、本当に気付いてないと思う。…だいたい、お昼のアレを王子様本人に聞かれてたなんて知ったら、恥ずかしさで死んじゃうと思う」
「……それもそうですね」
「うん。だから、内緒にしておく」
間違いなく悶絶モンだろうしなあ……
乙女の心を護る為には、知らなくていい事がある。
思わず遠い目をしていたら、レオンがやっと現実を受け入れる気になったようだ。
「すまんが、この事は……」
「心配しなくても、別に言いふらさないよ」
「ほ、本当か?」
「言いふらして欲しいの?」
「やめてくれ」
「うん。解った」
別に、脅したりとかしたい訳じゃないようだ。多分、厚意の忠告なのだろう。
そもそも彼の人となりから言って、そういう事しそうではない。
あんまり素直に頷くものだから、レオンも意気を削がれたようだ。
「? なに?」
「い、いや。…何か代わりに要求されるかと思った」
「どうして?」
「どうしてって……」
「街、ゆっくり歩きたいから、変装してるんでしょう? そうやって息を抜きたいのを、なんで邪魔しなきゃいけないの?」
かくり、また首を傾げるオルミガさん。
一国の王子の弱みを握ったようなものだ。だというのに、彼はそれを悪用しようなどと、頭から考えていない。
それは善意なのか、思いやりなのか……
別にレオンが王子様じゃなくても、彼はこんな調子で、相手の望みに反するような事をそもそもしたりしないのかもしれない。
「……すまん。有難う、オルミガ殿」
「ううん。…それじゃあ、僕も帰るよ。また街で会ったら、遊ぼうね」
「ああ。喜んで」
「楽しみ。またね、マリヤ、レオン」
王子様と知って尚、彼はレオンにも気安く声をかけて、ばいばいと手を振った。
一般市民に混ざって街を歩きたがったレオンの気持ちを汲んだのか。
本当に激しくマイペースだけど、いい子なんだな。
なんだかんだと、身分を知って尚、態度を全く変えないオルミガさんに、レオンも嬉しく思ったようだ。
今しがた顔引きつらせて硬直していたのが嘘のように、足取りが軽い。
「ところで、名前やっぱり変えます?」
「……ユトゥス殿にそのまま名乗った以上、今更かもしれん…」
そーだね。
蟻さんはとてもいい子なので、嫌わないであげて下さい。
というわけで、新たなフラグでした。
混乱してる! 矢印が混乱してる!!
果たしてレオンは誰とくっつくのか。
解らない!!!(考えてやりなさいよ)
それにしても、切りどころが解らなくて、長くなってしまった…orz
短くまとめてさくさく読めるようにしたいのに!




