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ヒツジさんの執事さん  作者: 美琴
第一章
5/67

5・魚釣り


 メルルと一緒に学校に通い始めて数日、相変わらずあたしは文字の読み書きを勉強している。

 幼稚園児くらいの子に混じってのコレは、少々気恥ずかしい。


「マリヤ、そこちがうよー」

「あら…。ありがとう」


 しかも添削までされる。

 これは恥ずかしい。

 …幸いというか、頭の中身は大人でも、脳ミソの方は子供らしい学習能力を持っていたので、ただの図形にしか見えなかった文字も、少しはちゃんと文字として認識できるようにはなってきた。毎日お屋敷でもメルルに教えてもらってるし。

 日本語みたいに、ひらがな・カタカナ・漢字って多種ある訳じゃないし。日常的に使ってるとあまり気にならなかったけど、日本語って凄く難解な言葉よね。

 夏までには、絵本くらい読めるようになりたい。

 出来れば来年の春には、メルル達のクラスに入れるようになりたい…


「はい、正解です。メルルさん、春になるまでにとても勉強したようですね」

「とーぜんよ! わたしはもうリッパなお姉ちゃんですからね!」


 後方のオウリア先生の算数授業で、褒められたメルルが鼻高々になっている。周囲の子達も驚いているようだ。

 座ってから、彼女はちらりとこちらを見る。

 あたしは笑顔で軽く手を振ると、メルルも手を振り返して黒板の方に視線を戻した。

 メルルは、あんまり数字が得意ではなかったらしい。それを例の鼠少年ことクルウに『お嬢様のクセにメルルはバカだよなー』とか言われて悔しい思いを散々したとか。

 けれど春になってからの見違える程の上達っぷりに、本人は勿論先生も嬉しそうである。

 ……まあ、メルルに文字教わってる代わりに、あたしが算数教えてるんだけどね。

 あたしの知っている数字とこの世界の数字はやっぱり表記こそ違ったが、文字に比べれば覚える基本の数は10個。それに加減算の符号さえ覚えてしまえば、特に苦戦する物でもない。同じ10進法で助かった。

 どうも、子供達に教えているのは精々乗算・除算までくらいみたいだし。この時代の農家の子供達にはそんなもんでいいんじゃないかしら。

 別に、こっち伺わなくても、これくらいでメルルのプライドが護れるならいくらでも教えるのだけれどね。気にしなくて良いのよ、お姉ちゃん。


「マリヤ、またちがってるー」

「う…」


 ……こっちは、前途多難かもしれない。




 学校は昼を挟んで前後に2時間ずつ。

 その後は先生と更にお勉強する子あり、村に帰る馬車の時間まで連れ立って遊びに行く子あり。

 日が傾きだすまで、プルミエ村は子供達の声がそこかしこから聞こえる。

 学校が始まってからは夕方まで文字の勉強をして、メルルと一緒に帰っていたけれど。今日は、男の子達と春の釣り大会の約束だ。


「良い、マリヤ? クルウになに言われても、ムキになっちゃダメだからね? マリヤ細いんだから、ケンカではかなわないのよ。だからって言いなりになって子分になんてなる必要もないからね、いじめられたらすぐにわたしに言うのよ、あと…」

「大丈夫だってば。メルルは心配性ねー」

「おっせーぞマリヤ! おいてっちまうぞー!」

「ああ、はいはい。それじゃあ行ってきます」

「ケガなんてしちゃダメなんだからねー!!」


 お姉ちゃんというよりは、心配性のお母さんみたいなメルルに手を振って、庭師のおじいさんに作ってもらった竿を担いでクルウ達の所に走っていく。

 あと、確かにまだお肉あんまりついてないけど、あたしが細く見えるのはあくまでもメルル達のような毛皮が無いせいだと思うのよ。

 クルウはいつも乗っている馬を連れていて、ちっちゃい子達の荷物をその背中にくくりつけてから、出発した。

 …メルルが言う程、無茶を言うガキ大将では無いと思うけどねえ。10人以上のこの人数をちゃんと纏めて小さい子の面倒も見る、良いリーダーじゃない。

 ちなみに、彼は牧場主の息子らしい。なるほど、それで馬。

 将来は馬に乗って牛追いをしたりするのかしら。…鼠のカウボーイ。それは、ちょっとアリかもしれない。想像するとちょっと格好良い。

 30分ほど小さな林を迂回するように歩くと、川が見えてきた。

 どうやら目的地はそこではないらしく、更に川沿いに上流へと歩いていく。

 ……天気は快晴だし、山道って訳じゃないから、心配しなくても大丈夫かしら?

 川は晴れてても山に雨が降っていて鉄砲水が、なんてニュースを聞いたことがある身としては、あまり川べりが安全とは思えないけれど。少なくとも川の遥か向こうに見える山にも、雲ひとつかかっていない。今日は大丈夫だろう。


「よし、とうちゃーく! 全員、じゅんびしろー!」


 クルウが皆の足を止めさせたのは、大きな湖のほとりだった。

 太陽の光を反射してきらきら光る水面は凪いでいて、覗き込めば水の底まで見通せるほどに透明度が高い。

 自然がいっぱいファンタジー世界に相応しい綺麗な場所だ。

 どうやら船で漁をするヒトも居るのか、向こうに桟橋らしい物は作られているけれど、他には目立った人工物もない。湖と、林の木ばかり。

 都会がイヤな訳じゃないけど、やっぱ子供として暮らすならこれよねぇ。あたしは今、この世界に転生して物凄く満足している。


「はい、マリヤ。ハリ、作ってもらったよ」

「ありがとう、ムッカ」


 各人手分けして竿に針と糸をつけたり、餌となる虫を捕まえたりしてる中、あの鍛冶屋の息子のちび牛さんがあたしの分の釣り針を持ってきてくれた。

 あたしが図で説明したとおりの返しをつけてくれたようだ。ムッカ自身のも、同じように改造されている。

 頑張れちみっこ。お兄ちゃん達を見返してやるのだ。そして、今日の晩御飯はお魚だ。

 川魚は骨が多いけど、塩焼きにすると美味しいのよねぇー…

 あたしはクルウから分けてもらったミミズを、ゴカイと同じ要領で針にひっかける。以前父さんに教わって以来だったけど、意外に覚えているもんだ。

 なんとなく、あたしはクルウ達とはちょっと離れた場所に陣取って、竿を軽く振りかぶり水面に針を投げ込んだ。

 ―――で、しばらく後。


「あーっ! マリヤのヤツ、また釣ってるー!」

「くそー、オレまだぜんぜんかかんねーのにー!」

「ムッカがマリヤに弟子入りしてんぞー! ずるいー!」

「ぼくも、ぼくもあっち行こうかなあー…」


 大騒ぎしている男子達を横目に、これで2匹目である。魚の事は詳しくないけれど、確かフナ…みたいな形をしている。大きさは15センチくらい。

 …1時間以上粘って2匹は、決して立派な釣果では無いと思うのだけれど。いや、でも釣れない人はホント釣れないって言うしなあ…

 ただね。君達が釣れないのは、そうして大騒ぎするからよ…

 こんなに透明度の高い湖の脇で大騒ぎしてバタバタしてたら、そりゃ魚隠れるわ。


「あ、わ、うごいた、今ぴくってうごいたよっ」

「あわてないで。強く引いたときにあわせて、こっちからもグイって引くの。そうしたら、針の返しが魚の口にひっかかるはずだから」


 …理論的には。確かそんな感じ。

 いつの間にか、ムッカはあたしの隣に居る。あたしが無言で糸を垂らしているのを真似したのか、小さいながらも必死に息を殺して、真剣に水面を眺めていたムッカの方にもアタリが来たらしい。

 あたしに言われた通りに辛抱強く待って、思いっきり竿を引っ張ったムッカの針には魚がかかった。魚影が右に左にと暴れ始める。


「わ、わ、わーー…!」


 吃驚したムッカが手を離さないようにあたしも一端針を水面から上げて、彼の竿を一緒に引き上げる。む、結構重い。

 大物の気配をかぎつけ、クルウ達も寄ってきて。最後は網で陸にあげるのを手伝ってくれた。


「すげー! でけー!」

「大物だー! ムッカすげー!」

「最高新きろくだぞー!」


 そして騒ぎ出す男子達。ああまあ、落ち着きなんて求めるだけ無駄だし、確かにちっちゃなムッカが釣り上げたお魚は大きかった。

 30センチの、鯉だかフナだかっぽいお魚は、充分過ぎる大物だ。

 びっちびっち跳ねている大物を、水を張った桶に突っ込んで。ムッカは、ふにゃりと表情を緩めた。


「えへへ。つれた。はじめてつれたー…」


 …やっだ、何この子可愛い。

 よっぽど嬉しかったらしいムッカは暫く魚を見つめてにこにこしていたが、少ししてあたしの方を振り返る。


「マリヤ、いっぱいおしえてくれてありがとー! すっごい、すっごいありがとー!」

「どういたしまして。あたしもムッカに文字教えてもらったもの」


 いつも添削有難う…

 お礼と一緒に頭を撫で撫ですると、また嬉しそうにもじもじし出す。

 くっそ! 純朴な少年可愛い! 牛がどうとかもうどうでもいい! 可愛いは正義!!


「なームッカ、こんど新しい針作ってくれって、おねがいしといてくれよー!」

「オレのも! そしたらもっとつれるよな、なっ!」


 そして、群がる男子ども。

 …だから、針というよりも君達は、先ず落ち着きがないと魚は逃げる…


「なあなあ、一回オレにも貸してくれよ! それで釣ったら釣れそうだし!」

「う、うん、いいよ」


 目をキラキラさせて、クルウがムッカから竿を借りた。

 うん、なんというか、子分の物は俺の物的なノリが一切無いあたり、やっぱりクルウも良い子だ。ちゃんと許可得て使うんだから。オウリア先生の教育の賜物か。あるいはお母さんが怖いという予想。

 折角だからあたしの竿も、貸して貸してと寄って来た面々に渡す。…壊さないでよ? 折角わざわざ庭師さんが作ってくれたんだから…

 ムッカの竿は勿論木製だけれど、持ち手の部分に布が巻いてあったり、釣り糸が外れないようにと先に金具がつけてあったりと、なかなか凝っている。

 多分、これもお父さんが作ってくれたんだろう。ムッカ、絶対お父さん大好きよね。

 自分の物よりも豪華な竿、そして大物を釣り上げた実績もあるそれを期待が溢れんばかりの顔で握り締めたクルウは、意気揚々と湖の縁へと歩み寄る。


「どりゃー!!」


 そして、気合の声と共に餌をつけた竿を。

 投げた。


「・・・・・・・・・・・・・・」


 流れる沈黙。

 ぽちゃん、と響く水音。

 さわさわと風に揺れる木の葉の音が聞こえるほど、あたし達は静まり返った。

 投げた。投げたよこの子、ムッカの竿を。

 勿論そんなつもりなど微塵もなく、つまり調子に乗った末に勢いつきすぎて、手からすっぽ抜けたんだと思われるけど。

 恐る恐る、と言った感じで、クルウは振り返った。

 今目の前で起こった事件に、子供達は完全にぽかんと口を開けていたけれど。

 ……みるみるうちに、ムッカの瞳が潤んで行く。

 口元が引きつるクルウ。泣きそうなムッカ。ざわめく子供達。

 そして、クルウは湖に向かって突進した。


「ちょっと、まてってクルウ! おぼれる!!」

「取りに行く! すぐ取ってくる! ごめんムッカ! ぜったい取ってくるから!!」

「ムリムリムリムリ、ムリだってば!!」

「クルウ、およげないじゃんか!!」

「ていうかだれもおよげないよ!!」


 泳げないのか、田舎っ子!!

 突っ込みそうになって、そりゃあ服を脱いでも毛皮がある彼らは、水を含めば相応に毛が重くなって泳ぐのに向かないのか、と気がついた。

 …いや、でも鼠は泳げるんじゃないか…? クルウ、ハツカネズミっぽいし…

 種族として泳げそうなのと、ヒトとして泳げないのは、別問題かもしれないけど。


「だ、だいじょうぶだよ、クルウ。あたらしいの、また父さんに、作ってもらうから」


 そしてムッカは良い子である。

 とはいっても、涙目でぷるぷるしながらでは、どう見ても無理している。

 そうよねえ。学校の鞄に、大事に大事に布でくるんで持ち歩くくらい、お父さんが作ってくれた針を宝物のようにしてた子だ。あの竿だって、大事な子供に対するお父さんの愛情がたっぷり込められていたのは間違いない。

 明らかに、おニューだったしなあ。

 更なる罪悪感にかられたのか、再び湖に突入しようとするクルウ。それを必死で止める男子達。ぷるぷるしているムッカもそれに混じる。

 もう大騒ぎだ。

 そして、あたしは改めて湖を見ていた。

 透明度は高い。そういう川や湖ほど、見た目より水深があって、危険だと聞いた事がある。

 でもさっき糸を垂らした感じだと、10mもある訳じゃない。糸は、水底に届いてた。

 クルウだって子供だから、力はそこまででもない。竿が投げ入れられた場所は、そんなには遠くない。流れもこの辺りは殆ど無い。

 結論。不可能じゃない。


「ちょっと待っててね、ムッカ」

「え?」


 ばさっと下着以外の服を脱いで靴を放り投げ、ぽんっとムッカの頭を撫でる。

 そのまま、湖の中にクルウの代わりに入っていった。

 …ん、流石に水が冷たいな。でも、心臓麻痺起こすような水温じゃない。川ならもっと冷たいかもしれない、湖でまだマシだった。

 最初は膝くらいまでだった水深も、すぐに足がつかなくなる。

 でも、その辺りで沈んでいる竿が水面から見えた。

 1m半くらいか。これくらいなら、今でも潜れるだろう。2m越してたらキツかったかもしれない。水泳なんて、子供の時にスイミングスクール行ってた以外は海水浴場とかプールで遊ぶくらいしかしてない。

 水中に潜ると、流石に裸眼ではちょっと視界が滲む。でも、明らかに石や砂じゃない竿の存在は確認できたし、それを手につかんで浮上する。

 ……おや。

 針の先に付いている物に気付いたが、そのまま竿を持って、クルウ達が大騒ぎしている岸辺まで泳ぎ切った。


「お、おい、マリヤ! 大丈夫か?!」

「平気よ、およぐのはけっこう好きだもの。それより、クルウすごいじゃない」

「へ?」


 大慌てで駆け寄ってきたクルウに、竿を手渡す。

 きょとんとして受け取ったのを確認してから、まだ水の中だった糸を手繰り寄せ、引っ張り上げる。

 そこには、きらきらと美しく輝く鱗? が、ひっかかっていた。

 鱗だけでも、あたしの手の平くらいある。とすれば、魚本体はどれくらいの大きさやら。


「すげーーー!! ぬしのウロコだー!!」

「ホントだ! ひっかかったのかな、クルウがはがしたのかな!」

「クルウすげー! やっぱすげーよ!!」


 この湖に来る道すがら、男子達が興奮気味に話してくれた事があった。

 なんでも、この湖には、七色に輝く鱗を持った、巨大な主が住んでいるとか。おお、ファンタジー。

 普段はとても大人しいのだが、魚を取りすぎたり水を汚したりすると、大暴れして湖から川から氾濫して大変だという言い伝え。伝説ではなく、実在の存在として、プルミエ村の村長さんの家には主の鱗が飾られているそうだ。

 水深1.5mのトコだったんだから実際に本人…いや本魚から削り取ったわけではなく、たまたまはがれた鱗が針に引っかかったんだろうけれど。

 その辺は、言わぬが花だ。


「お……おお、やっぱオレすげーな! また新たな伝説をうちたてちまったぜー!!」


 呆然としていたクルウも、胸を張って威張り出す。うむ、リーダーの面目を保てたようで、何よりです。

 一応水に落ちる事も想定して、荷物の中に柔らかい布と替えの服も用意してきて正解だった。きゃっきゃしている男子達を尻目に身体と髪を拭く。

 ひときしりはしゃいだ後で、あたしもムッカにお礼を言われ、皆から泳げることを尊敬の瞳で讃えられた。


「毛が無いって言うのも、やくに立つんだな!」


 だが、その褒め方はいかがなものか。




――――――




 村に帰り着く頃には、日が傾きだしていた。

 ムッカは釣り上げた大物をお父さんに見せて、大層吃驚されていた。大きな牛さんに頭を撫でぐりされる小さな牛さん。…ほのぼのだ。

 プルミエ村の子供達はそのまま帰路につき、他の村の子供達は馬車に乗り込む。

 メルルには先に屋敷に帰ってくれと言ってあるので、あたしはクルウの馬の後ろに乗せて送って貰った。

 おお…、馬に乗るのは初めてな気がする。ポニーならあった。


「…今日は、あんがとな」


 前で馬を上手に操りながら、ぼそっとクルウがそんな事を言った。

 さすが牧場主の跡取り息子、馬の扱いは素晴らしい。後ろにいるあたしを気遣ってくれているらしく、ゆっくり歩かせている。


「何が?」

「なにって、…いろいろだよ!」


 何このツンデレ男子ー、超可愛いー。

 照れながらも、ちゃんとお礼を言えるとか、物凄く良い子じゃないか。

 でも他の子供達の前でなくて、2人になってからとか。リーダーとしてのプライドというかなんかこう、…青春ね! 友情ね!!


「お前、オンナ言葉でかわったヤツで、文字もよめないバカなのに、すげーんだな」

「……よめないのは、今まで使ってたのとちがうからよ。バカちがう」

「そっか。…その、あれだ。今日は助けてもらったからな、これからなんかあったら、オレをたよれよ! なんとかしてやっから!」


 おお、なんという男の友情。

 心底可愛いなーと和みながら、ありがと、と返答する。

 しばらくして、お屋敷が見えてきた。窓から見ていたのか、メルルが門から飛び出して来る。


「マリヤ、お帰りなさーい!」

「ただいま、メルル」


 クルウの手を借りつつ、馬から降りる。よくこんな大きな生き物に1人で乗れるわね、クルウは…

 それからくくりつけていた荷物と、ぶら下げていた魚の入った桶を受け取って。

 急に、メルルは後ろからあたしの髪をわしわしと触る。


「ん?」

「……どうして、髪がちょっとぬれてるの? まさか、クルウに湖につきおとされたんじゃないでしょうねっ!」

「しねーよ、そんなコト!!」

「あー…。大丈夫、ちょっと楽しくなって水遊びしただけよ」

「…ホント?」

「ほんと、ほんと」


 心底、メルルの中のクルウの信頼度は低いらしい。なんかあったのかしら?

 むーっと馬上のクルウを睨むメルルと、むすーっとメルルを睨み返すクルウ。そして、2人同時にべーーっと舌を出した。

 …これは、いずれロマンスに発展する系の、ケンカするほど仲良しな幼馴染ポジションなのかしら。

 いや、まあそんな漫画みたいな事なんて、実際そうは起こらないけどね。


「そんじゃ、また学校でな!」

「ええ。またね、クルウ」


 あたしに対してはころっと笑顔になって、クルウは手を振る。あたしも、笑顔で振り返す。

 軽快に馬を走らせて去っていく姿をしばし見送ってから、メルルと一緒に門をくぐり、お屋敷の中に向かう。


「…あのさ」

「なあに?」

「マリヤ、やっぱり男の子だし、……男の子と遊ぶほうが、楽しい?」


 ふと見たら、なんだかメルルがしょんぼりした感じで肩を落としていた。

 一日一緒に遊んで、見事にデレたクルウの変化に気付いたのだろう。

 『わたしがお世話して、護らなきゃ!』と思っていた弟が、気がついたら手を離れて行ってしまう系の、お姉ちゃんの物寂しさみたいなものだろうか。

 ……っもう。


「メルル、すっごい可愛い!」

「きゃあ?!」


 がばぎゅむ、と隣のメルルに抱きついた。

 あああ、この魅惑のもふもふがたまらないー! いつまでもふかふかしてたいー!

 …じゃなくて、ふかふかじゃなくてもメルル超可愛いー!!


「心配しなくても、あたしはメルルが大好きよー? そりゃあ友だちは大事だけどね、メルルがいっちばん大事よ!」

「そ、そう? ならいいわ、わたしもマリヤのこと大好きだからねっ!」

「ええ、ありがと!」


 もふもふぎゅーぎゅーしながらじゃれついてたら、持ってた桶の水が零れそうになったので、さりげなくカッツェさんが持ってった。とても嬉しそうな顔していた。お魚好きなのかしら。

 お夕飯にそのお魚をソテーにした物が出て来て、やっぱりお魚も決して得意では無いらしかったメルルが一生懸命食べてるのを見て、もう可愛いったらね!!

 あーもう可愛い。あたしのお姉ちゃん超可愛い。

 あたしの方こそ、際限なくメルルを甘やかしてしまいそうだ……





 可愛い系ツンデレを目指して。


 マリヤさんはとりあえず、一般的な技能は普通に持っています。ただ、それがこの世界では一般的かは別のお話。

 後は聞きかじり知識も、知識だけなら沢山。

 なんか間違ってたらごめんなさいとしか言えない(私が)。



(2014/7/6 誤字脱字、他一部表現を修正)

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