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ヒツジさんの執事さん  作者: 美琴
第二章
39/67

38・先輩との語らい




 休日のお茶会メンツに、めでたくポーラ様も加わった。

 これはあたし目当てとかではなく、純粋に同じ年頃の女子と、ごくごく普通のお喋りがしたいという想いからのようだ。

 まあ、貴族の子女なんて同じ年頃でも、このくらいから既に自分の家の権威を誇示したり、というか色々と腹の探りあいみたいになって、世間一般で言う気心知れた友達なんてそうそう居ないよね。

 公爵家令嬢のポーラ様に比べれば確かに身分的には下だが、メルルもサンセさんも王家公認の辺境伯の娘。決して不足とまではいかない。

 …更なる女子のやっかみが、少しだけ心配だが。


 で、折角の女子会だしってことで、今日はあたしは席を外してきた。

 当然お茶やお菓子の準備をしてからね。

 あたしが気にしなくても、メルル…はさておき、サンセさんやポーラ様はそこに男子が居たら気兼ねなくガールズトーク出来ないだろうしね。

 あたし自身出来ない訳じゃないが、しちゃった場合の気まずさが半端なさそうなのでやめとくことにした。そんなんしたら、完全にオネエで固定される。

 そろそろ、真面目に男として生きよう。…いや生きてるつもりだけど。


 という訳で、暇つぶしに図書館に来てみた。

 読書は好きだ。字が読めるようになってからというもの、色んな本を読んだけどやっぱり知識が増えるのも、物語を楽しむのも良いものです。

 物理法則なんかは前の世界とほぼ同じなんだけど、魔法と言う概念があるおかげで、あたしの知らない法則や常識がある。それもまた、楽しい。

 何を読もうかなあ、とあたしはうろうろと本棚の間を歩き回っていた。

 大きな明かり取りの窓があるけど、それを上回る量の高い本棚、大量の本。おかげでどこか薄暗い。

 図書館ってこう、独特の匂いがあるけど。紙の本の匂いとは、ちょっと違う気がする。好きですよ、結構。

 尚、あんまり静かにするという概念はないのであった。

 静かに黙々と読みたいヒトはそれ専用のお部屋もある。

 大抵のヒトは議論を交わしたり、課題の調べ物をしていたり。話し合いの場としても使われていたりする。他のヒトに聞かれたくない場合は個室もある。

 前の世界と同じく、火気厳禁で飲食禁止。

 本の貸し出しもしてくれます。生徒以外のヒトだと、しっかりした身分証明が出来ないと無理だけど。


「さて、何を読みますかね」


 目的がある訳ではない。

 適当に足を止めたそこは、植物や農作物なんかの本が並んでいた。

 農作物。…そうか、その知識も要るよね。

 村のヒト達がプロの農家さんでも、彼らの提案や要望を飲むのに、正しい耕作知識なんか必要なんじゃないかな。

 …今思えば、農作物というジャンルがないな、学院。草花の栽培なんかはあるんだけど。

 農家の野菜を育てる技術は親から子へ受け継がれるって概念でもあるのか。

 経験とか積み重ねた技法とかでやってるんだろうけど、それはむしろ研究してデータ取って広めた方が良い物じゃないのか。

 ああいや、特許という概念もないのだから、真似されたら元の農家の売り上げが下がるなんて事もあるのか? 大体、新しい農法を編み出したところで、それが生み出す利益がコストを上回らなきゃいけない訳で、そうなると何処でも導入するという訳にもいかなくてー……

 ……まあ、とりあえず基礎知識くらい持っといて損は無いよね。

 本棚の前で突っ立って考え込むのもアレなので、ざっと本棚を見上げて面白そうな本を探す。初心者なので、先ずは面白さと解りやすさが大事。

 しかし、本を探すのにも首が疲れる図書館だ。


「………?」


 視線を上にした状態で、ふと気付く。

 誰かが、こちらに歩いてきている。

 とこ、とこと妙にゆったりした足取り。

 リシッツァ先生に言われて以来、なるべく悪意や敵意を持たない気配にも気をつけるようにはしている。

 右手の方向からゆっくり近付いてくるその足音は、ゆっくりだという事を除けば安定していて、イヤな印象は受けない。

 それでも一応、すれ違い様に何かされないかと……例えば後頭部や背中を叩かれたり、膝裏を蹴られたり、なんて事がないように警戒はしている。

 視線は上の本棚の本を探したまま。

 足音の主は徐々に近付いてきて、あたしの間近に迫り。


「あたっ」


 よどみない足取りのまま、あたしの右足を踏んでった。

 後方からの攻撃は想定していたが、前方に来るのは予想外ですわ。思わずちょっと声が出た。

 しかも視線をやや上に向けているとは言え、あたしの足を踏んでった誰かは視界に入る事なく、だが足音が消えた訳でもなく、そのまま左手方向へと進んで行く。

 いや待て、誰だ。幽霊か。前を通ってったのになんで姿見えないのか。

 思わず視線を左手方向に向ける。

 そこには、ぺたしぺたしとゆっくり歩く、あたしの胸の高さくらいの身長の。

 ……ペンギン、の後姿があった。


「…………」


 思わず絶句した。

 ペンギン。ペンギンて。

 いやペンギンはともかく、なんでそんな身長低いのさ。この世界、ネズミも象も一律人間と同じサイズじゃないか。なんでそんな……

 ……あ、そうか。ペンギンって、確か人間で言うとしゃがみ座りみたいな骨格で固まってて、足が伸ばせないんだっけ。

 ペンギンさん、…ズボン、というかショートパンツというかかぼちゃぱんつ的な物を履いてるので多分男。制服の色は学年で違うのだが、1年生の青と違って黒を着ているのだから、先輩だ。黒は3年生。ちなみに2年生は緑。

 彼はあたしから3mくらい離れた場所で立ち止まると、そこの本棚を見上げる。

 横顔が見えた。やっぱペンギンだ。くちばしだ。白と黒のコントラスト、燕尾服を着て見えるそのカラーリングは結構好きだ。なんか親近感。ついでに校章も見えた。学者科の生徒だ。

 頭の黄色い飾り羽があるところから察するに、イワトビペンギン的な。

 …あれ、ペンギンは哺乳類じゃないぞ。鳥だ。飛べないけど鳥だ。いやこの世界の鳥人の皆様別に飛べないけどさ。

 バーダムは学者の国。故に、この学院以上の高い水準の学校がある。

 なのに、なんで彼はここに居るんだろう…?

 ペンギン先輩はしばし本棚を見上げていた。

 それから、近場にあった踏み台を持ってくる。ぴょん、とそれに飛び乗って、本棚へと手というか羽を伸ばした。特に音はしなかったが、ぺん、と擬音を入れたくなる。

 どうやら、1段の踏み台では目的の本に届かなかったらしい。

 踏み台から降りた彼は、今度は3段の踏み台をずるずる引きずりながら持ってきて、またも華麗にぴょんぴょんと飛び上がっていく。

 そして、手を伸ばす。本棚を、平たい羽で、ぺん、ぺぺん。

 …………

 ……おい、何だこの可愛い生き物。

 この世界で、沢山の人間大動物達を目にしてきたが、初めて動物的かわゆさという萌えを感じたじゃないか。ペンギン可愛い。

 何せ、オウリア先生のような立派な羽がある訳じゃない。手を伸ばしても、せいぜい頭の高さくらいまでしか届いてない。

 一生懸命本をとろうとしてるのは解るのだが。その仕草が可愛いったらないわ。

 ややあって彼は不可能と判断したらしく、羽を伸ばすのをやめる。

 ととんと踏み台から降りて、周囲にそれ以上大きな踏み台が無いのを見て、踏み台を凝視したまま止まってしまった。

 …ああいかん。和んでどうする、先輩が困ってるんだから助けんと。

 なんか足踏まれたけど、様子から察するに別に悪意があった訳じゃない。多分だが、このヒトあたしの存在が目に入ってなかっただけだ。


「あの。もし良かったら、本……」


 お取りしますか、と声をかけるつもりだった。

 踏み台の凝視を続けるペンギン先輩に歩み寄り声をかけると、彼は物凄い速さであたしの方を振り返り、眉…というか右の飾り羽をやや吊り上げた。


「何かね、少し黙っててくれたまえ。僕は今、僕のような体格の者でも手軽に本を出し入れ出来る昇降装置の理論を構築している所だ!」

「しょ、しょうこうそうち…?」

「君のような長身の者には解らないだろうが。いいかね、この国には僕のように極端に手足が短いという身体的リスクを生まれながらに背負っている者が少なからず居る。それに対する配慮は当然のように国を挙げて行われているが、当事者である僕から言わせて貰えば全く足りない。例えばこのような踏み台の小ささ、少なさ、構造の不備だ。それを解消するには、このような高さという物を無効化する、上下に動作する足場を設置すべきと僕は思う。望ましいのは使用者の意思で自動的に稼動する事だが、その装置の開発には先ず……」


 うわああああああ。

 始まりこそ、あたしが思考の邪魔をした事を憤り目の前の踏み台をぺぺぺぺんっと叩いていたが、その後はまるで噴水いや洪水のように、ペンギン先輩からあふれ出す講義染みた解説。いや研究の実況?

 さすが、学者科の校章は伊達じゃないんですね!

 そのまま昇降装置の構造理論構築にまで進み、再び邪魔をすればまた怒られるのは目に見えていたので、素直に聞いておくことにする。


「―――という訳で、この紐の巻き取りによって踏み台の昇降を可能とする。次にヒトを乗せ保持する為の耐久性と……、…いや、それには少々時間がかかりすぎるな。このままでは、僕の課題の発表に間に合わない」


 あ、やっと止まった。

 小型自動昇降機のお話は、聞いてみればなんだかんだと面白かったので素直に聞いていたのだが、どうやら本来の目的を思い出したようだ。

 でも、その為にそんな大掛かりな事を真剣に考え出す、この先輩面白い。

 面白い上に、決して見当はずれな話はしてないのだ。いや、見当はずれどころかきちんとした理論を組み立てている。

 そのままやる気になったら、本当に小型昇降機出来るかもしれない。


「ええと、良かったら、お探しの本をお取りします。どれですか?」

「ああ、そうかすまないね。では、そこのピアリィ草及び解毒効能を持つ薬草についてと。それからその横の…」


 ペンギン先輩が読みたがっていたのは、よりにもよって一番上の段の本だった。

 あたしだって、踏み台がなかったら手が届かない。そりゃあペンギン先輩も、昇降機が欲しくなるわよね。

 先輩の前にあった三段踏み台を使って、指示された本を本棚から抜いていく。その数、ざっと7冊。羊皮紙だし装丁も立派なので、流石に重いな。


「これで終わりですか? ……先輩?」

「驚いたな、僕なら二往復は必要な重さの筈だ。その細腕の何処にそれだけ持てる力がある? 君の体格は決して……いや待てよ、先ず君には毛皮が無い。故に被毛による見た目上の膨らみが存在していないのか。腕力が腕の筋肉に比例するのならば、僕と君の腕の断面積から算出される腕力の差は……」


 あ、だめだ。

 このヒト、なんか疑問を持つとキリが良いトコまで、どこまでも突っ走るタイプだ。ある意味、重度の学者病だ。

 しかも節操がない。一つの事に盲目になるのではなくて、目の前にある不思議に全て自分の理論を構築しないと気が済まないヒトだ。

 この年から既にコレか…。将来が楽しみなような、不安なような。


「腕の長さにも差があるな。これは単純な断面積の差だけに留まらないと推測される。目測で2倍の長さか。だがだからと言って2倍の腕力ではあるまい」

「…縦と横がそれぞれ2倍なら、内部容量は4倍、……実際には更に奥行きの幅もありますから、それぞれ倍なら8倍ですね」

「うむ、そう言うことだ。是非一度検証させては貰えないか。いくら理論を展開しても、事実と異なっては全くの無駄だ。僕は真実を知りたい」

「構いませんが、恐らく骨格の違いもありますし、純粋な筋肉量の算出は難しいですし筋肉以外の肉も腕にはあるでしょうからきっちりとはいかないかもしれません。……ところで、この本はどちらにお持ちすれば良いでしょうか」

「む? …ああ、そうだったな。すまない、こちらに頼む」


 思考の邪魔は怒られるが、相槌や意見の出し合いなら怒られないらしいので、キリが良い所までお付き合いして、抱えていた本の処遇を尋ねた。

 盛大に脱線をした所で、再び本題を思い出したペンギン先輩の案内に従って、図書館の一角……ちょっと低めの椅子とテーブルが置かれたそこへ、7冊の本を無事に運搬完了した。

 そうだよね。ペンギンさんもだが、猫や犬でも足が短い品種は居る。千差万別の体格が居るのがこの国だ。こういう配慮も当然されてるよね。

 中には究極手足が無い、フィズィ先生みたいなヒトだって居るんだし。


「うむ、有難う。おっと、世話になって名乗らないのはいけないな。僕はグイノスと言う。学者科の生徒だ」

「私はマリヤと言います。使用人科に所属しております」

「ほう。てっきり学者科かと思ったが、そういえば校章が違うな。僕の話をマトモに聞いて意見を言い合える者が、学者科以外にも居るんだな」


 感心したように、ぴょんと椅子に飛び乗ったペンギン先輩……グイノスさんはあたしをまじまじと見つめた。

 てことは、学者科のクラスではこういう会話が日常茶飯事なのか。

 それは一種独特になるというか、学者科生徒が全く貴族科は他のクラスの生徒と交流が無いのは当然かなと思った。


「…学者科の方とはあまりお話をしないのですが。先輩は、今はどんなレポートをお書きになるのですか?」

「ああ、今の僕の研究は、各地に存在する鉱石の産出分布についてだな」


 ……鉱石?

 さっきまであたしが居たのは植物に関する本が納まっていた場所で、実際に指示されて持ってきたのも草花なんかに関する事だ。

 土や肥料ならともかく、鉱石? なんで鉱石…?

 口に出さずとも不思議に思った事を察したのだろう。グイノス先輩は口元、いやくちばしの端の辺りを吊り上げる。多分笑ったんだろう。


「鉱石は地面の中の成分が、熱や圧縮などと言った影響を受け、変質したり多く集まる事で出来上がる物だ。中には特定の効能を発揮したり、わずかながら周囲の土地に影響を与える物もある。理解出来るかね?」

「はい」

「そして、その周囲への影響と変質を好み、そこにしか咲かない花や、成長が著しく促される植物も存在して然るべきと僕は仮説を立てた。これを見てくれたまえ。こちらは国内で確認されている白鳥石の産地だ。そして、こちらがピアリィ草が毎年群生する土地の一覧。驚くほどに一致しているとは思わないかね」


 鞄の中から出してきた資料と、さっき持ってきた本の一冊に描かれた地図と、照らし合わせると確かに二つの産出地・群生地は吃驚するほど重なっている。

 鉱石に比べれば、薬草であるピアリィ草の群生地はもっと多く確認されているけれど、これに因果関係があるとするなら…


「このように、一見何の関係も無さそうな二者が、ヒトの預かり知らぬ所で共生関係や寄生関係を持っている事もある。このような関係性を多く発見する事ができれば、今はまだ知られぬ鉱脈、水脈の発見にも繋がる。あるいは薬草を今よりも更に効率良く栽培や量産する事も夢ではないと僕は想定しているんだ」

「成る程。実に面白いです」


 あたしが肯定すると、先輩も嬉しそうに頷いた。

 自然ってのは、複雑に絡み合って存在して居る物だ。ヒトが気付いていないだけで、お互いに共生し、時には一方的に寄生し利用して成り立っている。

 その関係性を理解すれば、ヒトの利益にもなる。特には防衛の為の足がかりともなる。とても有用性のある研究だ。


「君は実に理解力に富んでいるな。君のようなヒトと話しながらだと、僕の研究もいつも以上にはかどる気がするよ。何せ、同じ学者科の生徒でも、時には『それが何の役に立つ』と理解を放棄する輩が居る」

「そうですか。全くの役に立たない事柄など、そうそうある物では無いと思うのですけれど」

「そう、全ての理論には、何らかの役目があるものと僕も思う。何の役にも立たないように見えるのなら、きっとまだパーツが足りないのだ。まだまだ、僕の研究が追いついていないのだ」

「…ちなみに、そう言われたのはどんな研究だったんです?」

「興味を持ってくれるかね、これは嬉しい。では語らせて貰おう……君は雷の属性の魔法を知っているかね?」

「はい。主に女性を中心に護身用として使われていますね」


 例によって精霊魔法となると、発揮できる力は低い。

 低いが、それでも雷…電気を発生させる魔法はかなり攻撃力としては強い。火の魔法は正確には温度を操作する魔法だし、風も水も直接的にヒトを害するのは、それなりの準備と環境が無ければ難しいだろう。

 けれど、雷は違う。最低レベルの静電気クラスだって、突然浴びれば誰だって驚き衝撃を嫌がる。

 使い込んで威力を上げれば……ヘタすりゃ気絶、最悪の場合は心臓の弱いヒトなら死ぬかもしれない。精霊魔法でそれなのだ、妖精魔法クラスなら…怖い話だ。

 そんなんだから、平和を尊ぶこの国で、雷の魔法はあまり好まれない。

 武器としての使い道しかないからだ。かなり高位のご令嬢が最後の手段的に使うか、騎士達が傷をつけずに無力化する為に使うか。それだって、事故が無いとは言い切れない。

 結果、使い道のない魔法というレッテルを貼られている。危ないので、これも火と同じく成人するまで子供は基本的に教えてもらえない。


「そう、雷の魔法は攻撃の手段としてしか用いられていない。戦争の無い世界に置いて、最も使えない魔法と呼ばれている。……だが、本当にそうかと僕は思った」

「…他の用途が無いか、と言う事ですか」

「その通り。精霊魔法という弱い力しか発揮できない範囲でも、極めればヒトを殺めるほどの力を発するんだ。それを制御し転用できれば、新たなエネルギーとして用いる事も可能ではないかという仮説を立てた」


 うん。そうだろうな。

 何せある程度の威力は自分の意識で変えられる。それはつまり、電流の強さをコントロールする装置も要らないってことだし。あたしの世界の機械より精度というかそういうのは落ちるが、代わりに手軽な物が作れるんじゃないかな?

 その加減を覚えるのも大変だろうが。


「先ず、世の中には雷を通す物質と通さない物質がある。これは熱を帯びやすい物質と帯び難い物質があるのと同じ事だな。金属などは、その最たる例だ。かつての大戦の折にも、金属の鎧を着た戦士には雷の魔法が実に有用だったと聞く」


 かつての大戦って、人間との戦争か。

 それをさらっとあたしに言う辺り、彼は多分あたしを人間だと認識してないな。

 してたとしても、他人への気遣いより研究の方が比重が上なのかもしれないが。

 …いや、別に言われたところで何とも思わんけども。


「―――以上の雷を通す物質……仮に伝導体と呼ぶが、これらを探し研究するうちに、僕は非常に興味深い現象を目の当たりにした。何処まで雷の力が伝達するのかと調べるための長い鋼線が邪魔になって巻き取っておいたのだが、気紛れからそこに雷を流したところ、不思議な事にすぐ近くにあったピンを引き寄せ……」

「っ、電磁石?!」


 思わず吹き出しそうになった挙句に、口からついて出てしまった。

 おい。そりゃ偶然なんだろうけど、そんな偶然でそんなもんって発見出来るものなんですか。

 発明は99%の努力と1%のひらめきって本当なんだね!

 あたしの言葉をグイノス先輩は研究の邪魔とは見なさなかったようだ。きょとんとしばし言葉をとめて、興味深げにあたしを見る。


「ほう、これは君の知る理論なのかね? 確かに、金属性の物を引き寄せる物質としてはそのような鉱石もあるが、実に稀少だ。だからといって、雷を通し続けていては触れるのも危険だ。故になんの役に立つと同級生に一蹴されたのだが」

「…あー、……いえ、それは極めて有用性の高い発見だと私は思います」


 ちょっと悩んで、あたしはこの発見を伸ばして貰う事に決めた。

 かつての世界で、電気はなくてはならないものだった。でも、それを生み出すのに莫大なエネルギーが必要で、その為に地球資源は枯渇していった。

 でも、この世界では魔力があれば、魔法を習えば、ある程度の電気を生み出せるのだ。そして魔力の無い生物は、多分いない。

 実にクリーンだ。使わない手はないと、判断してもいいと思った。


「その鉄を引き寄せる性質を持つ鉱石ですが、元々そういう力を持っているのでは無いのだと思います。恐らく、その力……磁力を浴び続けた結果、その中に同じ力を蓄えたのだと」

「ふむ?」

「そして、先輩が見つけた磁力を発生する為の装置。それを使えば、磁力を持つ鉱石を人工的に作り出せる筈です」


 磁石ってのは、相当な代物である。

 何もメモを冷蔵庫に貼り付けるだけの物じゃない。当然砂鉄集める為の物でもないんだぞ。

 例えば、大抵の電化製品に入ってるモーター。あれも磁石と電磁石のあわせ技で成り立ってた筈だ。

 コンパスだって、相当重要な発明だった。常に北を指す、いつでも方角が解るというのは素晴らしい事なのだ。航海には絶対に必要な品である。

 他にも用途は様々あるが…いきなり出してもアレだし、そんなもんあたしが出したと言われたらまた面倒な事になる。

 ここは、大変失礼ながら先輩を隠れ蓑にさせて頂こう。


「成る程。世には、魔力に当て続けることでその力を帯びる魔石も存在すると言うからな。この引き寄せる力も、鉱石に移る事は多いに有り得る」


 先輩は、磁石の作り方について、すぐに理解を示してくれた。

 それから、ふむ? と急に首を傾げ……かくんと言う擬音がピッタリで、また可愛いよこのヒトの仕草…、ぶつぶつと口の中で呟き、考え込む。


「天然の磁石よりも、僕が作った装置の方が鉄を引き寄せる力は強かったな。ならば、更なる巨大化をすれば、さらなる力を持つのではないか? あるいは流す雷を増やせば…。強い引力を持つ物質があれば、先ほどの昇降機の動力の件だが自動化が可能かもしれない。動作の時のみ雷を流し、その後高度を保つストッパーを開発すれば……そして降りる時の装置だが…」


 ……おう。

 このヒト、本物の天才だなあ。この分なら、さして時間もおかずに磁石には二つの極がある事や、N極は北のみを常に指すことも発見するだろう。

 それが発見できたら……モーターの理論まで、どれくらいかかるかな。

 一応ざっくりとしたことは知っているけれど、出来れば自分で見つけて貰いたいし、その兆候があったら誘導するくらいが丁度良いかな。


「うむ、これはじっくりと腰を据えて取り組むべき新たな研究だ。実に面白い、場合によっては風や水を使った回転車に取って代わる、新たな動力エネルギーを生み出す結果になるかもしれない」


 電流と磁力の関係性に気付けたなら、そんな日も生きてるうちに来るかもね。

 …それによって、大量生産・大量消費の時代に突入しなきゃいいけど、とだけちょっと心配になった。

 物が無いより良いんだけどね。

 尤も、大掛かりな機械があっても、動かすだけの電力が個人でまかなえると思えないから、相当性能の良い蓄電池でも発明しないと無理かもしれないけどね。

 ……そして、きっと『何時でも誰でも何処でも使える』という便利さが足かせとなって、貯めて使うという発想にはなかなか至らない気がしないでもない。

 この先輩の場合、そんな理論も出しちゃいそうだが。


「……む。もうこんな時間か」


 先輩とレポートそっちのけで雑多に研究という名のお喋りをしていたら、図書館の閉館が近付いたのを知らせる鐘の音が響いてきた。

 おっと、ちょっと夢中になりすぎた。このヒトの話、面白すぎて。


「すみません、結局レポートのお邪魔をしてしまいました」

「いやいや、君との語らいは実に有意義だった。この時間に比べれば、レポートなど瑣末事に過ぎない」


 いや瑣末事ではないでしょう。先生に提出する宿題だよね?

 多分、一日二日で終わらせってモンでもないと思うが。学者科生徒のレポートは多岐に渡りそして難解だ。じっくり書かせた方が良い物も出来るだろうし。


「是非また語り合いたいものだ。君が示してくれた、磁石という存在の実験の結果も教えたいし……。おっと、そういえばまだ名乗っていなかったな。僕は…」

「……先輩。さっき自己紹介し合いましたよ?」

「む、そうだったか? …君の名前は何だったかな」

「マリヤです。使用人科1年の」

「おお、そうだったような気もするな」


 ……いかん、このヒトは頭の中身が研究と未知の解明に殆ど振り分けられてて、通常の人間関係とかを無意識におざなりにするタイプだ。

 要するに、基本的に他人に興味が無いんだな…

 それを気にするようなヤワな精神もしていないんだろうが。そういう意味では、5人目の友達難民では無いんだろうな。友達居なくても困らないタイプのヒトだから、難民ではない。

 …さて、何回名乗ったら、彼はあたしの顔と名前を覚えるんだろうな…

 これで忘れたら、それはそれで種は撒いたし、構わないかもしれないけれど。







 ペンギンが好きです。

 筆者は鳥類万能説を唱えています。陸海空のあらゆるジャンルの最強は鳥だと思っています。走るのはダチョウ。泳ぐのはペンギン。飛ぶのは鳥の独壇場。


 さておいて、相変わらず書いている人間がアホの子なので、頭よさげなキャラは書くの苦労しますね。雰囲気だけでもそれっぽく感じてください。

 グイノス先輩は本物の天才。マリヤさんは、前世界の知識があるだけなので、天才とは違います。

 多分近いうちに恐ろしいスピードでモーターとか開発しちゃうでしょう。

 そんな種、撒いてよかったのか否か。


 なんていってもこの世界いつまでたってもほのぼの平和なファンタジーなので、安心してのんびりお楽しみ下さいませ。




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