33・夏休みの宿題
大した波風も無く、学院生活1年目の1学期は終わった。
1月という長期休暇に入り、入ったけれど基本生徒も先生もやっぱり学院内に居たりする。実家に帰った生徒も居るが。
この長い休暇を、のんべんだらりと過ごすようなことはこの学院で許される筈が無い。しっかり宿題が出されている。
と言っても、出された宿題は一つだ。
その内容は、ズバリ。
『この国と、民の為に何が必要か』に関してのレポートと、発表。
……もんのすっごいざっくりした、壮大な内容の宿題である。
ちなみに、1人ではなくグループで行うことも許可されている。
つまりは子供故の柔軟な発想や、多人数で一つの事を詰める協調性と調停能力、そして発表における資料の作成やプレゼンテーションの向上。
そういうのを狙った宿題なのだろう。
1人でもいいんだけどね。実家帰ってる子は1人になるだろう。頑張れ。
当然のように、あたし達はいつもの5人でこの宿題に取り組んでいる。
レオンには方々からお誘いがあったようだが、全部やんわりと断って一緒に宿題する事にしたようだ。
友人である、という以上に貴族科で押しも押されぬ成績一位であるレオンが、使用人科でトップタイであるあたしとエルミン君と一緒に課題に取り組むことに多大な意義がある、という名目のようだ。
……案の定、レオンにかまけてばかりの貴族の皆様は成績決して良くないから。
そりゃあ王子様ゲット出来れば将来安泰だもんね。あるいは実家の力で進級できると思ってるのか。そろそろ、その夢から覚めた方が良い。
さておいて。
誰かの部屋に全員で集まるのは色々問題があるので、学院の敷地内にある図書館の個室を一つ貸しきって相談中だ。
ほんっと、でっかい建物丸々一つ学院生徒の為の図書館ですよ。いや、図書館に限っては生徒以外でも使えるようにある程度、時間限定で開放してるようだけど。
申請すれば、会議室みたいな個室があって、それを借りれる訳だ。
「この国と民の為、か」
椅子に座り、レオンは腕を組み眉間に皺を寄せている。
なんせ彼はこの国の王太子。将来、国を背負うことがほぼ確定している。
そのレオンなのだから、滅多なレポートなど発表できない。この課題は相当真剣に取り組まねばならず、一緒に考えるあたし達の責任も重い。
「…何が最もその為になるかと言われると、難しいな。決して甘くするだけが国民の為ではないだろう」
「そうね、税だって国の運営の為に必要な収入だもの。無計画に減らしたり無くしたりして良い物じゃないわ」
…ところでメルルさん、最近普通にレオンにタメ語で話すわね…
レオンも気にしてない、どころか割と好意的に感じて受け答えしてるからいいかな。無論、こういう誰も見て無い時限定だが。
「アニマリアは温和な国と言われていますが、それでも犯罪が無い訳ではありません。もしかしたら、法の縛りを逆に厳しくすべきじゃないですか?」
「厳しくし過ぎれば、その分抑圧されて不満が溜まっちゃうわ。それは決して健全で住み易いとは言えないんじゃないかしら」
「…ですが、緩くしすぎれば…、それこそ、好き勝手をしすぎるヒトが多くなってしまう、のではないでしょうか…」
あっちを立てればこっちが立たず。
ぶっちゃけ、犯罪の根絶はほぼ不可能だと思う。
誰もが健全な精神を持っていても、そこに多くのヒトが集い、一緒に生活している以上、軋轢は生まれてしまうものだ。
結果、魔が差すヒトが居るのは、なんというか、仕方ない物だ。
誰しも聖人君子になれる筈がないのだから。重大犯罪に到らなくとも、小さな物まで抑制など出来ない。…無論、悪に走るヒトも0には出来ない。
「正直、現在の法や税は上手く回ってると思うのよね。あくまで机上の話であって地方隅々にまで護られているかは、また別の話になるけれど…」
少なくとも、カルネイロ領及びアイルリーデ領は平和そのものだ。
きちんと年毎の税は無理なく納めていて、遠い存在ではあるが王家や、自分達を収める領主を敬愛し尊敬し信頼している。
真面目な貴族や領主に仕えているヒトや民達は、そんなに不満を溜めてないんじゃないかと思う。
何故なら、この国の風潮…というか方針として、『国や民に奉仕せぬ者、貴族にあらず』というのがあるからだ。
つまり、一般の国民にどれだけの事をしているか、それが貴族の権威に直接繋がっている部分が無きにしも非ず…という訳だ。
そういう意味で、一般人が多いこの学院内にあっても、あからさまに庶民を見下す貴族は居ない。玉の輿目当てのお嬢様方だって、その辺の教育はきっちり受けているからね。
直接家を継がない次男三男であろうとも、滅多な振る舞いをすれば、それが噂となって家名に泥を塗る結果になるんだから、そこはきっちり教えられているみたいだ。…内心はともかく。
そんな彼らがなんであたしやメルルには攻撃してくるかと言えば、一応あたし達は貴族だからね。その範疇に入ってないんだろう。バランさんだって、居丈高ではあるが対面的には庶民に厳しく当たったりはしない。
……無論、だからって一般人が貴族にナメた口聞けばとんでもない事になるが。
貴族は庶民達を護る。その代わりに、庶民は税を納め貴族を敬う。
っつーか本来それがあるべき形で、この国はその形が(少なくともあたしが知る範囲では)きちんと守られている、だから平和なんだ。
「っていうか、この国の法についてなんて、レオンは別として1年生のあたし達はまだ知りきってる訳じゃないし。だったら、もっと違う視点の方が良いレポート書けるんじゃない?」
「違う視点…か。例えば、どんな物だ?」
「そうね……例えば、流通や商売の利便化とか、金融のシステムの見直しとか、教育の質の向上とか」
その辺も頑張ってるとは思うんだが、現代日本出身としてやっぱりちょっとまだまだだなーって思う事はある。
持ち運び簡単な冷蔵庫的な物はあるけど、基本長距離移動は馬車だから、貨物はヒトを乗せるよりは早いけどやっぱり時間かかるし。
雷の魔法もあるみたいなんだけど、あまり用途を見出せないのか持っているヒトは少ない。あれを上手く利用できれば、相当エコな機械を作れる気がする…
……いや、あたしも機械関連に明るい訳じゃないから、聞きかじりの理論でそれを発展させるに足る発想力を持った学者さんの協力が不可欠になるな。
となると、それは今レポートにするのは無理だ。
金融関連も、ホント補助貨幣導入しろよと思うが、国際規格になってると難しいかな。国内だけの補助貨幣は普通にアリだとは思わんでもないが。
ただ、学院内でのレポートの為、机上ではあるが可能だと思われる、王太子が発表して納得されるだけの物となると……
この世界の技術力でも可能で、電気はなくある程度の魔法の補助はあり、という前提で考えて、何か出来る事はー……
「……ごめん、よく知らないから聞きたいんだけどさ。本って、どうやって量産してるの?」
「ああ、専門の職業が居るぞ。そういう者達が、手作業で写している」
やっぱり手作業での写本かい!
そうじゃないかと思ってたけど。少なくとも、地方の学校に教科書一冊しかないんだもんね。
この図書館には本がいっぱいあって、学院では借り物だけど教科書も1人1人に配られてるけど、それは王都で王立学院だからだ。
…つーか本の中身見て、手書きだろうなあーとは解ってた。
ただ、木版かな? とも思ってただけだ。
「それじゃあ、本も多くは作れないわよね。…紙は?」
「そちらは、最近北の方で量産する目処が立ったと聞いた。だから、俺達が大人になる頃には今よりももっと紙を目にする機会が増えるだろうな」
む、そっちの準備は整ってるのか。
だったら、後は印刷技術が整えば、本だってもっと安価で流通するし、広告用のチラシなんかが配布出来るようになれば商売の役にも立つ。
印刷技術…
インクはある。割と細かい物を作る加工技術もある。
機械化は難しいだろうが、少なくとも手作業で書き写すよりも、量産は利く物がある。あるぞ。
……あれって某時代の3大発明品の一つだった気がするが、まあいいや。
「ちょっといい考えがあるんだけど。…聞いてくれる?」
「なになに? こっちでも、あの温室を広めたりするの?」
「…ああ、カルネイロ領で試しているという、暖かい場所を擬似的に作り出す農法か? 聞いているぞ、あれも興味深いな」
「……そういえばそれもあったけど、違うもの思いついたから」
忘れてた訳じゃないけど、あれも広めて良いものだった…
ま、あっちはもっと成果を上げてからでいいんじゃないかな。建設終わって、今まさにサッチャ育ててる最中の筈だし。
それはそうと。図書館の一室で、5人で話し合ったりレポートを纏めたりする作業が始まった訳だった。
――――――
結局、先生に提出する用の資料と発表用のあれそれを揃えるので、夏休みの半分以上を使う事になってしまった。
空いた日で観光したりしたかったが、…まあお外は真夏なので、メルルは学院の外に出たがらなかったから、それは秋のお休みの時にしよう。
長期休暇期間が終わり、先生方の挨拶なんかが済むと、夏休みの自由研究の発表が始まる。
今年は全学年共通の宿題だったようだが、流石に人数が多いので、学年ごとにそれぞれ別の場所での発表だ。
フィズィ先生を始めとした担任の先生とか、…あ、リシッツァ先生も居る。他にも、色んな科目の先生が、10人ちょいくらい?
先生は1・2・3年ごとにわかれて宿題評価するんだろう。
発表の順番は、レオンが居るからなのか一番最後だ。
大部分は庶民の暮らしの向上とか、他国との交流をもっと深めるとか、そんな感じの物だ。で、『こうしたらいいんじゃないか』という発想が主で、その為にどうするという具体性まで持った物はあんまり無い。
先生方も特にその辺りに突っ込む事は殆ど無い。…あまりに支離滅裂な物だと質問が飛ぶことがあるけれど。
ちょっと面白いレポート無いかなーと期待したけど、更なる貴族の地位向上! とか、そういうこと言い出す子はいなかったね。良かったけど残念。
思ってはいるかもしれないが、言っちゃマズイ事があるって解ってるようだ。
何せ、庶民を護り彼らを尊重するのがこの国の風潮であり、貴族はもっと敬われ庶民は貴族に奉仕するべき! …なんてレオンの前で言いやがった日には、結構な大事になりますからね。
ちゃんと法にも書かれてるんです。例の件は。
それを覆そうとしたら、極論お前は利権を貪り私腹を肥やしたいのかと叩かれ立場を危うくしますからね。
先んじて先手を打った、レオンのご先祖様、建国王は賢明だったと思います。
勿論、それを護り護らせてきた代々の王様たちもね。だいたいはどっかでダメな王様が出て狂ってからの破滅になるからね、王政とか封建国家って…
願わくば、今後も平和な国であって下さい。周辺国も含めて。
「では、俺達のレポートの発表をさせて頂く」
おっと、順番が回ってきた。これで発表時間はラストだ。
発表をするのは必然的にレオンになった。王太子差し置いて、あたし達が発言するのもおかしいしね。
沢山のヒトの前に出て発言するという事に慣れているのか、レオンは他の子にあったような緊張らしき物は全く伺えない。若年ながらも、風格を感じさせる。
「俺達はこの国や、そこに住まう民達の為に何が必要かと考えた末、更なる教育の質の向上と、情報の伝達を容易にすべきと考えた」
羊皮紙ってのは、なんというか、高いのだ。
今は紙の方が貴重だから高いけど、量産できるようになったならじきに紙の方が安価になる。
紙より羊皮紙の方が丈夫で長持ちなんだけどね…
ただ、当然ながら羊を使う以上、使える大きさまで育てる時間がかかるし、一頭から取れる数に限りがある。
量産し、国中に行き渡らせるなら、将来的に紙の方が容易で安くなる。
「現在、北のスキウロス領を中心にその周辺で紙の量産が実現化しつつある。紙は羊皮紙に比べ劣化しやすく強度に乏しいが、量産による数が確保出来れば安価な価格という点において羊皮紙よりも優れていると言える」
少なくとも、本が貴族にしか手に入らないと言う事はなくなる。
もっと手軽に印刷物という媒体が行き渡るのは、かなり有用な事だ。
国の政策で、殆どのヒトは字が読めるし書けるのだから。今までは黒板がノートでありポスターであったけど、重いし消したらそれまでで保存も利かない。
ノートって大事だよ。後から簡単に読み直せるの、大事だよ。
例え数百年単位の保存が利かなくても。…てか長期保存が必要なものを羊皮紙にすればいいんじゃないかな…
あたしの世界では羊皮紙、ほぼ廃れてたけどね…。それは上質な紙媒体が出来たからと、電子媒体も出来たからかな。
…しかしこう考えると、技術が進むごとに事故で一瞬で消えるのが容易になってるのは気のせいだろうか。
「アニマリアでは、将来ある子供達の育成に力を注いでいる。だが、地方にまでは本や教科書が子供達の人数分行き渡っていないのが現状だ。本の量産が可能になれば、更にこれが効率良く、質の良い教育をする事が出来ると考える」
「殿下、そのお考えは大変素晴らしく思います。しかし、紙の量産は出来ても本の量産となると、話は違うでしょう」
発言したのはフィズィ先生。
本来は手を挙げてからだが、フィズィ先生は蛇だからね。代わりに尻尾があがりました、それはいいんだ。足挙げるようなモンじゃないんだ。
さておいて、その言葉は全く持ってその通り。
無地のノートなら、製本の手間だけで量産は比較的容易だろう。
だが、本や教科書となると話はまったく別。
大量の内容を、現在はヒトの手で書き写している。
だからこそ、本は高いのだ。紙でも羊皮紙でも関係なく。
単純に写本担当者を増やしたところで、国中の子供達に教科書を行き渡らせるとか、初動時点でどれだけの労働を写本担当者に強いる事になるやら。
だが、勿論レオンは慌てない。先生の言葉に、静かに頷くだけだ。
「無論、現在はヒトの手による書き写しが主な本の生産方法であるから、現在以上の数を求めるとすれば、製作者達の負担は跳ね上がる。だからこそ、俺達はここに新たに『印刷』という方法を提案したい」
この世界に『印刷』技術は無い。だから、その単語はあたしからの発生だ。
今更ながら、この世界の言葉と前の世界の言葉は違うと思う。文字が全く違うしそこから書かれる単語も違う。なのに言葉は通じてる。
それがどういう力によるものかは未だに解らんけど、とりあえず印刷という単語は耳慣れないながらも、全くの異国語としては認識されなかった。
…ホント、どういう原理になってるのやら?
助かるから、どういう原理でもいいけどさ。
「資料の二枚目を見て欲しい。簡単ながら、印刷機を図解している」
絵を描いたのはあたしです。
本当はサンセさんが一番絵心があるんだけど、こればっかりは言葉で説明して正しく描いて貰うのは難しかったので、頑張った。
何を頑張ったって、発表する先生の数分描く事だよ…!
それから、レオンの背後にも、大きな紙に大きく描いた同じ図を、あたしとエルミン君で広げて、資料渡してない生徒達にも見えるようにする。
一見して、何がなんだか解らんのだろう。
子供達は首を傾げる。が、何せ王太子殿下の発表中なので、滅多な事を口に出す者は居ない。
大人達は、食い入るように手元の資料を見つめている。
「概要もそこに書いてある。先ずは、文字の形を押せる判…活字を大量に造る。通常の判とは構造が逆になるが、通常と同じ形を造り、そこから型を取って鋳造する事で製作が可能であり、量産が可能だ」
我らが屈指の難解言語日本語ならばひらがな・カタカナ・漢字とそれこそバカみたいに数が必要だが、この国の言葉は英語なんかに近いので、活字の種類はそこまで多くなくて済む。
その分、一度型を作れば量産はそんなに難しく無い筈だ。
あれだけ綺麗な獅子の彫刻を施したコインを造れるのだから、活字だって問題なく造れるだろう。
「そして、完成した活字を原本と同じ文になるように並べ、インクを塗り紙を押し当て、文字を転写する。ページ毎に並べ替える必要はあるが、同じ内容をいくつも作り出すという点において、手作業で書き写すよりは圧倒的に早い筈だ」
「成る程、誤字をした際の次回の修正も入れ替えれば良いだけか。個人差による文字の崩れも無くなる」
「これは、羊皮紙による製本にも応用出来るのではないですか?」
「いや、羊皮紙は紙ほどにはインクが染み込み難い。押し当てるだけでは充分に文字が読めないでしょう。紙だからこその利点という訳ですな」
ざわざわと先生方がざわめきだす。
そう、羊皮紙は丈夫で長持ちだ。ただし、活版印刷には向かないのだよ。
紙は吸水性が良い。だからインクを押し当ててローラーである程度圧迫するだけで簡単に文字を転写できるのだ。
「今まで写本を担当していた者達も、この印刷作業に移す事で雇用が減るという心配も殆ど無いと思われる。更には本だけでなく、同一の内容の紙を大量に印刷する事で商売の宣伝や、生徒達への連絡事項や試験と、応用の幅はいくらでもある」
加えて、羊皮紙って当然皮だから、紙より重いんだよね…
紙だって量があれば重くてかさばるけど、羊皮紙程じゃない。
むしろそういう一過性のものほど、軽くて安くて印刷しやすい紙を利用すべきじゃないかなーと思う。
「本の量産とそれにおける教育の質の向上、情報伝達の向上により、更に国や民の知性と心が豊かになる。…以上で、俺達の発表とさせて頂く」
目に見える部分より、目に見えない部分の豊かさって大事だよね。
お金や物ばっかり潤沢になっても、幸せとは限らない。
でも、本や教育、情報が行き渡ることって大事だよね…、あたしはそう思う。
……その分、デマや嘘も行き渡りやすくなるんだが、流石にそこまで懸念していたら、いつまでたっても進めないし。
個人的に、この平和で牧歌的な中世ファンタジー世界が気に入ってるので、必要の無い技術を明かす気はない(というか明かせるほど博識でもない)が、これくらいは良いんじゃないかな…
そこから更に発展させるかは、この世界のヒト次第なんだし。無責任だけど。
レオンの発表が終わり、あたしやメルル達も先生達に向かって一つお辞儀する。
と、レオンをヨイショしたい貴族の子達は勿論、他の生徒や先生に到るまでがスタンディングオーベーションの体で拍手を贈ってくれた。
良かった。一国の王太子に相応しいだけの内容はあったようだ。
そして、今回に限っては生徒達よりも、先生の食いつきがすさまじく、中でも国語の先生……ダチョウのトラウ先生がレオンにダッシュでがぶりよってきた。
尚、ダチョウなので当然ながらバーダム出身の先生です。
「殿下、素晴らしい! 素晴らしいです! これは本という世界に革命が起きますよ! 是非とも更にお話を聞かせて下さい!」
「ああ、すまない。…実は、この件の発案者は、マリヤなんだ。だから、詳しい事は彼に聞いて欲しい」
発表こそレオンがする事になったけど、発案はあたしだった。
勿論、レオンもメルルもサンセさんもエルミン君も、沢山意見出してくれたり資料作ってくれたりで、皆でやったんだけどね。
レオンを取り囲んでいた先生方が、一斉にあたしを見る。
いや、ごめん怖い。慣れたつもりだったけど、流石にそれだけの数の大人の動物に一斉に注視されると、今でもちょっと逃げたくなる。
「そうだったのですか! マリヤ君、貴方には常々非凡な物を感じていましたが、まさかここまでとは…! もしや、ニンゲンの技術の一つですか?!」
「あ、…いえ、それは…違う、んじゃ、無いですかね…」
「とすると、君自身の発想ですか?! それは益々素晴らしい事です!!」
「そーいや、お前カルネイロ領でも色々面白いモン作ってたよな。寒い地方で暖かいトコの作物作る小屋とか、木の玉で作った計算機とか」
あ、そうかリシッツァさんはウルガさんと連絡してるから、その辺知っているのか。ウルガさんにも、そろばんを誕生日プレゼントに贈ったしなあ…
そんなリシッツァさんの言葉に、トラウ先生のみならず、数学の先生と栽培の先生の目の色まで変わった。
あれ。なんだろう。物凄く嫌な予感、が。
「気候を調整した栽培方法を実験していると噂で聞いたが、君が発案者か! 出張したくてもなかなか時間が空かなかったんだ、是非その話も聞かせてくれ!」
「木で作った計算機とは、どんな物でしょう? 簡単な使い方であれば、子供達の数学への拒否感の改善へ繋がるかもしれません、私にも教えて下さいませんか?」
「ちょっとお待ちなさい、先ずは印刷機からです! 私の知り合いの職人にも話を通します、一刻も早い実用化が求められるのは明白です!」
うわあああああ落ち着いてえええええええ。
がぶりよる先生方。他の先生達も、それぞれに一番興味ある物について聞きたがる先生の応援に回ったようです。
この学院の先生って教育者というより、今でも学者とか研究者とかそういうヒト達ですもんねー! こういう時、ホント遠慮というか容赦無いよねー!!
「か、隠し立てするつもりはありませんから! だから落ち着いて、順番に話させて下さいませんかっ!」
「俺からだ!」
「私からです!」
「順番を守るべきでしょう、最初に聞いたのは僕ですよ!」
だから落ち着けって!!
なんというか、あたし達の発表が最後で良かった。
興奮した先生方にとうとうずるずると引っ張られていきながら、そんな風に思った。
一部冷静な先生が、唖然とする生徒達に授業の終了と後ほどの評価の発表についての日程を連絡しているようです。
フィズィ先生かっこいいー。
ていうか、あたしこれから事情聴取(?)ですかー。
いつごろ解放されるんだろうか。とりあえず、お昼ご飯は忘れられそうだ。
大人であればあるほど、その価値の解るマリヤさんの発案。
とは言え、書いてる人間がお馬鹿さんなので、なんというか、技術的なこととかあんまり深く考えないで下さいね!
例によって、薄ぼんやりと適当にお楽しみくだされば幸いです。
ただマリヤさんは現在のこの世界が気に入ってるので、あんまりオーバーテクノロジーは伝えるつもりがありません。
というか、そういうのが伝えられるほど知ってる訳でもないので。
基本構造と理論を聞きかじっているだけ。雑学レベル。それでも、この世界にとってはとんでもない事があったりしますが。
どんなに便利でも、きっと石油やガソリンというエネルギーを彼らが発見するまでは教えたりしない。
化学物質による環境汚染を、知っているから…
製紙工場とか思いっきり環境汚染するんじゃね、と思われますが、そこまで言い出したらキリがないので忘れる事にした筆者←
きっと水の浄化方法とかあるんですよ。うん(投げっぱなした)




