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ヒツジさんの執事さん  作者: 美琴
第一章
3/67

3・家族


 異世界に転生したと思ったら身寄りの無いお子ちゃま状態で、あまつさえ性転換していて放り出されて、早1週間。

 幸運にも地元の領主さんに引き取って貰えたお陰で、無事に生活出来ている。

 嬉しい事にお部屋を一つ貰った。かつてあたしが住んでた部屋よりもちょっと広い。流石はお金持ち!

 そこで鏡を見て初めて気付いた。

 ……あたし、超美少年になってる。

 さらさらした金髪と、深い青の色の瞳。物凄く適当に髪が切られていたり、ちょっと痩せてたりしているが、きちんと整えれば、これは天使系ショタになれる。

 尤も、この獣人世界においてそんな事彼らには思われないだろうけれど。目下、あたしの見た目はあたしの目の保養になるだけだった。なんて不毛。

 さておいて。

お屋敷のメイドさん達の仕事を手伝いつつ、それとなーく色々教えてもらって、大分この世界の事が解ってきた。


 先ず、この国はアニマリア、と言うそうだ。

 主に哺乳類系の獣人が住んでいる国で、王様が居て貴族が居て、地方を治める領主が居て、沢山の平民がいる。いわゆるところの、封建国家らしい。

 他にも、オウリア先生のような鳥系獣人が住む国や、鱗に覆われたトカゲ系獣人が住む国も近くて、その3国は交流も活発で交易は勿論、留学のような事も盛んに行われている。

 他にも遠くに魚っぽいヒト達が多い国とか、虫らしきヒト達の国もあるらしいが、その辺とはあんまり交流が無いそうだ。…魚人はちょっと見てみたいけど、出来れば等身大の虫には会いたくないな。

 『っぽい』となったのは、彼らにとっては四足歩行の動物とはきっちりと区別されていて、見た目の特徴を聞いてそうだと判断した事による。

 羊は羊で別に存在していて、メルルを羊だなんて呼んだ日には、きっと烈火の如く怒り狂う事だろう。…あたしの目には、二足歩行して服着て喋る羊以外の何でも無いんだけど。

 まあ多分そこは、人間が猿を同系統と思えど仲間だとは思わない、そういう感じなのかな。

 尚、哺乳類系獣人も、爬虫類系獣人も、ハッキリと他種族、という意識でも無いようだ。

 簡単に言うなら、哺乳類型はアジア人、爬虫類系はヨーロッパ人、くらいの感覚。どうやら田舎には草食系が多く、王都には肉食系が多いらしい。ざっくりと、だけど。

 基本的には、『ヒト』と自分や他人を総称している。

 かつては、人間もその中の一つの人種だったみたいだ。

 といっても、もうかなり昔の事らしく、普通のヒト達は人間を見た事すらない。先生のような博識なヒトや、年老いたヒトならばわかるかも、くらいの本当に絶滅危惧種。

 ……日本で、絶滅されたと言われていた、ニホンオオカミでも発見されたくらいの立ち位置かな。いや、言いすぎか。

 んー、トキか。トキくらいかな。

 すったもんだがあって気付いたら1人だけになってしまっていて、そんな姿を見たらあたしだって『気の毒』だと思うし、護りたいと思っただろう。

 皆があたしに同情的なのは、そういう感覚だ。

 ……種類はランダムとしても転生先として選ばれたんだから、世界の何処かで細々生きているかもしれないけれど。

 そもそもどうやってあたしがこの世界に生まれたのかは、もう考えるだけ無駄な気がしたので悩むのをやめた。


「マリヤ君、そろそろお昼にしましょうか」

「はい」


 こしこし花瓶を磨いていたところに声をかけられ、多分アルパカなメイドさんの元へ歩いていく。

 仕事の手伝いと言っても、まだ子供の身。力仕事が出来るはずもないので、こういう細かいところのお掃除やお皿拭きなどをさせて貰っている。

 これが、手が小さいから結構ヒヤヒヤする。お屋敷だけあっていかにも高価なお皿もそれなりにあり、本当に緊張する。

 厨房を覗くと、猫のメイドさんがお料理をしていた。

 彼女が何か呟くとふわっと指先から光が生まれて、指差した方へとふわふわ飛んで行き、火が灯る。

 ……この世界には、魔法がある。なんてファンタジー。

 かなり世間一般にそれは普及している。と言っても、今みたいに火をつけたり、わずかに風を起こしたりする、生活をちょっと便利にする程度のものだけれど。

 よくゲームにあるような、炎がばーん! となったり氷がずばーっ! と出たりするような派手な物も存在はするらしいけれど、王都の有名な魔法使いでもなければ使いこなすようなヒトも今は居ないそうだ。

 それくらい、今この現代は戦争も遠い昔で外敵も居ない。そんな破壊的な魔法は必要とされてないという訳だ。

 よじ登るように椅子に座って、メイドさん3人とテーブルを囲む。あたしはいただきます、と言うけれど、3人は神様への感謝のお祈りをする。

 神様。…あの神様にお祈りをする気にはあまりなれなかったので、あたしは今まで通りの習慣を続ける事にした。別に恨んではいないが、良くも悪くもフレンドリーで崇拝の対象には出来なかったから。


「美味しい? マリヤ」

「はい。カッツェさんのおりょうり、いつもすごく美味しいです」

「ふふふ、ありがとー。子供はいっぱい食べなきゃね、こっちもどうぞ」

「ありがとうございます」


 今日のお昼は薄いパンケーキ。

 蜂蜜をかけるような甘いものではなくて、野菜やハムなんかと一緒に頂く軽食。

 猫のメイドさんことカッツェさんは、にこにこしながら卵をあたしのお皿に取り分けてくれる。

 このお屋敷に勤めているメイドさんは、3人。

 兎の獣人、ラビアンさん。彼女は、主にゴーティスさんの業務のお手伝いをしている。3人の中でも一番の古株でベテランなのだそうだ。メイドというより、秘書かもしれない。

 猫の獣人、カッツェさん。主に炊事や洗濯を担当している。彼女のごはんはとても美味しい。猫はどちらかというと肉食動物な気がして、草食動物の多いこの近辺では珍しい、…と思っていたら、ここの食べ物の美味しさに惚れ込んで、王都からこしてきたのだそうだ。

 アルパカの獣人、クーニャさん。彼女が一番若くて、主に掃除を担当している。あたしは主に彼女について仕事のお手伝いをしている。ちなみに首はそんなに長くない。

 他にも、年配の庭師さんや、いつも門の所に居る守衛さん達も居るけれど、もっぱらこの3人と一緒に一日を過ごしている。

 3人とも穏やかで朗らかな性格で、ありがたい事にあたしは彼女達にとても可愛がって貰っていた。

 比喩ではなく身一つしかなかったあたしの為に、古着を持ってきて繕ってくれたり、優しく仕事を教えてくれたり。

 一度教わった事をきちんとするくらい出来るし、元々掃除は好きな方だ。

 かくして、真面目で働き者の見習いお手伝いさん、くらいの立ち位置を確保するのに成功していた。

 ……素直な子供というスタンスを崩してはいないけれど、精神的には決して子供じゃないからなあ。相変わらず、あたしは少々打算的だ。


「ごちそうさまでした」


 両手を合わせて、ぺこり。そんな仕草を、メイドさん達は微笑ましく見ている。

 いや何が良いって、ご飯が美味しいのがとても良い。

 ゴーティスさんが治める領地には村が3つある。そのどれもが、農業や放牧などが盛んであり、その作物は王様に献上されることもある程の質の良い物なのだそう。

 必然的に、それらを使って作られるお屋敷の料理は、贅をつくした物ではなくとも充分に美味しい。

 というか、そもそも領主家族もあまり贅沢を好んではいない。無論こうやってメイドさん達と食べるような食事よりは手のこんだ料理を出しますが。お昼はこんな感じだが、朝夕は一応養子であるので、ご家族にご一緒させて貰ってます。

 やっぱりというか、見た目的な食の好みは適用されるらしい。別に肉を一切食べない訳じゃないけれど、草食っぽい見た目のヒトは皆野菜好き。カッツェさんはソーセージやハムの方が好きみたい。

 そんな訳で、食に関してはとても充実していて満足している。

 …あえて言うなら、日本人としてたまに白いお米が恋しくなるけれど。主に麦文化なようでお米を見た事はない。まあ、贅沢よね、それは。


「マリヤっ!」


 使った食器を洗い場まで持って行って、洗うのは任せるにしても拭くのはやろうと、あたし用にと用意してくれた踏み台を持ってきた辺りで、背後から声をかけられた。

 腰に手を当てて、今日はオレンジ色を基本としてレースを沢山あしらった可愛らしいワンピースを着たお嬢様は、どうやら不機嫌そう。


「何でしょうか、メルルさん」


 問い返せば、益々むすっとした表情になる。…毛むくじゃらで表情変化を読み取るのは難しいけど、メルルくらい表情豊かだと大分解りやすい。他のヒトに比べれば。


「何してるのっ」

「おひるを食べて、あとかたづけのお手伝いします」

「この後はっ?」

「えと…、まだ西の方の花ビンとたなをふき終わってないので、つづき…」

「もうっ!!」


 ぷうっ、と両頬を可愛らしく膨らませる。

 えーと、何を怒ってらっしゃるのかしら、このお嬢さんは…

 困っていると、最初の日と同じように、ぱしっと手を取られた。


「ラビアンっ、今日はもうマリヤはお休みよ! いいわね!」

「はい、かしこまりました、お嬢様」

「え、でも…」

「でもじゃないの! さ、こっちきなさい!」


 有無を言わせぬ勢いで、まくしたてられぐいぐい引かれる。

 仕方なく、着いて行く事にした。元々、ノルマがある訳でもなく、あたしでも出来そうなことを自主的にやっている、というのが半分くらい。

 …っていうか、他にやる事ないんだもの。ボーっとしてるのも、養ってもらってる身で悪いなーと思うし。

 ヘタにお屋敷の外に出て迷子になったら、目も当てられないしね。

 手を引かれて連れて来られたのは、メルルの部屋だった。

 中に入るのは初めてだ。そりゃそうだ。仮にも女の子の部屋、しかも領主様の娘である、お嬢様の私室。男のあたしが勝手に入ったら、叱られるなんてモンじゃない。…と思う。

 扉を閉めるとメルルは手を離して、ぼすっと音を立ててふかふかのクッションが敷かれた椅子に座る。

 相変わらず、ご機嫌は麗しくないらしい。

 うーん。一体何をして機嫌を損ねたかしら。特に覚えは無いのだけれど。

 とかく、女の子とは複雑なものだ。…いや精神的にはあたしも女だけど、女として残念なくらいサバサバしていたもので。思春期も通り過ぎて久しいし。


「何突っ立ってるの、マリヤも座るの!!」

「あ、はい」


 お機嫌斜めな女子とは、即ち台風だ。天災に真っ向から立ち向かってはいけない。

 言われるままに、メルルの向かいの椅子に座る。…あら、このクッション気持ち良い。ふかふかする。

 それはさておいて。


「あの、メルルさん。私、何かいけないことを、しましたか…?」


 なるべく相手の神経を逆撫でしないよう、控えめに尋ねてみる。

 本来ならば聞くまでも無く解っていないと怒る物だ。女子とはそういう理不尽な生き物。

 が、残念ながら心当たりがない。なら、風速を強めるのも覚悟して、聞かないと。

 ご主人様の娘さんに嫌われては、ここで生きていけない。それは困る。

 むううっと声にまで出して、お嬢様はご立腹。…この嵐を、あたしは無事に乗り越えられるんだろうか…?


「たしかにっ! ちゃんとお手伝いしなさい、って言ったのはわたしだけど!」

「…はい?」

「メイドとおなじくらいにはたらきなさい、なんて言ってないでしょ!!」


 ……はぁ。

 そりゃあ言われてはいないけど。


「でも、ここにおいていただいているんですから、ちょっとでもお役に立たないと…」

「~~~っ、そうじゃないわよ! そうじゃなくって!! …マリヤ、お母様に言われなかった? ゆっくりでいいから、家族になりましょ、って!」

「……言われました」


 でも、それはいわゆる社交辞令だろう。

 確かにこのおうちはお金持ちかもしれないが、血の繋がらない役立たずの子供を平気で置いておくほど、世間は普通甘くない。

 あたし的にも、生きる為に働くという行為は至極当然で、こんな待遇の良い所で働かせて貰える事に感謝すらしている。


「アナタは、ドレイでも召使でも使い走りでもないの! なのに、わたしやお父様やお母様には他人ぎょーぎでえんりょしてばっかりで、ラビアン達の仕事の手伝いばかり、ずーーっとやってて! マリヤ、一回もわたしと遊んでないでしょ!」


 …そういえばそうだ。

 ここでの生活が始まってから1週間、あたしはこの世界の事と、ここで生きる為の常識をメイドさん達を手伝いながら学ぶのに精一杯で、この羊さん一家とは朝夕の食事の時くらいしか顔を合わせていない。

 確かに、ちょっと不義理だったかな。

 ……いやだって、メルルはともかく旦那様も奥様も忙しそうだしなあ…。手を煩わせるのも悪くって、それなら仕事しながら話が出来るメイドさんの方が都合が良かったんだけど。


「そりゃっ、…マリヤはお父さんやお母さんとはぐれて、1人ぼっちで不安なんだろうけど! マリヤは子供なんだから、甘えていいし遊んでいいの! マリヤがあんまりスナオでしっかりしすぎてる、ってお父様達、心配してるんだからね!」


 ……ホントにお人好しだなあ、あの夫妻…と、この娘さんは。

 そういわれてしまうと、あたしは確かに子供らしくないか。

 だって、頭の中身は20代半ばなのだ。無邪気に遊びたいと言う欲求は、もう成りを潜めてしまっている。

 仕事だってキツくはないし、衣食住保証してくれてる対価としては軽すぎるくらい。

 ……なんていう考えが、先ず子供らしからないか。

 メルルは一生懸命、一人ぼっちになってしまったあたしの事を理解しようと、考えて想像して、心配してくれている。

 彼女自身、家族を愛しているからこそ、そんな風に思える優しさを持つんだろう。

 それを、全く余計とは思わなかった。

 優しいヒトは、大好きだ。それを向けられるなんて、あたしは幸せな果報者だ。


「はい。…ごめんなさい、メルルさん」

「あとそれ!!」

「え?」

「子供は、敬語なんて使わないの! なんども言うけど、わたし達とマリヤは家族なの! 血は繋がってないけど、もう家族なの! だから、メルル『さん』とか無し!」

「……でも」

「『でも』もなし! メルルって呼ぶか、あるいはお姉ちゃん、って呼ぶの!!」


 …お、お姉ちゃん…?

 うっすら弟妹が欲しかった願望が透けて見えた。それは可愛らしいけれど、彼女を姉と呼ぶのはまだちょっと抵抗がある。むしろあたしをお姉ちゃんと呼んで…、…いや今ならお兄ちゃんか。それだったら別に呼び捨てでいいや。


「じゃあ…、…メルル」

「よろしい! あとは、フツーに喋るの! 家族なんだから、フツーに!」

「…いや、その」

「なにっ」


 敬語で喋り続ける、のは別に苦じゃないし不可能じゃない。元社会人として、それは最低限のスキルだ。

 しかし、男として喋る…のは。

 一人称『僕』とか『俺』とか。物凄く、違和感がある。矯正しようとしたら、かなりの時間と労力を使う事になるだろう。

 家族として普通に喋るとなると、必然的に…


「……自然に喋ろうとするとね。…あたし、こういう喋り方になるんだけれど。どう思うかしら?」


 この根っからのお人好し家族なら、一度くらいは許してくれるだろう。

 敬語で固めず、ナチュラルに喋って首を傾げたら。メルルが口をぽかんと開けて、瞳をぱちぱちと瞬かせた。

 当然の反応でした。

 まだ声変わり前で可愛らしい顔と声をしているとは言え、今のあたしは男だ。メルルもそれを知っている。

 むしろもうちょっと育ってオネエ系キャラを確立してるならともかく、女言葉で喋るショタとか、新ジャンルすぎてラノベ好きなあたしでさえ見た事はない。逆ならいそう。あるいはロリババア……いやショタジジイ系。…それもあんま見た事ないな。


「うん…やっぱり気持ち悪いですよね。やめときます…」

「べっ、別に気持ち悪くはないわよ! ちょっとおどろいただけで!」

「すいません、変なもの見せました…」

「だから、変じゃないわよ! …ううん、ちょっと変わってるとは思うけど。マリヤが変わってるのなんていまさらだし、喋り方がくわわったくらい大丈夫よ!」


 ……うん、まあ存在自体が珍しいですもんねー。

 絶滅危惧種の珍獣で孤児でオネエ言葉のショタ…。…うわあ、聞いた事ない属性の組み合わせだわあたし。あと前世の記憶継承済み。もう意味が解らない。

 ちょっと自分自身に食傷気味になって薄ら笑いを浮かべるあたしに、メルルはがたんっと椅子から立ち上がり、その両手であたしの手を取る。


「べつに良いわよ! ムリして良い子してうちとけられないくらいなら、女言葉くらい気にしないし! だから、もっとおしゃべりしましょ! いっしょに遊びましょう!」


 ずずいとドアップで迫られる。

 至近距離に羊の顔ってのは一瞬驚くが、それを置いておいてもメルルはとても良い子で、可愛らしい。

 つまるところ。

 引き取られた子供を、もしかすれば最後の人間であるかもしれないあたしへの心配は勿論あるのだけれど。

 それ以上に、身近にいる同じ年頃の子供への興味と好奇心。

 簡単に言えば。

 彼女はあたしと仲良くなりたくて、一緒に遊びたいのだ。

 もしかしたら、大きなお屋敷で子供1人な彼女は、普段とても退屈だったのかもしれない。


「…わかったわ。あらためて、仲良くしてくれる? メルル」

「もちろんよ! わたし達、家族なんだからっ! いっぱい色んなこと教えてあげるし、いっぱい遊んであげるわ!」


 可愛い羊のお嬢様に微笑みかければ、メルルも嬉しそうにあたしに抱きつく。

 …こ、これは、…ふかふかの絨毯の肌触り…!!

 しっかりお手入れをされたメルルの羊毛のふかふかもふもふ具合たるや、何気に動物好きなあたしの心を掻っ攫うには充分過ぎる破壊力を持っていた。

 ふ、ふかふかしたら怒られるかしら! 女の子だしね! あたし男だしね! ちっ!!


「それじゃあ、なにして遊んでくれるの?」

「そうね、今日はトクベツに、わたしのとっておきのお人形をかしてあげるわ! お父様に頂いた、王都で有名なデザイナーが作ったお人形なんだから、ホントにトクベツよ!」


 そういう所は、正におしゃまなお嬢様だなあ…

 戸棚に沢山並んでいた人形たちのうち、可愛らしいエプロンドレスを着た茶色いくまのぬいぐるみを持ってくると、あたしに貸してくれる。

 …こういう動物デフォルメした人形の感覚は、あたしの世界と変わらないのか。


「かわいいお人形ね、ドレスのセンスもステキ! いいわよねぇピンクとホワイトの組み合わせ、あたし大好きよ」

「でしょう! 一番のお気に入りなんだから! でもずっといっしょにいるのは、お母様が作ってくださった、こっちのウサギさんでねっ」


 ああ、人形を本当の自分のお友達にするタイプの少女なのね。可愛らしい。

 解る解る、あたしにも覚えがある。ちっちゃい頃は何処に行くにもデフォルメされたキリンのぬいぐるみを持っていって、汚れても洗濯を許さないほどだった。

 この世界に来てからこっち、なんだかんだと気を張り詰めていたようで。久しぶりに砕けた口調で話せるのも、笑えるのも、嬉しかった。

 気に入られようとお行儀よくしていたのは、ちょっとストレスになっていたらしい。


「…ところでマリヤ。口調はともかく、アタマの中身も女の子なの?」

「そ、そんな事ないわよ? たしかに可愛いものは好きだけど、あたしは男だもの」


 と、言う事にしておこう。

 じゃないと、変な印象や噂を最初から立てられても困る。

 この調子でメルルと話せるなら、本当に口調を治さないかもしれない。…それならそれで、こう、イケオネエ的キャラクターを目指していこう。

 あたしそういうの嫌いじゃないから! …とハッキリ言えるような趣味は元々無い。そういう好事家のおじさまなんかには、お世話になりたくない…

 精神はともかく、身体は男だからね! ちゃんと男として生きて行くわよ! ただ、趣味嗜好は人それぞれよね! って事で、一つ。




 尚、ゴーティスさんやシフィルさんにも口調の事を話して、驚かれたけれどそれも個性の一つだ、と笑って受け入れられた。

 オネエという属性が断固無しではなかっただけ、幸運だったと思おう。

 …もういいや。オネエショタで。意味解らないけど、面白おかしい珍獣とでも思って頂いて結構です。

 だって、男口調を意識的にやると、なんか恥ずかしいんだもの。ムリはしない。

 ショタ属性だって、持って精々5・6年でしょうしねー…




 マリヤとメルルの間にあるのは、友情、家族愛、主従愛。

 そんな感じで、仲良しさんです。2人の会話は完全にガールズトーク。


 マリヤさんはサバサバしてますが可愛い物もちゃんと好きな、乙女でした(過去形)

 可愛いの好きだけど格好良く生きる方が楽だった。そんなんだから、彼氏出来なかったんじゃないかという可能性が微レ存。

 きっと高校では後輩女子からチョコを貰っていた系。



(2014/7/6 誤字脱字、他一部表現を修正)

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