外伝・メル雪姫
・ブクマ登録数100達成、有難う御座います!
・という訳で、今回は本編に一切関係しない、番外編となります。
・ギャグです。
・コメディです。
・ふざけてます。
・ネタとメタが大満載です。
・一部キャラが大崩壊している気がします。
・いつもにもまして、生ぬるい感じにお楽しみ頂ければ幸いです。
むかしむかし、とある王国に1人のとても可愛らしいお姫様が居ました。
雪のように白い毛並み、黒檀のように黒くてくりっとした瞳から、そのお姫様は皆からメル雪姫と呼ばれていました。
……え、赤の部分? 細かい事は気にするなです。なんか初版ではその部位の明確な指定ないらしいですし。ちなみに瞳が黒ってのは初版で実際そうです。よし、おおよそ合ってる。
さておいて、メル雪姫はお父さんやお母さんやお城の皆に可愛がられて健やかに育っていましたが、実はお后様は本当のお母さんではないのです。
メル雪姫の継母さんは、恐ろしい魔力を持った魔女でした。
お后様以外は誰も、王様ですら入れない秘密の部屋で、お后様は豪華な飾りのついた立派な鏡に向かい、今日もいつものように尋ねます。
「鏡よ鏡。世界で一番美しいのは、何処の誰?」
厳かな声に、鏡は……
「・・・・・・・・・・・」
何も答えませんでした。
流れる沈黙に、誰も居ない部屋で鏡に向かって偉そうな独り言呟くとか、端から見たら痛々しいどころじゃない状況に、お后様がぷるぷる震えだします。
そして、ガッ!! と鏡の枠を掴みました。
「聞いてるんですかっ! ちょっと! お仕事を放棄しないで下さい!」
「んが、……なんだよ、もうちょっと寝かしてくれって…。昨晩ちょっと酒飲みすぎて、頭が痛くてしょーがないの、オッサンは…」
「鏡が何処でどうやって酒飲んだって言うんですっ!?」
「え、何? サンセちゃん、オッサンに興味ある? そういう事なら、」
「割りますよ、そろそろ」
「すいませんでした」
す、っと何処からかお后様が取り出した巨大な木槌に、流石に身の危険を感じたのでしょうか。酔いどれ鏡がやっと謝罪しました。
そして足元に木槌を置くと、お后様はコホンと一つ咳払いをします。
「改めまして。鏡よ鏡、この世界で一番美しいのは、何処の誰?」
「はいはーい、それはこのお城のプリティーアイドル、ふわふわ毛並みのメル雪姫でーっす。お后様は二番目かなー?」
厳かな雰囲気のお后様の言葉に、終始ゆっるゆるのだっるだるな口調で鏡が答えました。
その返答に、お后様はカッ!! と目を見開いて。
「そう! 私の大事なメルルさ…じゃなかった、メル雪姫が一番可愛いんです! ベリプリなんです! イッツソーキュート!! 世界で一番プリンセス!!」
「…サンセちゃん、オッサンが言うのもなんだけど、そんなキャラだったっけ?」
「演技です!」
「……それが演技だとしたら、一流の役者になれるって、マジで…」
一瞬でスイッチオン、全開モードに突入したお后様に、今度はオッサン鏡がドン引きしました。
ナレーションが突っ込んでも無駄ですが、そんな台詞は台本にありません。って言うか台本に忠実な台詞が『鏡よ鏡』のくだりしかありません。
「そのメル雪姫なんだけどー。今日もお城飛び出して、どっか行ったんだけどさ」
鏡の言葉に、メル雪最高、メル雪フィーバー、みたいにくねくねしながらどっかの世界に脳内だけ旅立っていたお后様が高速で振り返ります。
もしも鏡に足があれば、その動きに嫌でも後退していたでしょう。
「またですかっ?!」
「おてんばな子だからねえ。お城の中だけじゃ狭すぎるんじゃないかな?」
そう、見た目だけなら深窓の令嬢、ふわふわわたがしのプリティー系お姫様なメル雪姫ですが、その中身は気が強くおてんばで、かつツンデレ。
そんなメル雪姫がお城の中で鳥籠生活なんて耐えられる筈もなく、持ち前の行動力を最大限に発揮し、城外へ脱走なんて日常茶飯事なのです。
勿論ちゃんとその日のうちに帰ってくるので、お城や家族が嫌いな訳ではないんですが。むしろ好きでしょう。
「なんで、どうして、お城に、私の傍に居て下さらないのかしら…。何がそんなに不満なのでしょう、欲しいって言う物は何でもあげるし、いつだって傍でもふもふぎゅーぎゅーしてあげてるのに…」
「…それ、子育てとしては一番ダメなタイプじゃね?」
「私はこんなにメル雪姫が好きなのに、…どうしてメル雪姫は私だけを見てくれないのでしょう…!」
「え、母娘の愛を越えた百合なの? 何それこわい」
先ほどまでのフィーバーとは一転、部屋中をうろうろしながら怪しい発言を繰り返すお后様に、またもや鏡さんドン引きです。しかもかなり愛が重い。
よっぽどメル雪姫が可愛くて大好きで仕方なく、かつ日々の彼女のおてんばっぷりに振り回され不満に思っている結果のようなのですが。
そんな奇行を5分ほど続けた後、突如ぴたりとその動きが止まります。
落ち着いたか、という鏡さんは期待しましたが、そんな事はありませんでした。
「そうです! 私だけを見てくれず他ばかり見るのなら、いっそこう、一思いにやってしまえば他を見てやきもきする事がなくなりますね!」
「ちょ、それ一番ダメなヤツだから!!」
「そうと決まれば、丁度狩人が来ていましたね! 彼にお願いしましょう!」
「ちょっとー!! サンセちゃーーーん!!」
何故突然ヤンデレた。
一生懸命鏡さんは突っ込みますが、お后様は全く耳に入っていないようで、足早に秘密のお部屋から出て行ってしまいました。
いやその、そういう思い込んだら止まらなくなるキャラは他の子の特性なんで、出来れば突然付与されないで欲しかったんですが…
部屋内に動く者が居なくなり、ぽつんと残された鏡さんは。
「……なんとかしてやりたいが、悲しいけど、俺って鏡なのよね」
せやな。
――――――
冒頭一発目からの展開に皆様戸惑っていらっしゃる方も多いかと思われますが、無情にも物語は進みます。
お后様に命じられ、たまたまお城を訪ねていた狩人さんは、お外に遊びに行きたい病をこじらせたメル雪姫をいともあっさり森へと連れ出しました。
「凄いわ! 森のこんな奥深くに来たの初めて!」
それにしても、このお姫様、ノリノリである。
世間一般の女子は、人気の無い森に男性と2人きりで入るなんて事は絶対にしないようにお願いします。マジであぶねーから。
普段1人では来れない初めての場所に、おてんばメル雪姫はきゃっきゃと喜びますが、連れてきた狩人さんの方は浮かない顔でした。
「(…いや、こっからどうしよう。つーか、どうしろと。おかしいだろ、義理の娘とは言え、溺愛しまくってた娘を連れ出して殺して来いとか。頭どーした)」
一介の狩人がお后様に逆らえる筈もなく、言う事を聞いたは良いのですが。
別に彼とてメル雪姫が憎い訳では全く無く、どちらかと言えばっつーか確実に好意を抱いている方で、殺すとかいやマジ無理ですと断言出来るのです。
連れて戻って罰を受けるのは良いのですが、その場合はきっと自分ではない誰かに同じ命令が下されて、今度こそメル雪姫は殺されてしまうかもしれません。
そうなると、今後取れる道はそう多くはありません。
「マジで殺すのは無しだし…。でも森に置き去りなんて出来ないし…」
ばっか、男ならそこは自分の家に連れ帰って嫁にしてハッピーEDだろ!
「ちょ! バカ! それこそできねーよ! 何考えてんだよ! な、ななななんでオレがメルルと、じゃなかったメル雪姫とそのあのそういう」
「……何1人でキョドってるのよ、クルウ」
「べ、別になんでもねーよ!!」
突如脳裏を過ぎった(と言い張ります)考えに一人突っ込みをかました狩人さんに、メル雪姫はあからさまに胡散臭そうな視線を向けます。
何を隠そう、メル雪姫と同じくらいのレベルで狩人さんもツンデレでいらっしゃいますので、なかなか自分に素直になれないのです。
「あー…、…あのな、メル雪姫」
「なによ」
「絶対隠し通せなさそうだから、ハッキリ言っとく。お前、城に帰ると危ない」
「は? 何言ってるのよ、城はわたしのおうちよ? なんで危ないのよ」
「今日、お后様にお前を森に連れてって殺せって命令されたんだ、おれ」
「はあ?! どういう事よ、お母様がなんでわたしを殺さなきゃいけないの?!」
「しらねーよ! いきなりやってきて、ちょっと用事いいつけるみたいなノリで言われてこっちだってドン引きだよ! そのクセ、目がマジでこえーし!」
「それで、ホイホイ頷いてわたしを殺す為に連れ出したってこと?!」
「本気で殺すつもりならとっくに後ろから殺してるだろ! できねーからこうやって話してやってんじゃねえか!!」
「何それ、なんでそんな偉そうなの?! お母様から殺せなんて命令された女の子の気持ちをどうしてもっと考えて優しく言えないのよ!!」
「じゃあお前はお姫様を殺せなんて命令されたおれの気持ち考えたかよ?!」
落ち着かんかお前ら。
エキサイトしたのはメル雪姫が先なんですが、口喧嘩のエンジンスタートしちゃうともう、なんていうか、止まりません。誰かブレーキか突っ込み、はよ。
ぎゃーぎゃーと森の真ん中で前にも後ろにも進まない言い合いを続ける事、あっというまに10分。
喚きつかれた2人は、ようやくぜえぜえと肩で息をしながら止まりました。
「とにかく、…お母様に何があったか解らないけど、わたしは命を狙われちゃってる訳ね」
「そういう事らしい。いや、マジで何か心当たりないのか?」
「全然。今朝もお母様は優しかったし、でもそろそろお姫様らしく、お外に勝手に飛び出して行くのは控えて欲しい、とか言われたくらいで…」
「…まさか、それが原因でキレた訳じゃ無いよな?」
「いくらなんでも、そこから突然殺意に行くとかおかしいでしょ」
そのまさかだったりするから、世の中っておそろしい。
突如お母様が娘にヤンデレたとは露知らず、メル雪姫と狩人さんは揃って首を傾げますが、原因は解らずとも事実は事実。
このまま、すんなり城に帰る訳にはいかないのです。
「最終的には、城に帰りたいよな?」
「当たり前よ! お母様に何があったのか解らないけど、お父様もお城の皆も、勿論お母様だって大好きだもの! わたしのおうちはあのお城よ!」
こっそり狩人さんが嫁にするのは難しいようです。残念残念。
しかし命を狙われて尚、お母様大好きとハッキリ発言するメル雪姫、マジ男前。
「…解った、とりあえずメル雪姫を殺したって事にして、おれが城に戻って様子を見てくる。その間、お前は森に隠れてろ」
「隠れられる場所とか、あるの?」
「もうちょっと森の奥に行くと、7人の小人が住んでる家がある。気の良いヤツらだから、事情を話せばしばらくかくまってくれるだろ」
「ん、解ったわ。…悪いわね、ありがと」
とりあえず、狩人さんがお后様に命を狙われた事を気の毒? に思い、助けようとしてくれてるのは確かです。
気に食わない相手と言えど、謂わば命の恩人。
故に色々気を回してくれる狩人さんにお礼を言うと、狩人さんは急に挙動不審になって、数歩ずさりました。
「どうしたの?」
「いやっ、…その、……べ、別にそんなんじゃねーんだからな!!」
謎の発言を残し、唐突に明後日の方向へランナウェイしていく狩人さん。そんなんじゃないなら、どんなんなんでしょうか。
そんな彼を見送ったメル雪姫は、暫く唖然とした後。
「…ま、いいわ。もう少し森の奥だったわよね」
出来ればもう少し気にしてあげて、メル雪姫。
それから暫く森を歩いた後、メル雪姫は森の奥の小さな可愛いおうちに辿り着くことができました。
ここが7人の小人のおうちなのでしょうか。
赤い屋根のおうちに近付いて、とんとん、と扉を叩きます。
「はーい、どちらさまですかー?」
「ダメですよムッカ。知らないヒトだったらどうするんです。先ずは尋ねてきた相手が誰なのかを確かめてから、扉を開けないと」
「さすが、セキュリティもバッチリですねっ!」
「ふむ、それじゃあどうする? 声だけでは解らないぞ?」
「何か証明出来る物とか見せて貰えばー?」
「扉の上の隙間から、手を入れて貰うとかですか?」
「まあ、それなら狼が尋ねて来ても安心ですね。エルミンは頭が良いです」
お前ら、それ狼と7匹の子ヤギだから。7違いだから。
室内からわいわいと聞こえる声に、とりあえず数的にここが7人の小人のおうちで間違い無さそうだ、とメル雪姫は安心しました。
少なくとも、悪いヒト達の家ではなさそうです。内容が罪が無い。
「ごめんください、森の外のお城から来た、メル雪姫と言います」
「お姫様だって! 見てみたいよ、開けて良い?」
「では、扉の上の隙間から、貴女の手を入れて見て頂けますか?」
それ引っ張るのかよ。
小人さんのおうちは、メル雪姫にとっては小さく感じるもので、扉の上の方にも余裕で手が届きます。
隙間から、メル雪姫は手を中に見せます。当然ですが、鋭い爪もなければ毛並みも真っ白ふわふわです。
「狼ではなさそうですね」
「はい。失礼しました、お客様。いらっしゃいませ」
危険な相手ではないと小人達もわかってくれたらしく、がちゃりと扉が開き、メル雪姫を中へ招き入れてくれました。
そこに居たのは、メル雪姫の胸くらいまでの身長しかない、小人達。
「…………ごめんなさい、ちょっと突っ込み入れて良い?」
「なんなりと」
「ポーラ様とエルミンと、ムッカとミミィは良いわ。まだ納得出来る」
「立派な小人だよ!」
「ええ、こういう経験も楽しく思いますわ」
小人さん達の中の4人については構わないようです。シロクマ型小人、オコジョ型小人、牛型小人、兎型小人と、とても可愛らしい子供…もとい小人達です。
「……あの、…小人?」
「ちっちゃいから小人だろう」
「あくまでも今回の作品における小人とは、『小さなヒト』という意味であり、子供という意味ではありません。ですから、矛盾していないんです、メルルさん」
「な! オウリア先生もこう言ってるし、細かいこと気にすんなメルメル!」
笑顔でサムズアップする狼型小人と、眼鏡をクイっとする仕草をしながら理論展開する梟型小人。
おい、狼室内にいるじゃねえか。
そして、最後に……
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「……王子様じゃないんですか」
「それは俺がむしろ尋ねたい」
暫し無言で見つめあった後、尋ねれば半眼の獅子型小人が言いました。
「確かに、なんで本物の王子様居るのに、小人役に回されたんだろうね?」
「この時点で、王子役誰なのかバッレバレよねえ…」
「そうですわね。…あら、もしかして遂に禁断の恋物語が紐解かれますの?」
「い、いえいえこれってそういう話じゃないですから! …ですよね?」
「わたしに聞かないでよ」
君達、真面目に演じやがりなさい。
ちなみに獅子型小人に関しては、『むしろ王子様をないがしろにするという選択肢』って意見が採用されてしまった結果になります。
「どうしてそんな意見が平然とまかり通るんだ?!」
ここが番外編だからです。あとナレーションに突っ込み入れんな。
まあひと悶着あって後、かくかくしかじかとメル雪姫が身の上を説明すれば、小人達はとても同情したように聞いてくれました。
「親が子の命を狙うか……。せちがらい世の中だなあ」
「本当に。これが可愛さ余って憎さ百倍という状況ですね」
「う、うーん…。…やっぱり憎まれてるのかしら、お母様に…」
「大丈夫だよ、なんか誤解とかかもだし!」
「そうよっ。おうちに帰れるまで、ここに泊まって行けば良いわ」
大人な小人2人は世の中を憂い、しゅんと落ち込むメル雪姫を、特に小さな小人2人がぎゅーっと抱きついて慰めます。
「それでは、今日はメル雪姫の歓迎会と致しましょうか。エルミンさん」
「はいっ、ポーラ様! 腕によりをかけて用意させて頂きます!」
「…エルミン。お前、今は同じ小人同士じゃないのか」
「えっ。…あ、いえその。何というか…これが自然な気がしまして…」
完全に使う側と使われる側です。多分それで大丈夫、合ってます。
かくして、メル雪姫と7人の小人達の同居生活が始まったのでした。
――――――
それから、しばらく経ちました。
お城に戻って様子を見に行った狩人から連絡が来る事もなく、メル雪姫は小人達のおうちのお外の掃き掃除をしています。
お姫様なんだからのんびりくつろいで、という言葉に首を振った彼女は、お嬢様ではありますが自分でも出来る仕事を、と一生懸命お手伝いしています。
一方、完全に使う側が板についているシロクマ小人は特に何もしてないような気がしますが、誰も気にしてませんし、彼女はそういうものです。
さておき、この日は小人達が皆揃って森のどこかへお仕事にでかけていました。
1人でお留守番をしているメル雪姫は、箒を片付けてからふうっと溜息を吐きます。
「お母様、一体どうしちゃったのかしら…」
気がかりなのは、大好きなお母様の事。
確かに、ちょっと心配性で少し過保護で若干空回り属性をお持ちのお母様なのですが、だからといって何かの勘違いで娘の命を狙うヒトとも思えません。
小人達との生活は、これはこれで明るく陽気で楽しいものですが、やはり生まれ育った場所は特別なもの。
日が経つにつれ、メル雪姫はお城に帰りたいなーと切に思うのでした。
「お嬢さん、こんにちは」
「えっ? あ、こんにちは」
突然声をかけられて、吃驚して振り返ると、そこにはいつのまにか見た事のない老婆が立っていました。
深く腰を曲げたおばあさんが何故こんな森の奥に、と言う疑問を口にするよりも早く、老婆は腕に下げていた籠から、美味しそうな林檎を一つ取り出します。
「お嬢さん、とっても美味しい林檎ですよ。お一つ如何ですか?」
「わあ、本当! 丸くって赤くって、美味しそう!」
差し出された林檎は、形と良い艶と良い、とてもとても美味しそうでした。
果物が大好きなメル雪姫は一瞬食欲につられかけますが、すぐに目の前のおばあさんが全く知らないヒトで、普通は理由も無くタダで誰かが何かをあげる事はそうそう無いと思いなおします。
「ご、ごめんなさい。いくらなんでも知らないヒトから、貰ったり出来ないわ」
「良いんですよ、どうせこれは売れ残りなんです。持って帰るより、お嬢さんみたいな可愛いお姫様に食べて貰った方が、幸せです」
「でも……」
「…実は、私は林檎売りなのですが、最近は買ってくれるヒトも少なくて…。売れ残りなんて持って帰ったら、私は父に酷く叱られてしまうのです…」
その設定、マッチ売りの少女だから。作品ちげーから。
よよよ、と袖で目元を拭うしぐさをする老婆に、そもそもなんで森で林檎売りしてるんだろそりゃ売れないだろ、と突っ込みするのも忘れたメル雪姫は、差し出された林檎を受け取ってしまいました。
「えと、わたしが貰えば、怒られないで済むのよね?」
「はい! ああ、やっぱり可愛い上に優しいんですね、メル雪姫!」
「…あら? わたし名前言ったっけ?」
「ま、まあまあとにかくどうぞ! とっても美味しいですから!」
突然トリップしかけた老婆に首を傾げますが、気を取り直してとばかりに美味しそうな林檎を差し出します。
なんか妙な気分になりましたが、目の前のとてもとても美味しそうな林檎の誘惑に二度も抗うのは不可能でした。
「それじゃあ、いっただっきまーす!」
林檎売りの老婆から受け取った林檎を、メル雪姫は躊躇わず齧ります。
原作でもそうだけど、お姫様として林檎丸齧りってどうなの?
林檎はとても瑞々しく、甘い果汁がたっぷりで、姿形通りの素晴らしく美味しい林檎でした。
メル雪姫はそう思ったのですが。
次の瞬間、彼女は一口だけ齧った林檎を手にしたまま、地面にぱたりと倒れこんでしまいました。
「ああ…ごめんなさいメル雪姫。貴女はいつまでも、私の胸の中で生き続けますから、安心して下さいねっ」
だから、それ一番ダメなヤツだから。
老婆に変装していたお后様は、またもよよよと零れる涙を袖で拭いながら、林檎による毒殺現場から迅速に退場していきます。愛があるなら、折角だから持って帰ったらどうだろう。1人じゃ無理か。あとお話困るか。
メル雪姫が倒れてからすぐ、お仕事に行っていた小人達が帰ってきました。
おうちの前で倒れているメル雪姫に、小人達は吃驚して駆け寄り、彼女を抱き起こします。
「メルメル?! どうした、なんでこんな所で眠ってるんだ?!」
「どうしたのでしょう、何か持病があったのでしょうか?」
「メル雪姫ー、どうしたのー? おきてー、風邪ひくよー?」
びっみょーーーに各人温度差がある気がするのは気のせいでしょうか。
とにかくおうちに運び込み、色々と介抱してみますが、メル雪姫は目を覚ましません。
「メル雪姫様のお傍に、こんな林檎が落ちていました」
「林檎? 今はこの家に林檎など用意されていなかった筈だぞ」
「じゃあ、もしかしてこの林檎に毒でも塗ってあるのかな?」
「その可能性はありますわね。毒見をしてみます?」
「では僭越ながら僕が、」
「冗談でもやめんか、危ねえ!」
物凄くナチュラルに毒見をさせようとするシロクマ小人と、しようとしたオコジョ小人に狼小人が迅速に突っ込みを入れました。
頭をはたかれたのはオコジョ小人だけですが。
「うーん、毒となると解毒が必要だな。しかし何の毒なのか……ここに鏡のヤツが居れば一発なんだがなあ」
手も足も無い存在に無茶いわんで下さい、狼小人さん。
場の誰もが、毒なんてものは専門外。
しかし、放っておけばメル雪姫は本当に死んでしまうかもしれません。
皆が腕を組んで悩み出す中。梟小人さんが、急にキラリと眼鏡を光らせました。
「解りました、こうなってはやることは一つです」
「な、なあに? 何するの、先生?」
「メル雪姫をガラスの棺に入れましょう」
「……なんで」
「そうしなければならない、という使命感に襲われました」
そんなふんわりとした理由の原作再現はいっそいらなかった。
大真面目な顔で訳解らない事を言い出す梟小人さんの発言は何故か採用されてしまい、意識の戻らないメル雪姫はどこからか用意されたガラスの棺に安置されました。
「…いや、その。…完全に埋葬直前にしか見えないんだが」
「まあ、いざという時が来た時には手間が省けそうですね。さすが先生です、目の付け所が違いますわ」
「メル雪姫死んじゃったー!」
「まだ死んでないわよ! 泣かないでよムッカ!」
お姫様だしって事でついでに周囲にお花とか飾ったら、完全に出棺直前状態になってしまいました。
移動させたり泣き出す子が出たりと相当な大騒ぎですが、それでもメル雪姫が目を覚ます気配はありません。
地味に先生も動転していたのかもしれません。したんでしょう。そう言う事にしておきましょう。
みんなで右往左往する中、小人のおうちの扉が開かれました。
「ごめん下さい、ちょっと良いかしら?」
「ちょっと! ノック無しに勝手にあけちゃだめよ!」
「いや、ノックはしたわよ? でも返事が無かったから」
大騒ぎしていて、気がつかなかったようです。
扉を開けて入ってきたのは、金色の毛並み……というか髪に、青い瞳の美しい男の子でした。
男の子の割りには完全に女言葉でしたがそんな事はどうでもよく、ただその存在にぴたりと小人達の大騒ぎが止まります。
「王子様だー!」
「王子様来た!」
「これで勝つる、と言うのでしたかしら?」
「ポーラ様、そのような言葉使いをなさっては、その、ポーラ様の気品が…!」
「今は脱線しないで集中しろ、そこ!」
あのナチュラルな使う方と振り回されてる使われる方、なんとかならないんですかね。まあいいや。
諸手を挙げて歓迎する小人達に、入ってきた王子様はきょとんと首をかしげ、それから首を横に振りました。
「あたしは王子様じゃないわよ」
「え? マリヤが王子様でしょ?」
「や、あたしは執事だし」
そこ貫くのかよ!! 臨機応変に動けよ!!
けろりと言い放つ王子様、改め執事さんに、今度は小人達の方が唖然とします。
そんな事を気にしてくれる様子もなく、執事さんはおうちの奥に置かれたガラスの棺の中で、在りし日のお姿を忍び状態のメル雪姫を見つけます。
躊躇うことなく眠る彼女に近付くと、軽くぺちぺちと頬を叩きます。
勿論、目覚める素振りもありません。
「どうしたの、彼女」
「それが、毒を塗られた林檎を食べてしまったらしく、目を覚まさなくなってしまったんだ」
「林檎は吐き出させたんだが、もう毒が回ってたのかもなあ」
介抱中に吐き出させたんかい。逆にダメだろ、物語的に。
獅子小人や狼小人の説明を聞いて、執事さんはふむ、と考え込みます。
しばらくそのまま思考を続けた後、もって来ていた鞄の中から何かの包みを取り出しました。
「え、マリヤそれなあに? お薬?」
「解毒の薬を持っているのですか?」
「や、そういう類の薬じゃあないんだけど」
手際よく開いた包みには、四角い形の茶色い何かが入っていました。
小人達は見慣れぬそれに首を傾げますが、執事さんは包みの中身の内の一つを手に取って。
躊躇無く、眠るメル雪姫の口に突っ込みました。
「ちょ、迷いが無いな!!」
「お姫様を起こすなら、王子様のキスじゃないの?!」
「だから、王子様じゃないし」
「結局、それは何ですの?」
「これは……」
執事さんの解説は、半端なところで止まりました。
何故なら、先ほど口に何かを突っ込まれたメル雪姫が、信じられないくらいの速さで飛び起きたからです。
そして、すかさずこちらを向いて。
「ここはどこ?! わたしは誰?! この美味しいの何?!」
「……ただのクッキーなんだけどね」
これは酷い!
ロマンスの欠片も存在しない起床方法に、小人達も全員沈黙です。
この微妙な空気において、やっとハッキリ目を覚ましたメル雪姫は、隣に居る執事さんに気がついたようでした。
「マリヤ!」
「はい、ただいまメル雪姫。ごめんねー、留守の間にえらい事になってたみたい。帰ってきたら居ないから吃驚したわ」
「……あれ、2人知り合いなの?」
「義弟で、執事よ!」
「義姉で、ご主人様です」
本当に執事設定貫くんかい。
認識したと同時に執事さんにとびつくメル雪姫に、尋ねた牛小人さんに当然とばかりに返答する2人。
随分気心知れた中のようですが、その割には冒頭から存在感が0でしたね。
「クルウから連絡貰ってね、慌てて帰ってきたの。さっきすれ違ったサンセさんもきちんと捕まえてお説教しといたから、もう戻っても大丈夫よ」
「本当?! やっとお城に帰れるのね!」
結局、お后様がなんで自分を殺そうとしたのかは良いんですか、メル雪姫?
まあ内容が内容だけに、執事さんもご自分の胸にしまっておくことにしたのかもしれませんが。そりゃあ義母が突然娘好き過ぎてヤンデレたとか、知られたくないだろうし知りたくもないでしょうけど。
「メル雪姫、帰っちゃうのー…?」
「ダメですよ、ムッカ。メル雪姫は、元々お城のお姫様なんです」
「そうだぞ、ムー坊。やっとおうちに帰れるんだから、引き止めちゃダメだ」
またも涙目でぷるぷるしだす牛小人さんに、梟小人さんと狼小人さんがよしよししながら諭します。
すっかり懐いてしまったようですが、メル雪姫だって暫くの間彼らにお世話になって、はいさようなら、とは言えないほどに愛着が涌いてしまっています。
困った顔になるメル雪姫に、またも執事さんが考えます。
「だったら、皆纏めてお城に招待するのはどうかしら。メル雪姫もお世話になったから、そのお礼をしなきゃ」
「あ、そうね、そうよね! ねえ、良かったらお城に遊びに来て! 目一杯おもてなしするから!」
「ほんと? 遊びに行っても良いの?」
「勿論よ! その後だっていつでも来て良いし、わたしだって遊びに行くわ!」
「わーい! 私もお城行ってみたかったのー!」
「ぼ、僕も興味があります! 是非!」
「あら、皆が行くならわたくしも。楽しい時間になりそうで、どきどきしますわ」
「だ、だったら俺も…」
「大人もちゃんと付き添ってやらなきゃなあ。ですよね、先生!」
「ええ。まだ彼らは子供ですから、きちんと引率をしませんと」
皆の意見が一致したところで、お世話になった小人と、あんまり出てこなかったけどちゃんとお仕事した狩人さんも、皆を招いてメル雪姫はお城に帰りました。
執事さんにこっぴどくお説教され、すっかり意気消沈していたお后様とも無事に仲直りをして。
森に住む小人達とすっかり仲良しになったメル雪姫は、お城と森を行ったり来たりしながら、毎日楽しく幸せに暮らしましたとさ。
めでたし、めでたし。
…その後も事ある毎にメル雪姫独占計画をしようとするお后様が、その度に執事さんにこっぴどくお説教されてぷるぷるする事になる……というのは、また別のお話です。
シリアスとかロマンス? いえ、知らない子ですね。
という訳で、100ブクマ有難うございます!
そして、こんなのが記念品でごめんなさい!(謝った)
こういう面白おかしい謎のジェットコースターが本編で繰り広げられる事はありませんが、今後ものんびりゆったり幸せに生きていきます。
どうぞ、これからも宜しくお願い致します。
尚、サンセさんは別に百合でもヤンデレでもありませんから!
というわけで、お読み頂き有難う御座いました。この事はさくっと脳内から削除して、本編にお戻りください。




