28・必修授業にて
学院の授業は、必修科目もあるが、選択科目もある。
クラスによって共通の必修もあれば、それぞれ異なる授業もある。
例えば、語学や数学、歴史や地理なんかは共通の必修授業だ。意外な事に体育もあって、それも必修である。
あんまり貴族様が率先して運動するイメージ無いけど、座学ばかりだと普通に身体に悪いしね。あと太るしね。いいんじゃないかな。
…いや、どっちかというと、運動イメージがないのは学者志望の皆様か。
引きこもるようになる前に、適度な運動は脳の活性化にも繋がると気付いてくれればいいねえ。
で、それとは別に個別の必修授業もある。
貴族と使用人にそれぞれ、別の礼儀作法の授業がある。
一口に作法と言っても、上に立つ側と仕える側では違うからね。
それから、いくつかのジャンルの中から選ぶ授業もある。
料理を含んだ家庭科的なものとか。それこそ、主人の代役を務める為の総合力を養うものとか。使用人と一言で言っても、こちらも結構種類あるし。
更にその他に、本当に多種多様な授業がある。
オッサ……もといリシッツァ先生が受け持っている薬学とか。魔法学、錬金学、生物学、その他もろもろエトセトラ。
この辺はきっと学者志望の皆様が、将来何を極めるかの足がかりとなる授業なんだろう。
勿論、学者志望じゃなくても選択できる。あたしも薬学は興味ある。
応急手当くらいはウルガさんや3兄弟から学んだが、しっかりとした薬の知識はあった方が良い。癒す薬だけじゃなく、殺す薬も世の中にはあるのだ、それへの対策にもなるからね。
そういう特殊な技能を持った使用人は、雇い先を探す時に付加価値としてアピール出来るから、一見関係なさそうな授業を受ける子も多い。
いや、あたしは就職先決まってるけどね。
入学後の4ヶ月は自分に合った技能を探すためにも、積極的に色々な授業を体験してみなさい、との担任の先生からのお話だった。
尚、担任の先生は、なんと蛇でした。名前はフィズィ先生。
彼女はレプティリアから来ている魔法学の先生。現在の世界では数少ない、妖精魔法を習得している才女でもあるのだとか。
蛇だから腕も足も無いのだが、尻尾で器用にチョークや本を扱い、妖精魔法なのか必要な物品を浮かせて運ぶ様子なんかが生徒達の興味を引いていた。
きりっとした美人先生で、厳しいがその分真面目な生徒をきちんと評価する、良い先生である。彼女に憧れて魔法学を選択しようかと言う子も居た。
……あたしは、妖精にはちょっと因縁があるからなあ。興味はあるんだけど。
メルルも興味あると言っていたので、本格的に学ぶ事になったらあたしも一緒に選択するかもしれない。
で、本日はというと。
「はい、そこで足を止めて。姿勢を崩さないように。そのまま、焦らずしかし遅れず一礼です。…そこ、角度が甘いですよ、もう一度!」
使用人科の必須、礼儀作法の授業である。
男女それぞれにまた作法が違うので、男子女子で別々。
教えてくれている先生は、モノクルが素敵な狸の老紳士。尻尾が凄いふかふかそうだなあ、とか考えていたら見抜かれたのか、集中しなさいと一言頂いた。
むう。これが本物の執事か。相手が考えてる事くらい言わずとも察する能力、是非欲しいな。
「はい、宜しい。エルミン君、マリヤ君、2人は合格です。他の皆はもう一度、初めから見直しますよ」
「「「はいっ!」」」
逸早く、あたしと……茶色い毛並みのオコジョの少年が合格点を貰い、皆の列から離れる。離れたと言っても、あたし達は姿勢を崩さず待機だ。
長時間の不動待機も、必要な技能の一つだからね。授業中は休めの姿勢なんて許されないのだ。
しかし、礼儀作法自体は前にもヤマネな先生から習ったが、あれはあくまで貴族としてのだったからなあ。執事のとなると、ちょっと勝手が違う。
おかげさまで合格点を貰うのに、授業の半分の時間が費やされた。でも同着一番手だけどね。満足する気もないが。
使用人科の生徒の、5割くらいは一般人だ。残り5割は…ちょっと位の低い爵位の子とか。
多分だけど、このエルミンというオコジョ君もそんな貴族の子息なのだろう。基本的な礼儀作法は身についている。
あたしと同時に合格を貰ったくらいだ。それに驕らず努力の出来る、良い子なんじゃないかなーと思う。
…おっと、思考を逸らしていると、また先生に悟られて注意される。
待機しながら、また歩き方・待機の姿勢・方向転換にお辞儀の角度と細やかな指導をする先生の声に耳を傾け、皆の動きを見ながら自分の動きもシュミレートして復習する。
「……ぅ…」
ん…?
すぐ隣のオコジョ君から、不思議な唸り声のような物が聞こえた。
同級生の列から隣に視線を移すと、オコジョ君は待機の姿勢のまま、僅かに顔を伏せて、ほんの少しだが身体が揺れている。
あれ。…もしかして、体調不良か?
この学校は厳しいが、身体を壊すまでのスパルタを許容している訳ではない。むしろ将来国を支える若者を育成する場所だ、健康管理についてはかなり細やかな物がある。
どうしたのかと聞こうと口を開くより早く、彼の口から聞こえた声に、あたしは耳を疑った。
「……ぐぅ…、…すぅ…」
・・・・・・・・・・・・・・・・・。
おい、この子立ったまま寝てるぞ。
僅かに揺れてはいるが、ほぼ不動の姿勢のままで。凄い、凄いけど、その特技は決して偉くは無い。
思わず呆気に取られたが、どうしよう。
これを先生に気付かれれば、彼は叱責を免れない。折角一位タイで抜けてこの授業の評価が高くなりそうなのに、それを取り消しになるかもしれない。
思考に使える時間は長くない。
ここで突いて起こせば、急に眠りから覚まされた彼は挙動不審になる可能性が高いだろう。そこから追求されれば結果は同じ。
となると。
「…すぅ……、…っあ?!」
先生の指導も熱が入り、生徒達がお辞儀をして完全に周囲の視線がこちらに向いていないタイミングで、隣のオコジョ君の足を払った。
当然突然の事に彼は体勢を崩し、驚きの声も上がる。
驚いて振り返った先生の視線の先には、こちらも目を丸くして床にしりもちをついているオコジョ君。
自分が今何をしていたのか、そして今どうなっているのか理解出来ず、へたり込んだままだ。
「どうしました、エルミン君」
「あ、…す、すみません、その…」
「先生、どうも彼は体調が思わしくないようです。先ほどから懸命に姿勢を保持し続けていましたが、耐え切れなかったようで」
真剣に授業に取り組み、良い成績で合格した彼は真面目で勤勉だという評価を得ていたのだろう。先生も怒る前に、尋ねてくれた。
どもる彼の代わりに、あたしが答えて、すっとオコジョ君の横に膝をつく。
大丈夫ですか? と声をかけながら覗き込む。彼はようやく事態を理解したのか頷いた後、俯いてしまった。
「…ふむ。まだ新生活に慣れず、体調を崩す事は良くある事です。己を律し励む姿勢は立派ですが、身体を壊しては元も子もありませんよ」
「……すみません…」
「貴方は本日の合格ラインを達成していますし、少し保健室で休んできなさい。マリヤ君、エルミン君を連れて行ってあげて貰えますか?」
「はい、解りました」
先生は、解っているのかいないのか。
それでも優しい表情で、あたしとエルミン君の途中退室を許可してくれた。
まあ、授業中の、しかも結構きつい動きを繰り返した後、立ったまま寝てしまうくらいだ。彼の体調が万全でない事は確かだろう。
少なくとも睡眠不足だ。
俯くオコジョ君を支えるように立たせて、寄り添って教室を出て保健室まで付き添った。
いわゆる保健室の先生、でもしっかりお医者さんの資格も持っているという鹿の先生が、案の定疲労が溜まっているようだと告げ、暫く休んでいなさいとのお達しがなされた。
診察をしてくれた部屋と、休む為に案内された病室のような部屋は別だった。いくつものベッドが白いカーテンで区切られていて、まさに病院の一室。
今は他に利用者もいないようで、これから僅かの間でもゆっくり眠れるだろう。
「では、私はこれで。ゆっくり休んで下さい」
「あ、あのっ」
まだ授業の時間は残っているし、あたしは戻らないといけないだろう。
エルミン君の制服の上着をハンガーにかけて、彼がベッドに入ったのを確認した後に退室しようとしたのだが、引き止められた。
「はい?」
「…ごめんなさい、…あと、ありがとう」
「御礼の必要はありません。そもそも、貴方を転ばせたのは私ですし」
「それも、体調不良の説得力を上げる為、でしょう?」
声をかければ先生に気付かれるし、突いて起こせば挙動不審になってやっぱり怒られる。
ならばもういっそ、派手なアクションにしてしまった方が角は立たない。
そう判断した事を、彼は理解していた。…場合によっては恥をかかされたと怒っても仕方ない事をしたのだが、中々聡明なオコジョさんだ。
「貴方は、優しいんですね」
「そうですか?」
「そうです。…僕の居眠りを先生に言えば、僕は今の授業の評価を取り消されたでしょうし、そうしたら貴方が一番になれたじゃないですか」
「一番になるくらいのつもりで取り組んでいますが、一番になる為に他者を陥れるような人間にはなりたくないと思っていますから」
そんな発想なかったわ。
成績を良くする努力を惜しむつもりはないが、他人を引き摺り下ろして順位を上げるとか、何の意味も無い。それは、自分の向上では全く無い。その順位に、価値などない。
あたしがきっぱりと言い切れば。オコジョ君は目を丸くして、それから僅かに俯いた。
「……君には、一番にならなければならない理由が?」
「ぼ、僕もその為に相手を蹴り落とすとか、しちゃいけないと思います! …でも出来るだけ良い成績を取り続けないと…」
ふむ。
話が長くなりそうなので、あたしは一言失礼しますと断って、彼のベッドの端に腰を降ろす。
少なくとも、彼には寝不足になるまで勉強に打ち込まなければならないだけの理由があるし、それを共有できる相手はまだ居ないようだ。
あたしに出来る事は殆ど無いが、話を聞くくらいは出来る。それでスッキリするのなら、お安い御用だ。
無言で続きをどうぞ、と促すあたしに。彼はまた少し驚いたような表情をしたけれど、話し始めてくれた。
「その、僕は、貴族の出身なんです。…と言っても、爵位だけの貧乏貴族で、正直いつ潰れてもおかしくないくらいで」
下の方の貴族には、そんなタイプも居る。
貴族にもランクはあるし、男爵クラスなら一般市民と大差ないくらいの生活である事もある。
そんな中、手がけていた事業に失敗したり、上の爵位の者から睨まれたりすれば簡単に首が回らなくなる事もある。
「跡を継ぐのは兄さんで、僕は直に家を出るつもりでしたけど、…出来れば良い所に就職して、実家に仕送りがしたいと思うと、騎士か高位の貴族の執事くらいしか思いつかなくて」
爵位の低い貴族の次男坊以下は、独り立ちして身を立てるのは当然だ。多少身分が上でも三男四男となれば、それもそんな感じだろう。
そういうある程度身分の高い子息がなるとしたら、騎士か更に高い身分の貴族の使用人か、はたまた役所務めか。そんなところ。
もう少しランクを下げて、ツテを利用して商人となる場合もあるようだが、そこはかなりシビアで厳しい世界だ。そこで成功する子息などそう居ない。
仕える貴族のランクにもよるだろうが、上級貴族の執事ともなればそこらの国務め役人以上の高給取りは珍しくない。有能な使用人は、金を積んででも抱き込むものだ。だったらこちらを選んだのは当然と思える。
余談だが、騎士や兵士は、こことは別に学校がある。そっちも相当厳しいそうだ。
「色々考えて、この学院に入ったんですが、……正直、僕の家にはここの学費なんて払えなくて。入学金だけは、なんとか色んなところで働いて自分で貯めたんですけど」
……ああ、そう言うことか。
この王立学院の学費は、決して安くは無い。法外に高い訳ではないが、一般市民には躊躇われる程度には高い。
けれど、才能ある若者の育成をする機関だから、それが原因で有能な人材をみすみす見逃すのは勿体無い。
なので、前の世界のような奨学金制度がある。
最初の入学金は用意しなければならないが、専用の試験を行い一定以上の点数が取れれば3年間の学費が大分安くなる。無論、不足分は卒業後に少しずつ返していく事になるのだが…
この学院を卒業さえ出来れば、そうそう就職先に困らない。充分に返せるようになっている筈。
貴族の皆様にとっては関係の無い話だが、志ある若者には有難い事だ。
そして、中でもすこぶる成績の良い生徒に関しては、学費の返済が免除となる事がある。
エルミン君は、それを目指しているのだ。
必死で自らバイトをして入学金を用意し、成績優秀者を勝ち取って学費免除となり、本来その返済分も実家への仕送りにしたいと。
……想像していたより、真面目に大変な苦学生だった。
「なんとか、必死に勉強して、しっかりと成績を上げないと、…そう思っていたら昨晩も眠るのを忘れていて…」
「…ご実家の行く末を憂う事の出来る、お優しい方ですね」
「えっ、あ、…すみません、突然こんな話して」
「いいえ。お家と家族を想う、……けれどその為にと短絡な手段を使わず、きちんと努力する方だと知れて、私は嬉しく思っています」
そんなヒトが同級生に居るっていうのは、素晴らしいと思う。
ありがたい事にあたしはお金に困ってはいないが、彼の真面目でしっかり者で、優しい気持ちは共感が出来ると思うし、好ましい。
多分、同じ状況ならあたしも寝る間も惜しんで家族の為と努力するだろう。
「ただ、その為に貴方が身体を壊しては、更にご家族に心配をかけてしまいます」
「……はい」
「努力は美徳ですが、時に身体と心を蝕みます。…心の膿でしたら、他者に話す事で軽減する事も出来るでしょう。心が軽くなれば、不思議と身体も良くなる物ですから。理解して下さる友を作るのも、結果的に貴方やお家の為ですよ」
支えあえるヒトが傍に居るっていうのは、素晴らしい事だ。
きっと、この学院で得た友情は、大人になって誰かに仕えるようになった後も、助け合える絆になると思う。
見ていた限り、今の所まだ彼にも親しい友と呼べる相手はいなかったと思う。
共に努力出来る間柄の誰かが居れば、彼も少しは余裕を持って勉学に励めるんじゃないだろうか。
1人じゃないって言うのは、それだけの力があるものだから。
「……。…あの」
「はい?」
「お気遣い頂いて、お話まで聞いて貰って、図々しいと思うんですが、その」
急にもじもじしだすエルミン君。
……いやだからさ。貴族の子って、友達難民なの?
ん、まあ、彼の場合は幼い頃から家の心配をして、学費を稼ぐ為にバイトしたりで友達作る暇なかったかもだが。
傾きかけた貧乏貴族なんて、同じ貴族の友達出来るとは思えんし…
「ご存知かと思いますが、私は多くの貴族のご子息方の反感を買っています。場合によっては貴方に余波が及ぶかもしれませんし、卒業後の就職先に困る可能性すら出てきますが」
「構わないです! …正直、貴方への子女子息の目線や悪意は、同じ爵位を持つ者として見苦しく、かつ憤りすら感じるものです。どうせお仕えするのなら、そのような者達ではなく、ヒトとして尊敬出来る方にお仕えしたいですから」
うーん。
覚悟があるというのなら、あたしとしてはこの真面目で優しいオコジョ君と仲良くなるのは吝かではない。
向上心がある子は好きだ。真っ当な努力が出来、そしてヒトとしての誇りを持っている子は、素晴らしいと思う。
その辺の有象無象のお馬鹿貴族達よりも、この子の方がよっぽど立派な貴族の心を持ってると思うんだけど、世間とはままならないものだな。
さておいて。
彼の決意を聞いたところで、あたしは右手を彼に差し出す。
「マリヤ・カルネイロと申します。…どうぞ宜しく」
「! エルミン・シノニムです! 宜しくお願いします、マリヤ君!」
ぎゅっと互いの手を握る。
笑顔になるエルミン君が大変可愛い。
うん。おんなじくらいのレベルで努力出来る友達が居るのって、いいよね。
正に健全な学校生活。
…出来れば、お馬鹿さん達の悪意がエルミン君にまでいかなきゃいいとは思うけれど。
レオンが友達の友達は友達だとか言わなきゃ、…言うかなあ。
努力しすぎの寝不足に、ストレス胃痛が追加されないように、ちょいちょい体調を気にしてあげた方がいいかもしれない。
尚、保健室に送りに行っただけなのになかなか帰って来なかったあたしに、先生は別に怒るでもなく、その後戻ってきたエルミン君を見て『大丈夫そうですね』なんて笑ってた。
…やっぱり、色々バレてるっぽいなあ。先生のが一枚上手だ。
――――――
結論として。
決して仲が悪い訳ではないのだが、初日のレオンのように満面の笑みで『友だ』などと言う関係にはならなかった。
何でかというと。
「付き合いは俺の方が長いんだぞ? 俺の方が親しい友だ」
「僕は同じクラス、同じほどの成績の同級生です。言わば好敵手と書いてしんゆうと読む関係と思います」
……至極くっだらねー事を真面目な顔で静かに言い合う、王太子殿下と男爵家子息が居たり、居なかったり。
当然だが、ここは食堂ではなく中庭の一角で、今日はあたし作のお弁当でお昼ご飯中。周囲に人目は無い。
じゃなきゃ、流石に面と向かって王太子に言い返す執事とか、あたし以外では無いよとしか言えない。一人称『僕』のままだし。最初はちゃんと『私』って言ってたんだけど…
「いいや、一番最初の友は俺だ。だから優先権は俺の方にある」
「これから一番長く一緒に勉強するのは僕です。お互いに勉強を見合うという約束だってしました」
「……ねえ、あれいつまで続くの?」
「さあ。…あとレオン、別に私の一番最初の友達は貴方じゃないですから」
「何?! …いや、それはそうか。ならそれは誰だ?」
「わたしかな」
「む、ぐ」
流石に、ご主人様にして姉にして親友という座には、敵わないと思ったのか。それとも、彼女に噛み付いてあたしの機嫌を損ねたくはなかったのか。
エルミン君のように謎の主張を始めたりはしなかったが…
つーか、ホント何してんのあんたらは。
「私としては、レオンもエルミン君も、どちらも大事な友人なんですが…?」
「いや、いざという時の為に優先順位は必要だ」
「殿下がそれが必要だと申されるのでしたら、決めておく事に異存ありません」
どういうこっちゃ。何で乗るのよエルミン君。
レオンはわかるが、エルミン君にまで何故そんな懐かれたんだろう。それとも、開口一番『二番目の友か』と言われたのが腹たったのか。
あと、二番目の友達エルミン君じゃないから。クルウだから。
ただの会った順番だけど。
「……そうだ。エルミン、お前はマリヤの秘密を知っているか?」
「ひ、みつ…?」
「何だ、知らないんだな? …親しい者ならば皆知っているぞ、当然彼女達もな」
「え、そうなんですか?!」
「ええ、まあ家族だし」
「お部屋に遊びに行きますし…」
部屋では、あたしも通常モードだ。
やっぱりサンセさんも知ってたので、口調そのままで喋るのは部屋でだけ。
1人だけ仲間はずれ? な事にショックを受けたのか、エルミン君は僅かに後ずさると、次の瞬間なかなかのスピードであたしにがぶりよる。
…いい動きしてるな。騎士でもやってけるんじゃないか。
「何ですか! 秘密って何ですかマリヤ君!」
「いえ、大したことでは…」
「親しいヒトしか教えないなら、僕には教えられないんですか?! やっと出来た友達なのに! 一緒にこれから頑張ろうって誓い合った仲なのにっ!」
「ははははは、ポっと出の同級生にはまだ早いという事じゃないか?」
あー……
この意義の全く感じられない2人の張り合いに、そろそろ頭痛がしてきた。
してきたので。
あたしはエルミン君の手を解き、なんかショックがった顔をしている彼を放置してバックステップし、あたしとレオンとエルミン君が座っていた敷物の端を掴む。
「阿呆な事言ってないで、さっさとご飯食べなさいお馬鹿達!!」
「「どわあっ?!!」」
畳返しならぬ、敷物返しをかまして2人を転がした。
お弁当? ちゃんと退避させてありますが何か?
「レオン! 確かに貴方はあたしの大事な友人よ、でもだからって他の友達作らない気なんてないし、故郷にも友達いっぱい居るし、そもそも友達って1人だけって決まったモンじゃないでしょ! 優劣つけるとかそういうモンじゃない!」
「は、はいっ」
「エルミン君! 貴方とはお互いに切磋琢磨する好敵手にして友人なのは間違いないけど、どーして貴方も最初の友達に固執すんの! 意味無く敵を作らんと、一歩引いて相手を立てるくらいの余裕持ちなさい! 執事になるんでしょ?!」
「す、すみませんっ」
「そもそも、野郎に取り合われたって嬉しくもなんともないわ!!」
男だし、あたし!!
仁王立ちするあたしに、何故か正座になるレオンとエルミン君。
ほんと、どーして男ってこう、時々おバカさんなんだろう…
いや、これに関しては解決策は簡単なんだけどね。
お前ら。もっと友達作れ。
「…男って、面倒臭い生き物よねえ…」
「でも、…私も、メルルさんに他に仲良しな子が出来たら、ちょっと嫉妬しちゃうかも、です…」
「友達は沢山の方が楽しいわ? それに、いっぱいになったからってサンセさんを仲間はずれになんて絶対しないし!」
「あ、は、はいっ」
女性陣は仲良しでいいなあ。
改めて敷物を引きなおし、反省したレオンとあたしの口調に驚いているらしいエルミン君を見ながら、溜息を吐いた。
「喧嘩は時にはあるでしょうけど。無い方がいいわよね」
「そうですねえ…。でも、なんだかさっきのは見ててドキドキしましたけど」
「何それ?」
…え、ちょっとサンセさん、貴方まさか脳内腐ってないわよね…?
腐ってんじゃなくて、見目良い男が並んでるのにときめいてるだけです彼女は。
というわけで、オコジョの執事仲間さんです。
レオンとマリヤは友達で、エルミンとマリヤも友達だけど、レオンとエルミンが友達かというとまた微妙な…
気は合うと思います。仲良くする気さえあれば。
身分の差的に、公的に仲良くして良いかといわれれば微妙すぎますが。
勿論本気で言い合いしてた訳じゃないです、よ。上と下という差はありますが、お互いに苦労してきた事は察していますし。
(7/27 一部加筆修正)




