23・お手伝い
牧歌的ファンタジー異世界生活は今日も順風満帆である。
3年目にもなると、薄情と言うかなんというか……父さんや母さんや弟の顔をよく思い出せなくなってきた。
いや、最早思い出しても若干の望郷の念を抱く位であまり建設的ではないので、思い出さないようにはしていたんだけど。人間の記憶なんてこんなもんか。
それだけ、こちらの世界の日々が濃いのかもしれないが。
前の人生だって充実していて満足していた。でも、今は今で恵まれた人生送れている訳だし、昔は良かったとはあんまり思わない。
優しい両親がいるし。可愛いお姉ちゃんがいるし。やんちゃな友人が居て、気の合う文通相手も居る。
空気もご飯も美味しいし。不満は全く無い。
あたしは、今日も元気です。
で、大した波風もなく11歳の一年は過ぎて行く。
特にまた収穫祭にならず者が紛れ込むでなく。居たのかも知れないが、あれ以来フェネック3兄弟のうち1人が収穫祭の時に同行して警戒してくれている。
2年目の収穫祭はレナードさんが一緒だったので、ちょっと子供達が怯えていたけども。口数少ないだけで良いヒトって説明して、遊び始めてしまえばあとは気にせず遊んでいた。
3年目の今年はフェナルさんが一緒で、むしろ子供達と一緒になって全力で遊んでくれたので、すっかり子供達皆懐いた。
多分、来年はギースさんが一緒に来てくれるんだろう。…その日くらいは、お小言とか言わずに目こぼししてくれるだろうか。
それ以外には、怪しいヒトが入ってきた様子も無い。
変わった事と言えば、例の温室の設計やら計画やらにめどがついて、春になったら建設に入る所まで行ったくらいかな。思ったより早い。
サッチャの種の調達も、なんとか交渉できたみたいだ。
ただ、この領地はアニマリア国内の北東に位置する。そして、サッチャが細々ではあるが作られているのは、中央にある王都を挟んで南西あたり。
なので、輸送に時間がかかるとか、輸送料がちょっと足元見られてるとか…
そういうので、ちとコストがかかったようだ。初期投資なんてそんなもんだが、出来れば上手く行って欲しい。
…なんで子供のあたしがそんな事知ったのか、というと。
「ラビアンさん、ここの数字いっこおかしい」
「どれ? …ああ、本当ね。0が1つ多いわ」
最近、ラビアンさんの書類仕事を普通に手伝っているからである。
仕事中だけ眼鏡をかけるラビアンさんに、点検していた書類を一枚渡して確認して貰う。ちなみに羊皮紙。
……そういえば、眼鏡は普通にあるのよね。オウリア先生もかけてるし。
何故ガラスの加工だけは、やたら技術力が高いのか。いや、眼鏡というかレンズ的なものなら、あたしの世界でも結構前からあった気がするが…
「うーん、多分ただのミスだと思うけれど。でも、これはドリットの村長さんに差し戻しね」
そう言って、その書類を別に分けておく。
何してるかというと、まあアレだ。経理のお仕事である。
領主が存在し、領地と領民が居る世界。当然、民は領主に税を納める。
こういう時代だから小麦とかそういう現物かなーと思ったのだが、この領地においては税は金銭で納められている。
というか……
先ず、この領地で生産される物を仕入れに、商人が来る。
商人は、領主であるゴーティスさんに先ずはお目通り。
交渉や話し合いの結果、商人さんが信頼おける優良な方だと解れば改めて買い付けの話なんかを、希望する村の村長さんと話し合うわけだ。
実は、この時点でお引取り頂く商人さんは結構居る。というか大部分だ。
この領地の生産物は、非常に質が良い。王都にも、王家にすら信頼され卸しているのだから、品質が確かであり、売れると確信が持てるだろう。最早、立派なブランドである。
なので、取り扱いたい商人は星の数ほど居るのだが、中でも優良で誠実な商人としか取引を行っていない。
ここのブランドの品を貴族に高値で売りさばいてガッポガッポ、なんて考えるヒトは、下手すれば門前払いである。
別に、お貴族様専用の生産所じゃないし。お父さん含め村の皆様の思いは適正な価格で多くの人に届ける、である。まあ手をかけて品質に拘ってる分、確かにちょっとお高めなのかもしれんが。
そんな悪い意味で商魂逞しい商人さんをシャットアウトするのは、ゴーティスさんのヒトを見る目があってこそ。いずれは、メルルがそれを受け継がねばならない。責任重大だ。
……ちょっと話がそれたが、契約を結んだ商人へ、村は生産物、あるいは加工品を納品する。金銭のやり取りはそこでは行わない。
代わりに『確かに納品しました』という契約書というか納品書を交わし、それを領主の所に持ってって代金は支払われる。そこから税金分を引いて、領主から各村の村長へ、そして各生産者へ。勿論納品書は商人さんが写しを持っていて、証明書にもなる。
あたしの世界の会社の仕組みに近いのか。この領地自体が、ゴーティスさんを社長とした一個の会社なんだろうな。納税は会社にお任せ、お給料から天引き。
尚、村の中向けの商売……例えばムッカのおうちのような鍛冶屋、ウルガさんの雑貨店、なんかは売り上げから納税分を計算して納めている。こっちにも書類は存在しています。
さりげなく、かなり進んだ納税の仕組みなんじゃないか? と思う。銀行というシステムがあればもっと簡略化出来そうだが。
これが普通なのかと思ったが、そうでもないようだ。あたしが想像するような現物納税が殆どである。そりゃそうだ。
これには領主と領民、そして商人との硬い信頼関係が必要だ。どこかが水増しや脱税をしようと画策すると大問題になるだろう。
ただこの仕組みのおかげで、1年にこれだけ! …という固定税のせいで不作の年に領民が泣くような事はない。
尚、そういう不作の年にえらい事にならないように、きちんと食糧の備蓄なんかも行われている。
そういう珍しいシステムだが、問題も起こってはいないようだ。お父さんもしっかり王都に税を送っている。
1年に1回徴税官は来るが、きちんと商売の記録を確認した上で、豊作や不作も考慮に入れて税の上下もあるようだし。
民に優しいぞ、この国。自然も豊かだし、今後も富むだろう。
問題があるとしたら。
「本当に、マリヤ君がこんなにお仕事が出来るようになってくれて、助かるわ」
「お役に立ててなりより」
毎日のように書類仕事がヤバいって事くらいかな! 領主館の!!
3つの村の決済が一端ここに全部やってくるんだからね!! 半端無い!!
まさかファンタジー世界でまでこんなんやらされるハメになるとは。
……はい、経理担当でした。勤め始めて1年も経たずに死んだけどね!
「こういうの担当のヒト、もっと増やしてよくない…?」
「うーん。でも、これも大切な、信用第一のお仕事だから。なかなか任せられるヒトが居ないのよ」
…まあ数字改竄してけっぱちょなんて、簡単に出来そうだしね。
あたしの世界にもそういう事やらかして捕まった人間が何人も居たし。げに恐ろしきは金の魔力。誰もが言うんだ、『魔が差してやった』と。
でも、いくらなんでも忙しいだろ。
無論、野菜は年中取れる訳じゃなく、農閑期はある。牧場での肉製品もだ。乳製品は一年中扱われるが。
だから一年中毎日目が回るほどの書類に囲まれる訳じゃないが、収穫期とかというか収穫祭前後はマジでヤバい。
これを殆どラビアンさん1人で回してるとか、過労で倒れませんか。
…無論本気でヤバい時はカッツェさんやクーニャさん、あとレナードさんやギースさんもお手伝いする。今はあたしも手伝う。
お父さんは商人や貴族や役人との交渉、領地の見回りや領民の要望を聞いて改善策や指示を出したり、そういうお仕事だ。
それこそが領主様。バックアップを担当してこその使用人。
うん、社長の顔もろくすっぽ解らんでかい会社での経理より、よっぽどやりがいはあるぞ。あ、いや別に前世でやる気なかった訳じゃないから。
「それにしても、これは本当に便利ね。…そろばん、だったかしら」
金勘定に、計算機は必須。
だというのに、この世界にはその手の物がなかった。紙も羊皮紙も安くないってのに、暗算あるいは筆算。勿体無いし効率が悪い。
ってな訳で、簡単に計算が出来る算盤を作ってもらった。こういう木細工はドリットに職人さんが居るので、図で書いてお願いした。
改めて思う。同じ10進法で良かったと。
おかげさまで、処理効率が一気に上がった。うん、やっぱり便利便利。電卓も嫌いじゃなかったが、珠算をやってた身としてはこっちの方が扱いやすい。
「この間、アイルリーデの領主様がいらした時に、ずっと雇っていた使用人が辞めて新しいヒトになったお陰で仕事が滞りがちだ、なんてお話なさってたけど。お教えしたいわね」
「いいんじゃないかしら。作り方教えてあげたら」
「いいの? ニンゲンの大事な道具なんじゃないのかしら」
「構造自体は単純だし。役に立つなら、使ってもらった方が嬉しいわ」
アイルリーデ、はこの領地のお隣の領地を治めているパンダさん一家の家名だ。
確かに、何度か来ているのを見た事がある。最初会った時は、パンダは草食動物だろうかと少しだけ余計な思考をした。あたしの中のパンダはマスコットの皮を被った猛獣である。…別に嫌いじゃないよ。
今更であるが、我が家の家名は『カルネイロ』。
封建国家にありがちで、基本は貴族しか家名を持っていない。長い名前のヒトはイコール偉い人って言う感じだ。
で、そのパンダの領主さんはゴーティスさんと同年代で、古くからの友人なのだそうで、たまーに来ては酒盛りなんかして帰っていく。気さくな良いヒトだ。
あのヒトが喜ぶってんなら、これくらい教えて全然構わない。
孤児で人間で養子のあたしの事も、利発そうな子だーとか言って撫でてくれたしね。
尚、バランさんには気付かれるまで教える気もなく、こんな所を見る筈もないので教えることはないだろう。ジョウイさんにならこっそり教えてもいい。
「お疲れ様ー! お茶持ってきたわよー!」
まさかのお嬢様手ずからお茶と休憩時間を持ってきた。
メルルのお盆に乗っているのはシフォンケーキで、お茶の方はカッツェさんが持っているけれど。
もうシフォンケーキもマスターしたのかカッツェさん。きちんとホイップされた生クリームも添えて。さすが、完璧だ。
「あー、ありがとメルルー」
「相変わらず、書類で埋もれそうねーこのお部屋」
お仕事机から離れて、比較的スペースが空いているテーブルの横のソファに座って伸びをする。
メルルは部屋を見回して、テーブルの上の書類を一枚見やったが、微妙~な表情をして目を逸らした。
相変わらず、メルルは数字に弱い方だ。
まあ、いいのよ。無論強い方が良いに決まってるが、案と指示を出すのがトップで、それを実現させる為に奔走するのが手下…もとい使用人なんだし。
「これでも結構片付いたわよ。ねえ、ラビアンさん」
「そうね。今年の収穫祭の後の契約は少し多かったから」
収穫祭は、領地内の生産物を実際に確認し、口に出来る絶好の機会だ。
お祭りで飲み食いを目的にするお客さんの他に、下見に来る商人も沢山居る。契約の更新の見極めなんかもするのだろう。
今年は契約終了を言ってくる商人も居らず、…元々そうそう居ないけど、新規契約の商人が若干増えた。
普段の想定より多かったのは、多分温室の建設計画を知り、これはいけると早速交渉に乗り出した商人が居たからだ。先物買いってやつ?
あとは買う商人だけじゃなく、売りに来る商人だって居るからね。
温室作るとなると、強いガラスが大量に要る。それを聞きつけて、是非うちのをという交渉もそれなりにあった。
その結果が、続く大量の決済書類となる。
昨日まではレナードさんも手伝ってくれていた。あのヒトは優秀なヒトだ。誤解されやすくて、それを生かせなかっただけで。
「大丈夫? マリヤ、邪魔してない?」
「メルルひどーい。あたしちゃんとお手伝い出来てるもの」
「ええ。マリヤ君は立派にお手伝いしてくれています。…それどころか、3割くらいはマリヤ君が片付けてくれて、本当に助かってますよ、お嬢様」
メイドさん達のあたしの呼び方が『マリヤ君』のままだが、これはいずれ執事になるのだし、という事で『お坊ちゃま』呼びをあたしが嫌がった為である。
フェネック三兄弟とキーロさんについては、もう既に染み付いてたので訂正させられなかった。
フェナルさんには『立派な執事になったらやめますよー』とか言ってたが。
「ふぅん。やっぱりマリヤは凄いわね!」
「ありがと」
もふ、っと抱きつかれたのであたしもぎゅーっとする。
すっかり寒くなったので、スキンシップが有難い。あー、暖かい。
相変わらずのあたし達だが、ラビアンさんもカッツェさんも和やかな瞳で見守ってくれている。
これってどれくらいの年まで許されるんだろうか。うーん。
「これなら、やっぱりマリヤも大丈夫よね! むしろ行かなきゃね!」
「はい?」
「あ、ごめんなんでもない! まだナイショ!!」
「えー。教えてよ、メルル」
「ひーみーつ! 年が明けたらお父様が教えてくれるわ!」
む。お父さん発の計画ってことは、ウルガさんに超スパルタを決行させた、例の件だろうか。
年が明けたら…。3ヵ月後くらいか。
まあ、日々過ごしていたらあっという間だろう。子供の一日は実に長く感じる物だが、楽しく過ごしているとやっぱり早い。
何せこの3年、楽しすぎてハイスピードだ。
「じゃ、それを楽しみにもうちょっと頑張るわー」
「そうね、よろしくねマリヤ君」
「頑張ってねー!」
「それでは、失礼しますね」
ぐーっと伸びをするあたしと、微笑むラビアンさん。お皿とカップを片付けて、メルルとカッツェさんは退室する。
秋が終わって冬になれば、ちょっと書類が減る。
それまでの辛抱、とまた2人で机に向かった。
しかし書類上の数字はいいんだが、実際お金として数えて払うの大変なんだよねこの世界。100倍で上がってく銅・銀・金貨しかないから。
身も蓋も無い言い方すると、1円・100円・1万円しか硬貨が無い。
おかげさまで、かさばる。凄くかさばるんだ。
いや、一枚一枚数えはしないし、形状は少し変わるけど重さはそれぞれ統一されているようで、計りで計上するんだけど、それにしたってかさばるのに変わらない。
せめてその真ん中、10円、1000円、…に該当する硬貨が欲しくなる。
つーか、銀はくすみ易いし、金は重くて柔らかい。他にもっと良い金属で代用すればと思う。
…いや、そもそもあれか。硬貨の価値=額面価値になる、えーとなんだっけ、本位貨幣ってやつ…?
日本の硬貨は硬貨自身の価値と額面が一致しない、補助貨幣ってヤツよね。1円玉を作るのには1円以上かかるって聞いた事がある。
だとすると、不便だからって急に切り替えられないか。現時点でそれなりに上手く回ってるし。それぞれ重さを企画化して統一するという計上の対策もしてるし。
一応ながら、偽造対策もされている。コインには全て、獅子の横顔の刻印がされている。…多分鋳造時に押し当てて形を移すんだろう。機械もないのに打刻なんてしてる筈がない。
時々鷹や竜の刻印がされた銀貨や金貨を見る。外国のお金だ。
これも重さは統一されてんだもんなー…。少なくとも、アニマリア・バーダム・レプティリアではそういう条約が結ばれているのだろう。
貿易がしやすいように。両替の手間もなくなるわけだしね。
と言っても、お金の価値はちょっと差があるかもだけどね。そこは他国である以上仕方ないだろう。
しかし、それにしたって補助貨幣として真ん中辺の硬貨作ってくれないかなー…
辺境の領主の息子(しかも義理)が言ったって無駄だろうが。
…………。
…いや、待て。将来的に、その辺を決められそうな知り合いが居るじゃないか。
銅貨に刻まれた獅子の横顔を見て、思う。
まあ、提案するにしても、彼ともっと友情を深めて、あと正体を向こうから明かして貰ってからかな。
というか、そもそも大人になってからか。覚えてられるといいな。
――――――
そんな事を考えてから3ヶ月、メルルが予告していた年明けになった。
いつも通り早めに起きて、お部屋の中に備え付けられた陶器の洗面器に魔法で水を満たす。今年…もとい去年教えてもらったのは水魔法。
便利だ。呼び出した水はそのまま氷魔法で凍らせられるし。これは井戸が廃れてもおかしくない。
でも農業で使われてる水は殆ど井戸水や川の水。
その方が植物が元気に育つそうで。
多分だが、魔法で呼んだ水と井戸水では、含まれる成分が違うんだろう。というか何のミネラル分も含まれてないのかも知れない、魔法の水は。
水と一口に言っても硬水とか、軟水とか、あるもんね。どっちが農業に適しているかは知らない。
呼んだ水で顔を洗って、服を着替えて髪を梳き、後ろを三つ編にして纏める。
結局は肩を過ぎた辺りでキープする事にした。前髪と横は鏡を見ながらたまに調整する。
金色の三つ編尻尾を揺らしながら、軽くランニングというか、屋敷の周囲をマラソンした後に戻って、汗流してから朝ごはんの準備をお手伝い。
今日はパンとサラダと、お芋をゆでて潰して牛乳で伸ばした……マッシュポテトでいいのかな。と、焼いたベーコン。
なんかもうパンに挟んで食べてください的ラインナップなのでそうしたら、やっぱり美味しかった。メルルも真似して、満足そうだ。ただしベーコン抜き。
朝ごはんのに後はいつもは学校の時間までレナードさん達の基礎トレがあるのだが、今日はお話があるとお父さんに呼ばれた。
メルルも一緒に、呼び出されたお父さんのお部屋に行く。
お母さんも先にお部屋に来ていて、何か真面目な話があるんだなーという空気を察した。
「知っていると思うけれど、今年でオウリア先生の学校が最後だろう?」
「うん」
お父さんの言葉に、あたしは頷く。
村の学校は、7歳から12歳までの6年間。要するに小学校。
あたしが知ってる小学校にしては教える内容が少ないが、そこは家の仕事との兼ね合いもあって、休み期間が長いし授業時間も短めだからだろう。
で、12歳になれば学校は卒業、その後は本格的に家の仕事を覚えたり、望む仕事の職人の弟子になったり様々。
3年間そうして下積みをして、15歳で成人、一人前の大人として扱われる。
他の領地でも、ちょっと年数が違ったりするが大体この流れのようだ。アニマリアの王様は、子供の教育を推奨しているとか。
「卒業した後なのだけれど、メルルは私の跡を継いで領主になると言ってくれたからね。来年には、王都の学院に入れようと思うんだ」
「領主の跡継ぎとか、学者志望の子とか、そういう学問が必要な子供の為の学校があるのよ! ジョウイお兄様もそこの卒業者なの!」
「あ、そういえば前にそんな事言ってたわね」
学院を主席で卒業した、とか何とか…
何でも、メルルの言うように将来領地経営をする事になる子とか、学問の道を志す子とか。役人やそれこそラビアンさんみたいな書類仕事もする使用人となる子が集まり、教育を受ける場だとか。
中学校とか高校みたいな位置づけかしら。
アニマリアでも有名な学校らしく、そこの卒業生は様々な分野から引っ張りだこになるとか、何とか。
何せ国が運営する教育機関だから、信頼度はピカイチ。
執事やメイドとして雇ってもらう時も、学院の卒業生なら割と働き口に困るような事はないんだそうだ。
「そっか。てことは、来年から3年もメルルに会えなくなるのね」
学院は13歳から15歳までの3年間。
親元を離れて、3年も1人で寮暮らし。ご家族大好きっ子のメルルだけど、大丈夫なんだろうか。あたしも寂しいけど、メルルが心配だ。
貴族の子も入るような学校だから、使用人とか同行していいのかもだが。
くっついていきたいけど、相変わらずあたしは珍獣だからなあ…。今はひょいっと持ってかれるなんて全く思わないが、間違いなく悪目立ちする。
それは、返ってメルルの迷惑になる気がする。
あたしの言葉に、ご家族は3人揃って何故か笑った。
「…なあに?」
「マリヤ。君さえ良ければ、君も学院に入らないかい?」
「へ」
思わず、きょとんとして間抜けな声を上げてしまった。
そりゃあ一応立場的にあたしは貴族の子だが、あくまでも血の繋がらない養子であり、じきに身分は返上し執事になる気である。
そういう意味では教育を受けさせて貰えるのは有難いんだけど。
国営の学校とは言え、間違ってもタダじゃないだろう。
それに、折角都会の同年代の貴族の子と将来を見据えた交流を始められる場な訳で、そこに珍獣がついてったらメルルの邪魔になるんでは。
「君はとても頭の良い子だ。将来、それをもっと活かす為にも、きちんと勉強して来て欲しいと私は思うんだよ」
「あ、ありがと。でも…」
「ただね、マリヤも思っているだろうが、君を物珍しそうに見るヒトはきっと居るだろう。心無い言葉を投げかける子も居るかもしれない。それらを君がどうしても嫌だと言うのなら、無理にとは言わないよ」
「あたしはまあ、珍しいの自覚してるからそれはいいわ。でも、一緒に行ったらメルルまで巻き添えになっちゃうわよ」
「あら、そんなの気にしないわ! っていうか、そんな事言うお馬鹿には言わせておけばいいし。マリヤならきっと学院で優秀な成績取れるわ、それで見返してやればいいのよ、絶対スっとするわよ!」
メルルはブレないな…
確かに、彼女は多少の悪口や嫌がらせでへこたれる程弱くはないだろうし、あたしも自分が言われる分には腹が立ちはしてもそこまで凹まないだろう。
だって悪い事してないもん。
「いつかのような悪漢も、ヒトが多い王都には居るかもしれないが。それで良い様にやられないように、とウルガ殿も協力してくれたからね」
「……あのスパルタって、そういう意図…」
ひょいっと持ってかれないどころか、割と普通に撃退出来る自信あるぞ、最近…
目の届かない場所に行くに当たって、あたしを護る為にと考えてくれていたようだ。
最初に言い出したのはあたしだし、むしろ新たに護衛雇って張り付かせるとかよりよっぽど良いけど。多分、あたしがそういう不必要に縛られるの嫌いなのが解ってるんだろう。
やれることは自分でやりたい派である。
「どうかな、マリヤ」
改めて問われて、少しだけ考える。
この領地から出る事はあんまり考えてなかったが、狭い世界に閉じこもるのもダメだよね。
健全かつ優良な領地経営の為に外を知る事は大事だし、それで良い縁でも手に入れられれば将来あたしの役にもメルルの役にも立つ。
3年間、お父さん達やクルウ達に会えなくなるのは、ちょっと寂しいが…
新たな扉を開けるのは、必要な事だね。
メルルと一緒だし。…そもそも、王都に知り合いが一切居ない訳でもない。
「うん。あたしも、メルルと一緒に行く」
「ホント?! ホントね?!」
「ええ、ホント。一緒に頑張りましょうね、メルル」
嬉しそうに飛びついてきたメルルに、あたしも笑顔を返す。
そうと決めたからには、学院の主席と次席を掻っ攫うくらいのつもりで取り組んであげようじゃないか。
というか、多分そうなるだろうってだけで、別にあたしが敬遠されたり見下されたりすると限った話じゃないしね。
……多分そうなるだろうけどね。
そもそも、その程度のお子さんとは交流しても、いい事ないだろう。
そういうのも居るだろうが、世の中そう捨てたモンじゃないと思うのだ。
この村だけが突出して良いヒトばっかり、って訳じゃないだろうしね。
だって、お父さんもお母さんも誰も、国の情勢を見て嘆いてるシーンを見た事がないんだもん。
見せてないだけかもしれないが。
「それじゃあ、君達の入学申請をしておくよ。来年に備えて、今年も一年しっかりと頑張るようにね」
「「はーい!!」」
あたしとメルル、二人揃って良い子のお返事をする。
お母さんはそれを見守り微笑んでいて、メルルは超がつくご機嫌だ。
去年までの3年間はあっという間だったしね。多分、学院に行く3年間もあっという間になるだろう。
その短い間に、可能な限り知識を増やして、あと出来る限りの経験を積んで、頑張らないとね。うん。
都会フラグが立ちました。
のんびり田舎スローライフでしたが、王都に行くようです。
まあ国ぐるみで穏やかな場合が多いので、そこまで悪いヒトはいませんよ。
タブンネ。
どろっとしたいじめなんて、書きたないです。
あったとしても、オネエショタに物理的に潰される可能性(以下略)
(2014/7/9 誤字脱字、他一部表現を修正)




