13・誕生日
一日の勉強と運動とお手伝いと遊びが終わって、お部屋に引っ込んだ後に。
秋の中ごろから、こっそりと毎日羊毛……というかメルル毛をちくちくちくちくつついていたりする。
夏に親方さんに頼んでいたフェルティングニードルは、なかなか良い調子だ。
わざわざあたしの手の大きさを確認して、使いやすい長さにまでしてくれた。
とりあえず調子を見る為に小さなハート型とか作ったりしてみたのだけれど、前世での腕は鈍っていないようで、現在満を持してミニメルルの作成中である。
大きさはだいたい手の平サイズ。
冬の終わりの今になって、ようやっと完成が近付いてきた。
目鼻に関しては、失敗覚悟で黒い染料、……要するにインク水溶液で煮てみたらなんとなく黒くなった。二回やったらかなり黒くなってくれた、のでそれをちくちくつける事にした。
まあ、加減を学ぶまでに、半端に黒いフェルトの塊を作り出したけれど、そういうのも経験だ。それでも多分草木染めよりは楽だった。色が濃いから。
メルルはヒツジさんだけど、まだ子供だからかツノも小さいし、そんなに造形も難しくない。強いて言うなら二足歩行種族らしいバランスはとらないと。うっかり四足歩行スタイルにしたら、多分張り倒される。
お座りしてる形だけどね。そこは二足歩行と四足歩行の差あるし。
後は、お人形に着せるお洋服か。メルルを模してるのだし、裸んぼじゃ可哀想。
という訳で。
「うーん、やっぱりピンク…。でも花がらもいいし、水色も…」
ブツブツ1人で呟きながら、ウルガさんのお店の布材と睨めっこしている。
布とかは、ぶっちゃけ3つ目のドリット村なんかの産業だから、そっちに行けば色々あるかもなんだけどね。
ただ、そんな産業にしてる場所に、人形の為の端切れで充分な量を頼むのも心苦しいし。それに、ウルガさんのお店の布端切れは質がいいし種類も豊富。
端切れ、が多くあるのは、それこそ人形作りとかアクセ作りをする女の子が多いんだろう。田舎の子だって、オシャレ大事。
「何に使うんだ? マリ坊」
「メルルのお人形作ったから、その子に着せるおようふくをぬうの」
「……かーぃらしい趣味してんなあ、男の子だろー?」
「あら、お人形やおようふくを作るヒトに、男のヒトはいないの?」
「ご尤もで」
どんな世界のどんなジャンルでも、クリエイターには男だって多い筈だ。女性だって当然居るだろうが。
そのクセ、人形や料理が好きな男って、子供のうちはなよっちいみたいな風潮があるのは、何故なんだろうなあ…
別にいいじゃないか。男が可愛いの好きで、女がチャンバラ好きでも。
無論、男らしい男も、女らしい女も好きですよ。単に人それぞれってだけ。
「そこの花柄は、人形に使うには柄がでかいのが多いだろ。こっちの小花柄なんてどうだ?」
「あら、ステキ! ウルガさんてそういうセンスもいいのね」
「そうだろうそうだろう。こっちの青いのなんか、今王都で流行中の柄だぞ」
「……ウルガさんていつもプルミエ村にいるのに、なんで今のはやりとか知ってるの? というかいつもどこからしいれてるの?」
「そりゃお前、企業秘密ってヤツだ」
「この間のリシッツァってヒトとか?」
「あー…いや、アイツはこういうのには疎いしな。つかよく覚えてるな」
ある意味、あのヒトのおかげで助かったからね…
お礼を言いたかったんだけど、気が付いた時にはもう帰ったって聞いたし。
また来年の収穫祭とかで会えるかしら。
「じゃ、この小花がらのと、白いのとー…、…あとピンクのリボン、ある?」
「薄いのと濃いの、どっちがいい?」
「うすくて、ほそいの」
人形の素体自体は白だから、大抵どんな色でも合うけれど。折角お嬢様のお人形だし、ふわふわで可愛いイメージにしたい。
…当人がふわふわで可愛いイメージかは置いといて。いやふわふわだけどね、物理的には。
買った物を布鞄の中に入れて、学校に戻る。
お昼休みの時間に、ちょっとこっそり出てきたのだった。
本当はメルル人形なんだから、本体……じゃなかった本人の趣味を聞けば一番いいのかもしれないんだけど、今回はそうもいかない。
あくまでも、計画は秘密裏に行うのだ。
何故なら、春の初めにあるという、メルルのお誕生日プレゼントなので。
そもそも誕生日に当人の毛使った人形ってどんな呪い返しだと日本ならば思ったが、特にそういう感覚、この世界ではないようなので。
ロングの子の毛を使った手芸とか普通にあるようだ。自分でも使うし、他人にあげたりもする。
無論量に限りがあるから、通常の服だの量産品のぬいぐるみなんかには、普通の羊毛や綿を使っているようだけどね。
これを使いあうのは、仲良しの印みたいなもんだ。
…すっごいノリのおすそ分けだと思うが、考えたら負けだ。郷に入っては郷に従えって物である。
というわけで、仲良しの印を使って、人形作成中である。
お屋敷に戻って夜になってお部屋に戻ってから、布を当ててお洋服のデザインを考えて、採寸する。
着せ替えさせられたら楽しいかとも思ったが、頭が大きいから脱ぎ着は難しいし、あんまり弄るとフェルトが崩れるかと思ったので、一点物で我慢して貰おう。
やっぱりお人形だし、エプロンドレスかな。それっぽい。
ピンクの小花柄に、白い布でエプロンをつける。
胸元と、頭にちょうちょ結びにしたリボンをつけてあげると、あら可愛い。
……。メッセージカードでもつけようか。
と言っても紙を使うのはナシだ。
となると、白い布に刺繍で文字を描いて、…色糸はまだあるから、こっちにも花の刺繍でもしようか。
あ、折角だから人形のエプロンにも刺繍しよう。縫い着せちゃったけど、エプロンの端にならいける。
うーん。手芸は、始めると止まらない。
メルルの誕生日は、4の月10の日、である。
この世界の1年は、前の世界と同じくらいだ。細かく言うと358日。
1月、という数え方ではなく、季節でほぼ4つに分けられ、更にそれが4つに分けられて日が数えられている。1年は16ヶ月あるってことだ。
1月は22日か23日。月によって前後する。
新年が1月1日だったとして、それが冬の2つ目の月頭だったから、今は3月の半ばってトコだろうか。…そんな換算は多分無意味だが。
1週間という概念はないし、日付というよりは、皆日々の天気や気候を見て農作業を行っている。
そんな事より、今日はメルルの誕生日だ。
朝から一発メルルをぎゅーって抱き締めておめでとーって言ってみた。特に驚いた風もなく有難うと返された。すっかりスキンシップが日常である。
早起きしたつもりだったのだが、ゴーティスさんとシフィルさんはいなかった。…どうやら夜に確実に屋敷に戻る為に、早く仕事を始めたらしい。
学校に行ってからも、子供達から寄ってたかってのお祝いタイムである。
「メルルー、おたんじょうびおめでとー!」
「これね、リボンつくってみたの!」
「私はお花のかざりよ、どーぞ!」
「ありがとう! ぜーんぶ大事にするわ!」
女子達の和気藹々が可愛らしい。
やっぱり、基本は手作りのアクセサリーみたいだなあ。逆に、手作り系のお菓子がないって、不思議な気がする。…というか、あたしが作ったアイス以外で、お菓子って見た事がないような…
……まあ、砂糖貴重品だしね…
あたしのプレゼントは帰ってから渡すので、今は学校の女子達にメルルをお任せ中である。
そして。
「…マリヤ」
「プレゼントはちょくせつ渡した方がいいと思うわ、クルウ」
「ま、まだ何も言ってねーだろ!」
つつつっと寄ってきたクルウの手になんかあるのをチラ見しつつ、心からの親切心で言ってあげたのだが、ガキ大将は今日もツンデレだ。
何かなーと思って手にあるのを見たら、何やら七色に輝くカケラが飾られた、ネックレスなようだ。
……ああ、あれって、いつだったかの魚釣りの時のウロコ。
確かにあれは綺麗だった。大変珍しい物だから、クルウも宝物にしていた筈だ。
男子が、自分の宝物をプレゼントする…。……これは相当なデレですね。メルルに通じるかは解らないが、あたしは大変評価していいと思う。
「オレがわたしても、つっかえされそうだし」
「しないでしょう。誕生日のプレゼントに対して、それは。…メルルー、ちょっと良いかしらー?」
「わ、わああ、バカ! なに呼んでんだよ!」
ははははは、純情少年め。可愛いのう可愛いのう。
あたしが呼ぶと、メルルは女子達の輪から抜けて、こちらに来てくれる。
隣にクルウが居るのを胡散臭そうに見ていたが。
「なあに、マリヤ?」
「ああ、あたしじゃなくてね。クルウが」
「……なによ、クルウ」
「あ、いや、その、…えーと」
途端にしどろもどろになるクルウ君。普段は喧嘩ばっかりでポンポン憎まれ口をたたきあう癖に。青春ですねえ。
あたしはにやにやしながら、メルルは怪訝そうな顔で見ている。
クルウは明らかに挙動不審になり、数秒文章にならない言葉を続けた挙句に、手にしていたネックレスをメルルに突き出した。
「これ、やる!」
「…なあに、これ」
「み、みずうみの主のウロコで作ったんだ! …べ、別にオレからのプレゼントとかじゃねーからな! マリヤと2人で取ったんだ、オレ達から、だ!」
何故あたしをダシにするかなー。
まあ、ある種事実ではあるが、それならムッカも入れてあげなさいよ。あの子の竿にかかってたんだから。投げたのクルウで、回収したのあたしだけど。
メルルは一端あたしを見る。真偽のほどを聞きたかったんだろうが、まあウロコの回収について言えば本当だ。だから、あたしは笑顔で頷いた。
「…確かに、キレイね、これ。ありがと」
多分、あたしを含めたからじゃないと思うんだけど。メルルはクルウからネックレスを受け取って、笑顔でお礼を言った。
途端にクルウがまた挙動不審になって、今度は言葉にすらならない音をいくつか続けた挙句。
「ま、まあそんくらいつけねーと、メルルはちっともお嬢さまっぽくねーからな! 口悪いし大人しくもねーしかわいくねっ」
「うるっさいわね! あんたに言われたくないわよ!!」
明らかに照れ隠しであろうクルウの言葉に、メルルがクルウの足を踏んだ。
痛みに言葉を止めたクルウを二度見する事もなく、プンプンと怒りながらお嬢様はまた女子の輪の中に戻って行ってしまう。
うん、男子のツンデレを、この年頃の女子に気付けって方が無理な相談だ。今のは仕方ない。
「……どんまい、友人。つぎはもーちょっとがんばりましょう」
「……うっせ」
ああ、青春だわぁ……
夕方まで学校で子供達だけの誕生会をして、日が暮れる頃にお屋敷に帰る。
いつもはこの後、夕食までお手伝いをするかマラソンするかなんだけれど、今日はどちらも中止。
あたしからメルルのお部屋に誘って、彼女を足止めする。
……なんて、さんざ学校でお祝いされてるんだから、今更ナイショにするでもないんだけれどね。
それでも食堂の準備が整うまでは、あたし達はお部屋で遊んでいる。
明らかにメルルがわくわくした表情してるのが、微笑ましい。
今日の彼女は、お嬢様を通り越してお姫様だからね! うん!!
「お2人とも、お食事の準備が出来ました」
「「はぁーい!」」
コンコン、とお部屋をノックされ、クーニャさんがあたし達を呼ぶ。
それに2人で良い子のお返事をして、手を繋いで食堂まで早足で向かった。
おっきな扉を開けると、食堂の大きなテーブルには所狭しと豪華な料理が並べられ、ゴーティスさんやシフィルさん、カッツェさんにラビアンさん、キーロさん、フェネック3兄弟…レナードさんだけは見張りがあるからいないけど、皆一緒に笑顔で待っていた。
「お嬢様ー、誕生日おめでとうございまーす!」
3兄弟の2番目、フェナルさんがやたらと元気の良い一番手を切ると、皆が口々にお嬢様のお誕生日をお祝いする。
メルルもリボンや造花で徹底的に飾り付けられた華やかさや、使用人達を含めた家族全員が揃って祝ってくれるのが嬉しいのか。両親だけに留まらず、1人1人に飛びつき抱きつきで大変嬉しそうだ。
ああ…和む。
身分が高いにも拘らず、アットホームな誕生日パーティなのが凄く良い。貴族の娘の誕生日なんて、それに乗じた妙なプレゼントが山積みになったり形式的な物ばかりで当人につまらないみたいなイメージあったのにね!
…いや、この世界の貴族の皆さんがどうなのかは、……バランさんもゴーティスさんもなんか両極端なので計り知れない。
「メルル。私とお父様から、貴女に用意してみたのだけれど。どうかしら?」
「きゃあ、すごい! かわいい! ありがとう、お父さま、お母さま!」
非常に珍しい、全員が同じ卓につくという食事の後で。
シフィルさんがメルルにプレゼントしたのは、そのまま社交界デビューにも着ていけそうな、豪奢だけれど品の良い、可愛らしいドレス。
メイドの3人からは、そのドレスにぴったりな手作りのコサージュ。キーロさんからは新しい羽ペン、3兄弟からは王都で流行している小説、だとか。
で。
「あたしも。…あんまりリッパなものじゃないけど」
「そんな事ないわ、すごく上手! これ、わたし? わたしのお人形、マリヤが自分で作ったの? すごいじゃない!」
手の平サイズくらいの小さなお人形だったけれど、メルルは気に入ってくれたようだ。
本当はぎゅうって抱き締められるサイズの人形が一番いいのかもだけれど、ニードルフェルトだとそのサイズはきっついからなあ…。あたしの腕が足りないだけかもしれないけれどね。
お誕生日おめでとう、と描いた刺繍のカードも細かくて綺麗、と喜んで貰えた。
良かった良かったと安心していたら。
ミニメルル人形の出来に瞳をきらきらさせていたメルルが、急に立ち上がって。クーニャさんが持ってきた何かを受け取って、あたしの所に戻ってくる。
「はい! じゃあ、これはわたしからマリヤに!」
「……え?」
ぼふ、っと何か柔らかいものを渡された。
予想外の展開に、思わずきょとんっとしてメルルを見返し、渡されたものを改めて確認する。
あたしが渡されたのは、これも人形。こちらは布で作った、普通のぬいぐるみだけれど。
それは熊や兎と言った動物を模した物ではなくて。…どう見ても、人間をモチーフにデフォルメしたぬいぐるみだった。
金の髪と、青いボタンの目をした、このぬいぐるみは。
「……これ、あたし?」
「そうよ! クーニャに教わって作ったの! 初めてにしては上出来でしょ?」
えっへん! とメルルは胸を張る。
いやそれは上出来だと思うし、可愛らしく出来ているけれど。
なんで、誕生日主人公のメルルから、あたしに…?
「あのね。マリヤがこのお屋敷に来たのってね。去年の、明日なの」
「…え、そうだっけ?」
「そうなの。マリヤ、自分のお誕生日分からないって言ってたでしょ? だから、一日ズレてるけどね、今年から今日をわたしとマリヤの誕生日にしましょ、ってみんなと決めたのよ!」
相変わらず、メルルは胸を張ったままだ。
視線をめぐらせると、ゴーティスさんもシフィルさんも、皆頷いて。
「ふふ、吃驚させてごめんなさいね、マリヤ」
「マリヤも、メルルと同じ私達の大事な子供だ。君さえ受け入れてくれるなら、お祝いをさせて貰えないかな」
シフィルさんに微笑まれ、ゴーティスさんに撫でられる。
確かに、この世界におけるあたしの誕生日は解らない。
前世では秋の中ごろだったのだが……それは前の話だし。
突如発生した、あの時があたしの誕生の日ならば、明日ってコトになるだろう。
一日ズレで、二日連続お祝いするのも手間…というのもアレだが。
だったら、メルルと一緒の誕生日祝いになるのは、全然嫌じゃない。
むしろ、種族も違う、何処の誰とも知れないあたしを家族として受け入れ、当然のようにサプライズなお祝いしてくれる、このヒト達に感謝と親愛以外の何を抱けって言うんだ。
「ありがとう! メルルも、お父さんもお母さんも、ラビアンさん達も、みんなだいすきっ!」
先ずはメルルに。それからゴーティスさん達にも順番に、先ほどのメルルと同じように抱きついて頬にキスを贈る。
それからあたしにも、メルルと同じように皆からプレゼントを貰った。新しい服や、本なんかを。
ああもう。ホントに今日もあたしは幸せ過ぎて、涙出そうだ。
この世界選んで、ゴーティスさんに引き取って貰えて、ほんと良かった。
あっという間な一年だったが、これからの生活に憂鬱さなんか微塵もない。
むしろ何があろうが全力尽くして自分も周囲も幸せになってやるよってなもんです。ええもう、心から!
―――ちなみに、メルルが10歳の誕生日だったので、あたしも同様に10歳って事になった。実際多分それくらいだし。
その次の日から、本格的に身分の高い女性としての身だしなみから立ち振る舞い、食事のマナーにダンスと一気に習い事が増えて、メルルがかなりげんなりしていた。
頑張れ、お嬢様。
……いや、あたしも一緒にやってるけど。もう、ほぼ一度通った道だし。
お嬢様ではありませんでしたが、マリヤさんも育ちは良いのです。
多分、大きな会社の重役の娘、くらいの立ち位置。
ただし、習っただけで発揮させた事はあまりない。
一人称『あたし』なやや不真面目系な口調ですが、彼女はそれなりに真面目で勤勉で、けれど緩みも愛するオールマイティ。
(2014/7/8 誤字脱字、他一部表現と日付の付近を修正)




