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ヒツジさんの執事さん  作者: 美琴
第一章
12/67

12・雪遊び



 あたしは、前世で雪のあまり降らない地域に住んでいた。

 全く降らないではないのだが、5センチを越えて積もる事は非常に珍しい。そこで積雪10センチなんて行くような時は大体日本全体が例年見られない大雪、なんて時だ。

 スキー旅行に行った事はあるが、それも数えるほど。

 思い切り雪遊びが出来る環境には無かった。

 そう、だからなのだ。

 例え頭の中身が大人であっても、経験のない現象には、ほどほどであればテンションが上がるものなのだ。


「……マリヤー…」


 後方で、メルルの呆れた声が聞こえた。

 だから、その。…だってほら身体は子供だから、いいじゃないか!!

 朝起きて窓の外見たら雪降り積もってて、テンション上がって外に飛び出してまっさらな雪の中にダイブしたってさぁ!!

 確かにこの地方は冬には雪積もるって聞いてたけど、一晩で真っ白になるなんて思わなかったんだもん!!

 地元でこんな綺麗に積もる事なかったし! 旅行先でも、大体もう踏み固められてたりしてダイブできる場所なかったし! あっても立ち入り禁止だったりしたし!


「ぷはっ」

「さむくないの?」

「さむい!」

「でしょうね。…とりあえず、お外であそぶのはいいから、あったかいカッコしましょうよ」


 ご尤もです。

 誰の足跡もついていない雪原に、綺麗な人型を残してとりあえず満足はしたが、止まれそうにありません。

 思わず夜着のまま庭の雪にダイブした件については、大変申し訳なかったと思う。

 メルルに助け起こしてもらう。それからとりあえずは部屋に戻って、服を着替えた。

 冬用のコートと、毛糸のマフラーと手袋、それに帽子。厚手の靴下を履いて、皮製の長靴をはく。

 ちょっとモコモコになるくらいで丁度いい。あたしには、メルル達みたいな毛皮はないし。そんなメルルはあたしよりも薄手のコートで充分らしい。いいなあ。

 この積雪では本日の朝マラソンは中止だ。代わりに、明日の為にマラソンコースの雪かきでもしよう。…いや数日降り積もるかもだし、入り口付近の雪かきの手伝いかな。


「あ、ていうか今日の学校ってどうなるの?」

「フツーにあるわよ」

「馬車、走れるの…?」

「通りの石は、あったかくなる魔法がかけてあるから、つもらないもの。マリヤも見たでしょ?」


 ……ああ、なんかこの間から屋敷や村を繋ぐ石畳の道をやけにゆっくり注視しながら歩いているヒト達がいたけれど、あれが温熱の魔法でもかける作業だったのか。

 冬は休耕期だろうから、学校開催にもってこいでしょうしねえ。

 正直こんなに積もるとは思わなかったけど、それでも問題ない対策がされていたとは。

 多分お役所のヒトなんだろうな。毎年各地の道にまんべんなく魔法かけて回るのか。大変そうだなあ、ご苦労様です。

 

「ところで、何作ってるの?」

「ゆきだるまー!」

「……朝っぱらから、元気ねマリヤ…。なんかいつもと逆だわ」

「メルルはいつも朝はテンションひくいじゃなーい!」


 いつになく自分のテンションが高いのは自覚してますけどねー!

 あれだ。雪には、大人さえも童心に返させる魔法がかかっていると思う。

 少なくとも、豪雪地帯に住んでない人間には、多分そう。

 広い庭の中を、雪玉を転がして歩き回る。

 ちょっと脳内物質出まくりなせいもあるかもしれないが、秋から始めたマラソンの成果もあるのだろうか。ごろんごろん転がしまくっても、なかなかバテない。

 でも、一個目の玉が納得行くサイズになった頃には、お腹がすいた。


「マリヤー。朝ごはんはー?」

「食べるー!」


 丁度良いタイミングで、メルルが窓から呼んだ。あれ、いつのまに室内に入ったんだろう。

 あたしよりも寒さには強いようだけれど、雪にテンションが上がる事はないらしい。

 ご飯はきっちり食べるが、もっと遊びたいオーラを留められてないのだろう。いつになくゴーティスさんとシフィルさんに微笑ましい瞳で見られていた。

 あとラビアンさん達にもえらく微笑ましそうに見守られていたような。

 大きな雪だるまを作ろうとして、うっかり雪玉が持ち上げられない事態に気付いたので、守衛のフェネック3兄弟の一番上…ちなみに名前はレナードさん、に積み上げて貰った。

 そのまま木の葉や枝や、バケツでデコレーションしたりしてるうちに、学校に行く時間になってしまった。

 ……はしゃぎすぎた。午前中のお手伝い、しなかった。

 ハっと気が付いて謝りに行ったけど、たまには目一杯遊んでもいいのよ、なんてクーニャさんに撫でられてしまった。

 うう。優しいのは嬉しいけれど、なんかいたたまれない…





 と、言う大人らしい殊勝な反省は、残念ながら学校の昼休みにはどっかに行っていた。

 メルルこそテンションは低めだったが、学校の男子達は初の積雪に大ハシャギである。良かった、あたしがおかしい訳じゃなかった!

 昼を食べ終わるや否や校舎を飛び出し、男子全員でバトルフィールドの準備にかかる。音頭を取っているのは、勿論クルウだ。

 障害物、というか盾となる壁をいくつも作って、ある程度平らに均す。

 30分そこそこの休み時間では終わらず、午後の授業が終わった後に残りの整地、というか整雪を済ませた。

 そんな姿を女子達が呆れの混じった瞳で見ていた気がするが、そっちだって雪ウサギとか作ってキャッキャしてるじゃないですか!

 遊ぶときは全力です。季節限定の物なら、尚更!


「よーし、マリヤ勝負だー!」

「受けて立ってやろうじゃない!」


 作った戦場を半分に分ける目印の線を引き、陣地の奥にそれぞれ棒を立てて完成した後は、ほぼ自然の流れで、あたしのチームとクルウのチームに分かれた。

 チーム分けで例えばじゃんけんという発想は無い。だって、一部蹄だし。

 それでも、大体全男子の半分ずつくらいに分かれた。釣りの時の一件や、その後の交流でなんやかやであたし側に着いてもいいかなーという子は結構居るようだ。あとは空気読んだのかもしれない。

 戦闘開始の前に、それぞれのメンバーで集まり、作戦会議だ。

 陣地の安全地帯は左右対称に作られているので、条件は同じ。

 ルールは、とにかく先に相手の陣地の棒を取った方が勝ち。

 別に雪玉に当たったらアウトとかじゃない。アウトになってこのやんちゃ坊主どもが大人しく終了を待つ筈が無いし。

 というわけで、防衛陣と攻撃手に分かれた。

 恐らくだが、クルウは攻撃重視で来る筈だ。あの子はそういう子だ。

 ならば、こちらは防御重視で、少数精鋭による一点突破を狙う。

 あたしは後方指揮だ。なんせ、足は他の子の方が速い子多いし。つーか目立つし。


「そろそろいいかー?! はじめるぞー!」

「こっちはいつでもー!」

「よーし! それじゃあ、はじめーーっ!! 行くぞお前ら、とつげきー!!」

「行くぞ、野郎どもー! 鶴翼の陣をはれー!!」

「おーーー!!」


 案の定戦力の殆どを攻撃に回した…というか多分皆が戦の花形、攻手がしたかったと思われるクルウ達を迎え撃つべく、すっかりテンションが上がりきってノリノリであたしも声を張り上げる。

 ずばばばば、と飛び交い始める雪玉。

 いくら雪玉が当たってもアウトって訳ではなく、その気になれば単騎突破も出来るとは言え、全力で投げられる雪玉が当たれば冷たいし痛い。

 それが顔面に当たれば、視界も奪われるし足は止まる。

 そこへ追い討ちをかければ、誰だって慌てて壁の向こうへ避難する。


「ふはははは、クルウ隊、恐るるに足らずー!」

「くっそー! お前ら雪玉作んの早すぎじゃね?!」

「戦場で大事なのは、兵のはいちとへいたんなりー! 我が方の玉のじゅんびは万全よー!」

「へいたんって何っ?!」


 戦場における物資の配給や整備(その他諸々)の事だ。

 要するに、ムッカを始めとした投球精度低めな子達に、雪玉作りを任せてあります。

 後方支援は地味だけど、これ以上ない大事な仕事だ。弾がなければ戦えないのだよ!

 そしてあたしがテンションあげあげで一番奥の壁の上に仁王立ちして高笑いしてるのも、何も楽しくなって我を忘れてる訳でもない。

 クルウ達の攻撃隊がこちらを注視している間に、シマウマ君と白ウサギ君がこっそりひっそりクルウ側の陣地へと侵入を果たしている。

 ナイス保護色! 囮を用いての敵地侵入は基本中の基本よね!!


「ほーら、止まってるとどんどん玉が増えてくわよー! 来るなら来な……ぶふっ」

「そおい!!」


 障害壁の上でいい気になってたら、クルウの雪玉が思いっきりあたしの顔面にぶち当たった。…流石、ナイスコントロール。

 思わず後方につんのめって転がり落ちた。痛い。仲間が一応支えてくれたので、頭打ったりはしなかったが。


「てめぇら、これ以上ナメられてたまっかー!! 死んでもマリヤ隊を落とせー!」

「うおーーーー!!」


 はっはっは、熱い熱い。

 あたしの調子乗ってるモードは見事にクルウ達の闘争心に火を付けまくったらしい。今の小休止中にしっかり作り貯めた雪玉を手に、第二次侵攻が始まる。

 今度は本気で犠牲を厭わぬ特攻隊だ。防衛陣の雪玉も、ほんのわずか彼等の足を鈍らせる程度の役目しか果たせない。なんせ、雪玉以外での攻撃禁止だからね! そりゃそうだ、雪合戦なんだから。

 物理阻止が出来ない以上、死に物狂いで食いつかれては止める術は無い。それはそれでどうなのか。なんて脳筋な雪合戦。

 だが、戦闘には頭脳も必要なのだよ!


「取ったーー!!」

「なにぃ?!」


 クルウの手がもう少しであたしの陣地の旗印に届く、という所で。響いた勝鬨は、クルウ側の陣地から聞こえた。

 隠密部隊は、見事に任務を果たしたようだ。特攻の出来ないチビっ子達という防衛線を突破して、後頭部に雪玉を喰らったらしいシマウマ君が高々と棒を掲げている。


「勝ったーー!!」

「すげー! マリヤ、名軍師ー!」

「あははは、皆のおかげ、おかげー!!」


 全員で集まって、ぱしーんっとハイタッチをしあう。

 なんせ、指示通りに動いてくんなきゃただの雪玉ぶつけあい、足の速いもの勝ちになっちゃうものね!

 これで戦略というものの重要性を覚えて、ハイクオリティな遊びを生み出してくれると面白いんじゃないだろうか。

 がっくりと膝をつくクルウ達……しかし、上げた顔は未だに戦意に満ちている。


「第二回戦だーーー!!」

「よっしゃ、受けてたーーーつ!!」

「次はオレらが勝つからなーー!! お前ら、作戦かいぎだーー!!」


 というか、チーム分けし直さなくていいのかー。

 悔しさ噛み締めダッシュしていくクルウを見送る。さあて、次はどんな作戦を打ち出してくるかなー。


「お互いに防衛戦になるとつまらないから、今度はこっちから攻めてみましょうか」

「みんなでクルウたちみたいに、はしってくの?」

「さっきみたいにバラバラ走ってったら対処もされやすいし。やるなら、一点…いや、時間差を入れた二点突破かしら」


 さっきはあんな事言ったが、別に陣形や戦略に詳しい訳ではないので。

 ……尚、結果としては5戦3勝2敗でした。

 うぅん。頭を使おうとすると、結構難しいもんだなあ。





――――――





 屋敷に帰る頃には、雪と汗で結構な惨状になってしまっていた。ちょっと、エキサイトし過ぎた。

 ハシャギ過ぎ、とメルルに笑われながら帰って、お湯を浴びて着替えてさっぱりする。

 昼間は雪が止んでいたのだけれど、日が暮れたらまた降ってきた。

 …降雪の期間って、どれくらいなんだろう?

 家の作りからして、埋もれてしまうくらいの豪雪地帯って感じではないんだけれど。1月あるかないかくらいで、寒さのピークを過ぎたりするのかな?

 だとしたら、寒い時は寒く暑い時はそれなりに暑い、気候としてはメリハリがありつつも穏やかな地域かな。

 秋の終わり頃に、ちっちゃい雨季らしき雨が続く期間はあったけれど。

 たまたま、今年が平穏だっただけかな。

 自然相手だとそれこそ予測なんてし切れないが、温暖化やら自然破壊やらで、毎年のように異常気象がやってくるような世界ではないのか。

 平和でいいね。長く暮らせば、きっといつか長雨や干ばつに遭遇するんだろうけど。


「それにしても、マリヤがあんなにはしゃいでるの、初めて見たかも」

「そう?」

「そうよ。あなた、いっつも冷静で、オトナっぽくて。ぜんぜんコドモらしくないし」


 ……中身、大人だからね。

 それでも、折角再び子供として転生したのだから、子供生活を満喫しているつもりなんだけれどなあ。

 メルルのお部屋、ベッドの上から窓の外を見てたのだけれど。隣で何が楽しいのかという風なメルルに、ぎゅーっと抱きつく。


「オトナは、雪でわくわくしたり、年明けにナイショでよふかしなんてしないわー」

「…それもそーね」


 もふもふ。メルルの冬毛は、毛布よりあったかい。

 という訳で、ただいまあたし達はお部屋の明かりを小さなランプ1つにし、メルルのお部屋で夜更し中である。

 いわゆるところの大晦日、だが。あまり大晦日に何かをするという意識は、この世界には無いようだ。どっちかというと、新年明けてからお祝いするらしい。

 王都なんかだと、年が明けたと同時に花火が打ち上がったりするとか。

 勿論、この付近だと牧場の牛さんなんかが吃驚しちゃうから、そんなド派手な事を深夜にしたりはしないが。お祭り騒ぎは、明日の朝だろう。

 子供は寝なさい、と言われているのだが。

 なんだろうね。やっぱり、一年一度の特別な日の前日と思うと、寝てられないってトコだ。

 実際、更にその前日からこっそりメルルのお部屋で、年が明けるまで起きてようね、なんて話をしていて、今に至る訳だし。


「オトナはズルイわよね。自分たちはよふかしして、おいしーもの食べてたりするクセに」

「そーねぇ」


 深夜になっても、窓から見える村の明かりはあまり減っていない。

 即ち、大人達もやっぱり、年明けの瞬間を待っているのだ。

 子供が大手を振って夜更し夜遊び出来るのは、収穫祭の日だけ。


「まあ、イジワルしてるわけじゃないわ。寝る時間がへれば、次の日つらいし。そうしたら思う存分遊ぶこともできないし、病気になる時だってあるから。しんぱいしてるのよ」


 睡眠不足は万病の元。

 特に子供の内は、成長の妨げになる。脳や身体の発達だって、良い睡眠が大きく関わっているはずなんだから。

 …だからって、大人になったら夜更しし放題でもないけどね。

 正直、10代の頃は平気で徹夜とか出来たのに、20過ぎた頃からか、ちょっとでも寝ないと辛くてやってられなくなったものだし……


「……やっぱり、コドモらしくないわよねー。マリヤって」

「そう?」

「うん。物分り良いって言うか、…ニンゲンのコドモって、みんなそう?」

「んー…そうでもないんじゃないかしら。あたしが変わってるのよ」


 この世界の人間の事なんて、知らないけどねえ…

 少なくともあたしが知る人間、というか日本人はね。

 ……いや、それこそあたしが知る『戦争時代の』日本人ならば、敵国人に捕えられる前に集団自決…なんて、やりそうではあったが。

 思わずこの前のジョウイさんの話を思い出して、苦笑いしてしまった。


「そういえば、わたしってマリヤの事、あんまり知らないわ」

「ん? …うーん……」


 正直な所、あたしだって現在のあたしを知っているかと言えば、そうでもない。

 どうやっても答えを導き出せない事だから、すっかりと考えるのを放棄してたが。

 結局、なんであたしはあそこに居たんだか。

 運命の悪戯か、それとも神様の悪戯か。…あたしのうっかりミスによるペナルティか。

 生まれ変わった後に前世の記憶を取り戻す、ならまだしも。この世界で生まれ育った記憶が完全に0では、出自を知りようもない。

 ……結局、実の両親が探してる風でもないしね。


「聞いちゃ、ダメなこと?」


 メルルは良い子だ。好奇心を隠せてはいないけれど、それを聞くことであたしが傷つくんじゃないかと、気をつかってもいる。

 正確には、多分単純な好奇心ってだけではない。

 あたしの事を、家族だと思うから。大事で、大好きだから。もっと仲良くなる為に、相手を知ろうとしているだけだ。

 その気持ちはとても純粋で、出来る事なら応えたいとは思うのだが。


「ねえ、メルル」

「なあに?」

「もしも、あたしがホントはこの国でも、メルルが知ってる国でもどこでもない、ずーっと遠いトコロから来た、って言ったら。…あなた、信じる?」


 あたしの言葉に、メルルはきょとんっと瞳を丸くして、首を傾げた。

 さすがに、ここではない全く違う世界から来た、とまでは言うつもりはないし。身体はともかく頭の中身は貴女よりずっと年上…なんてのも、明かすつもりはない。

 事実そうだとして、あたしはこの世界での子供生活を満喫する気満々だし。


「ずーっと、遠く?」

「うん、そう」

「…そんな遠くから、どうやってここに来たの?」

「それは、あたしにもわかんないの。気がついたら森にいたのは、ホント」

「マリヤがいたのって、どんなトコ?」

「うーん、こことはちがって人間ばっかりの国よ。メルル達みたいに、ふわふわの毛や羽やウロコを持ってるヒトがいないようなところ」


 おかげで、初めて会ったウルガさんのいかつさに、腰を抜かした。

 信じるかなあ。自分達みたいな獣人が居らず、人間ばかりの……今住んでいるこの世界とは、全く逆の世界があるなんて。

 ヒトは誰だって自分の世界しか知らないから。物語の中ではなく、現実にその常識の通じない世界があると聞かされても、大抵は眉唾だと思う筈だ。

 冗談と思われるかな、なんて思ったのだけれど。

 メルルは真剣な顔で、あたしの言った事を考えているようだった。


「……んー。なら、ニンゲンはみんな、世界のどっかで生き残ってて、いっぱいでくらしてるってコトよね。うん、信じるわ。だって、その方がぜったい良いもの!」


 こくん、とうなずいて、メルルが出したのはそんな結論だった。

 流石に、こことは違う別の世界の話とは思わなかったようだ。…まあ、それはそうだ。

 実際、遠く遠くに逃げ延びて、国を作ってる可能性はあるけどね。


「じゃあ、マリヤが最初、わたし達と居てフシギそうにしてる事が多かったのも、ずっとニンゲンとしか会った事なかったのね? わたし達みたいなヒト、初めてだったのね?」

「うん。…そういうこと」

「あのアイスとか、親方さんに話した物とかも、ニンゲンの国にいたころの物?」

「そうね」


 その辺りの不思議も、そういう事で納得されそうだ。

 まあ、それくらいが妥当かな。

 まさか一回死んで神様に会って、任意で転生先選ばされてちょっと手違いで記憶継承したなんて、自分でも荒唐無稽過ぎて頭の心配をされる気しかしない。


「…どうやって来たのか、覚えて無いのよね」

「ええ。多分、事故だったんだと思うけど。ハッキリした原因は、わからないの」

「……帰り方も?」

「きっと帰れないわ。このまま、ずっと」


 神様の発言から察するに、魂は同じ場所に転生できず、常に換気されてるみたいだし。

 この今の命があるうちに、前の世界に帰れるなんて奇跡は起こらないだろう。

 その辺りはもう納得したことなので、大事だとは思っていないのだけれど。

 メルルは、急にもふっとあたしに抱きついてきた。


「マリヤのお父さんやお母さんも、その国にいたのよね?」

「…そうね」

「帰りたい? …さみしくない?」


 もふもふ羊のお嬢様は、あたしをぎゅーっとして、自分の方が悲しそうな声で問う。

 あーもう。ホントにこの子は。

 優しいお姉ちゃんに恵まれた事が嬉しくって、あたしからもメルルをぎゅーっと抱き締める。もふもふ。


「大丈夫よ」

「…ホントに?」

「ホント。あたしのお父さんとお母さんはゴーティスさんとシフィルさんだし、こんなに可愛いお姉ちゃんだっているもの。あたしは可哀想なんかじゃないって言ったの、メルルでしょ?」


 望郷の念が無い、…とは言わないけれど。

 残念ながら、前世はもう終わってしまった事だ。そして、記憶は継承しているが、今は今。あたしが生きているのは、この世界の、この場所。

 この世界に来て、ここに引き取られてからというもの。あたしは日々の幸運と幸福に感謝するばかりで、我が身の不幸を嘆いた事など一度も無い。

 それもこれも、暖かい村のヒト達や、優しい家族のおかげ。

 これだけ恵まれていて、それを受け入れられないなんて。それはどれだけ贅沢なんだって話じゃないか。


「だーいすきよ、メルル。あたしのお姉ちゃん。いっぱい優しくしてくれて、いつもありがとう」

「……わたしも、大好きよマリヤっ。オトナになっても、ずーっといっしょだからねっ」


 もふもふ。ぎゅーぎゅー。

 通常の姉弟としてはなんか仲良すぎるくらいなのかもしれないが、そこは言いっこなしだ。別に変な感情ないし。

 家族愛ですから。少なくともあたしはそうだし、メルルだってそうなのが解る。だって、ゴーティスさん達見るのと同じ目してる。

 ベッドの上で2人でじゃれあってたら、部屋の外から微かに、日付の変更を告げる時計の音が聞こえてきた。

 そうこうしているうちに、年が明けてしまったらしい。

 一端、メルルに手を離して貰って、ベッドの上で向かい合い、きっちりと正座をする。

 どうしたの? と言いたげなメルルに、そっと手を付き頭を下げた。


「あけましておめでとうございます。昨年中は大変お世話になり、ありがとうございました。本年もどうぞよろしくお願いいたします」


 我ながら堅苦しい文言を連ねて、またすっと頭を上げる。

 当然ながら、メルルはきょとんとしていた。


「…今の、なあに?」

「むかし、あたしが居た場所でしてた、新年のごあいさつ」

「ふぅん…。ニンゲンって、ものすごくれいぎ正しいのね。今年の分だけじゃなくて、去年の分のごあいさつもするなんて」


 過ぎた年を振り返り惜しむ風習はないようだからねえ…。そういえば、お盆的な物、なかったしな。冬から春にかけて、あるのかもしれないけど。

 だいたい、今年もよろしくー! …ってまたお祭り騒ぎになるそうだ。今日一日。

 常に前見てる的なノリは、大好きだ。

 折角軽く秘密をバラした記念に、悪戯含めたご挨拶をしたら、メルルは驚き半分感心半分なようで。

 今度は彼女も、ベッドにちょっと崩れた正座で座り直し、ぺこりと頭を下げる。


「あけまして、おめでとうございます。…えーと、…昨年中は、…おせわになりました。今年もよろしくおねがいします」


 それから、これであってる? とばかりに顔を上げて、首を傾げた。

 あーーーーもう、お姉ちゃんどんだけかーわーいーいーのー!!

 思わずもう一回ぎゅーぎゅーしたくなる衝動を抑え、完璧、と笑顔で頷いた。


「…あ、そういえばあたしが来た場所とかのコト、ナイショね? 変にウワサになって、いろいろ聞かれてもこまっちゃうし」

「そうね。…じゃあ、わたしとマリヤだけのヒミツね!」

「うん。あたし達だけのヒミツ、ね」


 腹探られたって、どうあがいても辿り着けない場所だけど。適当に言って嘘と判断されておかしなことになるのも御免だし。嘘から出た真になっても困るし。

 という訳で口止めをお願いしたら、メルルも2人だけの秘密にしてくれた。

 2人で口の前に指、…メルルは蹄、を当てて笑う。

 共有する秘密、ってなんか素敵よね。女子はそういうの、大好きです。

 うっかり『ここだけの話だけどー』なんて言いふらすタイプではないし。メルルは、信じられる。

 彼女はあたしの味方だし、当然あたしも彼女の味方だ。…きっと、生涯通して。


「じゃ、そろそろ寝ましょうか。明日起きられなくなっちゃう」

「そーね。お休みなさーい」

「おやすみなさい」


 今から部屋を出て自分の部屋に戻るのは、途中で見つかった場合に怒られるの確定なので、そのまま一緒にベッドにもぐりこむ。

 なんかもう、最近お互いに男女差とかどうでも良い感じになってきた。

 元々あたしは頭の中身女だから気にしてないのだが。メルルも、多分あたしを男だとは思ってないような気がする。

 別にどうでもいいけどね。そんな事。

 まあ、流石にもうちょっと大きくなったら、周囲が許さんだろうけども。





 仲良し姉弟。


 数日、雪遊びと新年どっち書こうか迷った結果、両方つめたでござる。

 特に分断する理由もなかったし、両方微妙に短かったので。


 二度目の春が来ますよー。



(2014/7/7 誤字脱字、他一部表現を修正)

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