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ヒツジさんの執事さん  作者: 美琴
第一章
11/67

11・親族



 収穫祭が終わって2月も過ぎれば、空気は殆ど冬と言って良い寒さになる。

 吐く息も、大分白い。まだ雪は降っていないが。

 相変わらず、あたしは体力作りの為に朝晩屋敷の周囲をマラソンしている。やっぱり走るなら多少寒いくらいがいい。火照った頬を冷たい空気が撫でるのが好きだ。ちょっと鼻が痛くなるのだけは頂けないが。

 メルルもなんだかんだと一緒に走っている。お肉のコストダウンはしたんだろうか?

 冬毛になってもふもふが増したお嬢様のお肉は、あたしには判別できない。

 ただ少しは慣れてきたのか、収穫祭後に始めた頃に比べれば、少しだけペースアップして走れるようにはなった。

 …まあ、バテるようなスピードで走らないけど。

 ムリしてバテて倒れるより、ムリしないスピードで延々走った方が総合的な距離も伸びるし、その分鍛えられる筈だから。

 別に大会出るって訳じゃないからね。…ていうかマラソン大会とかあるのか?

 さておいて、マラソンを終えて、汗を流して着替えてきたら、なんかお屋敷の中が少し慌しい事に気がついた。


「ああ、メルル、マリヤも。今日は学校はお休みだったわよね?」

「ええ。どうしたの、お母様?」

「急にお義兄様が来られると連絡があったの。貴方達も着替えておいてくれるかしら」


 少し困ったように右手を頬に当て、シフィルさんはそう告げた。

 今まさに着替えたところなんだけど…。つまりは普段着ではなく、正装とまではいかないが貴族としてきちんとした…メルル曰く窮屈な、服装になれという事だ。

 しかし、お義兄様とは。つまり、ゴーティスさんのお兄さんか。

 てことはメルルの伯父さん。


「お父さんて、兄弟いたの?」

「ええ、王都に普段はお住まいよ。…その、少し気難しい方だから。良い子で居て頂戴ね」


 あたしの質問に、シフィルさんはやっぱり少し困り顔だ。

 ……ああ、面倒なヒトなんだな、と理解する。

 というか、多分あたしが想像するような、『立派な貴族』なのかもしれないが。ゴーティスさんは良くも悪くも、普通の貴族然とはしていないし。

 うーん、どういうパターンだろう。

 この田舎の領主なんて立場を蹴っ飛ばして、王都で成功した系の兄ちゃんか。あるいは兄であるにも拘らず、弟が家督を譲られて恨んでる系か。

 後者だとめんどくさいな……前者も面倒だけど。

 いやそもそも、他種族の孤児を養子に入れたなんて知れたら、何言い出すか解らないヒトだったりするのでは。


「…ねえ。あたしもごあいさつして、平気なのかしら」

「勿論よ。貴方はわたくし達の家族よ、マリヤ。だから、何を言われても胸を張っていて」


 あたしの質問の意味を理解して、それでもシフィルさん達はあたしをお兄さんに紹介するつもりであるらしい。

 例えあたしが人間でも孤児でも、あたしを迎え入れた事を恥じるつもりなどないのだろう。それは嬉しいんだけど。

 別にあたしが嫌味言われんのは構わないけど、ゴーティスさん達がちくちくいびられんのはイヤだなあ……


「大丈夫よマリヤ。伯父様の相手はお父様に任せておけばなんとかなるし。わたし達は良い子にごあいさつして、おべんきょうしまーすってお部屋に帰ればいいの」

「……うん」


 当然の適材適所だけど、ゴーティスさんも大変だなあ……。勿論、シフィルさんも一緒だろうけれどね。

 メルルもその伯父さんに好意を持ってはいないようだが、その割には別段嫌そうな態度ではない。…むしろ、何処か機嫌が良さそうだ。

 何か、お楽しみでもあるんだろうか?




――――――




 昼を回った頃、お屋敷に立派な馬車がやってきた。

 いつもあたし達が使ってる馬車よりも、一回り大きくて、やたらと華美な装飾が施されている。豪華ではあるが、ちょっと品が無い。

 そこから降りてきたのは、ゴーティスさんと同じ羊の男性。

 正直、羊の固体識別なんか出来ないが、彼とゴーティスさんが並んでも、確実に見分けが付くと思う。

 それくらい、多少どころではなく、彼の方がゴーティスさんよりコストが多い。

 おい草食動物、どうしたらそこまで肥えられる。


「出迎えご苦労。久しぶりだな、ゴーティス」

「お久しぶりですね、兄上。お元気そうで何より」


 お兄さんの名前は、バランと言うそうだ。

 羊毛があってももっちりしていると解る身体で、ゴーティスさんに対し完全に上から目線の口調。

 思わずちょっとイラっとしたが、表情には出さないよう努めた。

 通された応接間に、ゴーティスさんとシフィルさん、それにあたしとメルル。そしてバラン伯父さんと……誰だろう、聞いていなかったがもう一人。

 えーと…この顔は、カンガルー? ワラビー? 大きさが人間大に固定されると、ちょっとどちらかは解らない。

 服装からして男性で、バランさんの隣に座ったことから察するに、従者ではなく家族なのだろう。てことは、メルルの従兄妹かな?

 カンガルーさんの方は長身ですらっとしている。もうそれだけで、バランさんよりも好感が持てる。

 裕福からくる肥満は、自己管理が出来ていない感丸出しで好ましくない。


「相変わらず、地味で粗末な屋敷だな。我が生家ながら、うんざりする」

「ははは、これはこれで良い物ですよ」

「全く、お前は欲が無さ過ぎなんだ、ゴーティス」


 ……話から察するに、やっぱり地方領主なんて地味な家督よりも、派手な王都の生活を選んだ系なのかしら。

 いちいち鼻に付く金持ちだ。嫌いだ。が、親族である以上邪険には出来ない。

 バランさんが、ちらりとあたしを見た。

 明らかに、胡散臭いものを見る目。…自分よりも下の、家畜なんかを見るような目だ。

 正直イラっとしたが、一切態度に出さず背筋を伸ばし、胸を張って座ってその視線を受け止める。

 それから、1つ頭を下げた。


「はじめまして、バランさま。マリヤと言います。このお屋敷に引き取られて、半年がすぎます」

「ふん、最低限の礼儀は持っているようだが。ゴーティス、まさかとは思うが、この子供に次の領地を任せるつもりで居るのではないだろうな?」

「マリヤは私の子ではありますが、その決断をするのはもう少し先でしょう。…ただ恐らくは、家督を継ぐのはメルルであると思っていますよ」


 そりゃそーだ。多少の男尊女卑でもあるのか知らんが、健康な実子がいるなら普通はそちらに家督を継がせるだろう。そもそも、あたしもそんな権利を主張するつもりもない。

 っつーか、お前の方は最低限の礼儀持ってんのか。

 いや、多分相手を見て礼儀を守るタイプなんだろうね。そりゃあ、何処の誰とも知れない孤児に頭下げる貴族など居やしない。別にいいけどさ。


「……ゴーティス。お前は欲は無いが、才能はある男だ。恐らくは、メルルもそれを受け継いでいるだろう。俺は、お前を評価しているんだぞ」

「ええ。存じております、兄上」

「お前さえ望めば、王都へ上がる事も可能だ。俺が口を利いてやる。ゆくゆくは、王に重用される貴族にもなれるかもしれんと、俺は思う」

「ははは。それは買い被り過ぎですよ」

「そんな事は無い。どうだ、来年こそ王都へ来ないか? この地の事ならば心配ない、ジョウイももう一人前だ。我が息子ながら、こいつも中々の逸材だぞ?」


 ……ああ、なるほどね。

 一見有能な弟が地方に埋もれているのが勿体無いと言わんばかりに栄転を持ちかけるバランさんと、微笑みながらかわし続けるゴーティスさんに、薄々ながら事情を察した。

 恐らくバランさんは家督を継がなかったのではない。きっと、先代からゴーティスさんに正式に譲られたのだろう。

 表立った亀裂が無い事から、きっとその時はバランさんも代わりに用意されたのであろう、王都での爵位にほいほい乗って行ってしまった。

 が、後になって気付いたのだ。

 この地方の領主である事は、相当な利権があるのだと。

 何せ、都に居る王様が日常的に食べる品を作っているような地だ。それはかなりの高級品であり、一級品が生産されているということ。

 その立場を、何年も保ち続ける領主の名声も、決して低くはあるまい。

 きっと相当な儲けを生み出しているのだろうが、間違いなくゴーティスさんはその利益を溜め込んではいない。正等に生産者達へ還元している。だからこそ、あんな豪勢な収穫祭だって開催できる。

 そこにちょっと手を加えるだけで、金の生る木になる。

 王室御用達の品と言えば、他の貴族も欲しがるだろう。物が確かだという証拠であるし、由緒を気にする人々でもある。

 恐らくは、多少値を吊り上げても、彼らは買い求める。貴族ってそういう人達だ。

 その吊り上げた分の利潤は、膨大な額になる。

 ……要するに。バランさんはその事実に気がついて。

 領主の座をゴーティスさんから奪い、自分の息子をそこに据える事で、裏から利益を吸い上げて一儲けしよう…と企んで居るのだろう。

 そういうヒトだから、先代はゴーティスさんに家督を継がせたのだと思う。

 実際、あまりにも甘くて美味すぎるバランさんの話に、ゴーティスさんは微笑みを保ったまま、全く靡こうともしない。

 まあ元々が誠実で堅実なヒトだから、振って湧いた儲け話に飛びつく筈もない。


「お前はヒトが良すぎるんだ。もっと民どもの生産を増やさせれば良いものを。王都の人々の求めに答えるのも、領主の役目だろう」

「いいえ、今はこれが丁度良い量なのですよ。無理をすれば良いという物ではありません」


 ……あ、だめだこの人。

 『民ども』とか言っちゃってる時点で、底が知れた。王都の人々とか言ったが、きっとそこに一般人は含まれて居ない。貴族だけだ。

 この分だと、村人達への還元分すらも自分の懐に収めそうなタヌキオヤジだな。…いや、羊なんだけども。

 っつーか無理に生産量なんて増やしてみろ。確実に質が下がる。

 心を込めて丹精込めて、というのは確実に質に反映されるのだ。それをおざなりにして量を求めれば、当然品質は低下して然るべき。ただでさえ、機械による大量生産なんて出来ない世界なんだから。

 それを解ってないこのヒトは、やっぱりこの地の領主に相応しくない。

 多分、このヒトが治めた場合、3年と経たずに王族からの契約は解除され。信用は地に落ち、利益は半減以下になる。

 きっとその責任も、村人達に押し付けるのだろう。

 典型的な、ダメ貴族だった。

 ……血が繋がってるからって、性格も性質も似るとは限らないな。

 これはどっちかというと、鷹が鳶を産んじゃった系だ。無論鳶がバランさん。


「伯父様。わたし達、そろそろおべんきょうの時間ですから、おへやにもどります」

「おう、そうかそうか。メルル、頑張ってお父上の役に立つ大人になるんだぞ」

「はい」


 今まで黙っていたメルルは席を立って、バランさんにお辞儀をする。

 バランさんも、あたし相手とは違ってメルルへはそれなりに、良い伯父さんみたいな態度であった。

 ゴーティスさん一家を纏めて栄転という名の追放をしたいのだから、そういう所はごまをすっておく算段なのだろう。

 しずしずと歩くメルルについて、あたしも応接間から退室する。

 ラビアンさんが開けてくれた扉から出て。廊下を歩いて角を曲がってもう応接間の扉が見えなくなった所で、突然メルルが振り返った。


「いーーーーーっっだ!! 誰が王都になんか行くもんですか!!」


 ですよね。

 猫かぶりモードからいつものメルルに戻った事に、なんか凄く和んだ。


「マリヤ、何笑ってるのよ! あーもう、ほんっとあのオヤジだいっきらい! わたしのマリヤを見下してちょー失礼! はらたつー!」

「あははは、メルルがいつものメルルで安心しただけー。でも、そうね。たしかにちょっと、こまったおじさまだったわね」

「ちょっとじゃないわよ! すんごくよ! 毎年毎年、しつっこいのよ!」


 つかつかと廊下を歩きがなら、メルルは悪態を吐く。

 多分、彼女の方はバランさんが腹の底でこの地の利益でがっぽがっぽ、なんて思ってるだろう事までは察していない。

 単純に、大好きなこの地を離れて遠くへ行けと毎年言ってくるのが気に入らないだけだ。

 だが、事実としてゴーティスさんの実の兄だし。ご夫婦としても、邪険に追い返す訳にも行かず、毎度毎度こうして彼をもてなし、適当に話をかわして、お帰り頂いているのだろう。

 困った親族ほど、性質の悪いものはないわねえ……

 ぷんぷんと怒るメルルに、真っ当な性質の血はきちんと受け継がれているなあと安心半分、面倒な親族の今後の対応に思いを巡らせる事半分で居たら。

 あたし達が来た方、即ち応接間の方向から、誰かが歩いてくる足音がした。

 今のメルルの悪態、バランさんに聞かれたらどんないちゃもんつけられるか解らないな…

 ちょっと警戒しかけたが、打って変わってメルルはパっと笑顔になる。

 何だろう? と思っていたら、角を曲がって姿を現したのは、先ほどバランさんのお隣に居たカンガルー…だかワラビーだか、のお兄さん。

 もうその親子関係の構図については突っ込まない。多分お母さんがカンガルーなんだろう。


「ジョウイお兄様! おひさしぶりです!」


 嬉しそうに笑って、メルルはジョウイさんにがばっと抱きついた。

 おや、従兄妹には懐いているのか。


「久しぶりだね、メルル。…すまないね、いつもうちの父が面倒な事を言って」

「んーん、良いんです! 代わりに毎年、こうしてお兄様が遊びに来てくださるもの!」


 飛びついてきた小さな従妹に、ジョウイさんはよしよしと頭を撫でてやる。

 ……あ、お人好し遺伝子は息子に隔世遺伝してるのか。

 見た感じ、彼にはバランさんのような腹の底に黒いものを隠した感じは見受けられない。あたしが見抜けないほど巧みに隠す策士である可能性はあるが。

 爽やかな笑顔を浮かべる腹黒野郎なんて、何処にでも居るからな…

 少々警戒しつつも、メルルがあれだけ懐くんだから良いヒトなのかなーと観察していたら、彼はあたしの方を見て、あろうことか頭を下げた。


「マリヤ君だったね。…君にも、すまない。父はどうも偏った物の考え方をするヒトでね。気分を害しただろう、本当に申し訳なかった」

「あ、…いえ」


 やばい、普通に良いヒトか。

 どうしたらあのタヌキ親父から、こんな好青年が生まれる。…隔世遺伝か。

 このヒトが後釜だったら、タヌキ親父が搾取する事も無いかもしれないが……でも、実の親からの圧力を撥ね退け続けるのは辛いだろうな。

 そも、後釜を据える気など、ゴーティスさんにもメルルにも無いだろうけど。


「お兄様、今日はおとまりでしょう? あそんでください、ねっ!」

「おや、メルルはお勉強しにお部屋に戻るんじゃなかったのかい?」

「あう。…いじわるしちゃやーです、お兄様」


 というか完全に甘えっこモードになってるメルルがやたら可愛いんですけど!!

 よっぽど好きなんだな…。いやまあ、同じ年の男の子と違って、優しくて大人な従兄なんて、憧れの最たる存在か。気持ちは解る。

 ……喧嘩ップルな幼馴染と、年上で優しい従兄か…。乙女ゲーだとしたら、結構良い属性揃ってるわね、メルル。

 何はともあれ3人で、メルルの部屋でお茶する事になった。

 陰謀渦巻くお兄さんの相手をするゴーティスさんとシフィルさんには申し訳ないが、子供は子供で真っ当な交流をさせて貰うとしよう。


「ジョウイさんは、ここの領主さまになりたいんですか?」


 なるべく可愛らしく、子供っぽく、ジョウイさんに尋ねてみた。下手に遠まわしに探るより、子供子供しておいた方が後が楽と判断したので。

 彼はきょとんっとした表情をして。それから、ヒトの良さそうな顔であははと笑った。


「いや、僕に回ってくることはないだろう。それはこの地を治めるのは名誉ある事だとは思うけれど、ゴーティスさんが大切に守って、メルルに受け継がれるべき土地だから」

「ええ、わたしは大人になったら、お父様みたいなりっぱな領主になります!」

「うん、楽しみにしているよ。その時に君の力になれるように、僕も立派なヒトにならないとね」

「そんな、お兄様はもうすごくリッパです! 学院をしゅせきでそつぎょうした、エリートですもの! ね!!」


 あー、メルルが完全に憧れの瞳で見ている。これはチョロそうだ。

 まあジョウイさんからメルルへの視線は、可愛い従妹を見るものだが。

 …とりあえず、彼に野心的なものはあまりないのか。あるいは、王都で身を立てることを良しとしているのか。

 何にせよゴーティスさんがあんな甘言に乗ることも無い。

 メルルも、将来的に領主になる気満々だ。きっと、女性が家督を継ぐ事も、不可能ではないお国柄なのだろう。その辺あまり知らないが。


「マリヤ君は、大人になったらどうするか、考えているかい?」

「え? …うーん」


 まだ先の話だが、何も考えていない、ではいけないか。

 正直に言えば、何も考えていないでもない。

 貴族の養子ではあるが、爵位が欲しいとは思わない。独り立ちして、身を立てるというセンは、…なくもないのかもしれないが、自分の種族的な意味で難しいだろう。

 それらがなくても、あたしの将来は。


「大人になったら、メルルを助けられるヒトになりたいです。んーと、ラビアンさんみたいな補佐役がいいかなあって、思ってます」


 秘書立ち位置。それは無論物凄く大変な事なのだが、それがいい。

 ラビアンさんだって、ずっとここで秘書やってる訳にいかないだろう。家庭もあるし。そもそも彼女、可愛らしい兎さんに見えるが、実はゴーティスさんより年上だそうだ。

 獣人の皆様は、大人サイズになると、年齢がよく解らない……

 そんな事を言ったら、メルルがパっと笑顔になる。


「ほんとっ? マリヤ、わたしのお手伝いしてくれる?」

「うん。メルルさえ良ければ。そのために、べんきょうしたいなーって思ってる」

「良いわよ、もちろん!! それじゃ、オトナになってもわたし達、ずっといっしょね!」


 あたしの両手を取って、きゃっきゃとはしゃぐメルルが可愛らしい。

 そんな彼女のお手伝いが出来るなら、言う事は無い。

 その為には、これから領地経営だの貴族のしきたりだの何だの教わらないといけないことが膨大だが、きっとやりがいは抜群だろう。

 うん、それでいこう。あたしの人生目標は、メルルの役に立つ事。

 それが、引き取ってくれたゴーティスさん達への恩返しにもなると思うし。


「君達は、とても仲が良いんだね。…実はゴーティスさんがニンゲンの子供を引き取ったって聞いて、少し心配していたんだ」

「そうなんですか?」

「ああ。最後にニンゲンが確認されたのは、もう50年は前になるのだけれど。その時のニンゲンはアニマリアのヒトを強く恨んでいて、保護しようとしたヒトから延々逃げ続け、捕まりかけたその時に自ら命を絶ったというから」


 ……それは。

 どういう経緯で人間の国と他の国が戦争になり、人間が駆逐されたのか知らないけど。

 例えどんな理由があり、それが正当な物だったとしても。自分達を殺しつくした相手を恨むのは、仕方が無いかな…

 幸いにも、あたしにとってはその辺、知ったこっちゃないが。


「むかしがどうあれ、私はこの国をうらんでませんし、この村のヒトも、メルルもゴーティスさん達も大好き、ですよ。だから、だいじょぶです」

「ああ。…君が笑って生きられる事を僕も願うし、その手伝いが出来たらと思うよ」


 そう言って、ジョウイさんはあたしの頭も撫でてくれた。

 …やっぱり、良いヒトなのね、貴方も。

 こういう人格の持ち主が、この国での一般的なヒトだといいなあ。

 無論、こないだのごろつきどもとか、バランさんみたいなヒトも居るとは解ってるけど、ヒトは皆それぞれだ。そればっかりは仕方ない。

 善人は好きだが、善人ばかりの世界ってのも、多分立ち行かないだろうしね…

 何はともあれ。今後、バランさんに好き勝手させない為にも、メルルを立派に支える為にも。まずは、文字を完璧にマスターしなければなあ……

 ちなみに絵本くらいなら読めるようになりました。

 来年こそ。来年こそ、年長組のクラスに入ってみせる…!






 大きさが人間大なので解り難いですが、ジョウイさんはワラビーです。


 良いヒトが多いですが、悪いヒトも勿論居ます。

 ダメな貴族も結構居ます。

 ゴーティスさんほどのお人好しではありませんが、良い貴族も居ますよ。

 基本的には、アニマリアは温和で温厚なヒトが多いお国柄です。のんびりほのぼの、スローライフ系。

 レプティリアは武人さん系の感覚のヒトが多い、厳格でオカタイ国。

 バーダムは真面目かつ勤勉なヒトが多い国です。学者の多い国。

 出ることは多分ありませんが、魚人の国は陽気で大雑把なヒトが多く、虫人の国は独特な世界観を持っている、ちょっと他国との交流の少ない国です。


 どうでもいいですが、イルカやクジラは何処に含まれるだろう(考えてない)



(2014/7/7 誤字脱字、他一部表現を修正)

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