休息、そして、追憶~八話~
「飯にするったって・・・俺らそんなの持ってないぞ?」
ニ海堂が言った言葉に俺が問いかける。
「まぁまぁ、ほら、見てみ」
そう言ってニ海堂は指で上を指した。
「?」
疑問を浮かべながら空を見上げる。すると、
フワフワと、
音がついてしまいそうな程軽やかに舞う小さい気球のようなバルーンが俺達の元へと降下していた。
「な?」
ニ海堂は笑顔でそう告げた。
降りてきたバルーンが俺達の足元に落ちた。
構造はほとんど気球と同じで、本来人が乗るカゴの部分に何かが入っている。
ニ海堂がバルーンに近づいてしゃがみこみ、カゴの中を漁り始める。
「お、おい、大丈夫なのか?」
心配になった俺は声を掛ける。
すると、ニ海堂は背中を向けたまま、
「大丈夫だっての、ほらこれ見てみ?」
ニ海堂から、バルーンに入っていた、パンフレットの様な物を受け取った。
「?」
疑問のまま、パンフレットを開く。
「私にも見せてー」
俺と横口は揃ってパンフレットを覗き込んだ。
するとパンフレットにはカラフルな文字でこんなことが書いてあった。
・お食事!
はいはい、こんにちはみなさん!
このパンフレットを見ているという事は、無事、初日を生き抜いた、という事ですね!
そんなみなさんにおいしい夕食を用意しました!
あ、もちろん夕食だけではないですよ!
腹が減っては戦が出来ないからですね!
このゲームの五日間、三食全てを責任持ってお届けします!(エッヘン!)
楽しみにしていて下さいね!
生き残れば生き残る程、食事も豪華な物になっていきますので!
今回は生存者が多いから安上がりですけどね!(テヘペロ!)
食べ終えた後の食器等はまたバルーンに乗せて、バルーンを飛ばして下さい!
私たちが回収するので!
がんばって生き延びてください!
ではでは~!
――パンフレットを読み終えた俺達は揃って顔を上げた。
「全部見たか?」
ガサゴソとバルーンを漁っていたニ海堂が立ち上がってこちらを見ていた。
その手には何かが握られている。
「まぁ、飯を貰えるなら文句は無いな」
「うんうん」
俺の言葉に横口が同意する。
すると横口が待ちきれない、といった表情になっていた。
「ねぇねぇ!今日のご飯は!?」
「ふっ・・・・・・・」
その言葉にニ海堂はニヤリと不敵に微笑み、高らかに宣言する。
「バー門土カレーだ!!!」
おおー!と、横口は目を輝かせた。
みんなで食うカレーってうまいよね。
――ジャングルにカレーのいい匂いが広がる。
バルーンに入っていたのは、お鍋、バー門土カレー、水とうに入っていたお湯、そして紙皿とスプーン、さらには、米の炊かれた小さな炊飯ジャーが入っていた。
さっそく鍋にお湯を入れ、カレーを温めていく。
料理、という程の事ではないがカレーは横口に任せて、男二人は丁度いい感じの石に腰かけてダべっていた。
ニ海堂はいつもと変わらず飄々(ひょうひょう)としていて、昼間の事は何も気にしていない様子だった。
俺も時々笑みを浮かべるが、心の中では未だにこの状況に慣れていなかった。
何年も生きてきて死体を初めて見て、しかもそれが自分の友人がやった事なのだ、ちょっとやそっとじゃ呑み込める物でもない。
「俺ちょっとカレー見てくるわ~」
そんな事を言ってニ海堂は立ち上がって、鍋の方に歩いていった。
自分はあいつのせいで悩んでいるのに、当の本人があんな調子ではこっちもシリアスの空気になれない。
はぁー、とため息をつく。
そしてポーチの中にある拳銃を取り出してみた。
安全装置がかかっているので発砲する危険性はないが、それでも少し恐怖を抱いてしまう。
(ニ海堂は・・・これを使って・・・)
昼間の光景がフラッシュバックする。
思い出すと今でも鼓動が速くなる。
(俺もいつか・・・)
これを使うのだろうか。
そんな事はなるべくあって欲しくない、もし、使うような事になれば・・・
そんな風に考えていると、ニ海堂の言葉を思い出した。
――「このゲームをクリアして、帰って、そんでお前ら二人とまたバカ騒ぎがしたい。そのためならなんだってやるよ」――
(うん)
この言葉を思い出して直樹は手にある銃を握りしめた。
(ニ海堂は俺達のために戦ってくれた)
そして密かに決意する。
(じゃあ、俺がコレを使うのは何か・・・大切な物を守るときだけにしよう)
「おーい、直樹!カレーできたよー!」
「早い者勝ちだぜぇぇぇ!」
向こうからそんな声が掛けられた。
「おう」
笑いながら直樹は歩いていく。
彼が守りたいと願う大切な物へと。
――食事が始まってから数十分、見事に鍋にあったカレーは完食した。
「うーん!食ったなー!」
ニ海堂はそう言って自分の腹をポンと叩いた。
「そうだなー」
「ねー」
そう言って辺りを見回すと、すっかり森は暗闇に包まれていて、空には月が出ていた。
俺達が座っている場所の中心にはたき火がある。
ニ海堂曰く、こんな暗闇じゃたき火があったとしても命中させるのは困難で、しかも当てられるような距離に近づかれる前にニ海堂は気づく事が出来るらしい。
(そういえば、ここって野獣とかの心配はないのか?)
暗い森の方向に目を凝らしながらそんな事を考える。
まぁ、いざとなれば銃を使って威嚇なりなんなりできるだろうと、たき火に視線を向けた。
パチパチ、と音を立てているたき火を見ていると、今日の一日の疲労が眠気となってやって来た。
「う・・・ううーん・・・」
隣を見ると横口も瞼を重そうにして擦り上げている。
しかしニ海堂は疲れを見せる様子は全くない。
(今日は一番動いてた筈なんだけどな・・・)
そう思うとここで寝てしまっては、申し訳が立たない。
なので顔をピシャリ!と、叩き、喝を入れた。
するとそれを見ていたニ海堂が笑って、
「寝てもいいぞ。寝袋はさっきのバルーンに入ってたしな」
「い、いや・・・でもな」
「そ、そうだよ、純に悪いよ」
それを聞いたニ海堂は変わらずに続ける。
「いや、眠いまま動かれてもかえって危険だからな。それに寝っころがる体勢になればその分弾にも当たんねぇし、だから無理すんな」
しかし、まだ納得できない俺達は二人で顔を見合わせていた。
それを見てニ海堂は、
「その分明日動いてもらうかんな~」
意地悪そうに笑ってそう告げた。
そんな様子を見て俺達は笑ってしまう。
「分かった・・・でも、何かあったら知らせてくれよな」
「ああ、もちろん」
そういう事で俺と横口はバルーンから寝袋を取り出し、ニ海堂におやすみ、と告げると目を閉じた。
今日一日の疲労が再び襲い掛かり、今までにないくらいの速さで俺は眠りに落ちた。
――これは誰かの消えた記憶。
辺りは暗すぎて何も見えない、座っている体勢だったので、立ち上がろうとした、すると、ジャラリと、音がして、立ち上がろうとしていた体の動きが止まる。
(?)
不思議に思い、「自分」の体を見る、すると体に幾重もの鎖が巻き付いていた。
(???)
頭が朦朧としていて、とっさに状況がつかめない。
さっきの音はこのせいだろうと、ようやく頭が気づく。
何故こんな事になっているのかまったく身に覚えが無い。
疑問しか浮かばない頭を動かすと、視線の先に白衣を着た何名かの男達が立っていた。
「自分」が顔を向けた事に気が付くと、こちらに歩み寄ってくる。
その男達が「自分」を見回すと、一斉に話し始めた。
「おお、まだ生きているよ」「さすがに『こちら側』でもある程度は痛みを感じるは筈なんだが」「まぁいいじゃないですか。この子、かなり良い素材ですよ」「だが、良すぎるのも問題だ」「確かにそうですね」「どうにかセーブを掛けられないのか?」「装置を着けたりすれば・・・」「それは不可能だろう?」「はい・・・遠隔操作が精々です」「気休め程度にしかならんな」「けど、セーブを掛けすぎて犬死したら・・・」「それはそれで問題だ」
そこまで話すと、リーダーらしき人物が手を叩いた。
「では、遠隔操作でセーブを掛ける。それでいいかな?」
男達は納得した様に頷く、そして手を叩いた人物は「自分」の前にしゃがみこんだ。
「では、さようならだ●●●●君。『君』が次に出てくるのはいつかな?」
そこまで言うと、その男は立ち上がり、踵を返して男達と一緒にドアから出て行った。
「自分」はボーッと男達の出て行ったドアを見ていた。
すると突然、体に電流が走る。
痛みに悲鳴を上げる暇もなく、
「自分」は意識を・・・記憶を閉ざされた。
AM 01:38
多くの人間が寝静まった深夜。
とある男が森の中を歩いていた。
目的があるわけでもなく、ただ淡々と歩を進めていた。
その男の足元にコツンと、何かがぶつかる。
男が視線を下に向けると、電子的な画面が正面に付いている、プレゼントが入っていそうな、ふたの付いた立方体の箱があった。
その画面には、
『エクストラBOX』
銃をクレタ ら 武器を あげ る。
この 中 に 入れて。
と表示されていた。
男が箱を開けると中には何も入っていない。
その箱に男は手持ちの銃を入れた、すると箱はピピーッ、と音を立て始めた。
男が黙ってそれを見ていると、音が止んだ。
ふたを開け、中に入っていたソレを手に取り、男は薄く笑った。
今日も戦いが始まる――