神親ペナルティ
「吉田君は親御さんが神親なんだから、ちょっといじめられたくらいで、いちいち先生に泣きついてくるんじゃありません!」
泣きべそをかいていた浩介が、先生に叱りつけられて口をへの字にする。浩介のそんな表情を見て、俺はゲラゲラ笑ってしまう。背中に虫を入れられてぴょんぴょん跳ねる浩介も面白かったけど、先生に泣きついて怒られる姿はもっと面白かった。
「人間は生まれつき不平等です。特に、誰が親であるのかというのはあなたたちには選べないにもかかわらず、あなたたちの人生にとても大きな影響を与えます。あなたたちはまだ小学生ですが、まずこのことをきちんと知ってください」
竹内先生は一学期の最初ホームルームでそう言った。正直不平等とかよくわかんなかったけど、竹内先生が次に言った話はいいと思った。
「私が担任するこのクラスでは、できるだけ皆さんが結果的に平等になるようにしたいです。なので、恵まれた親御さんを持つ生徒については、それだけ厳しく接することにします。それが私にできる、精一杯の平等な教育です」
変な先生だってみんな言ってる。でも、俺は竹内先生が好きだ。周りの先生は綺麗事ばっかり言うけど、結局口先だけ。竹内先生は親が立派なやつには厳しくすると言って、本当にその通りにしてる。自分で言ったことも守れない先生たちより、ずっと偉いと思う。
実際、金持ちの浩介をいじめた時も、竹内先生は見逃してくれる。悪口を言ったり、消しゴムを隠したり、わざとプリントを回さなかったり。俺が何をしても竹内先生は一切注意してこなかったし、むしろ浩介の方を叱ることもあった。
俺が浩介をいじめて、浩介が泣くたびに胸が軽くなった。もともと気に入らないやつだったから、気に入らない奴が嫌な目に遭ってるのはとても気分がいい。クラスメイトがたまにやりすぎだって言ってくるけど、みんな本気では止めてこない。結局みんなも俺と同じように、浩介がいじめられているのを見てざまあみろと思ってるんだと思う。
「相良くん。昨日貸した筆箱を返してよ。あれにはパパから誕生日に買ってもらった大事なボールペンが入ってるんだ」
学校帰り。公園で遊んでいた俺に、浩介が話しかけてくる。うるせー。俺はそう言い返す。それでも浩介は、返してよとしつこく言ってくる。
そんなに言うんだったら返してやるよ。俺はベンチに置いていたランドセルから昨日浩介から取った筆箱を取り出す。浩介がその筆箱を見て、ほっと一安心するのがわかった。だから俺はその筆箱を公園の茂みに向かって思いっきり投げてやった。
筆箱は茂みに中に消え、ガシャんという小さい音だけが聞こえた。浩介が投げられた筆箱と俺を見て、また泣きべそをかく。だけど、浩介は唇を噛み締めるだけで何も言わず、茂みの方へとゆっくりと歩いていった。
そのあと、俺は浩介のことなんて忘れて他の友達と遊び始めた。それでもふと思い出して周囲を見渡すと、茂みをあさる浩介の姿を見つけた。
浩介の顔は涙でぐちゃぐちゃで、服は葉っぱと土で汚れていた。俺はその姿を見て、ちょっとだけ可哀想に思った。仕方ないから一緒に探してやるかと浩介の方へと歩き出した時、浩介に近づく大人の姿が見えた。
それは浩介の母親だった。美人で小綺麗な服を着ている浩介の母親は、後ろから近づき声をかける。浩介が母親に気がつき、何かを喋る。母親は怒ることもなく頷き、それから自分の服が汚れるのも気にせずに浩介を抱きしめた。
「大丈夫大丈夫。一緒にパパに謝りましょ。パパもきっと新しいやつを買ってくれるわ」
母親のその言葉だけ、遠くからでもはっきりと聞こえた。浩介が母親を抱きしめ返す。それから浩介は立ち上がり、母親と手を繋いで帰っていった。俺はその姿をじっと見送りながら、足元を歩いていたら蟻を思いっきり踏み潰した。
友達が全員帰ってしまった後、一時間ほど一人で遊具で遊んでから家に帰る。玄関を開け、ゴミで足の踏み場がない廊下を通り抜ける。母親はゴミ袋に囲まれたソファで寝転がっていた。帰ってきた俺を見るなり、くせーんだよ! こっち寄んな!!と怒鳴って、ビールの空き缶を投げてくる。
母親を刺激しないように忍足でキッチンへ行き、棚から賞味期限がとっくに切れた菓子パンを持って自分の部屋へと向かう。
俺はランドセルを置き、椅子に腰掛ける。パサパサで美味しくない菓子パンを食べながら、落書きだらけのノートを開く。
そのノートに向かって俺は、明日はどうやって浩介をいじめてやるか、思いついたことを片っ端から書き殴っていくのだった。




