第6話~積み重ねの証明~
剣のノーマル《斬撃》を得てから、日々は静かに流れた。
派手な出来事はない。
だが、確実な積み重ねがあった。
魔法。
まずは基礎魔法群からだ。
魔力を練り、形を保ち、外へと流す。
攻撃魔法、簡易回復、浄化。
ノービスの段階では、どれも不安定だった。
成功と失敗を繰り返し、身体に覚え込ませる。
やがて、魔力が暴れなくなる瞬間が来る。
――剣と同じだ。
流れを感じ、
留め、
解き放つ。
試験は静かに終わった。
派手さはないが、確実な合格。
次に、生活系。
火起こし、水の確保、応急処置、毒の簡易判別。
どれも地味で、だが命に直結するものばかり。
ここでも、ノーマルは“理解の証”だった。
知っているだけでは足りない。
使えるだけでも足りない。
状況に応じて、正しく選択できるか。
それが試される。
結果として、俺は多くのノーマルライセンスを得た。
魔法。
戦闘。
生活。
だが――
マスターライセンスの手がかりは、一切ない。
協会の資料にも、
試験官の言葉にも、
明確な道筋は示されていなかった。
「死ぬほど使い続けろ」
それ以上でも、それ以下でもない。
俺は、その言葉を深追いしなかった。
今は、まだその段階じゃない。
次に向き合うべきものは、決まっていた。
――ダンジョン。
あの場所。
弓使いと魔法使いが死んだ場所。
俺が、世界を甘く見ていた場所。
だが、今回は違う。
仲間は連れない。
最下層を目指すわけでもない。
目標は、
前回、毒を受けた低階層まで。
そこまでを、
単独で、
無理なく、
確実に突破できるか。
それを確かめる。
ダンジョンは、変わらない。
湿った空気。
不規則な足場。
死角に潜む魔物。
だが、俺は以前とは違った。
魔物の気配を察知し、
地形を読み、
無理な交戦を避ける。
戦うときは、斬撃で距離を保つ。
魔法で牽制し、
生活スキルで状態を整える。
毒を受けた場所では、立ち止まった。
床、壁、空気。
原因は、毒霧性の植物だった。
以前は、知識も警戒もなかった。
今は違う。
浄化魔法で霧を散らし、
防毒処置を施してから、進む。
――通じた。
俺は、そこを越えた。
ダンジョンを出たとき、
胸にあったのは高揚ではない。
静かな、確信だった。
「俺は、間違えていない」
それだけだ。
浮かれる理由は、どこにもない。
慢心すれば、また誰かが死ぬ。
だから、俺は鍛錬を続ける。
帰路の途中、
冒険者ギルド前で足を止めた。
新人らしいパーティが、
装備を確認しながらダンジョンの話をしている。
緊張と期待が、入り混じった表情。
――かつての俺たちと、同じだ。
俺は、しばらくその様子を眺めていた。
声はかけない。
助言もしない。
だが、目は離さない。
この世界では、
準備を怠った者から死ぬ。
次に俺が進むべき道は、
もう見えている。
強くなるだけじゃ、足りない。
生き残るための知識を、
次の世代に繋ぐ。
そのために――
俺は、剣を振り続ける。




