第5話~最初のノーマル~
剣を振る。
ただ、それだけの行為に、
これほどの意味が込められているとは――
以前の俺は、想像もしていなかった。
ノービスの《斬撃》。
それは、斬撃と呼ぶにはあまりに地味だ。
剣を振る速度が、わずかに上がる。
踏み込みが、ほんの少し深くなる。
風は切るが、
刃は飛ばない。
あくまで、「剣術の補助」に過ぎないスキル。
だが、この段階でも――
ライセンスがあるかないかで、結果は雲泥の差だった。
ノービス《斬撃》を使うと、
剣は身体の延長になる。
振っている、という感覚が消え、
自然と、振らされているようになる。
それを、毎日。
千回。
二千回。
何度も、何度も。
ある日、ふと。
剣を振った軌跡が、
自分の中で「一本の線」になった。
無駄が消え、
迷いが消え、
ただ、切るという意志だけが残る。
――来た。
そう、直感した。
これまで積み重ねてきた動作が、
一つに収束する感覚。
それは、誰かに教えられるものじゃない。
自分で掴むしかないものだ。
俺は、その足でライセンス協会へ向かった。
ノーマルライセンス試験は、
簡素な部屋で行われる。
立ち会うのは、試験官が一人。
年配の剣士だった。
剣の持ち方を見るだけで、
相当な経験を積んでいることが分かる。
「まずは、ノービス相当の実技を」
言われるまま、剣を構える。
深呼吸。
踏み込み。
斬る。
ノービス《斬撃》。
剣速が増し、
空気が鋭く裂ける。
試験官は、黙って頷いた。
「いい。では次だ」
試験官は、俺をまっすぐ見据える。
「お前にとって、斬るとは何だ」
唐突な質問だった。
俺は、少し考え――答えた。
「迷いを断つことです」
「敵を倒すため、じゃないのか」
「結果として倒れます。でも、それは目的じゃない」
試験官は、わずかに口角を上げた。
「では、見せろ」
剣を構える。
さっきと同じ動作。
だが、違う。
身体の芯が、
剣の切っ先まで、一本で繋がる。
振るのではない。
通す。
刃が、空を裂いた。
次の瞬間――
目の前の的に、遅れて衝撃が走る。
空間を滑った“何か”が、
木製の的を深く抉っていた。
剣を振った軌跡に、
確かに――斬撃が飛んでいた。
「……合格だ」
試験官は、そう言った。
ノーマル《斬撃》。
それは、単なる遠距離攻撃じゃない。
正しい姿勢。
正しい呼吸。
正しい判断。
それらすべてが噛み合った時だけ、
成立するスキル。
だからこそ――
ライセンスが必要なのだ。
俺は、手の中の剣を見下ろした。
まだ、一本目。
だが、確実に。
俺はこの世界で、
「理解した上で」前に進み始めている。
次は、魔法だ。
剣と同じように、
魔力もまた――
積み重ねなければ、決して応えてはくれない。




