第4話~学ばねば、生き残れない~
生き残るために必要なのは、才能じゃない。
――理解だ。
それを、俺はようやく思い知った。
ライセンス。
この世界における、すべての行為の前提条件。
魔法、戦闘、労働、生活行動。
剣を振るうにも、火を起こすにも、料理を作るにも。
「できる」だけでは、意味がない。
「許可されている」かどうかが、すべてを決める。
ライセンスは大きく三段階に分かれている。
ノービス。
ノーマル。
マスター。
ノービスは基礎。
初歩的な行為のみが許可される。
剣なら、自己防衛レベル。
魔法なら、微弱な発現。
回復で言えば、擦り傷程度。
ノーマルになると話が変わる。
実戦。
対人。
応用。
剣なら戦闘技術として成立し、
回復魔法なら深手を治せる。
そして――
マスター。
それは、もはや人の域を逸脱する。
四肢欠損を繋ぎ、
致命傷を覆し、
戦場そのものを支配する。
だが、その代償は重い。
ノービスは、申請すれば与えられる。
知識と最低限の適性があれば、試験は不要。
いわば「入口」だ。
問題は、ノーマルからだ。
ノーマルライセンスは、試験制。
しかも、筆記でも面接でもない。
――実技と“感応”。
一定の鍛錬を積み、
スキルが開花する直前。
本人が、直感的に「来た」と感じる瞬間があるらしい。
剣なら、
振るう動作が初めて「一つの線」になる瞬間。
魔法なら、
魔力が外へ漏れず、内で渦を巻く感覚。
その“兆し”を掴んだ者だけが、
試験を受ける資格を得る。
逆に言えば――
それを感じ取れない限り、何年鍛えても意味はない。
マスターライセンスは、さらに狂っている。
ノーマルを取得したスキルを、
死に至るまで使い続けることで、
極稀に“発芽”する。
確率は、万に一。
大半の者は、
生涯ノーマルのまま終わる。
発芽せず、
身体を壊し、
命を削り、
それでも届かない。
だからこそ、マスターは“怪物”と呼ばれる。
俺は、机に広げた資料から目を離した。
冒険者ギルドの公開文書。
ライセンス協会の基礎解説。
剣術道場の心得書。
どれも、これも。
――最初に読んでおくべきだった。
「ライセンスさえ取れば、なんとかなる」
そんな浅い考えが、
どれほど愚かだったか。
ライセンスは、結果じゃない。
過程の集積だ。
俺が目指すのは、ただ一つ。
すべてのライセンスで、ノーマルを取得すること。
剣。
基礎魔法。
生活技能。
応急処置。
地図読解。
危険察知。
万能になるためじゃない。
――判断ミスを、減らすためだ。
一つ欠けただけで、
人は死ぬ。
それを、俺は知っている。
修行は地味だった。
剣は、ひたすら素振り。
毎日、千。
姿勢、呼吸、重心。
魔法は、魔力を練る。
外に出さず、内で巡らせる。
失敗すれば頭痛と吐き気。
生活技能は、
火を起こし、水を引き、刃を研ぐ。
どれも、派手さはない。
だが――
確実に、積み重なっていく。
「そのうち来る」
そう信じられるようになっただけでも、
以前の俺とは違う。
もう、勘違いはしない。
この世界は、
優しくなんかない。
だからこそ、
準備を怠らない者だけが、生き残る。
俺は今日も、剣を振る。
来るべき“その瞬間”のために。




