第3話~思い上がりの代償~
俺は、特別な人間じゃなかった。
転生前は、ごく普通の一般人。
成人はしていたが、才能も実績も、誇れるような経歴もない。
強いて言うなら――
アニメや漫画、小説が好きだった、それだけだ。
異世界転生。
チート能力。
主人公最強。
努力せずとも世界が味方する物語。
そんなものを、画面越しに眺めては「いいな」と思っていた側の人間だ。
この世界に来たとき、正直に言えば――興奮していた。
剣と魔法。
冒険者。
ダンジョン。
自分が“選ばれた側”になったという錯覚。
最初は慎重だった、と思う。
言葉を覚え、金銭感覚を学び、最低限のルールを聞いた。
ライセンス制度の話も、確かに聞いた。
だがそれは、
「制限」ではなく「段階解放型の成長システム」
くらいにしか受け取っていなかった。
――レベルが上がれば、自然と強くなる。
――主人公なら、いずれ最上位に行ける。
そんな、物語の文法を。
この世界にも、そのまま当てはめてしまった。
冒険者登録をしたとき。
「まずはノービスからだ」
受付の女性はそう言った。
俺は内心で、「まあ最初はそうだよな」と軽く流した。
ノービス。
初心者用。
どうせすぐ上がる。
そんな感覚だった。
実際、最初の依頼は上手くいった。
小型魔物の討伐、護衛、雑用。
多少危険でも、なんとかなった。
その“なんとかなった”経験が、俺を勘違いさせた。
自分は、できる側なんじゃないか。
少なくとも、凡人よりは。
弓使いと魔法使いに出会ったのは、そんな頃だ。
二人とも親切で、よく喋った。
この世界の知識を、惜しみなく教えてくれた。
危険な魔物。
ダンジョンの癖。
冒険者の暗黙の了解。
俺はそれを、知識として吸収した。
――理解したつもりで。
だが、決定的に分かっていなかった。
ライセンスが、
「制限」ではなく
「命を預かる覚悟の証」だということを。
洞窟に入ったとき。
俺は、どこかで思っていた。
「まあ、いけるだろ」
主人公補正。
成長イベント。
ピンチからの逆転。
そういう展開を、無意識に期待していた。
だから――
回復魔法を使える魔法使いに、無理をさせた。
自分が前に出れば、なんとかなると思った。
自分は、最強のライセンスを“内包している側”だと、どこかで信じていた。
結果は、どうだったか。
弓使いは死に、
魔法使いは魔力を使い切って倒れた。
残ったのは、
生き残った俺だけだった。
ガードに言われた言葉が、今も耳に残る。
「善意でも、人は殺せる」
その通りだ。
俺は悪くなかった、なんて言えない。
知らなかった、で済む話じゃない。
知ろうとしなかった。
理解した気になっていた。
異世界を、物語だと思っていた。
だから、俺は決めた。
この世界を、
「ご都合主義の舞台」ではなく
「理不尽で、だからこそ準備が必要な現実」として見る。
ライセンスを、
“成長の証”ではなく
“責任の重さ”として受け取る。
二人の死を、
無駄なイベントにしない。
あの洞窟は、俺の始まりじゃない。
俺の勘違いが終わった場所だ。
次に進むときは――
もう、主人公気取りはしない。
人が死ぬ世界で、
人を守るために、強くなる。
それだけを目的に、
俺は歩き出す。




