表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/39

第31話~揺らぐ光~

 均衡は、唐突に崩れ始めた。


 灰の獣が再び吠える。音なき咆哮が頭蓋を震わせ、視界の端が白く霞む。


 魔法使いの展開していた精神防護の光が、ひび割れのように軋んだ。

「まずい……保てない!」


 光膜が波打ち、灰がその隙間から滲み込む。

 胸の奥を直接握られる感覚。膝がわずかに落ちる。


 大盾の男が前へ出るが、動きが鈍い。

 恐怖は筋肉を硬直させ、判断を遅らせる。


 灰の獣が消える。


 横。


 衝撃。


 盾が弾かれ、地を滑る。完全には崩れないが、体勢が泳ぐ。


 追撃が来る。


 短剣使いが割り込む。刃が灰を裂く。

 だが裂けたはずの輪郭が、即座に閉じる。


「削れてるのに……戻ってる?」


 その一言が、意識を引き戻す。


 確かに乱れている瞬間はある。

 だが数拍で再構築される。


 魔法使いが息を荒げながら叫ぶ。


「魔力の流れが……中心に集まってる!」


 灰の粒子は無秩序に見えて、実は渦を巻いている。

 その収束点。胸部の奥、わずかに濃く沈んだ部分。


 目の錯覚ではない。

 そこだけが、揺らがない。


 ――核。


 灰の獣が再び跳ぶ。

 今度は一直線。恐怖を押し付けるように、正面から。


 精神防護の光が砕ける音を立てる。


 光膜が一部、消えた。


 冷たい恐怖が直接流れ込む。

 息が止まる。


 それでも退かない。


「三秒、止めろ!」


 叫びに、大盾の男が応える。

 盾を地面に叩きつけ、衝撃で灰を散らす。完全には止まらないが、動きが鈍る。


 短剣使いが低く潜る。

 足を払うのではない。誘導だ。


 灰の獣の重心が、わずかに傾く。


 その瞬間、魔法使いが残る力を絞る。


 拘束ではない。圧縮。


 周囲の魔力を一点に押し込む。


 灰の流れが乱れ、核の位置が露わになる。


 確信が走る。


 踏み込む。


 恐怖が喉を締め上げる。

 それでも刃を振るう。


 狙うのは中心。


 灰が反応する。

 守るように粒子が集まり、腕を絡め取ろうとする。


 あと一歩。


 刃先が、濃い闇に触れる。


 確かな抵抗。


 これまでとは違う、重い感触。


 灰の獣が初めて“揺れた”。


 全身の輪郭が激しく乱れ、森の空気が震える。


 だが、刃は浅い。


 核は砕けていない。


 灰が爆ぜる。


 衝撃波が三人を吹き飛ばす。


 地面に叩きつけられ、呼吸が奪われる。

 視界が揺れる。


 灰の獣は、崩れかけながらも再び形を取り始めていた。


 だが今度は違う。


 中心部に、亀裂が走っている。


 確かに届いた。


 あと一撃。


 灰が唸り、森全体が鳴動する。


 恐怖はなお濃い。

 精神防護はほぼ消えている。


 それでも立ち上がる。


 終わりは、目前だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ