第2話~生き残った者の罪~
この世界では、すべてにライセンスが必要だ。
武器を振るうにも、魔法を使うにも、回復を施すにも。
例外はない。善意も、緊急性も、命の重さも――理の前では等しく無視される。
ライセンスは三段階に分かれている。
ノービス。
ノーマル。
マスター。
ノービスは初歩。かすり傷や軽い打撲を癒す程度。
ノーマルになれば、骨折や深手も治せる。
マスターに至ってようやく、失われた四肢や臓器を“元通りにする”ことが許される。
それは力の序列であり、同時に責任の階段でもあった。
――俺は、それを理解したつもりで、何も分かっていなかった。
石造りの詰所は、ひどく冷たかった。
湿った壁、重い鉄格子、無言で立つガードたち。
俺は木椅子に座らされ、正面から鋭い視線を向けられていた。
「確認する」
ガードの一人が淡々と言う。
「お前はノービスライセンス所持者。間違いないな」
「……はい」
「にもかかわらず、ノーマル相当の回復魔法を行使した魔法使いに、追加詠唱を強要した」
胸が締め付けられる。
「結果、その魔法使いは魔力枯渇を起こし、死亡。
これは明確なライセンス違反および強要罪に該当する」
言葉が刃のように突き刺さる。
強要。
違反。
罪。
あの時は、ただ――助けたかった。
血を流して倒れる仲間を前に、選択肢などないと思った。
回復できる人間が目の前にいて、使わない理由なんてなかった。
「緊急時だったんです」
声が震える。
「誰かがやらなきゃ、全員死んでた……!」
ガードは一瞬だけ目を伏せ、そして言った。
「だからこそ、ライセンスがある」
静かな声だった。
「緊急時に力を使える者を、事前に決めておくための制度だ」
言い返せなかった。
死んだ二人の顔が、脳裏に浮かぶ。
俺にこの世界を教えてくれた、親切な人たち。
――俺が、殺した。
結局、俺は釈放された。
「悪意は認められない」「前例を考慮する」という理由で、厳罰は免れた。
だが最後に、ガードはこう告げた。
「次はない」
「準備を怠った者は、善意であろうと人を殺す」
「覚えておけ。生き残った者には、責任が残る」
外に出ると、陽は傾いていた。
街はいつも通りに動いている。
人々は笑い、商人は声を張り、冒険者たちは酒場に集う。
――誰も、あの洞窟で何が起きたかなど知らない。
俺だけが、知っている。
「ライセンスさえ取れば、なんとかなる」
そう思っていた。
それがどれほど浅はかだったか、今なら分かる。
ライセンスは免罪符じゃない。
力を使う資格であり、同時に失敗した時の責任を背負う証だ。
俺は拳を握りしめる。
二度と、同じことは繰り返さない。
下準備を怠らない。
知識を集め、必要な資格を揃え、仲間を守れる立場に立つ。
そしていつか――
新人冒険者が、俺と同じ過ちを犯しそうになった時。
その手を、止められる人間になる。
帰還は望まない。
元の世界にも、もう未練はない。
ただ、これ以上。
俺の目の前で、人が死なないように。
そのために、俺は再び冒険者として歩き出す。
――生き残った者の罪を、背負いながら。




