第25話~推薦状の行き先~
トロル討伐の報告は、思っていたよりあっけなく終わった。
血と泥にまみれた装備のままギルドに戻った俺たちを、受付はいつもの柔らかな笑みで迎え入れ、手際よく戦果の確認を進めた。討伐証明の角、傷だらけの棍棒、魔法使いが記録していた戦闘ログ――すべてを淡々と受け取り、定型の言葉で労われる。
だが、どこか引っかかった。
驚きが薄い。まるで「この程度は想定内だ」と言われているようで、胸の奥がざらついた。
「少しお時間よろしいですか」
呼び止められたのは俺だけだった。仲間たちは先に酒場へ向かい、別室に通されたのは静かな応接間。待っていたのはギルドマスターだった。
「トロル戦、よく生きて戻りましたね。連携も悪くない。特にあなたの判断が効いていた」
礼を言われる一方で、核心には触れない。代わりに差し出されたのは一枚の書類――“遺構調査依頼”。ダンジョンとは別系統の古い迷宮で、魔力の流れが不安定な区域らしい。
「そこではライセンスの働きが鈍ることがある。逆に、新しい気づきを得る者もいる。あなた方なら、踏み込める頃合いだと判断しました」
言葉は穏やかだが、選択の余地はほとんどない推薦だった。
俺は頷きながらも、胸の奥で別の感情が渦を巻く。ゴブリンキング、トロル――どれも偶然ではなく、階段を一段ずつ上らされている気がしてならない。
酒場で仲間に話すと、反応は三者三様だった。
「遺構か……報酬次第だな」
大盾の男は現実的だ。危険と金を天秤にかける目は冷静で、前のパーティを失った影がまだ消えていない。
「私は行きたいです。ライセンスが不安定な場所なんて、知識の宝庫ですよ」
魔法使いは目を輝かせる。彼女にとって未知は恐怖ではなく、扉なのだ。
短剣使いはしばらく黙っていたが、やがて小さく言った。
「……また誰かが死ぬのは、ごめんだ」
その言葉に、俺の喉が詰まる。
かつての二人の顔が、今も頭から離れない。ライセンスの理を知らず、無知のまま突っ走った俺のせいで失われた命――同じ轍は踏めない。
「強くなるためじゃない」
自然と声が出た。
「もう、目の前で誰も死なせないためだ。そのために行きたい」
沈黙のあと、盾役が鼻で笑った。
「青臭いな。だが嫌いじゃない」
短剣使いも小さく頷く。魔法使いは満足そうに微笑んだ。どうやら、答えは決まったらしい。
ギルドに受諾の返事を伝えに戻ると、マスターは静かに俺を見つめた。
「あなたのような人間を、昔はこう呼びました」
低い声が部屋に落ちる。
「――継承者、と」
意味を問い返す前に、話は打ち切られた。
継承者。聞き覚えのない言葉が胸に残る。種族に縛られたライセンス、ドワーフやエルフだけの力、人間には届かないはずの領域――それらと関係があるのだろうか。
夜の帰り道、俺は空を見上げた。
勝利の余韻はもう薄れている。代わりに芽生えたのは、次の一歩への静かな予感だった。ライセンスの世界は、まだほんの入口に過ぎない。
それでも進む。
俺が選んだのだから。




