第18話~初陣 ― 連携という名の刃~
ダンジョンの入口は、相変わらず口を開けた獣のようだった。
湿った空気、石壁に染みついた血と土の匂い。何度通っても慣れることはない。
「陣形、確認するぞ」
先頭に立つのは大盾の男。
その背中は広く、迷いがない。
俺は半歩後ろ、斜めの位置につく。
斬撃が届き、なおかつ盾の陰に戻れる距離。
短剣使いはさらに後方、死角を縫うように位置を取る。
最後尾に魔法使い。魔力の流れを整え、全体を見渡す役だ。
静かに進む。
足音を殺し、壁際をなぞる。
最初に現れたのは、ゴブリンの群れだった。
数は五。
こちらに気づいた瞬間、甲高い声を上げる。
「来るぞ」
盾が前に出る。
鈍い音。木槍が盾に弾かれ、衝撃が空気を震わせた。
――今だ。
俺は踏み込み、剣を振るう。
斬撃が走る。空を裂く音とともに、ゴブリンの肩口が深く抉れた。
体勢を崩した瞬間を、短剣使いが逃さない。
影のように滑り込み、喉元へ一閃。
残る個体が怯んだ一瞬、魔法使いが詠唱を終える。
「――点火」
小さな火球が炸裂し、ゴブリンは悲鳴とともに倒れ伏した。
短い戦闘。
だが、確かな手応えがあった。
「……悪くない」
大盾の男が、盾を下ろしながら言う。
「流れが途切れなかった」
短剣使いも静かにうなずく。
連携は成立している。
それは疑いようがなかった。
だが、俺の胸に浮かんだのは安堵ではない。
「この程度じゃ、トロルには届かない」
全員が、理解していた。
ゴブリンは弱い。動きも単調だ。
だが、トロルは違う。
打撃。投擲。質量。
一撃の重さが、まるで別物だ。
「今日は確認だ」
魔法使いが言う。「深追いはしない」
俺もうなずく。
「斬撃がどこまで通じるかも、まだ未知数だ。
この連携が“通用するか”を測る段階だ」
そのまま進むのは、危険だった。
だが――
通路の奥。
重い足音が、低く響いた。
現れたのは、ゴブリンより一回り大きな影。
分厚い筋肉、粗雑だが明確な戦意。
「ホブゴブリンか……」
キングほどではない。
だが、明確に“格上”だ。
俺は、仲間を見る。
「提案がある」
視線が集まる。
「初日は連携確認で終える予定だった。
だが、こいつなら――一段階上の確認ができる」
短剣使いが口角を上げる。
「いい的ですね」
大盾の男は、盾を構え直した。
「撤退路は確保してる。
やるなら、今だ」
魔法使いも静かに息を整える。
決断は、早かった。
ホブゴブリンが咆哮する。
空気が震え、戦闘が始まる。
盾が受け止める。
衝撃は重い。だが、耐えられる。
俺は剣を振るう。
斬撃は、確かに通じた。
――まだ、行ける。
これは討伐ではない。
これは試練だ。
トロルへ至る、その一歩前。
俺たちは、確かに前に進んでいた。




