第17話~準備という名の覚悟~
話は一度、そこで区切りを迎えた。
だが空気は、不思議と軽くなっていた。
大盾の男は盾を立て直し、短剣使いは腰の装備を確かめる。
その仕草一つひとつが、すでに「参加する側」のそれに変わっている。
「正式に、ということでいいですか」
俺がそう聞くと、大盾の男は短く笑った。
「逃げ道を確認した上で前に出る。
悪くない条件だ」
「私もです」
短剣使いも続く。「無理をしない、を約束してもらえるなら」
魔法使いは二人を見渡し、少し安堵したように息を吐いた。
「じゃあ、まずは討伐に行く前の準備からですね」
そう言って、机に地図を広げる。
トロルが出没する拾いエリア――開けた空間が多く、遮蔽物が少ない場所だ。
「囲まれる可能性が高い」
短剣使いが即座に指摘する。
「投擲もある。盾は前に出すが、固定はしない方がいいな」
大盾の男が補足する。
自然と会話が回り始める。
誰かが指示を出すわけでもなく、それぞれが自分の役割を理解している。
俺は一歩引いた位置から、それを見ていた。
以前の俺なら、ここで“完璧な構成だ”と慢心していたかもしれない。
だが今は違う。
「前提を確認したい」
全員の視線が集まる。
「トロルはゴブリンより単体性能が高い。
群れで出た時点で、討伐じゃなく“制圧”になる可能性がある」
「つまり?」
「無理だと判断したら、撤退する」
一瞬の沈黙。
だが、誰も反論しなかった。
魔法使いがうなずく。
「魔力は温存前提ですね。広域は使わない」
「罠は拾いエリアの入口側に限定する」
短剣使いが続ける。
「盾は投擲対策を優先。深追いはしない」
大盾の男の声は落ち着いていた。
“勝つため”ではなく、“生きて帰るため”の話。
それが自然に共有されていることが、何よりも大きかった。
準備は装備だけでは終わらない。
回復手段、毒対策、撤退時の合図。
細かい確認を一つずつ潰していく。
気づけば、日は傾いていた。
「……行けそうだな」
誰ともなく漏れた言葉に、全員が小さく笑う。
高揚はない。
だが、恐怖もない。
それぞれが過去を背負ったまま、同じ方向を見ている。
それだけで、十分だった。
「じゃあ――」
俺は立ち上がり、言葉を区切る。
「次は実地だ。トロル討伐。
準備は整えた。あとは、判断を間違えないだけだ」
誰も大きく頷かない。
ただ、確かな目で前を見据えていた。
それが、このパーティの答えだった。




