第9話~次に進む理由~
「本当に、ありがとうございました」
ギルドの片隅で、三人は深く頭を下げた。
あの新人パーティだ。
数日前、ダンジョンから連れ戻した。
「俺の判断だ。礼を言われるほどのことじゃない」
そう返しても、彼らの表情は晴れなかった。
「でも……あのまま戦っていたら、たぶん……」
言葉は、そこで途切れた。
俺は、続きを言わせなかった。
ギルドへの報告は、簡潔に済ませた。
低階層に不釣り合いな大型個体――
ゴブリンキングの存在。
出現地点。
行動範囲。
新人だけでは対応不能であること。
「対処は、ギルドに任せてください」
受付嬢は即座にそう言った。
「適切なライセンス所持者に依頼を回します」
その言葉に、胸の奥が少しだけ軽くなる。
――よかった。
俺一人で背負う話じゃない。
数日後。
ゴブリンキング討伐の依頼が、正式に受注されたと聞いた。
ノーマル以上の戦闘ライセンス。
複数名。
役割分担が可能なパーティ。
条件は妥当だった。
これで、しばらくは低階層も落ち着くだろう。
ギルドには、再び日常が戻る。
新人たちが依頼を受け、
装備を点検し、
少し緊張した顔で笑い合う。
その光景を、俺は少し離れた場所から眺めていた。
「……あの」
声をかけられた。
振り向くと、受付嬢だった。
「推薦人として、お声がけしたい件がありまして」
嫌な予感は、しなかった。
むしろ――
来るべきものが来た、という感覚。
「最近の動きを見ていて思ったんです」
「そろそろ、もう一段階上を目指してもいい頃だと」
「今のままでも安定していますが……正直、もったいない」
俺は、黙って聞いていた。
「お試しで構いません」
「気が向かなければ、途中で抜けても大丈夫です」
差し出されたのは、パーティ推薦の書類だった。
構成を見て、すぐに理解する。
前衛一名。
後衛二名。
そこに俺が入れば、確かにバランスが取れる。
小柄だが、体格のいい男。
屈強な筋肉――ドワーフだ。
長身で、耳の長い女性。
弓か、魔法だろう――エルフ。
もう一人は、人間の女性。
補助役か、後衛魔法。
知識としては、知っている。
ライセンスの勉強で、
種族特性も一通り頭に入れた。
――構成としては、申し分ない。
胸の奥が、わずかに高鳴る。
久しぶりの感覚だった。
わくわくする、という感情。
だが、それをすぐに、別の記憶が押し流す。
倒れた二人。
毒が回るまで、何もできなかった夜。
俺が、決断を誤った結果。
「……少し、考えさせてください」
そう言って、書類を受け取った。
逃げではない。
慎重さだ。
その夜。
宿の一室で、俺は書類を眺め続けていた。
一人でいるのは、楽だ。
判断も、責任も、すべて自分だけ。
だが――
それで救えない命があることも、知っている。
新人たちの顔が、脳裏に浮かぶ。
あの時、誰かが前に立っていたら。
俺たちは、違う未来を選べたかもしれない。
「……だから、か」
ギルドが、俺を選んだ理由。
強さじゃない。
判断をする覚悟だ。
翌朝。
俺は、書類を持ってギルドへ向かった。
恐怖が、消えたわけじゃない。
だが――
立ち止まり続ける理由も、もうない。
過去は変えられない。
だが、次は変えられる。
「同行します」
その一言で、
俺は次の段階へ足を踏み出した。




