プロローグ~全てにライセンスが必要な異世界で~
目を覚ましたとき、俺は道の真ん中に倒れていた。
土の冷たさが背中に張り付いていて、空はやけに高かった。
夢ではないと気づくまで、そう時間はかからなかった。
まず服が違う。次に、見知らぬ街道。そして――首元に下げられた、金属製の札。
「……ライセンス未登録者?」
通りすがりの男が、俺を見下ろしてそう呟いた。
その一言で、状況が一気に動き出す。
連れていかれた先は、役所のような建物だった。
石造りの窓口、無表情な職員、壁一面に並ぶ規則文。
俺はそこで、この世界の“常識”を知ることになる。
この世界では、全てにライセンスが必要だった。
歩行、労働、調理、武器の携行。
魔法は言うまでもない。
無許可で行えば違法。内容によっては即拘束、重ければ死刑。
「あなたは現在、何のライセンスも所持していません」
淡々と告げられたその言葉は、
「生きていること自体が危うい」と言われているのと同義だった。
救いだったのは、冒険者という制度が存在していたことだ。
冒険者ライセンスを取得すれば、戦闘行為と武器の携行が合法になる。
魔物討伐という名目のもと、この世界では必要悪として扱われているらしい。
――なら、それでいこう。
剣を振ることなら、覚えがあった。
小説で読んだ異世界でも、剣士は大抵なんとかなっていた。
細かい制度なんて、後でどうにでもなると思っていた。
試験は拍子抜けするほど簡単だった。
最低限の読み書き、簡単な規則の暗記、そして模擬戦。
命の重さに比べれば、あまりに軽い。
「これで君も冒険者だ」
そう言われたとき、正直、拍子抜けと同時に安堵していた。
この世界も、案外なんとかなるのかもしれない、と。
その日のうちに、即席のパーティを組んだ。
俺と同じ剣士が一人。弓使いが一人。そして魔法使いが一人。
魔法使いがいるなら問題ない。
そう思ったのは、俺だけじゃなかった。
「回復? ああ、理屈は分かるよ」
彼女はそう言って笑った。
それで十分だと、俺は思ってしまった。
最初の依頼は、低ランクのダンジョン探索。
魔物は強くなかった。
罠も、なんとか対処できた。
四苦八苦しながらも、俺たちは生きてダンジョンを踏破した。
全員が疲弊していたが、笑っていた。
――帰れる。そう思っていた。
ダンジョンの外に出た、その瞬間までは。
空気が変わった。
次の瞬間、弓使いが膝をつき、魔法使いも崩れ落ちた。
そこから先のことは、
もう二度と忘れられない。




