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深淵を探る者たち〜過去の事件の考察配信だったはずが、事件の渦中に放り込まれる〜  作者: ゆりんちゃん


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9/9

Chapter.9 おわりに

 もはや、誰も声を発さなかった。 あまりに濃密で、あまりに衝撃的な真実が、一夜のうちにすべて暴かれた。 コメント欄の流れさえも、今はもう止まっている。


 その奇妙な静寂の中、アンカールはふと表情を緩めると、視線を刑事からノートパソコンのカメラへと移した。 まるで、最後の舞台挨拶をする役者のように。 彼女は画面の向こうを見据え、穏やかに語りかける。


「さて、みんな。最後まで楽しんでくれただろうか。ミティ君、ルック君、そして栗栖あがさ先生。驚かせてしまったかな。だが、これで君たちは“時の人”だ。明日からは取材の申し込みで、しばらくは忙しくなるだろう。見返りとして、不足はないはずだ。そして、この配信をリアルタイムで見ている君たち。君たちは、未来永劫ネットの歴史に刻まれるであろう事件を、その目で目撃した幸運な証人だ」


 彼女は、満足げに、そして心の底から楽しそうに微笑んだ。


「私の配信は、これで終わりだ。みんな、今までありがとう。そして、さようなら」


 それが、配信者アンカールとしての、最後の言葉だった。 彼女がエンターキーを押し、配信終了の操作を終えると、パタン、とノートパソコンの画面を閉じる乾いた音が、静かな車内に響いた。


 アンカールと名乗っていた教主はゆっくりと車のドアを開け、外に出た。 彼女が対峙したのは、先程までピピル野ピピカというアバターの向こうにいた、一人の刑事だった。 いつの間にか、辺りは無数のパトカーが放つ赤色灯の明滅と、物々しい気配を漂わせる警官たちによって完全に包囲されていた。


 ゴォォォ……と、重い音を立てて、頭上を離陸したばかりの旅客機が通り過ぎていった。 ここは、空港の広大な駐車場の一角だった。


「……間に合ってよかったわ」


 刑事が、その旅客機を目で追いながら安堵の息を漏らして言った。


「あなたの本当の居場所を突き止めるのに、思ったより時間がかかってしまってね。足止めのために配信を続けさせるよう、プロファイラーの指示で事件の真相を語ったけど、ここまでうまくいくとは正直驚いているわ」


「今時、ネットを探れば位置情報を偽装するプログラムくらい、いくらでも手に入るからね」


 教主は、悪びれもせずに答えた。


「あの時、君が音声を切って誰かと話していたのは、私の居場所を特定できたという報告を受けたからかな。そして一旦ログアウトしたのは、追跡のために車へ乗り込み、モバイル環境に切り替えるためか」


 教主の問いに、刑事は小さく頷いて肯定した。


「信者から『薬物製造拠点に警察がなだれ込んできた』と連絡を受けた時は、さすがに驚いたよ。メディアにもネットにも一切情報がなかったし、予兆すらなかったからね」


 と教主は言う。


「事が事だから。公安との合同で、徹底した情報統制下にあった極秘捜査だったのよ」


「……なるほど。あそこのものを根こそぎ持っていったのも、君たちだったというわけか」


「ええ。全て、あなたたちの犯罪を裏付ける証拠として、正式に押収させてもらったわ」


「随分前から疑われていた、ということか。君がVtuberとして私に近づいてきたのも、もちろん捜査の一環なのだろう?」


 教主は、どこか感心したように言った。


「顔を晒せばどこから警官とバレるかわからない。だからVtuberのガワが必要だったの。そしてあなたに接触するには未解決事件を扱うしかなかった。でも、それらは継続捜査中の案件。非公開情報を漏らすわけにも、事件を軽々しく扱うこともできない。結果、知識の浅い解説系と揶揄される配信になってしまったわけ」


 と刑事は答える。 それに教主は呆れたように言う。


「しかしいくら証拠を押さえた後とはいえ、民間人をあの廃墟に入れるとは。随分と危ない橋を渡るものだね」


「……私たちの判断じゃないわ」


 刑事が、苦虫を噛み潰したように答えた。


「なるほど。公安に押し切られたか」


 と教主が言うと、刑事はうなずいた。


「ええ。あれだけ奇妙な建物を造る連中よ。私たちが把握しきれていない、あの地下通路の時のような仕掛けで隠された部屋がまだあるかもしれない。あなたがそこに潜んでいる可能性は限りなく低くても、わずかでもあるなら試す価値はあると言われたの」


「あの二人が内部に入ることで、私の配信に何かしらの変化があるか試したわけか」


「勘違いしないで。公安も二人の安全確保は絶対条件としていたわ」


「道中でミティ君が感じた気配、そして廃墟内で映ったあの影は、警護についていた警官だったわけだ」


 教主は納得行ったように頷き言った。


「そう。でも本当は、あの地下通路まで公にするつもりはなかった。廃墟であの影が映った時は正直焦ったわ。このままではあなたの居場所へ辿り着く前に配信が終わってしまう、と。だから、それをかき消すだけの演出が必要だったの」


「現場における臨機応変な対応というやつか」


 教主は揶揄うように言った。


 刑事は答えず、ただ目の前の教主を見据え、問いを重ねる。


「いくつか、あなたに直接聞きたい。まず、開発会社社長と女性議員の事件。あの時、巷に流れた心霊の噂は、あなたたちが?」


 教主は、その問いに静かに首を振って否定した。


「我々は、流れた噂を利用しただけだ。おかげで曰く付きとなった土地を、ダミー会社を通して安く買い叩き、本格的な薬物製造拠点として再稼働できた」


「……そう。ではどうして、こんな捕まりそうな状況で、自らの犯罪を世間に晒すような、こんなリスクだらけの配信をおこなったの?」


 その問いに、教主は心底楽しそうに、そして誇らしげに答えた。


「逃亡に成功するにせよ、捕まるにせよ、これが最後の配信になることは分かっていた。ならば、私が成したことをより広く、より深く、この世界に知らしめたいと思うのは、当然の欲求だろう?」


「……歪んだ顕示欲ね」


 刑事は、吐き捨てるように言った。 そして最後に鋭い視線で、目の前の女を見据えて最後の疑問を投げかけた。


「あの廃墟での犯行は六年前のジャーナリストの遺体遺棄が最後。そしてその一年後、つまり五年前にあなたの配信活動が始まった。……ねぇ、事件を起こして世間を騒がせるより、配信者として注目を浴びる方が、そんなに楽しかった?」


 その問いに教主は満面の笑みを浮かべた。


「ああ。存分に、堪能させてもらったよ」

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