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⑤至上最恐の復讐!




皆様、ご機嫌いかがですか? ジゼルでございま~す。

日曜夕方のアニメみたいな挨拶で始まりました今日のジゼルちん。


今日は授業が終わった後は、図書館で就職について調べようと思っているの。


教室でお友達とオーロラ姫に挨拶をして、・・・話は変わるけど、今日のオーロラ姫は2幕の衣装なのね。2幕はまだオーロラ姫は眠ったままなので、実際のオーロラではないのだけど、リラの精が作り上げた幻なの。この時の衣装も大好きよ。私も昔踊った事があるわ。凄く曲がいいのよ~。

・・・いいわね、衣装が3着もあるなんて。(遠い目)



それはさておき、皆に挨拶をした私は、そのままスキップをしながら図書館までの道を飛び跳ねて行く。時々バロッテバロッテしながら。うふふ。1幕でジゼルが登場した時にする動きなの。え? 体弱い設定じゃないのって? 知らんがな。


図書館からの道で、前から歩いてくる女の人がいた。同じ学生とは思えない程の色気を醸し出したその人は!!!



『ラ・バヤデール』のニキヤ先輩!!!



舞姫らしく神々しいそのお姿! 体が絞られたバレエダンサーですら慄くその衣装は、人間に必要な脂肪以外が付いては着こなせない、お腹がガッツリ出されるセパレートタイプ!

そう! 1cmでも贅の肉が付いていては着こなせない恐ろしい衣装なのだ。

何故かって? だって舞台の上で踊ってたら、どうしても腰をくねらせたり、色々するじゃない?

そうすると、どうしても乗ってしまうのよ衣装の上に。たった1㎝の贅の肉でさえも!!!


恐ろしや~!


しかし美貌の舞姫、ニキヤ先輩はすんばらしいプロポーションで前から闊歩してくる。


やべぇ。あばら骨ですら美しいぜ!



私は憧れの先輩を前に、興奮状態に鼻息が荒くなりながらも、いつもの挨拶をした。



「ニキヤ先輩ですよね? 私、ジゼルです。ぺこり~」

「知っているわ。有名だもの。ちょうど良かった、お茶でもどう?」


ニキヤパイセンに誘われたら断れないわよね?

私はこくこくと頷いて、微笑むニキヤパイセンの後を追った。

前を歩くプリプリするお尻。それに合わせて輝く衣装に着いたビジュ。たまらんぜ。



私達がついたのは、図書館までに行く道の途中にある庭園にセッティングされたガゼボ。



そこが今日のGTの舞台である!




「私、ニキヤ先輩に会えたら、聞きたいことがあったんです!」

「何かしら? 想像は出来るけど」

「ニキヤ先輩は作品から逃げ出さないんですか?」

「ふふふ。その必要あって?」



この回答には私も驚いた。だって・・・



「だってニキヤ先輩と私の境遇って、ほぼ一緒じゃないですか!」



そうなのだ。

この作品のヒーローも、クズ男なのだ。


『ラ・バヤデール』は古代インドが舞台の物語で、寺院の舞姫であるニキヤと、ソロルと言う名の戦士は恋人同士なの。そして皆様の想像通り、こやつも二股クズ男なのだ。まだアルブレヒトよりましなのは、彼が婚約者がいながらジゼルちんに声かけてきたのとは逆で、ソロルは最初、ニキヤ先輩の恋人だった。しかし王に自分の娘と結婚する様に言われるのだ。しかしこの娘、ガムザッティが美人だったことから、満更でもなくなったのがクズがクズたる所以である。

ここでか弱いジゼルちんと違うのは、ニキヤ先輩は嫉妬したガムザッティの手によって、毒蛇に噛まれて死んでしまうのだ。恐ろしや~。



「先輩、このままだと死んでしまいますよ?」

「確かにそうね。だけど、私がこのまま作品から逃げ出したら、ソロルはただガムザッティと結婚するだけだわ。でも作品が始まれば・・・」



私はニキヤパイセンの言いたい事に気付いて、ひぃいい~~~と、恐怖で叫んだ。このパイセン、一番怒らせたらアカン奴だ!


ニキヤの死後3幕で、ソロルとガムザッティは結婚式で愛を誓い合うが、ソロルは既にニキヤと愛を誓っていた事から神の怒りを買い、寺院が崩壊して全員が死ぬのだ。そう、全員が! 信じられる? 全員が死んで終わる舞台。まじ、カオス。



「まさか、結婚して二人だけ幸せになろうだなんて、許せるはずはいじゃない? 死なばもろとも、よ」



妖しい笑顔でそう言ったニキヤパイセン。ジゼルちん、生唾ごっくん飲んじゃったよ。いろっぺ~。




ニキヤぱいせん、物語では一途で耐える系女子だったのにな・・・。

ニキヤの存在に気付いたガムザッティに、ソロルと別れる様に脅されるけど、一途に思い続けて。

あの時本当は既にガチギレだったのかしら?


バヤデールと言えば、わたくし2幕2場の、影の王国、大好きなんです!

ニキヤが死んでしまった事で、ソロルはアヘンに手を出して現実逃避します。おせーっつーの。

ソロルがラリッてる時に見てる幻想の世界なんだけど、これがね美しいんですよ。コールド(群舞)が一糸乱れぬ踊りで順次出て来るところとか。もちろんニキヤぱいせんとソロルのパドドゥ(男女二人で踊る事)なんて、幻想的な音楽と相まってすんばらしい!


でも、あれもソロルの幻想だから、ニキヤぱいせん本人とは違うのね。一途女子の方ね、きっと。


バレエって、幻想とか夢の中の場面とかがよく出て来るのよね。

たぶんその現実離れした世界観を出す為のトウシューズでもあるんだと思う。

私も昔、このニキヤぱいせんとソロルのパドドゥを発表会で踊った事あるけど、先生に「人間味が強い」って言われて「?」ってなった事があるわ~。(遠い目)

今でも覚えているわ。

私が思っていた「人間味」の意味と先生の意図がマッチしなくて、ずっとレッスン中「???」ってなってたわ。


後でわかったのは、結局重力問題だったんだけどね。


トウシューズはトウで立つために靴底が固くなっているんだけど、その為にジャンプして着地すると音が鳴ってしまうの。

それが、バヤデールの幻想的な静かな音楽の中だと、特に大きく響いてしまう。

特に私はジャンプや回転を得意とする元気な踊り方だったので、先生から見たらめっちゃ生きてたんでしょうね。

しょうがないじゃん、生きてんだもん。


バレエって難しいね。


そういや、ガムザッティを踊った時は、「合ってる」って言われたな。


いや、いいんだけどね。


たまには楚々としたお姫様も踊りたいの。お姫様だって生きてるじゃん?

だけどお姫様を踊った時は、「手の自己主張がすごい」って言われたわ・・・、くすん。

しかしこうやって思い出すと、バレエの先生の注意の仕方って、独特よね?



「それに、地獄に落としたいクズ男はもう一人いるしね」


思考の渦に飲み込まれていた私を掬い上げたのは、ニキヤぱいせんの艶っぽい声、しかし憎悪の表情。


「もう一人?」

「ええ、もう一人」


そう言われて、私は一人のきっしょい登場人物を思い出した。


いた。いたよ、ヤベー奴が!!!


それは、寺院の権力者である大僧正である。

いい年こいたおっさんである大僧正は、ニキヤぱいせんを自分のモノにしようとするんだけど、拒否されてしまう。そうよね、結構なおっさんだし。僧侶だし。きっしょいし。

ソロルとの関係に嫉妬した大僧正は、王とガムザッティに、ソロルとニキヤぱいせんの関係をチクるのよ。

きっしょいおっさんが益々きっしょい!

それによってガムザッティに嫉妬されたニキヤぱいせんは殺されてしまうのだ。

しかも、毒蛇に噛まれて苦しむニキヤぱいせんに、自分のモノになるなら解毒剤を渡すぞ、とか言ってくる。結局ニキヤぱいせんはそれを拒否して死んでしまうのだ。


やばくないですか?


死にかけの人間に、自分のモノになるなら助けてやるって持ちかけるなんて、ゲスの極み!


「あいつだけは絶対に地獄に突き落とすわ!!!」


握り拳を作って勇ましく立ち上がったニキヤぱいせん。


その表情は艶やかな美女ではなく、どこぞの魔女の様だった。



「でも自分を犠牲にしてしまうのは悲しいです」


ボソッと呟いた私の一言に、上から目線で斜に構えたニキヤぱいせん。美しいっす。


「私だって本当には死にたくないわ。だからわざわざ学園に、毒蛇の解毒剤を入手しに来たのよ。

死んだふりして、草葉の陰から寺院が壊れて皆が死ぬのを高みの見物してやるわ。

あーはっはっはっは!!!」



さすがニキヤぱいせん、全てが彼女の手の平の上なのですね!



私は背中をのけ反らせて高笑いする美貌の舞姫を、口を開けて眺め続けた。




ママ、ぱいせんが怖くてジゼルは、飲み込んでしまいました。





(草葉の陰って、死んどるやないか~~~い!)




「草葉の陰って死んでるの?」

「あ、はい。死んだ人が見守ってる、みたいな時に使うんっす・・・」

「・・・・・」

「ニキヤぱいせん、解毒薬にばかり全集中してないで、国語ももう少し勉強した方がいいっす」

「・・・・・」

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