ニニギ之巫女
(知らない天井、ってやつか…)
身体の節々に痛みを感じながら、ゆっくりと上半身を起こす。
確か、俺は化け物と戦った。
あの大きな獣のような、人外じみた見た目を思い出して今更ながら身震いする。
今思い出してもどうやって勝てたのかあまりよく分からないが、とにかくあの少女を助けられたことは事実だろう。
そして、あの不思議な女の人も。
そういえば、ここはどこだろうか。
病院っぽいが、ところどころ和風、というか、古風・・・?
窓が1つもないのも気になる。なんというか、閉塞感がすごいな。
こう、いかにも秘密間があると探検したくなるのが少年心というもの。
いざ、行ってみますか…。
と、ベッドを降りたところで奥の扉が開く。
そこにいたのは、中学生くらいの幼げな子。
はた、と目が合ったところで
「あーーーーーー!起きてる!起きてますよ!せんぱぁーい!!」
耳をつんざくほどに大きな声をあげてどこかに走り去っていってしまった。
どうやら、探検はお預けのようだ。
少女が走り去ってから間もなく、白衣を着た女性が一緒にやってきた。
白衣を着た、というよりも、白衣しか着ていない、の方が正しそうだが。
「先生呼んできたから安心しろ!もう大丈夫だぞ!」
先生、と呼ばれているらしい女性がテキパキと準備をしている。
どうやら、熱や怪我の状態をチェックするようだ。
「信じられない…。あれだけボロボロだった身体がもう治ってる。熱も・・・下がったようね。」
おでことおでこを合わせて熱を測られる。
眼福眼福…と思うが顔には出さない。
真の紳士というのは決して相手を不快にさせてはならないのだ。
心の中で拝む程度に留めておこう。
「あの、ここは?」
どうやら自分の体も大丈夫なようなので、俺は早速気になっていたことを尋ねる。
「あー。そう言えばまだ何も説明されていなかったようね。私の口から説明してもいいけど・・・。ミオ!あなた、先に挨拶とお礼なさい!」
入口の方に声をかけると、陰からまた別の少女が顔を出す。
「君は・・!」
少女は、あの時化け物と戦っていたあの女の子だった。
無事だったのか。良かった。
顔を俯かせつつ、ミオと呼ばれた少女はカツカツとベッドに向かってくる。
というより俺に。
というか…近くない?
ベッドに座っている俺を前に、あわや顔が当たるのではないかというほどにまで近づいてきた。
「起きたられたようですね。ご無事で何よりです。
ただ!あの時助けていただかなくても、私ならあの程度の荒神、倒せていました。
余計な手出しは今後されないようにお願いします。」
美女に熱を測ってもらった後は、美少女に怒られるなんて、ここはどんな場所なんだ。
全く、けしからん。
なんて馬鹿なことを考えていると、また違う声が足元から発せられる。
「そんなこと言って、ミオ先輩この1週間ずっと心配して毎日通ってたくせに。さっきまでおでこに乗ってたおしぼりだって、朝にミオ先輩が絞ってたやつなのに。」
声の主は先ほどの元気はつらつな少女。
「そうか。ミオはツンデレ属性だったんだな。ありがとう元気っ娘。」
「いえいえ。ちなみに私はナナオだ!」
ナナオと、ミオのツンデレについてうんうん頷いているとふと自分に被る影が小刻みに震えていることに気づく。
「ふ、ふ、ふざけないでください!!余計な手出しとはいえ助けられた義理を通したまでです!あと、あなたにミオと呼ばれる筋合いはありません!!」
顔を真っ赤にしてふるふると震えるミオがいた。
「馬鹿~!」
ミオのツンデレ属性は触れてはいけないところだったか…。
なんて考えているうちにミオは部屋を出て走り去っていく。
*
「先ほどは取り乱してしまい、申し訳ありませんでした。」
ミオが部屋を出て行ってからしばらく、ナナオと先生と他愛もない話をしていると、5分ほどでミオが部屋に戻ってきた。
「こほん。改めてあなたに、我々と現状の説明をします。」
そこから、さっきまでの取り乱し方とは打って変わったミオの講義が始まった。
「まず、我々はニニギ之巫女という組織に属している巫女です。
ニニギはカタカナ、巫女は神社とかによくいる巫女さんの巫女です。
我々は皇歴が始まったその時より、異界”オノゴロ”から来る”禍津日神”の対処、戦闘、トラブル解決などを秘密裏に行っています。非公式ですが、政府公認のれっきとした組織なんです。」
「なるほど。つまり俺はそのトラブル解決中に頭を突っ込んでしまったのか。」
「その通りです。あの日、指名手配中だった禍津日神『片耳豚』を見つけて戦闘中、あなたを巻き込んでしまったというわけです。改めて、危険にさらしてしまい申し訳ありませんでした。巫女失格です。」
ミオが、凛とした顔のまま深々と頭を下げる。
正直まだあまり現実味を得られていないが、ミオの雰囲気からしてこういった謝罪は素直に受け取っておくのが吉なんだろう。
気にしないでくれ、と伝えてからミオの講座が再開する。
「次に、現状です。ここはニニギ之巫女の本部にある療養施設。こちらにいらっしゃるカズハ先生があなたを治療してくれていた。」
「ま、私はほとんど何もやって無くて勝手に治ってたけどね~」
白衣を着たこの麗しい美女は、カズハさんというらしい。
ぜひ、このまま面倒を見てもらいたいところだ。もう少し化け物と戦ってみてもいいかもしれない。
「片耳豚との戦闘後、あなたはこれまで3日間昏睡していたんだ。恐らく、片耳豚を倒した時の能力発動がきっかけで過労による昏倒だったのだろう。あなたのご家族、学校にはこちらから説明済みです。状況からして、我々の方で軟・・・護衛した方が良いだろうと。」
そういえば、この状況は分かったが、俺はこのまま帰っていいんだろうか。3日も学校を休んでいたなんて、鬼の鈴木がもう考えるだけで恐ろしい顔になってそうなものだが。
「そういえば俺って、帰っていいのか?」
「!!いえ、その~…。あなたの今後についてなのですが…。何と言いますか…。」
?
急にミオの歯切れが悪くなる。
すると静かにしていたナナオが元気に口を開く。
「お前、死刑だぞ!」
「ご挨拶」