第7話 俺の存在意義 Where is it?
ひとまず朝の身支度を済ませた俺は一階へ降りた。
この領主邸は、元々は王家の別荘。
王家所有にしてはコンパクトな二階建てで、一階には使用人部屋を改造したザックバランとカネガアールの居室、書斎兼執務室、リビング兼サロン、ダイニングにキッチンに保管庫と護衛詰所。
浴室は一つだが、トイレは各階に一つずつあるとのことで一階が男、二階が女性陣専用とのことだ。
二階は元子供部屋を女性三名の部屋とし、かつては国王夫妻が使っていたであろう居室が領主でもある俺の部屋となっている。
「おはようございます、リオン様。朝から騒がしかったですわね」
「おはよう、アリス。あれは不可抗力だ」
ダイニングにはアリスとザックバランの姿があり、優雅に朝食を食べている。
昨日アリスから説明があったが、ここでは各々好きな時間帯に食事を取るようで、週に一度の定期便で一流シェフ監修のレトルト食品が届くらしい。
皆、元貴族だし、料理なんてしたことないだろうと思ったら、意外とリリィナとマッスルベリオン、そしてフィロメーナ・エウセビ・アイリン・フィオレンティーナ・ド・ラヴィス・クラヴィス――うん、長いから以下フィーロで――も出来るようだ。だが、フィーロに関しては何やら怪しげな薬草の精進料理になるとのことで是非とも遠慮したい限りである。
俺? 俺は一応、騎士たちに交じって野営訓練とかも受けたし、簡単な料理ならできるってくらいかな。
「リリィナのアレは一種の洗礼のようなものですから。朝からお疲れ様です」
「えーと、ザックバラ……」
「ザックでお願いします」
「お、おぉりょーかい。ザックもアレやられたのか?」
優雅な姿勢は崩さず、前のめりに名前を訂正してくるザックバランに押されながらも、俺も今日の朝食を選びにキッチンへ向かった。
王家の元別荘とはいっても、この屋敷は造りも各部屋も小さく、会話ができるほどにダイニングに隣接しているキッチンはまるで平民の家。
だがそれこそ普段広大な敷地で暮らす王家の人間にとっては新鮮であり物珍しくも楽しかったに違いない。
いかんせん、王都からの距離があり過ぎるのが難点で、次第に使われなくなっていったんだろうが。
――よし、クロワッサンにミートオムレツ、野菜スープとヨーグルトに決めた。
湯を沸かし、クロワッサンとミートオムレツを温めながら俺は会話に耳を傾ける。
「僕もアルも、初日に経験済です。ただ、リリィナが押し負けたのは今回が初めてですが」
「いや、据え膳食わぬは男の恥っていうじゃん?」
「……ほっんと最低ですわ」
なんということだ。俺が話し始めた話題じゃないのにアリスから軽蔑の目を向けられてしまった。
しょうがなくさっさと準備を終えた俺は料理を皿に盛ってダイニングテーブルへと向かう。
「……そういえば昨日、フィーロ嬢が獣避けの薬剤をまいてるって話だったけど、ここらは獣が多いのか?」
「そうですわね。野生動物はおりますが、基本的には害はありませんわ。ですがフィーロさんは希少な薬草を動物と取り合うことがありますの」
「あぁ、なるほど」
「それに、この島には医者がいませんからね。毒を持つ生物もいますし、予防策としても重宝するんです、あと良く売れます」
「あ、それも商品ラインナップなのね……」
薬草狂いの元伯爵令嬢の薬は効果が高そうだ。そして意外と手広く商売をやっている。
「ちなみに出る獣って?」
「薬草園を荒らすのは鹿や猪が多いと聞きますわね」
「お、じゃあ食えるか」
野営訓練で何度も狩っては捌いて食ったことがあった。現地調達、現地消費は基本中の基本だし、冷凍じゃない新鮮な肉は貴重だろう。
浜辺でバーベキューでもやるかなぁーとなんとなく思いついた俺は、領主最初の仕事として獣害退治を選んだ。
地味? うっさい、それ以外の仕事がないんだよ!