第16話 静かなる勝者は誰の手に?
そっからはバーベキュータイムだ。
俺の弟ということでみんなそれなりに接してくれるし、ミハエルも人当たりはいいから和やかなランチタイムになった。
まぁ、恒例行事としてリリィナがミハエルに絡もうとしたから、純粋な弟を魔の手にかけさせはせぬ! とお兄ちゃん魂で軽くお仕置きしたらまたしても脱兎のごとく逃げられ、残された女性陣から冷たい目線を向けられる。
「リオン様……軽々しく女性に触れるものではなくてよ?」
「いや、最初に触ってきたのはリリィナだし。触れるっていっても腰を引き寄せただけだろ?」
「……リオン様のえっち」
「男はもれなくえっちな生き物だからフィーロはリリィナみたいにならないように。あと、キメラ草をこっそり改造するのはやめなさい」
「……バレてた……」
こそこそとキメラ草の改良を重ねていることを俺が知らないとでも思ったか。何かあった時に討伐するのは俺なんだからほんと勘弁してくれ。
「おい、アル。ミハが肉に埋もれてる。それ以上乗せるな」
「ん? これぐらい食べんと大きくならんぞ!」
「俺の可愛い弟をお前と一緒にすんな、胃袋の限界だわ。おーい、ミハ。生きてるかー? ザックも肉をどけたそばから野菜を乗っけるな」
「栄養バランスが悪いかと」
「よし、まずはこの肉の量をおかしいと思ってくれ」
「リオン様、お肉はまだですの?」
「リオン様、お魚は?」
「リーオーンー様ーのえっちぃぃぃ!」
「はいはい、分かったからちょっと女性陣は待ってくれ。漬け込んだ猪肉がそこに……ってなに笑ってんだ? ミハ」
バタバタと本当に忙しない。
それなのにミハエルはなんだか安心したように笑っていた。
「兄上は、本当にこの島でうまくやっているんですね」
「ん? あ、あぁまぁそうだな。……多分? ……ほい、猪肉な。焼けるまで待ってくれ。魚の蒸し焼きは……うん、出来てる。やけどすんなよ、フィーロ。リリィナ、ほら、フルーツ剥いてやるからいい加減機嫌直して戻ってこい」
全く、雑用係も楽じゃない。というか男どもは食ってないで手伝えよな……って言いたいが、何しでかすか分かんないからそんまま食ってていいや。
「ふふ、ご安心なさいませ、ミハエル様」
「……アリス嬢」
バタバタする俺に代わり、アリスがさりげなくミハエルの世話をしてくれて助かってるんだが、できればみんな自分で肉焼いてほしい。
「貴方様のお兄様は、文武両道に優れ、領主として非常に稀有で優秀な存在ですわ。わたくし達は皆、領主がリオン様で良かったと思っておりますの」
「え? アリスが褒めるとか怖い」
「何かおっしゃって?」
「イエ、ホメラレテ、ウレシイナー」
「ふ、ふふ。僕にとっても自慢の兄上ですから」
ミハエルがこの島の事実をそのまま伝えれば、この島は早急に王国に吸収され、俺らも王都に連れ戻されてしまうだろう。そうして俺達を待っているのは、とてつもなくつまらない生活で。
そんな俺を理解してか、最終的にミハエルは全てを”見なかった”こととして、本当のことなんか一切書かれてない偽の収支報告書だけを手に王都へと帰っていった。
……二カ月に一回くらいは遊びに来るようになったけど。
でも、そんなミハエルの沈黙もあり、その後も島は着々と発展を遂げていく。
そうして俺がこの島にきて一年が経つ頃には、ジーリン島の商品は王侯貴族内ではすっかりなくてはならないものとなっていた。
だがしかし、それはかつて自分達が国から追放した悪役令嬢・令息の手によってもたらされた恩恵ということに王国はまだ気づいていない……
そんなある夏の日。
いつも通りバーベキューを囲みながら、俺達は今年一の出来の幻果酒を手に和やかに笑う。
もはやジーリン島は絶海の孤島じゃない。
世界一富んだ、少数精鋭悪役貴族と島流し領主といわれた俺によって作り上げられた唯一無二の富島になった。
「でも、まぁ、一年前はどうなるかと思ったけど、案外バレないもんなんだなー」
「うふふ、例え今さら気付いたところでもう遅いですわ。王都の主要な貴族方の物流は完全にこちらのものですもの」
「あとは……戦力? キメラ草使う?」
「暴力はだめだよ~フィーロちゃん。その前に私のお薬でみーんな私の虜にしてあげちゃえば平和的解決なんだから♡」
「経済戦争なら俺達に圧倒的有利だしな!」
「戦う気力など削いでしまえばいい。王でさえ、俺達に歯向かえないように」
「ま、このまま気付かないままでいてくれたら、みーんな平和に笑っていられるんだから現状維持を願いたいよなー?」
そう言って笑う俺らの瞳は愉しげに歪んでいるが、それはこの小さな孤島ではいつものこと。
そう、王国がこの島を脅かさない限り、この脅威は訪れない。
だがもしも、もしもこの島の真実に気付き、手を出そうとした暁には……
――眠れる悪役貴族が、国の破滅を持って支配権を握ることを、努々、お忘れなきよう。




