第12話 脅威!ブラコン弟現る
あぁ嫌だなぁ……帰りたいなぁ……
そんな俺の前に今、ふんす! と両手を腰に当ててる少年がいる。
分かってる。これはただの現実逃避だ。
「……よぉミハ。今日も元気そうだなー」
「兄上もお元気そうで何よりです! さぁ帰りましょう!」
「待った待った待った待った」
さっさと俺の腕を掴んでUターン帰宅する気満々の弟をとりあえず止める。
使者を上陸させないという使命は果たせそうだが、その代わり俺がお持ち帰りされては意味がない。
「ミーハー? あのな、兄ちゃんここの領主だから帰れないんだって。大体、次期当主はお前に決まったんだから帰るなんて父上が許さな……」
「全力で手抜きするような人の話なんて聞きませんよ! 父上も父上です! 兄上が手を抜いていたことをご存じだったっていうじゃないですか!」
おっふ、バーレーてーらぁ……。
いや、そうだよな。そりゃ父上にはバレるよな。
なんなら母上にも義母上にも、侍従長にもバレてんだろうな。
バレた上で、こいつじゃあ駄目だと思われて俺は家を追い出されたってことか。
……ん? 俺の扱いひどくない? 一応長男なんだけど、大丈夫そ?
まぁ、なんにしてもちょっと頭の固いミハエルがこの島に順応するのは難しかっただろうし、父上の先見の目……ということにしておくか。
「……父上は、知ってても後継者にミハを選んだってことだろ? どっちにしろ俺じゃルーシェンレッド家の当主は相応しくないって判断したってことだ」
「何言ってるんですか! 僕の兄上は見た目は地味だけど、強くて頭が良くてカッコよくて! でもそれを表に出さないところが最高にいいんじゃないですか!」
「おぉぉぉぉ……弟からのクリティカルー……」
愛なのか貶されてるのか絶妙だなぁミハエルよ……。
とにかく、俺は領主としてここでミハエルを食い止めなきゃいけない。
この寂れた孤島が子爵家並みに裕福なことが国にバレたら、脱税やら国家転覆やら言われて一巻の終わりだ。
「ま、まぁいいや。弟の元気な顔を見れたし」
まだ成長途中のミハエルはようやく身長が160センチを越えたくらいか。
ぐしゃぐしゃと髪を撫でてやれば、ミハエルは窺うように俺を見上げてきた。
「本当に……帰らない気ですか? 兄上」
「おう。新米領主だが、領民ともなんとかやれてるしな」
「こんな王都からも離れた絶海の孤島なんて……生活するだけでも大変じゃないですか」
「あ――うん、そーだなー……まー……ほらー……大丈夫だ!」
あまりにも生活が充実しすぎて、害獣駆除と料理とハンコ押し程度の仕事しかないなんて、兄の矜持にかけても言うわけにはいかない。
そんな俺の目をジッと見て、ミハエルは不穏なことを言い出した。
「兄上がそんなふうに言うなんて珍しいですね。……じゃあせめて兄上がちゃんと生活してるか確認してから帰ります」
「おっっっとスト――――ップ!」
さっさと俺の隣を通り過ぎようとするミハエルの腕を掴む。
――まずい。
ミハエルはこうなると話を聞かないぞ。
慌てる俺に、ミハエルはすぅっと冷えた目線で見上げてきた。
「兄上は、僕に見せられないような悲惨な生活でも?」
「イエ、ソンナコトハ」
咄嗟に両手を上げて降参のポーズをとる。
怖い。思わず弟相手にカタコトになってしまった。
どうしようかなぁと思いつつ、俺は大きなため息を漏らす。
「――なぁ、ミハ」
「なんです? 兄上の生活状況を見ない限り僕は絶対に帰りませんよ」
「あぁ、うん……お前が言い出したら聞かない性格なのはよく知ってる。……まぁ当主になるなら、もう少し柔軟なほうがいいぞ?」
それはこれからの課題だな、と笑ってもう一度頭を撫でてやれば、ミハエルはしゅんと頭を下げた。
俺の弟は少々猪突猛進なところはあるが、根は素直で、話を聞けるいい子なのだ。
だからきっと、俺の何十倍も領民に愛されるいい領主になることだろう。
……え? あ、俺はほら。領民の手先になれるいい領主だし?
「……ミハ。今日のお前は王国の使者だから、この島の実情を王国に知らせる義務がある…………と思うんだが」
そう言って俺は、ちょっと困ったようにミハエルに微笑んだ。
「兄ちゃんの為に、ちょぉぉっとだけ内緒にしてくれると嬉しいな――?」
そう言った俺に、小首を傾げていたミハエルの絶叫が島に轟くまで、あと五分。




