第11話 悪役貴族島に波乱の予感?
あのバーベキューからしばらく経った。
無事に領主邸のリビング兼サロンには王都新進気鋭の画家の絵画が飾られたし、調味料類も充実のラインナップ。
王都が社交シーズンに入ったせいか、収益は……右肩上がりどころか、急上昇でエグいくらいだ。
しかも、意外とリリィナの惚れ薬が一定数売れていて、まぁまぁいい収入になっている。
俺が来た時でさえ、すでに男爵領の収益は越えていると思っていたのに、このままだと伯爵家の収益すら追い抜いてしまいそうだ。
ぺらぺらと書き終わったばかりの月次報告書を眺めながら、俺はイスに深く腰掛けた。
本来、収益報告なんて年に一度すればいいのだが、このジーリン島は《特別区》に指定されているので毎月の報告が義務付けられている。
その代わりといっちゃなんだが、税率は恐ろしく低い。
一番優遇されている公爵家が10%。一番税率の高い男爵家が30%という税制の中、俺の領地ジーリン島は衝撃の3%。……つまり、97%は俺達の手元に残るってことになる。
――――お分かりだろうか?
究極に低い税率。
原価ゼロの特産品。
そして華麗なる節税テクニック。
この三点で今のジーリン島の収益は直角急上昇中なのである。
コンコンコン
「はーい、どぞー」
珍しく領主らしい仕事を終えた俺は、やる気の見えない偽造報告書をぽいと机に置いて入室許可を出す。
入ってきたのはザックバランだ。
「失礼します、リオン様。追加の書類と、あと今日の定期便で届いたリオン様宛の手紙になります」
「さーんきゅ。あ、悪い、ザック。ついでにこれも確認してくれる? 一応今までの収益から不自然がないようには書いたけど」
そう言って俺はザックに偽造報告書を渡した。
涼やかな視線を書類に落とすザックバランは、羨ましいくらいに顔がいい。そして、ろくでもない人間が絡まない限りは超有能。
くそ……天は二物を与えてんじゃないよ!
「――……よろしいかと。リオン様が来られて最初の報告書になりますし、このくらいが妥当でしょう。来月は収益率を0.3%ほど上げて、少しずつ領主としてやっていっているという体を報告していけば十分かと」
「よっしゃ、じゃあこれでいいや。……そういや、月次報告書だけは王都の人間が直接取りに来るんだよな? よくもまぁ今までバレなかったもんだ」
「島に入れた人間はいませんからね」
「毎回どう追っ払ってんの?」
「アリス嬢の一声です」
「なるほど。そりゃあ俺でも上陸諦めるわ」
俺は笑いながら、ザックバランから渡された手紙に視線を向ける。
元王太子の婚約者でもあり、侯爵令嬢アリス・ヒンメルトの一喝に慄かない人間はいない。
「げっ!」
「……リオン様?」
手紙の差出人の名前を見て、俺は思わず叫んだ。
何事かとザックバランが聞いてくるが、俺は深ぁぁぁいため息と一緒に面倒さを前面に出しながら封を切る。
手紙の内容は、予想通りだ。
「悪いザック。次の使者は、ちょっとアリスじゃ止められないかもしれない」
「……もしや、アリス嬢より身分の高い方が?」
スッとザックバランの瞳が警戒に細められる。
いや、うん……ほんとどうしよう。
でもどうせすぐバレるし、と俺はポツリと呟いた。
「………………………………弟」
「え?」
聞き返してくるザックバランに俺は手紙を机上に放り捨てて、脱力するように椅子に身を投げる。
「ミハエル・ルーシェンレッド。ルーシェンレッド家次期当主にして…………俺の弟」
「それは、また……」
ミハエルは公爵家の人間だ。侯爵家のアリスより身分が高いし、何より次期当主。そして誰よりも俺のことが大好きときた。
そんなの絶対帰らないじゃん! 絶対俺を連れ戻す気満々じゃんあいつ!
そんな可愛い弟からの手紙には、自分が次の使者であるということ。
そして……
――逃げられないと思うけど……逃がさないからね? 兄上――
いや、ホラーかよっ! こんなん怖すぎて兄ちゃん泣くわ!




